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短編用
11 婚約の理由
しおりを挟む「チャーリー!俺のクレアに触れるとはどういう事だ!」
「私は王子のものではありませんし、チャーリー様からは触れられてはおりません。私が触れたのです」
王子に答えようと口を開いたチャーリー様を制し、王子へ歩み寄りながら私が答えました。
「クレア。クレアはチャーリーを好いていたのか?」
「はぁ。何度も言わせないで下さい。そのような事はありませんよ」
王子は縋るような瞳で問うてきますが、私はもう溜め息が出てしまいます。いくら繰り返せば良いのでしょうか。
呼び方も改めてはくれていないようですし。
「しかし、チャーリーに口付けをしていたではないか!私ともしたことは無かった!おかしいではないか!」
体は動かないのに首だけが迫るように動いているのは、ちょっと気持ちが悪いものだなと思いました。
行使したのは私ですが、実際にそういう方を見た事がなかったものですから。
「王子からして下されば良かったのでは?私からは、そんなはしたない事はできませんもの」
何度も交わせば違うのかもしれませんが、初めての口付けを私から、というのはちょっと違う気がします。
いつも、お父様からの口付けを受けているお母様を見ているからでしょうか。
「では、この拘束を解いてくれないか」
"何故?" 今の会話の流れでなぜ解かなければならないのかわからず、この一言が一瞬脳内を占めました。
ですが、王子の熱に浮かされたような顔を見て何となく理解しました。したくもない理解を。
「嫌です」
答え合わせは致しません。
「俺からすればいいと言ったではないか!」
あぁ~、聞きたくなかった。
大正解ですね、私。……もう帰りたい。
「あくまで婚約者だった時のお話です。今はもう何の関係も無いのですから、そのような事をされても困ります」
「関係はなくても俺は好きだ。クレアも好ましいと思っていたと言ってくれていたではないか」
そうですね。思っておりました。
「口付けがしたければ、いつものようにヴィクトリア嬢とされればいいと思いますわ」
「俺は!俺はクレアとしたい!!」
私は冷ややかに言いました。自分がしたいからと、どうぞとはなりませんのに。
本当に、一体王子はどうなさってしまったのでしょう。
「たかが礼にと口付けるくらいなのだから、俺としても良いだろう!」
あ、いけません。イラッとしてしまいました。王子は知らないのです。わからないだけなのです。落ち着いて!私!
「口付けがお礼なわけがありませんでしょう?」
気持ちを落ち着ける為に、息を深く吐き出して言いましたが、王子は怪訝な表情でこちらを見つめています。
「あれは魔法ではありませんので、お気付きにならないのは無理もないのですが、誰にでも口付けをしているような物言いはやめて下さいませ」
眉を顰めて睨んでいるあたり、私が言い訳でもしていると思っているのでしょう。
こんなに人がいる前で言いたくはなかったのですが……。
静まり返っているホールの中、周囲に遮音の魔法を施して教えて差し上げました。
「私の父はハイエルフ、母は魔女ですの。先程の口付けは、妖精達やエルフによる"祝福"の一種ですわ」
零れ落ちてしまいそうな程に見開いた瞳と、色を失くした顔は呼吸さえ止まっているように見えますが…。大丈夫でしょうか?
どうやら色々と把握されたご様子で、ここまで言わないといけなかった事を少々申し訳なく思ってしまいますわね。
魔女とは、世界に数人しか確認できていない極端に魔力が高い女性の事を指しますの。そうなるのが、女性のみであることから"魔女"なのです。
男性ですと、魔術師だったり魔法使いと呼び方は国で違うようですが、多数存在を知る事ができます。
しかし、最高峰と位置するその男性の魔力でさえ、魔女と比にならないものなのです。
男性は魔力が低くとも数が多く、女性は少ないが魔力が高い。一見バランスが取れているように思えますが、そうではないのです。
個として高い魔力を保持している為、狙われやすく命を落とす事も多いそうです。
何故なら、"魔女"とは受け継がれるものではないのですから。魔女の子が魔女になるわけではありません。確率が少しは高くなるそうですが、そもそも"魔女"が産まれる確率自体がすごく低いのです。
それでも、その少し高い確率の為に、拐われ、売られ、狙われ、奪われてしまう。
力弱き家庭に産まれた"魔女"を守り切る事は到底無理な話なのです。学ばなければただ魔力が高いだけの女の子なのですから……。
ハイエルフのお父様も、森が拓かれ、争いで荒らされ、人の前に姿を現さない事から、消滅したとされております。
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そして、その二人を両親に持つ"魔女"で"ハイエルフ"の血を引く私。
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そんな時、当時交流のあった陛下は私と婚約させる為に王妃を身篭らせ、両親も私の魔力を抑え続ける事をしなくても良いというような諸々の事情や、"魔女"の不遇を知っている為に、この婚約で愛し合うものになれば王家にその血を入れても良いと婚約を受け入れたのでした。
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