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四章 地下迷宮
三話 お着替え
しおりを挟む「な、な……!」
状態を把握した途端、全身真っ赤になった。頭から湯気が出そうなくらい。頭を触ってみたら結構熱かった。
「うぅ~」
あぁ、泣いちゃった。ルゥが悪いんだから、諦めてしばらく女の子でいてね?
《姫、時間です》
「おわっ、びっくりした!」
《仮にも女性がはしたない声を出さないで下さい》
いきなり思念伝達でサラが話しかけてきた。
《身なりを整えて戻ってきてください》
一方的にそれだけ言うとブツリと切れた。
え、待って。なんで着替えなきゃいけない状況だって分かったの?遠視でもしてたの?そこまで声が響いてた……り、した?
「で、なの?」
ん?何か言った?指を立ててもう一度喋るよう要求した。
「……いつまでなの?」
いつまでかしらねぇ?
「ちょっと、期限くらい決めてよ」
お、ムッとした。涙目で全然怖くないけど。ん~、そうねぇ。一週間くらい?
「長い」
即答!女の子なルゥを堪能したいのに……。
「三日」
え?なんて?
「三日だけなら……。何しても良いから……だから、服を貸して……」
「…………忘れてた」
がしっ。ごっち~ん!
「いっっったぁ~!そんなに怒らなくてもぉ!。いたぁ」
両肩を掴まれ、全力で頭突きをされた。
うおぉぉ。ヒリヒリじんじんとする頭を抱えて震えているうちに、ルゥはズボンを履いて、奇跡的に汚れていなかったジャケットを脱いで胸を隠した。
「意地悪したのは悪かったけど、女の子にした責任はちゃんと取って」
「……はぁい」
差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。リボンを結び直して私も最低限身なりを整えた。
✻リーヴェルの衣装部屋✻
「私より似合うって、どういうこと?ねぇ」
「僕に言われても……」
化粧したらどうなるのかしら。研究欲が湧いてきた。化粧品袋を持ってくると、ルゥが怖気付いて一歩後ろに下がった。今度はイタズラ心が湧く。ちなみにまだおでこは痛む。
「何しても良いって言ったのはだぁれ?」
うっ、と怯みつつもジリジリと後ろに下がっていく。
──トン。
壁に追い詰められたルゥに、もはや逃げ場は無い。覚悟なさい。
チクタクチクタク。
結果、とんでもない美女が完成した。
女の子になったことによる、私と変わらない身長。髪と目の色は魔法で私とお揃いにした。ドレスも今の私とお揃い。白が貴重になった、フィッシュテール。私はフィッシュテールがお気に入り。上半身は白のレースが重ねられている。スカート部分はスリットが入っていて、太股が見えている。首と左腰でドレス生地をリボンに結べば簡単に着れるドレスだ。ヒールは勿論白い。化粧は素材が良いので薄めに。化粧下地にハイカラーのファンデーション、桜色の保湿リップ。
「スースーする……」
声はそのまま。
はぁ~、すごいわ。綺麗……。天使?女神?こんな女神がいるなら下僕になってもいい。
「いやいや!女神はお姉ちゃんでしょ!?下僕なんて絶対駄目!」
最後に指輪を嵌めれば完璧。
「聞いてる!?」
「……力作」
あまりの完成度にグッと拳を作る。
「はぁ……もういいよ」
がくり。
まぁまぁ、落ち着いて。さ、お着替えもしたことだし、自慢しに、じゃなくて調査に行きますか。
「今なんて言った?ねぇ、なんて言ったの?」
聞こえなーい。
小言の応酬をしながら戻ってきた執務室。
まず最初に反応したのは。
「遅かったで、……御姉様、こちらはどなたですか……?」
一瞬で目の前に移動し、ルゥに刃を突きつけ、殺意の篭った視線を向けている。ルゥは敵じゃないと示すように両手を上げている。
「り、六華さん!?」
これ、貴方の御兄様ですよ!?
「何故、御兄様以外の男が居るのですか……?」
六華が怖い!いやそうじゃなくて。どうして中身男だって分かったの!?性別変えて立派な胸もあるのに!
「勘です」
素晴らしい。その勘は是非、別の場所で活用させて!……そろそろ種明かしをしないとルゥの命が危ない。
「六華さん?落ち着いて?」
「何故です?今すぐにこの者を排除しないと、御姉様に男を近付けないと約束した私が御兄様に殺されます」
いつの間にそんな物騒な約束を。
(そこまで言ってないよ、六華!殺せとは言ってない!殺すとも言ってない!断じて!確かに排除するように言いはしたけど!)
ルゥから強い視線を感じる。そこまで言っていない、信じてという類の。いやまぁ、六華は真面目だから、そのまま受け取ってしまったんだと思うけど。そして、ルゥ。貴方は誰から見ても嫉妬深いと思うのよ。調教しようとする程には。つまり、どちらに信憑性があると言われたら、断トツで六華である。
思わずため息を吐いた私を見て、ルゥはショックを受けた。自業自得よ。……それはともかく、本当にルゥが危ない。刃が首の皮を切って血が出てる。ルゥも名乗り出ればいいものを。余計に刃が食い込むかもしれないけど。
こんな時に思うのもなんだけど……。いつもほんわかしてる六華の目が獲物を定めた獣ように鋭く光っていて、その。
「本当、かっこいい」
「「……え?」」
隙あり。
力の抜けた手から刀を抜き取り、落とし、流れるように、未だ呆然とする六華に口付けた。
「んぅ!?んん!」
逃げようとする頭を抑えて舌を入れ、口内を犯す。
「ん、はっ、ぅん、ん、ふぅ……はぁ、はぁ……」
六華がふにゃふにゃになって崩れ落ちる。追加で一言。
「お兄さんに刃を向けちゃ駄目よ?」
「……はい?」
✻ ✻ ✻ ✻
いつも通りノックが無かったので、御姉様たちが帰ってきたのだと思いました。ですが、隣に居たのは。
「何故、御兄様以外の男が居るのですか……?」
姿形は女でも、私は騙されません。精霊族には女のような男はたくさんいます。その為、必然的に見る目も養われ、男女の区別が付くようになりました。男だと思ったのは、足音と仕草です。男と女では体重が違います。女の足音は軽く、男の足音は重い。御姉様には勘だと言いましたが、推測に基づいた直観です。
「六華さん?落ち着いて?」
すみません、無理です。正直、御兄様との約束よりも、御兄様よりも綺麗な男性の存在に腹が立っています。
「何故です?今すぐにこの者を排除しないと、御姉様に男を近付けないと約束した私が御兄様に殺されます」
殺されはしなくても、お叱りは受けるでしょう。半殺しにされるかも知れません。もしかしたら本当に……。っ、やっぱり無理です。恐ろしい。御兄様は御姉様が大切なのです。他の誰を殺してもいいと思うほどに。落ち着いてなどいられません。
──考え過ぎである。
焦りと怒りが脳を支配する。大人しく平然としている男にも腹が立つ。クッと剣先に力を込め、脅す。立ち去れ、と。
「本当、かっこいい」
突然、空気を読まない呑気な声が聞こえた。
「「……え?」」
何故か男まで一緒に御姉様を見て驚いている。呆気に取られていると、御姉様が近付いてきて……。口付けられた。
は?え……え、え?……!、?!?!、?!!
「んぅ!?んん!」
何故今、口付けを!?いえ、そうではなく、何故私に!?御姉様が口付けるべきは御兄様ですよ!!?
「ん、はっ、ぅん、ん、ふぅ……はぁ、はぁ……」
気持ちよくて頭がクラクラする。上手く息が出来なくて足腰の力が抜け、床に座ってしまいました。そんな私に御姉様が衝撃的な言葉を放つ。
「お兄さんに刃を向けちゃ駄目よ?」
「……はい?」
本当に何を言われたのか、理解できませんでした。頭が理解を拒否します。この、綺麗な人が、御兄様?嘘でしょう?いくらなんでも冗談でしょう?ねぇ、御姉様?
「本当よ」
しゃがんでくれた御姉様にぎこちなく目を向けると、にこにことしていらっしゃった。
「私の力作よ。どう?美女にしか見えないでしょう?……女にしたんだけどね」
──御兄様が、御姉様に、御姉様にされた?自分で何を言ってるのか分からなくなってきた。えっと、この女男が実は御兄様で?その御兄様は御姉様に女にされて。えっとえっと?ぱた、きゅうぅ。
「六華?おーい、六華ちゃーん」
あぁ、御姉様と御兄様が川の向こうで手を振っているのが見えます。
「戻っておいで~」
私の頭はもう駄目です、使い物になりません。
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