上 下
63 / 434
稀子編

第61話 料理デビュー その2

しおりを挟む
 すると稀子は、里芋が入ったガラス製ボウルを、電子レンジに入れて調理を開始する。

「稀子ちゃん。何やっているの!?」

「何って……比叡君。電子レンジで里芋を調理しているのだよ!」

「でも……皮ごとだよ!!」

「そうだよ!」
「比叡君……。“きぬかづき”って知っている?」

「“きぬかづき”…。皮ごと茹でた里芋だよね?」

「本当は蒸すのだけどね…。まぁ、良いや!」
「それと同じだよ!」

「電子レンジで調理してからだと、簡単に皮がむけるんだよ♪」
「比叡君、本当に知らなかったんだ!」

「そんな、調理方法有るんだ……知らなかったよ」

「本当の美味しさを求めれば、大変だけど生のままで皮を剥いて、下茹でするのが理想だけど、加工品を使うよりか、遙かにこっちの方が美味しいよ♪」

 稀子は『にぱぁ~』としながら言う。
 確かにこの方法なら、手間はさほど掛からない。

 きっと稀子や鈴音さんは、誰かに食べて貰うために料理を作っているのだろう。
 俺見たいに自分だけが食べる料理なら、最悪エサでも構わない。
 食事は楽しみの部分でも有るが、予算や時間の都合で美味しくない物でも、食べなければ成らない時が有るからだ。

『ピーー』

 電子レンジの調理終了ブザーが鳴ると、稀子は里芋が入ったボウルを取り出して、里芋をひっくり返して再び調理をする。

「比叡君!」
「ジャガイモでも、同じ事が出来るよ!」
「ジャガイモは1個、1個ラップで包んで加熱すれば、ジャガイモの皮むきも楽に成るから、ポテトサラダ作りも楽になるよ!」

「電子レンジ様々だな…」

 俺はそう呟きながら、自分の仕事をする。
 手際の良い鈴音さんはゴボウを笹がき終わって、ゴボウの“あく抜き”中で有った。
 手が空いた鈴音さんが声を掛けて来る。

「比叡さん。アスパラガスは茹でたてが美味しいですけど、餃子の方が焼きたてが良いですから、茹でてしまいますね」

「お願いします。鈴音さんの方が、絶対美味しく茹でられますから」

「私は、普通に茹でるだけですよ!」

 鈴音さんは謙遜しながら、アスパラガスを茹で始める。
 きちんと根元から入れて茹でる。キッチンタイマーで時間も計っている。
 俺の場合は、そのまま横に入れて茹でる。色が変わったら適当なタイミングで引き上げるタイプだ。
 稀子も電子レンジで調理した、里芋の皮をいている。
 ここまで来ると、俺の晩ご飯担当では無くて、3人での共同作業になっていた……

 ……

 晩ご飯の時間。
 ダイニングテーブルには焼き餃子、アスパラガスの塩茹で、白菜の漬け物が並べられている。アスパラガスは醤油マヨネーズで食べる。
 豚汁も、大きなお鍋一杯に出来上がった。残った場合は、山本さん達の明日の朝食と、俺のお土産に成る。

 食卓に山本さん親子も揃って、晩ご飯の開始で有る。

「今日の晩ご飯は、比叡さんが作りました!」

 食事の挨拶前に、鈴音さんがみんなに分かるように発表する。

「ほぅ……比叡君もデビューか」
「自信、有るんだろうな…?」

 山本さんは低い口調で言う……もし、口に合わなかったらどうなるんだ?

「こら!」
「孝明さん。脅かしちゃ駄目ですよ!」
「比叡さんが、一生懸命作ったのですから!!」

「あはは!」
「冗談だよ! 鈴音。比叡君!」
「比叡君が料理を作ったから、“やきもち”を焼いただけだよ!」

 山本さんは笑顔で言うが、本当に冗談だったのだろうか?
 俺には本気マジで感じた……

 みんなで食事前の挨拶をして、晩ご飯が始まる。
 何故か、みんな、一斉に豚汁からすする。
 最初に言葉を述べたのは稀子だった。

「うん! 美味しい!!」
「豚汁は安心する味だね!!」

「大根や油揚げ、こんにゃく、豆腐も入って、具だくさんで美味しいです!」

 鈴音さんも褒めてくれるが……

「うん…。確かに旨い豚汁だが……これは本当に、比叡君だけで作ったのかね?」

 俺が上手に作りすぎたのか、山本さんは疑問を感じている。
 俺も豚汁をすすったが、ゴボウのから出る出汁が、加工品を使うのと比べて、風味や味も全然違う。疑うのも当たり前だ!

「そうだよ! 山本さん!!」
「私達は、お手伝いはしたけど、味付けは比叡君だよ!」

 稀子は俺をフォローしたつもりだと思うが、同時に余計な事も言っている!?
 それでは……俺1人で、作った事には成らなくなる!

 案の定……山本さんは『やっぱりか…』の表情をする。

「……なんだ。稀子ちゃんや鈴音も手伝ったのか…?」

「えぇ、孝明さん。そうですわ!」
「比叡さんがこの家で料理を作るのは初めてですし、私達が居ると安心出来ると思いまして!」

「ふ~ん」
「2人から好かれて居るんだ……比叡君は…」
「成る程ね……ふふ」

 不敵な笑みをこぼしながら、豚汁の具材を食べている山本さん。
 何だか、怖いのですけど!!

「こら、孝明」
「そう言う事が言いたいのなら、孝明も料理を作りなさい!」

 ここで、山本さんのお母さんが注意をする。
 山本さんは陽気な声で喋る。

「あはは~」
「あまりにも旨すぎたから、ちょっと悔しくてね!」
「僕もデビューするか! 鈴音と稀子ちゃんに手伝って貰って!!」

 山本さんはそう言いながら、餃子を箸で掴んで食べている。餃子はチルド品だし一目瞭然で有る。
 稀子ちゃんと鈴音さんは、何故か少し困った顔をしていた。

(俺を手伝うのは良いのだけど、山本さんの場合は嫌なのかな?)

「まぁ……僕は、肉を焼くのと焼きそばしか作らないがね!」

 山本さんはそう言い、ビールを一気に空ける。
 この人は我が強い人だから、稀子や鈴音さんが手伝っても、余り意味が無いと感じた。

 ……

 晩ご飯の時間も無事終わり、余った豚汁をタッパーに詰めて貰って、俺はアパートに戻る。
 今回は成功とは言えないが、俺ももう少し、真剣に料理作りをしようと思いながら帰路に着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

処理中です...