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四章 地下迷宮
一話 平和な朝
しおりを挟む「御姉様、朝食の準備が出来ました」
「はーい」
今日の朝食はなんだろう。ミュリアース式か、霧雨式か。六華が城に来てから食事が賑やかになった。
「今日の朝ごはんも美味しそうですよ」
六華はルゥに料理について学んでいる。おかげで最近は腕が上達しているようだ。まだ食卓に六華の料理は並ばないけど、使用人の賄いになっているそう。結構な好評価だとか。いつか食べてみたい。普段はルゥに嫉妬されるから他の人が作ったものは食べないけど、六華の料理は食べたい。この間は、共同作業でおかず一品しか作らなかったみたいだし。
「早くルゥに認められてね。六華の料理、楽しみにしてる」
まさか、こう言われるとは思ってもいなかったのか、キョトンとしている。数秒後、はっとして元気に返事をした。
「はい……!いつか、必ず!」
リビングルームに入った瞬間、いい香りが鼻を抜けていった。
「美味しそうな香り~!」
「おはよう、今日はフレンチトーストだよ」
フレンチトースト!数あるパン料理の中でも一番好きな料理だ。
「わっ!もう、はしゃがないの」
嬉しくて抱きつくと、ペシッと頭を叩かれた。いたた。
「牛乳で良いよね?」
勿論!牛乳大好き!美味しいもの。むしろパンには牛乳じゃないと!子ども姿になってルゥの膝に着席。子ども姿だとかぶりついても怒られないから。
「いただきます!」
はむはむはむはむ。
「あ。もう……ほら、六華も座って。食べよう」
「ふふ、はい」
ん~、美味しい~!甘さも丁度いい!ほっぺが蕩けちゃう。
「ついてるよ」
う?あ、食べかすを指で取られて食べられた。
「あー!櫻の!」
食べられちゃった……。
「お代わりあるから拗ねないで?」
一旦膝から降ろされて、キッチンに取りに行った。まだかな、まだかな。そわそわしてると、戻ってきた。
「お待たせ」
んしょんしょ。私が膝に乗ったらルゥがご飯を食べれないことに思い至って、お子様椅子に登って座った。
「早く早く!」
「あ、うん」
変な体勢で固まっているルゥを急かしてお代わりを食べる。はむはむ、ん~!最高!
「残念ですね」
「え!?何が?」
「食べさせたかったのでしょう?」
「あ、う……ん」
二人がなにやら小声で内緒話をしている。咀嚼に夢中な私の耳には聞き取れなかったが。ルゥの目元が少し赤らんでいる。何を話してるんだろう?気になったが、子ども返りしている私の興味は、すぐに食後のデザートに向いた。
わくわく、そわそわ。
「どうぞ、今日は寒天ゼリーだよ」
「やたー!」
両手を挙げてバンザイする。その様子が面白かったのか、二人揃って笑われた。
「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末さまでした」
よしよしと頭を撫でられて、機嫌が良くなった私はルゥに抱っこを要求する。はいはい、と苦笑しながらも抱き上げてくれた。そのまま執務室に向かう。
「今日は何するの?」
うん?今日はずっと行けてなかった畑調査に行こうと思う。溜まってた仕事も一段落ついたし。
「この前言っていた?」
あの状況でよく覚えてたね、六華。偉い。
「あれは、忘れてください……」
あはは、ごめん。許して?あの後、たっぷりとサラに叱られたから。一週間前の悪夢が蘇ってぶるりと震えた。
「自業自得だからね」
と諭しつつも、ポーチから桃色の飴を取り出し食べさせてくれる。桜餅みたいな味だった。珍味だけど美味しい。手作りかな?
「よくわかったね」
変わり種だから。そもそもの話、飴は市販では売っていない。飴玉のようなお菓子は王侯貴族の娯楽だから。作れる人も限られている。
「これは僕じゃないよ」
二個目の飴玉は黄色っぽい。何味かな?パクっ、コロコロ。あ、プリン味!ルゥが作る飴よりも優しい味がする。誰が作ったんだろう。
「どう、ですか……?」
六華が恐る恐る感想を聞いてきた。もしや。
「六華が作ったんだ」
おおー!ぱちぱちと拍手を贈る。
「ありがとうございます。どうもお菓子作りは私の性に合っていたようで」
個性が出ていて面白い。
「もっと作って!」
「……!はい、喜んで!」
花が綻ぶように笑った。
執務室には既にサラがいた。
「姫様、今日こそは調査に行ってくださいね」
「はーい」
その前に軽く書類整理してからね。
六華は畑について気になる事があるみたいで、今は着替えに行っていていない。
「土や肥料の問題じゃないなら他に何があるかな。水分不足ってわけでもないんでしょ?」
「えぇ。水も充分にあげているようですし。何千年も問題は無かったのです、何か異常があると考えるのが妥当でしょう」
ルゥとサラが話し合っている間にせっせと書類を分ける。緊急・重要・保留・やり直しの順に並べていく。そのうちの一枚、近況報告書が目に付いた。
(なになに、未確認生命発見。脈打つ植物に心当たりはありませんか?……あるわけなーい!)
バンザイして机にへばりつく。
「どうしたの?」
「これ……」
ヒラヒラと紙を振って見せる。
「脈打つ、植物?サラ?」
「私も知りません。魔物植物でもないようですね」
はい、全滅。やっぱり知らないか。六華はどうだろう?何か心当たりがありそうだったけど。
──コンコン。
「お待たせしました」
噂をすれば本人が。道すがらに聞いてみよう。
「着心地はどう?」
着替えた六華はルゥと色違いの服を着ていた。薄い水色のスーツ。若干白っぽくて重すぎない印象だ。ただし、ジャケットに尾は無い。お揃いのポーチも付いてる。腰には護身用の為か、二振りの刀が。二刀流のようだ。髪は三つ編み蝶蝶結びの髪を解いて、ハーフアップにしている。
「こういった服は初めて着るのでスースーしますが、慣れれば大丈夫かと」
「六華、かっこいい!」
──時が、止まった。
何故か私以外全員、と言っても二人だけだけど……。その二人がルゥを見て固まっている。どうしてサラまで青い顔をしてるの?おーい。
私の位置ではルゥの顔がよく見えないから、ルゥが今どんな状態なのかが分からない。怒ってるの?くるりと振り返って抱っこされた。
「櫻は、六華みたいな人が好きなの?」
ん?六華?好きか嫌いなら好き。
「うん、好き」
そう言ったら、二人がすごい勢いで首を横に振った。
((それは言ってはいけません!!))
口をパクパクさせて何か言っている。何を伝えたいんだろう。嫌いって言ったら良かったのかな?でも、嘘は言いたくない。はっ!大事なこと言ってないからかな?
「ルゥも好きだよ?」
(後付けはダメですよぉ~!)
(姫、疑問形は駄目です!)
更に青くなる二人。大丈夫だろうか、そんなに青くなって。冷や汗すごいけど。水飲む?
「いえ!結構です!!」
そんな全力で……。しょぼん。
「ねぇ、この中で誰が好き?」
((間違えないで下さいね……!))
「六華」
「「「え」」」
全員驚いて固まった。
「櫻……」
え。泣い!?なんで!?誰が好きって聞かれたから答えたのに!?
「少々よろしいですか、姫様」
あ、はい。
「姫様の好き、の定義はなんでしょう」
え?
「人として、家族としてですか?それとも、異性としてですか?」
「うーん?どうなんだろう……家族かな?」
「では、エリアスのことは?」
「全部、大好き!可愛いし、綺麗だし、愛してる!」
「……!」
(そこは間違ってなくて良かったです、本当に……)
「エリアスが聞いた"好き"は"愛してる"の好きだったのですよ」
そうだったの!?ごめんね?
そう言って謝れば、静かにぎゅうっと強く抱きしめられた。苦じい。
「良かった……」
よしよし。頭は届かないから頬を撫でた。
「よいしょっ」
「あ……」
そろそろ出掛ける準備しないと。元戻って私室に向かう。
──パタン。
「エリアス……」
「ちょっと、待っててくれるかな。調教してくる」
「ほどほどにしてくださいね?この後調査に行ってもらうのですから!」
最後まで聞かず姫様を追っていかれました。先程、調教という不穏な言葉が聞けえたのですが気の所為ですか?
「いえ……私にも聞こえました……」
幻聴であってほしかったです。姫様、どうかご無事で……。
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