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5.滅びの時
しおりを挟む「そんな…あんまりです。どうかもう一度!もう一度だけ調査を……」
「嫌よ。これ以上続けても無駄だわ」
言葉を遮って言うと、王は俯いて震え出した。
「俺の!俺の国だ!この国は俺のものだぁ!」
そう声を荒げて、どこから出したのか護身用の短剣を持ち、跳ねるように私へと飛びかかってきた。
そして、頭から突っ込んできた王は私の周囲の神気で私に触れる事無く頭部を失い、その体はどさりと地面に落ちた。
「あらやだ、汚いわ」
流れ出る血液に足元が汚れる事は無いが、気分的に嫌なので数歩下がる。
「父…父上……」
王が崩れ落ちた音で、目を覚ました王子は服装で判断したのか王にゆるゆると手を伸ばす。
その手はまるで何かの中毒者のように震えていた。
(なんて愚かなのかしら。私が導いたなんて他の神に言うのも恥ずかしいくらいね)
深く溜め息をついた。
(それなりに時間をかけてつくったけど、仕方ないわね。でも、滅ぼすってどうしよう?燃やすのは木々に影響があるかもしれないし、飢饉だと長く苦しんでしまうものね)
自ら飛び込んできて命を失った王の事など、もう頭の片隅にも無く、どうやって滅ぼそうかと思案している耳に王子の声が届く。
「どうして!なぜ父上を殺したんだ!」
余りに的外れな質問にさすがに驚いた。
「殺していないわ。勝手に死んだのよ」
何を言ってるのかと思う。
そして、先程のやり取りから細かく教えてあげる事にした。
「私は手を下していないし、王の死因は自死よ。私じゃないわ。そもそも私に触れられると思っていたようだけど、それこそが間違いなのよ?」
「それを先に言っておいてくれれば良かったではないか!そうすれば父上は死なずに済んだ!」
なんとも素っ頓狂な言い分が返ってきて、思わず声を出して笑ってしまった。
「な、なぜ笑う!馬鹿にしているのか!」
「あぁ可笑しい。私はね、交流のある神の間でも優しいって評判なのよ?他の神は滅びの宣告なんてしないし、調査もしなかったり、もっと短かったりするわ。それなのに……ふふ…私に触らないように先に教えてくれればなんて…あぁ面白い」
王子は私を射るように見つめているが、アナベルの時とは違う。その感情は困惑と僅かな恐怖。
本当にそう言ってくれれば良かったと思っているから、尚可笑しい。
「こんなに笑ったのは久しぶりかしら。
平民だった頃に馬鹿な子ほど可愛いなんて聞いた事があるけれど、まさに本当ね。
なんて愚かで可愛いの。
人が神に触れようと考える事すら烏滸がましいのに、そんな事さえもわからず教えを乞うだなんて」
包み込むような微笑みを浮かべて王子を見た。
(可愛い可愛い私の国の人の子。
自身の肉が焼ける痛みも、飢饉で飢える苦しさも酸性の雨で溶けていく恐怖もこの子達には与えたくはないわね…)
「可愛い人の子よ。滅びの時間よ」
まるでティータイムを告げるようにこの国へと声を届けた。
雲一つない湖面のような澄んだ空に突然に現れた無数の落雷。
女神が一人。柔らかい笑みで、黒く焦げた人の子を見つめて佇んでいた。
──────
"忘れてはいけない。この世界は神のもの。
神に与えられた娯楽の中の一つ。
神が作り上げた単なる玩具箱に過ぎないのだから"
厳格な戒律を持つ国はその落雷を見て、静かに己が敬愛する唯一神へと祈りを捧げた。
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