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3.本当に断罪されるのは

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 暗闇の中、声だけが聞こえていた気がする。
その声も聞こえなくなって、静寂が包んだあとふっと湧くように記憶が流れ込んだ。



(あぁ…そういうことね)

 周りの人達はさぞ驚いた事だろうと思う。
血が滴る首の無い体がおもむろに立ち上がったのだから。

(でもまぁ、ここまで頑張った器ですもの。せめて首は繋げてあげたいわよね)

 まるで見えているように断頭台を下り、頭部が落ちたバケツから私のそれを持ち上げ首の上へと戻した。

(お疲れ様。)

 ディアナだったものは溶けるように光の粒子となっていく。
 正気に戻った騎士が階段を駆け下りて、腰に携えている剣を抜いた時にはもうディアナの姿ではなかった。

「誰に剣を向けているの?」

 ディアナだったものが振り返り、騎士は息を飲んだ。
 その姿はこの国の誰もが知っている。知っているが、見た事・・・がある者は誰一人としていないだろう。

「……マ、マリアーナ様…」

 騎士が戸惑いを滲ませて呟いた。

「立ち上がったまま私に話しかけるとはいい度胸ね」

 冷たく言い放ったマリアーナに謝罪をする前に陛下の声が遮る。

「私が!国王のエイブラム・アバネシーです。女神マリアーナ様っ!」

走り寄り、私の近くまで来ると両膝を着くものの、そのこうべは下げる事無く下卑た視線を向けてきた。

(まぁ、お近づきになる気満々だこと…)

 そう、私は女神マリアーナ。この国の神殿には像だってある。
 各国で国を作るのに導いたとされるそれぞれの神や女神を崇め、繁栄を祈っていてこの国の唯一神は私。

「だから?」

「へ?」

「国王だからなんなの?」

間の抜けた声を出す国王とやらに聞いてみる。

「え?いや、だから……この国で一番偉いのが私です!」

 まるで正解とでも言いたげな態度にイラッとするわね。

「女神様はディアナだったのですね!」

国王を見下ろしていると、いつの間にかその横に王子が立っていて、うっとりとこちらを見つめていた。

「先に言って下されば婚約破棄などしなかったものを…。マリアーナ様は意地悪ですね。すぐにでも撤回し、早急に婚姻の準備を致しましょう!」

 緩んだ口元から放たれる言葉に我を忘れそうになる。

「……とりあえず、跪きなさい」

その言葉に体が従うようにして膝から崩れ落ち、地面に接した膝は鈍い音を立て、王子は苦痛で叫び声をあげた。

「ぐぁっ!…っ!何を!」

「何をじゃないでしょう?気付いていないと思ったの?この痴れ者が」

 人としての感情はもう無いのに、死んでから間も無いせいか感情が安定しないわね。

「アナベルに懸想をし、やってもいない罪を作り上げ、証人を金で動かし動かない者は脅す。そして、王はそれを許したのよね?我が子可愛さと若い体に目が眩んで…」

そう言って、王子を追いかけてきたアナベルを見やると、ビクリと体を硬直させ視線を逸らした。
 国王は固まったまま動かず、王子は何の事かわからないといった表情。

「これがこの国の王と王子ね……失敗だわ」

「失敗とはなんですか!女神様でも余りに酷い言い草だ!」

深く溜め息をつくと、王子が噛み付くように言ってきた。

「失敗は失敗よ。また作り直さなきゃダメね」

目の前の二人が──いや、この場にいる者達が息を飲んだのが気配でわかった。
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