上 下
15 / 52
二章 成長した愛し子

八話 心の傷

しおりを挟む

 ルゥが襲われた事件から二日が経った。
 あれからというもの、ルゥが塞ぎ込みがちになってしまい、半身を探しに行くことは出来なくなった。
 私が傍にいないとすぐに不安定になって過呼吸を起こすようになってしまった。そのくせ、私が触れようとすると途端に体が拒絶反応を示すようで。
 あんなことがあったのだから無理もない。
 多少、心にくることもあるが、こればかりはどうしようもない。
 私たちは、ルゥが落ち着くまでシェリンの郊外の樹家にお邪魔することになった。
 もとよりこの家には誰も住んでいない為、文句を言われることもない。
 ただ、あまりに何も無い為に色々と調達せねばならなかった。
 その間だけは傍を離れたけれど、少し目を離した隙にまた呼吸困難に陥っていた。
 今暫くは目を離すことが許されない状態だ。
 その為、外に出る用事などはイルファに任せることにしている。この家にいる間は、食材調達や外の見張りは彼の仕事になった。
 ベットの近くに椅子を置き、イルファに持ってきてもらった暇つぶしの本を読む。
 怯えられなければ添い寝をしてあげられるのだけど。
 早く笑顔を見せて欲しい。
 傷ついている姿を見るのは辛い。
 あれからルゥはずっと寝ている。発作を起こす時や、傍を離れた時だけは目を覚ますが、それ以外では食事もせずにただひたすらに眠っている。
 体は癒すことはできても、心の傷は癒せない。本人に任せるしかない。
 ここがのんびりとした里の近くで良かった。
 そうでなければとても安静になどしてはいられないだろうから。
 何か、私にできることがあれば……。
 何だってするのに。
 水を飲もうと席を立とうとしたら引き止められた。
「どこ……行くの……?」
「何処へも行かないわ。お水が飲みたくなって」
 そういうと、渋々離してくれた。
 じ────。
 強い視線が背中を刺す。
 何処にも行かないったら、もう。
 信用がないわけじゃなくて、ただ目に映る範囲に居て欲しいんだろう。
 家から出ないのを見ると安心したのか、明らかにほっとした顔をした。
 よしよし、と頭を撫でそうになって慌てて自制する。
「……?」
 手を引っ込ればしょんぼりとされた。
 撫でても大丈夫ということだろうか?
 そっと、慎重に柔らかな頭を撫でた。
 すりすり、と擦り寄ってくる。もう、触れても大丈夫なのかしら。
 ……眠くなってきた。
 撫でる手が止まったのが不満だったのか、手を掴んで指を舐めてきた。
 驚いた。
 最近は撫でることもしてなかったから、触れ合いが全くなかったと言ってもいい。
 このような接触はご無沙汰である。
 目を見開いてルゥを見ると、その目は潤んでいる。
 これは……どっち?まだ少し怖いけど触れ合いたいのか、抱いてほしいのか。
 それか単純に一緒に寝てもいいってことなのか。どれだろう。
 悩みどころだ。
 最も無難な選択肢その三にしよう。つまり、一緒に寝る。
 眠気が限界だ……。小さな欠伸をひとつ。
「ルゥ……」
「……んむ?」
「一緒に寝ていい……?眠くて……ふぁ」
「んん……」
 一応聞いただけで、私の中で一緒に寝ることは既に決定事項だった。
 お邪魔します。
 ルゥの体温が温かい。
 少し驚いたような気配がしたけど、そのまま気にすることなく眠った。だって、ルゥの方から抱きついてきてくれたから。

 ✻    ✻    ✻    ✻

 寝ちゃ、った……。
 少し……残念。お姉ちゃんまで穢れるかもしれないと、ずっと触れていなかったけど、そろそろ限界。
 撫でようとしてくれた手が引っ込んでしまったから、ついついわざとしょぼくれた顔を作ってしまった。いや、割と本気で落ち込んだんだけど。
 まぁ、その甲斐あって撫でてもらえたけど。
 しばらくすると、その手が止まってしまって不思議に思うと、お姉ちゃんは前後に舟を漕いでいた。
 寝ないでほしくて、構ってほしくて、撫でてくれていた手を取って指を舐めた。それでも眠たそうで。
 僕よりも眠気の方が良いのかな。
 なんだか、悔しい。
 むくれていると、お姉ちゃんの眠たそうな声が聞こえた。
 い、一緒に寝るのは構わない。寧ろ一緒に寝てほしい。僕に構ってほしい。その手で僕を触って、愛してほしい。
 遠慮してくれてるのは分かってるけど、でも、寂しい。
 なんとも思われてないんじゃないかって思ってしまって。
 ……なんて、そんなことを言えば怒られそうだけど。
 態度を見ていれば、むず痒いくらいに可愛がられてることは伝わってくる。けど、僕はそういう目じゃなくて、異性として愛されたいんだ。
 たくさん触って愛してほしい。
 お姉ちゃんだけに愛されたい。壊れるくらいに愛されたい。お姉ちゃんになら酷くされたっていい。
 この前のことだって、あの男がお姉ちゃんだったら素直に喜べたのに、なんて考えてる。
 いつまで経っても弟のままじゃ嫌なんだ。
 男として見てほしい。
 その目に僕だけを映して、僕だけを見て、僕だけを愛してほしい。お姉ちゃんに欲しがられたい。触られたい。乱暴にされたい。前も後ろも分からなくなるくらいに乱してほしい。穢された身体なんて気にならなくなるくらいに、隅々まで余すことなく愛してほしい。
 ……なんて、言葉にしても今の体の状態じゃあ、お姉ちゃんは撫でることくらいしかしてくれないんだろうな。
 僕から触れるしか、ないんだよね。今のところ。
 寝込みを襲うなんてしたくないけど、でも。
 お姉ちゃんに、触れたい。
 僕に一物が無くて良かった。でなければとっくに暴走しているだろう。
 小さい頃はちゃんとあったんだよ?
 でも、八歳くらいだったかな?そのくらいの年齢になった時にはもう男の象徴たる一物はなくて、代わりに女の性器がそこにあった。生理が来てないから卵巣までは無いのかもしれないけど。
 いや、無い方がいい。でなければ最悪、あの男の子どもがここに居るかもしれない。
 子に罪はないけど、それでも嫌気が差す。
 もし妊娠したらどうしよう!
 痛い思いをして産むならお姉ちゃんの子どもがいいなぁ……切実に……。
 はぁぁ……。
 大好きなお姉ちゃんを抱きしめながら眠りについた。

 僕の心の傷を癒せるとしたら、それは──お姉ちゃんだけだよ。お姉ちゃんが僕の特効薬なんだ。知らないでしょう?
 君が居てくれるだけで、僕は安らげる。
 君が微笑んでくれるだけで、僕は─幸せだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

売り専ボーイ育成モデル事務所

かば
BL
権田剛のノンケ狩りの話 人物紹介 権田剛(30) ゴリラ顔でごっつい身体付き。高校から大学卒業まで柔道をやっていた。得意技、寝技、絞め技……。仕事は闇の仕事をしている、893にも繋がりがあり、男も女も拉致監禁を請け負っている。 趣味は、売り専ボーイをレイプしては楽しんでいたが、ある日ノンケの武田晃に欲望を抑えきれずレイプしたのがきっかけでノンケを調教するのに快感になってから、ノンケ狩りをするようになった。 ある日、モデルの垣田篤史をレイプしたことがきっかけでモデル事務所の社長、山本秀樹を肉便器にし、所属モデル達に手をつけていく……売り専ボーイ育成モデル事務所の話に続く 武田晃 高校2年生、高校競泳界の期待の星だったが……権田に肉便器にされてから成績が落ちていった……、尻タブに権田剛専用肉便器1号と入墨を入れられた。 速水勇人 高校2年生、高校サッカーで活躍しており、プロチームからもスカウトがいくつかきている。 肉便器2号 池田悟(25) プロの入墨師で権田の依頼で肉便器にさせられた少年達の尻タブに権田剛専用肉便器◯号と入墨をいれた、権田剛のプレイ仲間。 権田に依頼して池田悟が手に入れたかった幼馴染、萩原浩一を肉便器にする。権田はその弟、萩原人志を肉便器にした。 萩原人志 高校2年生、フェギアかいのプリンスで有名なイケメン、甘いマスクで女性ファンが多い。 肉便器3号 萩原浩一(25) 池田悟の幼馴染で弟と一緒に池田悟専用肉便器1号とされた。 垣田篤史 高校2年生 速水勇人の幼馴染で、読者モデルで人気のモデル、権田の脅しに怯えて、権田に差し出された…。肉便器4号 山本秀樹(25) 篤史、竜也のモデル事務所の社長兼モデル。 権田と池田の毒牙にかかり、池田悟の肉便器2号となる。 黒澤竜也 垣田篤史と同じモデル事務所に所属、篤史と飲みに行ったところに権田に感づかれて調教される……。肉便器ではなく、客をとる商品とされた。商品No.1 香川恋 高校2年生 香川愛の双子の兄、女好きで弟と女の子を引っ掛けては弟とやりまくっていた、根からの女好きだが、権田はの一方的なアナル責で開花される……。商品No.2 香川愛 高校2年生 双子の兄同様、権田はの一方的なアナル責で開花される……。商品No.3 佐々木勇斗 高校2年生 権田によって商品に調教された直後に客をとる優秀商品No.4 橘悠生 高校2年生 権田によってアナルを開発されて初貫通をオークションで売られた商品No.5 モデル達の調教話が中心です、 基本、鬼畜でエロオンリーです。

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

1人は想像を超えられなかった

足跡が文字になる
ホラー
人は誰でも想像することができる。 何にでもなれることがゆえ、現実を見失ってしまいがち。 ある意味怖い人間の想像から生まれた行動が悲惨な未来を見せてしまった。

睡眠開発〜ドスケベな身体に変えちゃうぞ☆〜

丸井まー(旧:まー)
BL
本人に気づかれないようにやべぇ薬を盛って、毎晩こっそり受けの身体を開発して、ドスケベな身体にしちゃう変態攻めのお話。 なんかやべぇ変態薬師✕純粋に懐いている学生。 ※くぴお・橘咲帆様に捧げます!やり過ぎました!ごめんなさい!反省してます!でも後悔はしてません!めちゃくちゃ楽しかったです!! ※喉イキ、おもらし、浣腸プレイ、睡眠姦、イラマチオ等があります。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

国王と義母の陰謀で追放された侯爵令嬢は隣国王子に溺愛される。

克全
恋愛
「かくよむ」と「小説家になろう」にも投稿しています。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

オコジョに転生したら、可愛い飼い主が出来ました

犬派だんぜん
BL
オコジョに生まれ変わったオレ、鳥に攫われたところを助けてくれたご主人と使役獣の契約をしたけど、オレは攻撃力ゼロで治癒しか出来ないらしい。オレのご主人は優秀な魔法使いで、外ではクールビューティーだけど、実はちょっと抜けてて可愛い。よく一緒に依頼を受ける剣士にずっと片思いしてるから、ここはオレがふたりをくっつけよう!(※オコジョのご主人がBLしてます。それを見ているオコジョが独り言でわーきゃー言ってます。R-18はタイトルに*)他サイトにも掲載。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

処理中です...