上 下
85 / 434
【R-15】鈴音編

第83話 朱海蝲蛄 【比叡】 その2

しおりを挟む
「触らないで!!」
「私はもう、孝明さんの者では無い!!」

 山本さんの掴もうとした手を払いのけて、鈴音さんは俺の側に走って来て、俺に寄り付く。

「鈴音!!」
「ふざけるな!!」
「遊びは終わりだ! 帰るぞ!!」

 山本さんも遂に声を荒げる。
 バス待ちをして居る人も数人居たが『痴情のもつれ』だと直ぐに判るので、見て見ぬ振りをしている。部外者が割り込んでも、何も意味が無いからで有る。
 
「もう、こんな生活うんざりです!」
「私は今から、比叡さんに付いて行きます!!」
「私と比叡さんの旅行を邪魔しないで下さい!!」

「鈴音……何を言っている!」
「お前はその男に騙されているんだよ!!」
「今なら何もせずに許す。こっちに来るんだ。鈴音!」

(何だか、サスペンスドラマに成って来たぞ!)
(鈴音さんがヒロインで山本さんが悪人。俺は主人公!?)

 そんな事を考えて居る間に、山本さんがこっちに近づいてくる!?

「比叡さん! 逃げましょう!!」
「今捕まったら、比叡さんは何をされるか分かりません!!」

 俺は先ほどの“お仕置き”の言葉が頭をよぎる。あの人がするお仕置きは、絶対普通のお仕置きでは無い!?
 俺と鈴音さんは荷物を持ってお互いが走り出す。

「あっ……、この野郎~~~」
「ふざけやがって……」

 俺と鈴音さんが走り出して逃げ始めると、山本さんは何かを呟いた後、当然追いかけてくる!

(大変な事に成ったぞ!!)
(今度は刑事ドラマか!?)
(これだと……俺と鈴音さんが被害者側だな…)

 俺は走るのが得意では無い。持久戦に成ったら絶対に勝てない。
 鈴音さんも運動神経は良さそうには見えないし…、厳しい状況だぞ!

 俺達は大通りを走って逃げて居るが、大通りを繋ぐ脇道を走って横断した時、右前方には自転車が来ていた。
 俺達は余裕を持って通過したが、自転車に乗っている人は、スマートフォンを操作しながら乗っているため、前方に対する意識は散漫としていた。

(あれ……1歩間違えたら、歩行者ねるぞ!)

「うぁっ!」

『ガッシャーン!!』

 思った通りと言うか、山本さんが声を上げた瞬間、先ほどの自転車と山本さんがぶつかる!!
 その音で、俺と鈴音さんは一蹴立ち止まって振り向く。見た感じ……お互い大きな怪我はしてない感じだ。

「比叡さん!」
「タクシーに乗りましょう!!」

「その、タクシー~乗ります!!」

 道の前方にタクシーが信号待ちで止まっている。
 鈴音さんは走りながら手を上げて、タクシーに意思表示をする。
 気付いたタクシーの運転手は、ハザードランプを付けて俺と鈴音さんを待つ。

 タクシーは丁度空車で有って、同時に後部座席のドアが開く。俺と鈴音さんは急いでタクシーに乗り込む。

 先ほど見た時、山本さんの方は体格が頑丈の所為か、怪我をして居る様には見えなかったが、自転車側の人が怪我をした様で、俺達の方を追い掛けたくても、追い掛けられない状態で有った。
 自転車が圧倒的に悪いが、人の救助を無視してまで、山本さんは俺達を追いかけられなかった……

「すいません!」
富橋とみはし駅いえ、古城ふるしろ駅までお願いします!!」

 鈴音さんはタクシーの運転手にそう告げる。
 どうして、富橋駅では無いのだろう…?
 信号が変わり、山本さんの横目をタクシーが通り過ぎるが、山本さんは鬼の形相で、俺達を睨み付けて居るだけだった。

「比叡さん!」
「スマートフォンの電源をOFFにして、SIMカードを抜いて下さい!!」

「えっ!?」

「山本さんは全力で、私達を探し出します!」
「後、GPS(位置情報)もOFFにして下さい!!」

「ちょっと、鈴音さん…。山本さんにそんな力無いって!」

 鈴音さんはスマートフォンの電源をOFFにして、本当にSIMカードも抜いている。
 俺も同じ様にはするが……。鈴音さんがやけに警戒するが、顔が広いと言っても、商店街の人達や商工会位のレベルだろうと俺は思っていたが……

「比叡さんには言っていませんでしたが……孝明さんは元、朱海蝲蛄レッドロブスターの総長だったのです…」

朱海蝲蛄レッドロブスター!?」
「暴走族の事…?」

「そうです…」
「孝明さんは、この地域を纏めていました…」

「うそ!」
「そんな話聞いた事無いよ!!」

「孝明さんが言う訳有りません…」

 山本さんが、暴走族の総長で有る事で全てが繋がる。
 独特の低音口調。ヤ○ザ見たいな外見とDQN仕様ハ○エース……
 でも……鈴音さんはどうして、山本さんに好意を持った!?

「でも…過去の話でしょ!?」

「えぇ、過去の話ですが……人脈はまだ生きているはず…」
「仲間を呼んで、私達を探し出すはず!」

 鈴音さんは捕まる立場なのに冷静に言う。

「そっ、それなら旅行は中止しようよ!」
「こんな状態では、とても楽しめないし!!」

「そうしたいのは山々ですが、今の私達には帰る場所が有りません!」
「山本さんの家はもちろん、私の実家や稀子さんの実家にも連絡が行くでしょう!」

「たとえ連絡が行っても、鈴音さんの両親がかくまうでしょ!」

「私の両親は、もちろん私を匿うかも知れません……。でも、比叡さんは…?」

「あっ…!」

「今…、山本さんがターゲットにして居るのは私も含まれますが、一番のターゲットは比叡さん、あなたです!!」
「私は比叡さんを……見捨てる事は出来ません!!」

「じゃあ……これからどうするの?」

「予定通り…、騒丘そうおか市に向かいます」
「隣の県なら、数日間は手が伸びて来ないはず。その間に私の両親を説得して、山本さんの関係を断ち切って、比叡さんとの交際を認めて貰います!」

(凄いや……この子。短時間の間にこれだけの事を纏め上げるとは…)
(有る意味、山本さんより鈴音さんを敵に回したら怖いかも!?)

「私の両親への連絡は、ホテル内の電話で取ります」
「ホテルなら安全も保証出来るし、最悪山本さんが来ても籠城出来ますし、私の両親も場所が分かりやすく好都合です!」

「まずは、無事にホテルにたどり着きましょう!」

 鈴音さんはそう言い終えると、俺の方に振り向く。

「比叡さん!」
「新しい未来を掴みましょう!!」

「うん…」

 和やかに言う彼女に、俺は頷くしか無かった。
 軽い気持ちで組んだ旅行が、逃亡旅行に代わってしまった!?
 俺と鈴音さんは無事に山本さんの手から逃げ切り、幸せは掴めるのだろうか!?
 乞うご期待の状態で有った……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...