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酒に酔うとろくなことを言わないし思った事がそのまま口から出る。普段ならしない暴言と思われる言葉を吐いたようだ。

「知りませんからね」

魔術に適正があるかもわからない彼女が目の前から消えた。夫の一人である目の前にいる男、ノアールの与えた魔術具のせいだろうが。
その横で呆れているのがミシェル、知らないと怒ってきたのは彼女の講師だ。男だがドレスを着ているがそれどころではない。

「ノアール」
「今怒ってますから。例え殿下であろうと僕の妻にあのような失礼な物言い…」
「ミズキはどこへ行ったんだ?」
「僕のところにいないとなるとジョエル様の元へ。僕に頼ってくれたらよかったのに。それよりもこの場にいたくなかったんだと。転移は僕かジョエル様の元に行けるようになっていますから」

ノアが怒っている様子は知り合って数年経つが初めてみた。どんな理不尽な扱いをされても怒ったりしないこの男が妻のことでは怒るのか。まだ出会って数日なのに

「ジョエルの元へ行くぞ」
「やめたほうがいいと思います」

ロランの発言に全員が同意しているようだ。

「まずは酔いを覚まして御自分の発言を振り返ってみたらいかがです?ノア、頼みましたよ」

体からアルコールが抜けるのがわかる。父である陛下がこの術を気に入ってるのもわかる。一気に抜けるのはこれはこれで癖になる。二日酔いも楽になりそうだ。
それよりも彼女にかけた言葉、どれを振り返ってもあり得ない…泣かせるほどの言葉ではないが、彼女は異世界からやってきて一人なのだ。そこにはやはり優しい言葉をかけるべきだった。

「殿下とミズキが結婚だけはなくなりましたね」

鼻で笑うミシェル。なんだ?自分は結婚がありえるとおもっているのか?恐らく彼女は3人セットだと思っているからお前もミズキと結婚なんてできないことに気付け。ロラン、お前もだ。

「…謝罪に向かう。ノアール、頼んだぞ」
「嫌ですけど仕方ないです。ミズキが泣くところなんて見たくなかったのに」

ノアールの機嫌の悪さは初だ。これを母上や義姉上にみられたら大変なことになる。




宰相執務室へ行ったがミズキもジョエルもいなかった。

「陛下と王太子は大変にご機嫌でありましたが、殿下は違うのですね」

宰相に嫌味を言われているのはわかっている

「御子息とミズキは?」
「さぁ?泣きながらいきなり現れた異世界の花嫁様と一緒にどこかへ転移してしまいましたよ。あぁ、異世界の花嫁様とは他人行儀でしたね。娘になるのに。ノアールも息子のようなものですよ」

本当に息子とそっくりな父だ。

「彼女は時期侯爵夫人ですから。がどちらかはわかりませんが」

自分にも可能性がないというわけではないと宰相に言われたのは何故か自信になった。そうか、まだ可能性はあるのか。

転移は使わず歩いて彼女のいる貴賓室の方まで来れば本来であれば扉の前にいるであろう近衛騎士達が扉から距離をとっている

「お前達、なぜそのような位置で」
「あっ…えっと…その…」

顔を赤くして俯く近衛騎士達に何かを察するのはミシェルだ。扉の前に行けば満足そうに微笑んでいる。本当に気持ち悪い。
殿下もどうぞ。とよくわからず扉の前に立てば小さいながらも彼女の声、いやこれは最中だ

「ノアール、魔術はどうした!?」
「今日はみんないないからかけてなかったんですよ。魔術温存しておかないと明日小さくなってミズキのお披露目は嫌だったんです!」

近衛騎士達が扉から距離をとっていたのも今ならわかる。平素であればなんの音も気配もない扉から喘ぎ声が漏れ聞こえれば誰だって動揺する。チラリとでも対象をみたことがあればなおさらだ。想像してしまうのだろう。近衛騎士と言ってもロランの直属の部下だからまだ年若い。妻や婚約者がいればまだしも、いない人間にとっては酷だ。

「ノアール、ここは今は貴方の魔術はなにもかかっていないと?」
「え、えぇ」
「では」

ミシェルの魔術はろくなものがないけれどとんでもなく趣味の悪い魔術を使った。

『ジョエル、すきっ、やぁっ、』
『やじゃないでしょう?…ほら、扉の方を見てみたらどうです?』

扉を透かしたこの執事の魔術は趣味が悪い。室内の様子がすべて見えるのだから。
彼女は扉に手を付いて前屈みになっているが、どうみても後ろの男が突いている。声と動きがその証拠だ。なんでこんなタイミングで好いている女とその夫の情事を見せられなければならないのか。しかもその夫の方は見られているのをわかっているようだ。

「ほら、ハイヒールなのに背伸びをしていますよ。健気な方なんですね。片手で両乳首いじられて喜んでますし」
「あのドレス、ミズキがプリンセスみたいって気に入ってたのに。あと髪も。花落ちちゃって…」
『も、だめ…足、ちからはいんな、ぃ』
『じゃあ終わらせてあげますよ』

好いた女のセックスを見せられているときはどんな反応をしたらいいか忘れた。数年前は当たり前だったはずなのに今は受け入れることができない。目をそらしても声は聞こえてくるし肌がぶつかる音や他の音も鮮明に聞こえる。
ミシェルもノアールも普通に見ているが正直信じられない。ロランは背を向けている。

「ミシェル、やめてやれ」
「いや、出されたあとミズキ様がどうするのかが気になって」
「僕はいつも口でキレイにしてあげるってフェラしてもらえますよ。浄化もあるしシャワー浴びればいいのにミズキは口で舐めとってくれます」
「羨ましい限りですよ。すぐに夫が無理でも恋人、彼氏くらいにならなれますかね?」
「ジョエル様がいいと言えば。僕はミシェル様達が一緒に夫になれたら楽しいと思いますけど、ミズキが…」

扉の透化をやめろと言ったのに聞かない従者はろくでもない。ノアールもノアールだ。増えてもいいのだろうか。いや、此処では当たり前のことか。
ヒナのせいだ、一人を愛して一人から愛されたいなど理解できないことを言うからだ。沢山の夫に愛されてこそ女の価値が上がるものだというのに、今まで生きてきた世界の価値観をすてられなかったのだ。ミズキは夫をいきなり2人も決めたのだからヒナよりはこちらの世界寄りの人間だったのかもしれない。

『口でキレイキレイしてあげる』
『すぐ浴室にいきますよ?』
『してあげたいの』
「おー。本当に躊躇なくいくんですね」
「ミズキの世界だと最後は顔にかけるのが定番のアダルトビデオ?なるものでは普通みたいですよ」
膣内なかに出してこそなのに。そういえば魔術はないんでしたね」
「えぇ。いっぱいいっぱいになると『赤ちゃんできたら困るから』って言うのは新鮮でいいですよ」
「それは、なんともいえない興奮要素ですね」

鈍い音がしたから見てみれば顔を赤くしたロランがミシェルを殴っていた。

「見られているのも知らない彼女のことをそんな風に言うな!ノアールもノアールだ、」
『はい、上手にできた?』
『ありがとう。ほら、手伸ばして。浴室へ連れていってあげますよ、お姫様』

セックスが終わったあとは夫が姫抱きをして部屋の奥へと行ってしまった。ノアールも部屋へ入ったと思えばガチガチに魔術がかけられ、ジョエルの魔術では中を窺い知ることもできなくなった。

「はぁ~…」
「ロラン、なんですかその溜め息は」
「溜め息もつきたくなるさ…なんだこの状況は。殿下も殿下ですよ。結局謝ることもできず、ただ見ていただけですよ」
「わかってる。しかし」

そうだ、謝罪をしにきたのだ。驚きすぎて忘れていた。


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