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出会い編

第36話 稀子達と始める生活 その2

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「比叡君…これでも、僕なり頑張ったんだよ……」

 きっと、本来の契約なら、壁紙の張り替えや畳の交換はしないのだろう。
 俺は見掛けだけで不満を言ってしまったが、相変わらず成長が出来ていない自分が恥ずかしい。

「山本さん。ありがとうございます」

 俺は素直に頭を下げる。

「何でも、見掛けだけでは無いからな!」
「中身が大事だぞ! 中身が!!」

 山本さんはそう言いながら、俺の肩を叩く。

「家電製品等の位置は、ここだと思った場所に置いてしまったが、細かい部分は修正してくれ」
「段ボールは、部屋の隅に纏めて置いておいたから!」
「荷ほどきは明日、鈴音と稀子ちゃんが手伝ってくれるそうだから、今日はそんなに無理しなくても良いぞ!」

「……本当に何から何まで、ありがとうございます」

「おい、おい。ここでお礼を言ってはあかんぞ!」
「それを言うのは、君が保育士の資格を無事取得出来て、勤め先も決まって、稀子ちゃんが本当の人に成ってから言うもんだ!!」

「山本さん……」

「じゃあ、これが君の家の鍵だ!」
「今度は、僕の家の案内をしよう」

「はい!」
「お願いします!!」

 山本さんから新居の鍵を受け取る。
 俺は人の感謝を心底感じながら、山本さんと一緒に山本さんの家に向かった。
 新しく住む家から5分もしない内に、1軒の店屋が見えて来る。

「これが僕の家とお店だ!」

 山本さんはそう言う。店の横には看板が出ており『山本カバン店』と書いて有る。

かばん屋さんなのですか?」

「あぁ、そう!」
「カバン屋さんだ!!」

 山本さんはそれ以上言わないから、普通の鞄屋かなと思う。
 しかし、それは予想外の事だった!?

「見ての通り、ここがお店の入口」
「でも、君がお客さんに成るなら別だけど、そうでなければ、今から言う所から入って欲しい!」

 お店の入り口はカーテンで閉められていて、中の様子が良くうかがえなかったが、店の表に貼って有るポスターを見て俺は仰天してしまう!
 ポスターはイラストでえがかれていたが、満開の桜をバッグにランドセルを背負った男女が描かれていた。

(鞄はカバンでもランドセル!?)
(この顔とこの体系でランドセルを売っているの!?)

(それとも、何かの隠語か!?)
(見掛けはランドセルだけど、かぶせを開けると飛び道具が出たり、謎のガスを噴霧ふんむする装置でも付いているのか!?)

「あっ、あの、山本さん…」
「ここは、どんなカバンを売っているのですか?」

 一応、何の店か俺は聞いて見る。

「見ての通り、カバンを売っているよ。小学生向けのね!」

 やはりここは、鞄屋さんには間違いないけど……、ランドセルを販売するお店だった。
 しかし、今日は定休日か? 金曜日なのに…?

「……今日はお店、お休みなんですか?」

「平日に来るお客さんは少ないし、うちは元々季節商品だからね!」
「これから、お客さんは一気に増えるかな…。今来る人は、予約品の引き取りが中心だから!」

「そうですか…、言われて見れば季節商品ですもんね」

「比叡君は興味有るのか…?」
「こう言った物に?」

「えっ!?」

 俺はその言葉で戸惑ってしまう。
 純粋の意味か、卑猥ひわいでの意味かで有る!!

(有ると言ったら、どうなるのだろう?)
(でも、間違った捉え方をされたら、ロ○コンに認定されるし、それに追い返されるかもしれない…)

「特に無いです…」
(こう言っておけば、たぶん大丈夫だろう)

「そっか~、残念だな…。何だったら、比叡君を僕の所で雇っても良かったが…」

(あっ、やっぱり、そっちの意味だったか!?)
(男の俺がランドセルを売るのも今の時代、結構微妙だよな)
(でも、保育士の道を目指すのにそんな事言っても駄目か…)

「じゃあ、比叡君。こっち来て!」
「家の案内と母親に紹介するから」

 俺は山本さんに付いて行く。お店の横には玄関が有って、普段は其処から出入りをして欲しいとの事だ。
 山本さんに山本さんの母親を紹介されて、挨拶と軽い話をする。

 見た感じ、話しやすそうな人だし、山本さんの年齢から汲み取って、50代前半位の人だろうか?
 鈴音さんと稀子はまだ帰宅していないらしく、それまでの間、山本さんの母親からお茶に誘われて、山本さん達とリビングでお茶を呼ばれる事に成る。

 お茶やお茶菓子をつままみながら、山本達と軽い世間話をしていると玄関が開く音がする。
 聞き慣れた声の感じからして、2人が帰って来たのだろう。
 2人がリビングに顔を出した時、俺の姿を見た稀子が声を上げる。
 久しぶりに稀子との再会だった!
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