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1.婚約破棄

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「ディアナよ!アナベルとの仲を疑い、妬み、下級貴族をおとしいれるとは到底許されるものではない!よって、ディアナ・アドラムとの婚約を破棄!アナベルを新たに婚約者とする!」

 私達が通う学園の卒業パーティー。
パーティーを始める前に皆に伝えておきたい事があると高らかに宣言し、アナベル嬢の腰を抱きながら手を引いて現れたのを見て、壁際で呆然と立ちすくんでいる私に指を突きつけながら言った。

 一斉に私の方へ顔を向けられたけど、私は言われた事の理解が追い付いていなかった。

「気付いていないと思ったのか!痴れ者め!」

なおも続く、婚約者であるナイジェル・アビントン王太子殿下の言葉に焦燥感と戸惑いが混じり合う。

「お…お待ち下さい!陥れるとはどういう事ですか?私は…」

「白を切っても無駄だぞ!証拠は全て揃っているんだ!」

私の言葉を遮り、ナイジェル様が射るように見つめてくる。

「平民上がりでマナーがなっていないと何かにつけ罵倒をし、時には扇子でぶっていたそうじゃないか。華奢な彼女にわざとぶつかって転ばせたり、挙句には馬車を襲わせるなんて…」

怒りを耐えるように拳を握りしめ、低く唸るように綴られたものは、どれも身に覚えのないもの。

「そんな事していませんわ!なぜ私が彼女にそんなこ…」

「黙れ!先程も言ったではないか!彼女との仲を疑って妬んだ故の暴挙だろう!」

慌てて否定し、返ってきた言葉に何も言う事はできなかった。
 疑い…。人目を忍んで抱き合う仲に疑いも何もそういう仲だと確定の話では?と思ったけれど、それを言うとそれこそが疑っている証拠だと言質をとられてしまうだろう。

 ナイジェル様とアナベル嬢がそういう仲でも気にする事は無かった。
 私に求められているのは王を支える者として、政務や後ろ楯を持つ存在であって、恋愛を楽しむ相手ではないのだから。
子もなさねばならないだろうが、王となれば側妃の存在も認められるし、ナイジェル様が恋愛の相手として望むならそれでもいいと思っていたから。

「諦めたようだな」

「違います。私は決してそんな事はしておりません。きちんとお調べになって下さい。私は…」

「もう十分調べた」

「え……?」

見下したようにナイジェル様が言ったので、胸の内を正直に伝えようとすると、思わぬ答えが返ってくる。

「証人や目撃者に襲撃者の残党、ディアナがいつも侍らせている令嬢にも話は聞いた。そして、この事は勿論陛下にも伝えてあるし、全て書類として提出してある」

ひゅっと喉から渇いた音がした。
身に覚えのない罪に、数々の証人や目撃者。
なぜ?どうして?どういうことなの?頭の中は疑問しか浮かばない。

 ナイジェル様は側近に目配せをすると、差し出された書状を受け取り掲げるようにして見せた。

「せめてパーティーが終わってからと思ったが…罪状を記したものだ。陛下の印もある」

陛下がお認めに…?どうやって?
 まだ困惑から抜け出せない私にナイジェル様は冷たく続けた。

「連れて行け」

 その言葉で後ろに控えていた護衛が私に向かって歩き出す。

「待って!待って下さい!本当に何もしていないわ!きちんとお調べになって下さい!私はそんな事していません!」

 護衛に両側から腕を絡め取られ、羽交い締めのようにされながら、私は叫んだ。
はしたないと思ったけど、これは何かの間違いですと、誓ってそんな事はしていないと、目の前の扉が閉まるまで叫んでいた。
 ナイジェル様は私が護衛に掴まれると、興味を無くしたように背を向け、一度も振り返る事無くアナベル嬢を包むようにしてその場を去って行った。
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