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「片足を斜め後ろにひいて、引いてない方の膝を曲げる…」
「背中は丸めないで、スカートも少し持って」
「脚プルプルするんだけど」
「殿下がいいと言うまで体勢はそのままですよ。正式なお招きなので公爵閣下とお呼びしてくださいね」

マチアス様が帰ったあとに一人でお風呂に入って髪乾かして化粧したらジョエルのマナー講座が始まった。
食事マナーはなんとなく出来ていたから今日は特に指導なしだけど、このカーテシーなるものはしんどい。主に脚。そもそも贈られるらしいドレスがどんなものかもわからないからスカートのつまみ方は用意されたもので変わるらしい。しかもできればもっと引いてとか低くとかとんでもない指導がはいる。無理!

「ただいま戻りました」

ノアが戻ってきたけど昨日よりちょっと小さい?一昨日よりは大きいけど

「ノアール、かなり魔力を使ったのですか?」
「ミズキのピアスに魔力を込めたので。調子に乗って術式組み込んでいたらいつの間にかこんな時間に…」
「丸一日ってところですかね。思ったより早かったですよ。私は晩餐の時間まで執務室へ行きます。ミズキ、どうせ迎えがきますからノアールにエスコートしてもらってくださいね。私は直接向かいます」

消えた。いきなり現れたノアにもびっくりするけど消えるのもビックリする。この魔術なるもの便利すぎてあたしも使いたい。行く場所なんて昨日行ったおじいちゃんだらけの研究室みたいなとこしかないけど。

「ミズキただいま」

キスと同時にぎゅうと抱き締められる。やっぱりちょっと大きい?ん?昨日より小さい?目線は同じくらいだった。

「ちょうど15.6くらいかな?学園が終わるくらい。ミズキとおんなじくらい。ほら、肩もあんまりかわんない」

真横に立って比べてくるノアはかわいいけどあたしはヒールをはいてこれだからと言いたくなった。10センチ近く盛ってこれ。更に盛ってるのに腰の位置はノアの方が高い理不尽!

「一昨日より抱き締めやすくなってる。かわいいミズキ。昨日はちょっとしか一緒にいられなかったから寂しかった」

やっぱ大きかろうが小さかろうがノアはかわいい!口にだして寂しいとか言っちゃうのほんとかわいい。あたしもかわいげ出すために営業の一環として言ってたけど、恋人には普通に察して欲しい。寂しさ感じる間もないくらい一緒にいてほしい。

「今日お化粧バッチリだね全部キラキラしてる」
「うん。リップだけまだ完成じゃないけど。晩餐?なんでしょ。初めて、晩餐って。夕ごはんとかじゃないんだね」
「テーブルに座って料理たべるだけだよ」

いや、さっきのテーブルマナーの確認の時点であたしは察している。料理は確実にコース。前菜も前菜、アミューズからコーヒーと菓子までのフルコースだろう。コーヒーあんまり好きじゃないんだよねとか言える空気感であってほしい。なんか聞いて欲しいよね、コーヒーですか?紅茶ですか?緑茶ですか?みたいなかんじで。聞かれたらルイボスティーとか答えたいけど

「不安?殿下はいじわるな人じゃないから試すようなことはしないと思うけど」
「そうであって欲しい…むしろ殿下?こーしゃくかっかはなんとかいけてもジョエルのほうが厳しそう」
「ふふっ、それはわかるかも。僕も気を付けなくちゃ」

抱き締めあってキスして他愛もない話をしてるのが本当にリラックスできる。カーテシー?もうなるようになるでしょ。とか思ってたらまたあのノック。ジョエルに先に出てはいけないと言われたから大人しくノアの後ろからついていく。

「本日のドレスをお持ちしました。殿下からミズキ様へプレゼントだそうです。靴とアクセサリーもございますので是非御召しください」

来たのはまさかの一人、王子様の執事のミシェルだった。
デカイ箱3つを持って。

「靴はメゾン・ファヴォリのルネ様から指示があったものをお持ちしております。履き心地など参考にして御披露目の日の靴を調整するとのことですので是非」
「ミシェル様ありがとうございます。ミズキ、よかったね。やっと新しい靴だよ」

ノアはこのピンヒールを見てずっと足が痛くないか心配だったようだが、箱の大きさから考えるとヒールの高さは似たようなものだと思われる。縦に揃えられてるならいい、絶対横、スニーカーとかの大きさではない箱だもの

「御召し替えは私が手伝わせていただきます」

もう慣れた。夫2人とメゾンの面々、男の人に着替えを手伝われることにもはや恥じらいなどない

「ノアール様、どちらの部屋を使えば?」
「衣装部屋があるのでそこで。ミシェル様、私に様はつけないでください…」
「いいえ、貴方は子爵の御子息ですよ?私はただの執事ですから」
「でも…」
「貴方がかわいくないわけじゃないんですよ。プライベートの場ならいつもの様に呼びますがここは王城で我々の職場、しかも貴賓室ですよ。それくらいはわかってください」

ノアとこのミシェル様?はいい関係みたいだ。そういえば王家の人はノアを受け入れてくれてると言ってた。王子様に仕えてるこの人もノアには優しくしてくれてるのかな?

「ノアール様はお部屋の前でお待ちください」
「え?一緒には?」
「ドレスアップした姿は過程からよりもいきなり完成形を見る方がより感動すると思いますから。お待ちください」
「…わかりました。ミズキ、楽しみにしてるね」

開けっぱなしにしてたキャリーケースを見られた。そう、昨日開けてからそのまんま。片付けてもない。

「申し訳ありません、そちらの鞄を…このようになるまでしてしまいましたか」
「ちが、大丈夫。うん。壊れたの鍵だけだったから…」

言えない、蓋はしまるのだ普通に。固定できないだけで。ただあたしが開けっぱなしで荷物も出しっぱなしなのが悪い。歯ブラシと歯磨き粉を探すために漁ったからだ。申し訳ないのはあたし

「復元術をノアール様にかけていただければよいのですが…」
「復元って、直すこともできるの!?すごいね魔術。でも直さなくていいかな。戻れるかもわかんないし」
「申し訳ありません…とりあえず髪からやりますか?ドレスからにしますか?」
「ドレスみたい!」

切り替え!戻れると思ってるから!とか言いたかったけどそれもそれでやばそうだからやめた。色打掛着て結婚式やりたいんだわ。こっちの世界でドレスはたくさん着れるだろうから日本に帰ったら絶対色打掛。いや、白無垢でもいいかも。神社で結婚式?いいじゃん!あの女優さんみたいに頭に百合差しまくってっての憧れる!

「おぉー!かわいい」
「ファヴォリのルネ様とはお会いしましたよね?ファヴォリはオートクチュールのメゾンですが、ファヴォリの百貨店ラインのドレスの新作だそうですよ。これから流行るカラーということでベージュを」

箱から出して見せてくれたドレスはとても可愛らしかった。ベージュのドレス。ドレスといえばプリンセスラインみたいな広がるやつを想像してたけど、このスレンダーラインのドレスもすごくかわいい。腰回りにぎっしり付いてるビジューもかわいい。しかも多分ゴム。ごはん食べに行くからめちゃくちゃ優しい設計。王子様に感謝しかない。いや、ルネさん?

「髪からかな。ドレスは最後!」
「かしこまりました。ドレッサーの前へどうぞ」

手を取ってエスコートしてくれる美形に思わず見とれてしまう。それはドレッサーに座ってからも一緒。鏡を通して目の合う美形に思わず胸が高鳴る。ブラッシングしてくれながら髪型を相談するけど正直この国の流行りとかよくわかんないからオススメにしか出来ない。一応ドレッサーのところにはゴムやピン、ヘアアクセサリー置いてるけど使うかな?

「ハーフアップもいいかと思ったのですが折角初めての晩餐会ですしフォーマルな髪型もお似合いになるかと」

してもらったのはシニョン。どこから出したのかドレスと同系色のキラキラした花もぶっささってる。シニョンなんて地味じゃんって思っていたけどめちゃくちゃかわいい

「かわいいー!ありがとうミシェルさん」
「とてもお似合いですよ。では次は御召し替えを」

さすが執事。淡々としてる。まぁ別に今更恥ずかしがることもないから普通に脱いで下着だけになる。よかった。今日もTだからドレスが体にピタピタのタイプでも下着の線を拾わないで済む。

「…コルセットを持ってきていますがどうされます?」
「あー肩でるやつだから?ごはん楽しみだしヌーブラだけにしようかな。王子様っておっぱいは大きければ大きい方がいい人?それとも特に気にしない人?」
「殿下ですか?特にこだわりはないと思いますが…」
「じゃあ普通でいいか」

一応招待してくれたのは王子様、いや、こーしゃくかっかなので好みに合わせておこうかと思ったけど必要なさそう。キャリーケースからみつけたヌーブラをつける。めっちゃガン見されてるけど。そうだよね、この世界になさそうだよね。ルネさんに見つかってたらもっと大変なことになってたと思う。質問攻めだっただろうな

「はい、できた!ほら、谷間めっちゃあるでしょ」
「え、えぇ。ではこれを。」

出されたのは長めの靴下、じゃなくてニーハイタイプのストッキング?みたいなやつ。穿き口がレースなのかわいい。補整タイプではなさそう。まぁ脱がないからいいか。ガーターベルトはいらないみたいだ。
上からかぶるんじゃなくて下から着るドレス。横ファスナーで体にフィットする。姿見で見ればいいかんじにフィットしてるし裾はちょっとだけ長いけどヒール履いたらぴったりだと思う。

「ミシェルさん、どう?かわいい?」
「えぇ。とても」

上半身のレースデザインがかわいいからうしろみたり鏡の前でくるくるしてたらいきなり抱き締められた。え?なに??


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