5 / 6
5.滅びの時
しおりを挟む「そんな…あんまりです。どうかもう一度!もう一度だけ調査を……」
「嫌よ。これ以上続けても無駄だわ」
言葉を遮って言うと、王は俯いて震え出した。
「俺の!俺の国だ!この国は俺のものだぁ!」
そう声を荒げて、どこから出したのか護身用の短剣を持ち、跳ねるように私へと飛びかかってきた。
そして、頭から突っ込んできた王は私の周囲の神気で私に触れる事無く頭部を失い、その体はどさりと地面に落ちた。
「あらやだ、汚いわ」
流れ出る血液に足元が汚れる事は無いが、気分的に嫌なので数歩下がる。
「父…父上……」
王が崩れ落ちた音で、目を覚ました王子は服装で判断したのか王にゆるゆると手を伸ばす。
その手はまるで何かの中毒者のように震えていた。
(なんて愚かなのかしら。私が導いたなんて他の神に言うのも恥ずかしいくらいね)
深く溜め息をついた。
(それなりに時間をかけてつくったけど、仕方ないわね。でも、滅ぼすってどうしよう?燃やすのは木々に影響があるかもしれないし、飢饉だと長く苦しんでしまうものね)
自ら飛び込んできて命を失った王の事など、もう頭の片隅にも無く、どうやって滅ぼそうかと思案している耳に王子の声が届く。
「どうして!なぜ父上を殺したんだ!」
余りに的外れな質問にさすがに驚いた。
「殺していないわ。勝手に死んだのよ」
何を言ってるのかと思う。
そして、先程のやり取りから細かく教えてあげる事にした。
「私は手を下していないし、王の死因は自死よ。私じゃないわ。そもそも私に触れられると思っていたようだけど、それこそが間違いなのよ?」
「それを先に言っておいてくれれば良かったではないか!そうすれば父上は死なずに済んだ!」
なんとも素っ頓狂な言い分が返ってきて、思わず声を出して笑ってしまった。
「な、なぜ笑う!馬鹿にしているのか!」
「あぁ可笑しい。私はね、交流のある神の間でも優しいって評判なのよ?他の神は滅びの宣告なんてしないし、調査もしなかったり、もっと短かったりするわ。それなのに……ふふ…私に触らないように先に教えてくれればなんて…あぁ面白い」
王子は私を射るように見つめているが、アナベルの時とは違う。その感情は困惑と僅かな恐怖。
本当にそう言ってくれれば良かったと思っているから、尚可笑しい。
「こんなに笑ったのは久しぶりかしら。
平民だった頃に馬鹿な子ほど可愛いなんて聞いた事があるけれど、まさに本当ね。
なんて愚かで可愛いの。
人が神に触れようと考える事すら烏滸がましいのに、そんな事さえもわからず教えを乞うだなんて」
包み込むような微笑みを浮かべて王子を見た。
(可愛い可愛い私の国の人の子。
自身の肉が焼ける痛みも、飢饉で飢える苦しさも酸性の雨で溶けていく恐怖もこの子達には与えたくはないわね…)
「可愛い人の子よ。滅びの時間よ」
まるでティータイムを告げるようにこの国へと声を届けた。
雲一つない湖面のような澄んだ空に突然に現れた無数の落雷。
女神が一人。柔らかい笑みで、黒く焦げた人の子を見つめて佇んでいた。
──────
"忘れてはいけない。この世界は神のもの。
神に与えられた娯楽の中の一つ。
神が作り上げた単なる玩具箱に過ぎないのだから"
厳格な戒律を持つ国はその落雷を見て、静かに己が敬愛する唯一神へと祈りを捧げた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる