上 下
111 / 434
【R-15】鈴音編

第109話 後始末 その2

しおりを挟む
「青柳さん…」
「今日……鈴音さんと、孝明の面会に行ってきました」

「そうですか…」

 何を話したかどうかを聞いても、俺には意味は無さそうだし、そのまま聞き流そうとするが……

「青柳さん…。率直に言います…」
「鈴音さんは……、あなたの手で幸せにして下さい」

「えっ!?」

 山本さんのお母さんがそう言うと、鈴音さんも話に加わる。

「比叡さん…」
「今日……。孝明さんと面会して、正式に私と孝明さんは別れました…」
「これで堂々と、比叡さんとはお付き合い出来ます!」

 鈴音さんは暗い表情で話すが、声は弾んでいる様にも感じた。
 山本さんのお母さんの居る手前か?

「鈴音さん…。それは凄く嬉しいですけど……山本さんは反論しなかったのですか?」

「……全くしませんでした。あれまで、執拗に探して居た割りには……」
「今回事故を起こして……やっと、自分が行っていた行為に、異変を感じたのかも知れません…」

「孝明さんが最後に、私に言った言葉は『好きにしろ…』だけでした…」
「私と孝明さんの関係は…、こんな形で終わってしまいましたが、これでお終いです…」

「俺は……鈴音さんと関係を深められて嬉しいのですが、“おばさん”はそれでよろしいのでしょうか?」

 俺は、山本さんのお母さんに話を振る。
 山本さんのお母さんは、寂しそうな表情で言い始める。

「それは親としては、良くはないですよ……。鈴音さん見たいな素晴らしい人を諦めなければ成らないのですから…」
「けど……孝明があの時に、鈴音さんに工場こうばの仕事を手伝わせれば良かったのです!」

「孝明と鈴音さんが喧嘩をした日。私は工場こうばに行って、孝明を説得しました!」

「『鈴音さんの熱意に応えてやれ』と私は言いましたが、孝明は最後まで『怪我をする恐れの有る仕事を、鈴音にやらせる訳にはいかん!!』と言い切り、首を縦に振りませんでした…」

「それに……山本鞄店は、近いうちに閉店する事に成るでしょう」

「えっ!?」

 俺は一瞬驚くが、直ぐに自分で納得が出来てしまう。
 確定ではないが、前科者が作ったランドセルを喜んで買う親は殆ど居ない筈だし、近所の人達にも、何を言われるかは分らない……

「もし…、被害者の方が死亡や後遺傷害が残ってしまいましたら、失効している自賠責保険、人身事故の賠償金額相当は、家屋と土地を売ってでも、被害者に支払わなければ成りません」
「そうで無くても、この町でお店は続ける事は…、難しいと私は感じています!」

 俺は思わず鈴音さんの方に顔を向けるが、鈴音さんは何も言わずに黙った聞いて居る。
 山本鞄店が閉店の危機なのにそれで良いの!? 鈴音さん…?

「それと、青柳さん…」
「この様な状況に成ってしまいましたので、青柳さんの引っ越しは中止に成ります。相手の方に、入居を断わられてしまいました」
「理由は察しての通りです…。予約した引っ越し業者にもキャンセル料を、こちらから支払って中止とします」

「はぁ……」

(やっぱり、そう成ったか……)

「でも、安心して下さい……。青柳さんに退去が迫られている部屋は、私が大家さんと交渉しまして…、来月から1万円の値上がりに成りますが、その条件で良ければ、今のアパートに住み続ける事は可能だそうです…」

(無職の俺が賃貸なんて借りられないし、月々1万円の追加出費は痛いが、住めるだけマシか)

「俺はその条件で大丈夫です。おばさん、ありがとうございます」

 俺は山本さんのお母さんに頭を下げるが、同時に疑問も生まれる。

(店を畳むのは仕方無いにしても、鈴音さんや稀子はどうするのだ?)
(山本さんに実刑判決が本当に下ったら、犯罪者の家に住む子に認定されて、碌な目に遭わないはずだ!!)

「鈴音さんと稀子ちゃん!」

「はい、何でしょうか比叡さん!」

「どうしたの、比叡君?」

「君達は、今後どうするの?」
「言いたくないけど、犯罪者の家から通園すると成ると、色々と陰口が叩かれそうな気がするけど……」

 俺がそう言うと、稀子は力強く言い出す!

「比叡君!」
「まだ決まった訳じゃ、ないでしょ~~!」

 稀子はそう言い、鈴音さんも……

「私も…、孝明さんの判決が決まるまでは、この家でお世話に成るつもりです!」
「お母様を1人にする訳に行けませんし、私の親友にそんな非道い事を言う親友は居ません!」

「そうだぞ、比叡君!」
「鈴ちゃんを者に出来たからと言って、山本さんを悪人扱いするのは早すぎるぞ!!」

 稀子は少し怒り口調で言う。
 この状況下でも、稀子は本当に山本さんが好き何だと感じてしまう……

「それと、比叡さん…」
「今日からまた、一緒にご飯を食べませんか?」
「お母様からも、了解を貰っています!」

「えっ、良いのですか?」
「おばさん……」

 俺は了承したいが一応、山本さんのお母さんにも確認を取る。

「私は、青柳さんが保育士養成学校の選考に落ちてしまっても、今までと変わらない待遇をするつもりでした」

「孝明が勝手に暴走して、青柳さんを追い詰めたのです!」
「それに今、家には男手が居ません。青柳さんがご迷惑で無ければ是非、ご一緒してくれると……」

「はっ、はい。俺なんかで良ければ!!」

(やった!!)
(また今日から、みんなと一緒に晩ご飯が食べられる!)

(これからの数日間の間は、会話も弾まないと思うけど、少しずつ日常が戻って来るはずだ!!)

「じゃあ、比叡さん!」
「今晩から、よろしくお願いします!」

 鈴音さんは“ぺこり”と頭を下げる。
 どんな時でも、礼儀正しい子だ!!

「比叡さん!」
「丁度時間ですし早速、晩ご飯を作りましょう♪」

 普段はしない腕まくりをして、やけに張り切る鈴音さん!!

「二人共、羨ましね~~」
「ヒュ~、ヒュ~!」

 稀子も、俺と鈴音さんの関係を認めてくれる……
 住処の問題も何とか解決が出来て、後は山本さん次第だが……俺には日常が戻りつつ有った!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...