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しおりを挟むとにかく疲れた。前撮りってこんなにも疲れるものだったんだ…世の花嫁さん達大変って思ったけど、疲れたのは多分帰りにボートに乗ったからだ。なにを思ったのかボートに乗って、漕いだ。漕いでみたかったから。全部は無理だったけど頑張ったからすごく疲れた。
眠いからベッドまで連れてってもらったけど、ここぞとばかりに3Pに持ち込もうとする夫2人を退けて寝ることに成功した。
「喉乾いたしお腹すいた…」
変な時間に寝たから変な時間に目が覚めた。疲れてるから起きないと思われたのだろう、ノアもジョエルもいない。ベッドサイドに水はあったけど、ごはんもないしお酒もない。冷蔵庫があるわけでもないから、どこから調達すればいいのかもわからない、詰んだわ。
一人で出歩くなって言われてるけど、お腹すいたし喉乾いたから仕方ないよね?扉を開けたら近衛騎士さんたちがすっごくびっくりしてた。
「えっ?あっ、異世界の花嫁様、こんなお時間に?」
「お腹すいたし喉かわいたんだけど、誰もいなくて…ごはん食べれるところ知ってます?」
「少々お待ちくださいね、本当に」
そもそも何時だろう?2人いた騎士さん達の1人はとんでもない勢いで走って行ってしまった。聞けば日付が変わったくらいらしい。夕方くらいに終わったはずだからそこまで爆睡ってかんじじゃなかったのかも。
「いつもここにいるの?」
「えぇ、部隊長からの命ですので」
「暇でしょ?ノアとジョエルがなんかしてるから全然わかんないでしょ?」
「いいえ、異世界の花嫁様に見初めてもらおうとする人間はかなりいらっしゃいますから…」
変なやつらを帰したり贈り物の処理や例のフラワーアレンジメントもやってるらしい。騎士なのにお花の心得があるの?って聞いたら、貴族の嗜みですのでって。貴族すごい。
花言葉とか色とか本数で変わるとか興味深い。奥さんに贈ったの?ってからかってたら、さっき走っていった騎士さんとロランが来た。あれ?てっきりノアかジョエルかと思ってたんだけど。
「ミズキ、戻ってすぐ寝たと聞いていたから…ノアールとジョエル殿は仕事に行ってしまったはずだが」
「お腹すいて喉乾いたから、なんか軽く食べられるものとお酒でもあればなーって。騎士さん達に言ったらロランが」
「部屋に入る許可は得てないからな…俺の部屋に来るか?酒も用意させよう」
「ほんと!?やったー!行く行く!」
珍しく乳首透けてない膝上くらいまで長さのあるナイトウェアを着せられていたけど、足元はスリッパだったからロランに抱えられたと思ったらすぐ転移してた。わぁお、やっぱ便利。
部屋はちゃんと部屋だった。テーブルにソファ、多分扉の奥が寝室とかトイレとかお風呂。相変わらずホテルみたい。ここもお城の中らしい。食事は炭水化物は抜いた方がいいか?って聞かれたけど、炭水化物大好きだから気にしないって答えた。あとでちゃんと動けばいいもん。勝手にセックスに持ち込む夫が2人もいるから大丈夫。
前菜何種類か少しずつ盛ったやつとリゾットが一瞬ででてきた。いつも思うけど、ほんと魔術謎すぎてやばい。あとめっちゃ冷えたグラスと瓶ビール!わかってるね、喉乾いてるからビールの気分だったの。
「じゃあ乾杯」
*****
昼間は機嫌の悪い殿下の護衛、愛おしい彼女は窓越しに夫達と結婚式前の思い出作りをしている。
チラリと窓の外を窺えば、眩いばかりに輝く彼女が幸せそうにしている。満面の笑みを浮かべて白いドレスで夫達と戯れている彼女をみてこちらも気持ちがあたたかくなる。いつか自分も彼女の夫になりたいと思うばかりだ。
「ロラン」
「はい、いかがされましたか殿下」
「外ばかり見るな」
殿下の機嫌が悪い理由は仕事の多さだけではない、殿下も彼女、ミズキのことを愛おしく思っているのに気持ちを伝えることもそもそも二人で話したり過ごすこともできていない。立場を考えれば当たり前なのかもしれないが、正直いい感情すら持たれていないので我が主ながら不憫ではある。
『ミシェルー!ジョエルがちゅーするから絶対リップ取れた!』
『ノアの時点で少しとれていたから私だけのせいではありませんよ』
『なにそれー!ノアのせいにしてる!ジョエルの口にラメ移ってるのに』
『筆頭魔術師っ!お前にもついているんだから絶対に服で拭うなよっ!』
彼女と夫達、デザイナーのマチアス様とニュイの面々、今日は彼女についている同僚のミシェルと撮影のために駆り出された高級紙のカメラマンが楽しそうにしている声がよく聞こえる。恐らく殿下の魔術だろう、少しでもミズキを感じていたいのだろう。彼女が何か話せばすこし口角が上がられる。素直になればいいのに、なぜミズキの前でそのように素直になれないのかわからない。
『ミシェルもウエディングドレス脱ぐ前に一緒に写真撮ってもらおうね。あとロランも』
『旦那様方だけでなくていいのですか?』
『彼氏だっていいじゃん。このドレスもあと着るの当日だけだよ?結婚式当日に彼氏となんてめっちゃゴシップ紙の餌食だよ、だから今日。ね、いいでしょ?』
『えぇ、愛おしいミズキの頼みならなんでも聞きますよ』
「はぁっ!?ミシェルも彼氏!?」
そうか、昨日の今日だから殿下は知らなかったのか。自分はミシェルに昨日聞いた。自分もミズキの恋人として認めてもらえた、彼女の唇も肌も胸も全てが柔らかく甘美だったと彼女との飲み残しのシャンパンを持って部屋に来たのだから。てっきり殿下にも伝えていたものだと思ったが、あいつは浮かれていたから忘れていたのだろう。
「お前もミシェルも…くそっ」
だからといってペンを折るのはやめてもらいたい。書類にインク染みがついてやり直しになる。
機嫌の悪い殿下の護衛というより八つ当たりの相手としての任務をしながらも、ミズキに呼ばれ一緒に撮ってもらったり(現像したものは実家に送ってくれと頼んでおいた)、お茶だけは一緒にしたりと自分からすれば充実した時間を過ごせたと思う。
ミズキ達の撮影が終われば楽しそうに「ボートで帰る、漕ぐ」と気合いの入ったミズキがデイドレスのままボートを漕いでいるのを殿下は窓からみていた。
一通り仕事も終わり、一杯やってから寝ようと思っていたらミズキの部屋の護衛に回っている部下がきた。就寝中だと思っていた異世界の花嫁様が喉の乾きと空腹を訴えて起きてこられて扉をあけたと。御夫君は二人とも職務に向かわれて不在で連絡するのも憚られるので自分のところにと。よくやったと肩を叩いて急いでミズキの元へ行く。あの部屋にはノアールの魔術のせいで直接転移をすることはできない、近くまで転移をして走って向かえば、彼女は近衛の1人と立ち話をしていた。
「ミズキ、戻ってすぐ寝たと聞いていたから…ノアールとジョエル殿は仕事に行ってしまったはずだが」
「お腹すいて喉乾いたから、なんか軽く食べられるものとお酒でもあればなーって。騎士さん達に言ったらロランが」
「部屋に入る許可は得てないからな…俺の部屋に来るか?酒も用意させよう」
「ほんと!?やったー!行く行く!」
本来であれば男の前にでるような格好ではない彼女だが、彼女達の生活している室内ではもっとあられもない格好をしているのを知ってあるので咎めない。この部屋を任せたのが既婚の人間だけでよかったと思う。未婚であれば、なんとかミズキの夫の一人にも願ったり、逆にミズキが惚れてしまう可能性もあったからだ。
軽い食事とつまめるもの、彼女の好きなお酒を用意して「じゃあ乾杯」とグラスを合わせる。
女性といえば体型を気にするから夜中に食事はしないと思っていたから、ミズキが普通に食事をしていることを疑問としてぶつければ、運動ってかセックスするから大丈夫でしょ?などと普通に言う彼女に、相手が自分ではないとわかってはいても驚いてしまう。
咀嚼のたびに動く口元、飲み込んだときの上下する喉、口に入れるときにちらりと見える小さな歯と淡い赤色の舌。ミシェルではないが、ミズキの一部となるこの食事になりたいとさえ思えてしまう。
「そんなに見られると食べづらい…」
「あ、あぁ、すまない」
そんなことを言っても微笑んでくれる彼女のことが愛おしくて好きで堪らない。自分だけに向けられる微笑みは今だけだ。白い張りのある太股に手を置いても嫌がることもないが、彼女が手に持っていたカナッペからオイルが腕づたいに流れる。服に付かないようにそれを舌で舐めあげてあげたあとに目があえば、彼女の唇に自分の唇を重ねていた。
「ミズキ」
唇を重ねたままソファへ押し倒す。ここまできてしまえばもうジョエル殿とノアールに言われた性行為なしという約束は守れそうにない。柔らかな胸を布越しに揉んで、珍しく切れなかった肩紐からはずそうとした
「おいロラン、酒に付き合え、よ…」
殿下が部屋にいきなり転移してきた。タイミングは最悪だ。
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