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2.断罪の時
しおりを挟む護衛に掴まれて会場から出された後、手枷を掛けられて王宮にある地下牢へと連れて来られた。
王宮の地下牢は、平民の中でも重罪になる人が入れられる場所であり、貴族が捕まると地下牢ではなく貴族牢という窓に格子がある一室で監視されるものだ。
(公爵令嬢の私がどうしてここへ…)
何かの手違いかと護衛の方に聞いてみるが、問題はないと返答されただけで、後は何を言っても無言のまま地下牢へと入れられた。
この牢へ来る間、他の牢に入れられている者達からの舐めるような視線、可愛がるからこっちの牢に入れてくれと言う声に、まさか本当にそこに入れられるのではないかと思い、その時から震えが止まらなかった。
(どうしてこんな事に…)
疑問点は沢山あるのに、恐怖や不安で考えが纏まらない。
落ち着こうとしても正直に震える体を、抱き締めて時が過ぎるのを待つようにそっと目を閉じた。
翌朝、朝食として食事が運ばれてきたけど、カビの生えかかった固いパンと申し訳程度に野菜が入って脂が浮いている水のようなスープ。
(こんな食事、うちの使用人達にも食べさせないわ)
悪くなっているところをちぎろうとするけれど、固くてちぎる事はできず、仕方がなくそのを口に入れないようにして噛む。
歯型はつくが一口では噛みちぎることも出来ず、何度も噛み付いて歯型を切り込みのようにして噛みちぎった。
口の中の水分が無くなり、冷えたスープで潤そうとしてむせる。
飲み込めるまで何度も咀嚼していたが、パンを一つ食べ切る前に顎が痛くなってきてしまった。
こんな食事でも誰かが育て、作っている物で、残す事は躊躇われたが、今でさえ変色している箇所があるからあとでというわけにもいかない。
(残してしまってごめんなさい)
耳に近い痛む頬を撫でながら、そっとパンを皿に戻した。
一週間後、騎士がやってきて連れ出された先は断頭台があった。
「嘘でしょ……裁判だってやってないわ!私は何もやってない!」
手枷を掴み、私を引いて連れて来た騎士を見たが、彼はこちらを見ようともしなかった。
慌てて見渡せば、ナイジェル様も陛下も両親だっている。
ナイジェル様は調査をしたと言った、そして陛下の印。
私は両親の元へ行こうとしたけれど、この一週間でまともに食事もできなくなり、痩せ細った体では片手で掴んでる騎士の腕を動かす事さえできなかった。
「お父様!お母様!」
それでも、力の限り両親へと体を向けて掠れた声を張り上げた。
視線が交差した次の瞬間には逸らされ、絶望へと落とされた。
「お父様…お母様……どうして、どうしてよぉ!」
身分も何も気にせず、ただがむしゃらに拘束を振りほどこうと暴れたけれど、騎士は引き摺るように断首台まで連れて行った。
そこには断頭台を挟むように別の騎士がいて、片方の騎士に肩を抑え込まれ無理やり座らされ、もう片方の騎士は抵抗する私の髪を引っ張り断首台の下へと導いた。
首が抜けないように板をはめ込まれ、挟まった髪に痛みで顔が歪む。
「これよりディアナの処刑を始める」
誰かの声がそう告げた。
"ディアナ"とそう言ったのだ。そこにアドラムという家名はない。
(つまり、私はもうアドラム公爵家の者ではないということ?)
先程の両親の反応を思い出す。
(どうして?私がこんな馬鹿な事する訳がないじゃない。信じてくれなかったの?)
何かの間違いだと、やってもいない事なのだから毅然としていればいいとそう思っていた。
(どうして……。こうなっているのかもわからぬまま、私は公爵令嬢としてでも、ナイジェル様の婚約者としてでもなく、ただのディアナとしてなぜ死ななければならないの)
堪えていた涙が溢れている間にも、やってもいない裁判での罪状や判決が語られている。
「私は何もしていないわ!裁判も出…っぐ!」
顔を上げて声を出せば、断頭台の傍らにいる騎士に脇腹を蹴られた。
苦痛に眉を顰め、捉えた視界にはナイジェル様が顔を両手で覆って震えるアナベル嬢を抱き締め、その口元は微笑んでいた。
それと同時に最期の言葉も神官の祈りもないまま、誰かの合図で何かが滑る鋭い音と暗転が私にもたらされた。
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