その暗殺者は蜜の味

つばーきき

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第1章 転生、彼女は蜜奈

気楽に自由に生きたい

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 私が転生してから13年がたった。私は両親の指導の元、魔法と麗剣を極めた。私は父さんよりも母さんよりも強くなった。
 だけど、私は魔法、麗剣とはまた別の1つ、技が使える。

こんわざ

 私の生前の一族、紺一族の長が使う術であり、隙がなく、相手を静かに”殺す”術ばかりだ。
 この術の事は両親も知っている。転生前のことも両親に話した。両親はそれでも私を可愛がってくれている。ほんとにいい人たちだ。
 ただ何故か両親はこの術を使えない。魔法や流派とはまた別の能力なのだろうか。
 とにかく、私は紺の術、魔法、麗剣の3つを駆使して両親を越えた。
 そんなある日。

「そろそろ蜜奈を学校に転入させてもいい頃なんじゃないか?」

「あの子が学校に?大丈夫かしら?」

 私は今ベッドの上でなんだか寝つけずにいた時、ふとそんな会話が聞こえてきた。

「蜜奈がどんなに強くても、人脈は大事だ。若い頃からの付き合いを持っていなければ、あの子が可哀想じゃないか」

「確かにそうかもしれないですけど、あの子は外の世界の常識を知っているのかしら?私たち、あの子をこの森の外に出したことなんかないもの」

「それは本当に盲点であったし、申し訳ないと心の底から思っている。でも、だからこそいまここからあの子を学校に入れるべきなんじゃないか?」

「確かにあの子は転生前の記憶があるって言ってはいたから、社交辞令なら普通にできると思います。でもだったら尚更、入学する必要は無いと思うの」

「いや、転生前の記憶があり、人とコミュニケーションをとれる子だからこそ、学校には行くべきだ」

「でも…」

「大丈夫だよ!」

「蜜奈…」「蜜奈ちゃん…」

 つい口を挟んでしまった。でも私は前世で友達も恋人もいなかった。だからこそ入学したい。
 でもなんで両親はここまで学校に行かせるのを渋っているのだろうか。

「私は入学したい!確かに私は前世で人と関わったことなんてあまり無かったけど、でもだからこそ、このチャンスを逃したくない!無駄な殺生はしないし、友達もいっぱいつくりたい!…だからさ、こんな常識外れな私を、入学させてくれないかな…?」

 微妙な空気が流れる。もしかしてやっぱりまずいこと言っちゃったかな…?

「成程」

「いい向上心だわ!いいと思います、そういうの!」

「そうだな。私もそのことに関しては賛成だ。」

 よかった。普通に説得できそうだ。

「だが、さっきまで入学させるとか妻に言っておきながら言うのもなんだが、お前は強すぎる。私や妻よりも強い指導者は今この世にはおそらく存在しないだろう。おまえはそれでも、入学したいと思うか?」

「…はい」

「成程」

 これでついに私も学校に行け…

「私達もあの事を話したほうがいいんじゃないかしら?」

「ああ。確かにそうだな」

 !?あのお父さんとお母さんが私に隠し事…?なんだろう。
 聞くのが怖い。




「…私たちは、暗殺者なんだ」




 刹那、私はこの世界に産まれた意味が、なんとなくわかったような気がした。多分お父さんもお母さんもその事がわかったのだろう。だから、こうやって止めてるんだ。

「お前が入学し仲間ができたとしても、親が暗殺者として飯を食っていると知られないよう、騙し騙しで人付き合いをしなければならないんだ。…蜜奈、それでもいいか?」

「嫌なら全然言って良いんですからね?私たちと縁を切るって言うならそれでも…」

「いや、全然いいよ」

 このあっさりとした発言に両親は大分驚いたのか、目を大きく見開いている。

「私は騙し騙しなんかでもいい、ほんとに信頼出来る親友を作りたい。それだけだよ」

 それだけだ。たとえ暗殺が常にすぐそばにあったとしても、私は…





「気楽に自由に生きたい!」





 1週間後


 私は今日森を出る。
 気楽に自由に生きる、そんな目標を掲げて私は、学校に行く。
 だが私は両親の家業、暗殺者を継ぐことになった。時々様々な方法で依頼を届けにきてくれるらしい。依頼は夜のみの活動にしてくれると約束してくれた。
 そして私は前世で言う和服のような服と母から貰った刀をも持って、出発した。

 走り続けて数時間、そろそろ森の終わりが見えてきた。
 私の転入する学校【魔法武芸専門北部高等学校まほうぶげいせんもんほくぶこうとうがっこう】この世界では高等技術を教える学校のことを高等学校と指すのだという。
 木々を抜けていたその時、野暮ったい声の何かに声を掛けられた。

「おいそこの猫耳の生えた姉ちゃん、金品を置いてついでに身体も置いていきなあ!」

「おでたちから逃げられると思ったら大間違いやからなぁ…?」

「うわ」

 心底寒気がした。
 初めて出会う人はどんな人かな、ってちょっと期待してたのに、こんな汚い奴らだなんて。

「まあ丁度いい。この世界の人間のレベル、測ってみるかな」

 あと八つ当たり、ね。
 贅沢な馬車もどこかの金持ちから奪ってきたのだろう、こんな盗賊共は殺してもいいか。

「何ゴタゴタ言ってんだぁ?あまり調子に乗ると、ほんとに痛ーい目に遭うぜぇ?」

 敵の数及び実力計測開始。敵11そのうち親玉1含めて実力者、0。

「雑魚じゃん」

「あ?今なんつったてめえ?もういいうぜえ!こいつはもう殺っちま


〈紺の術〉其の十四 来数くるかず


 私の持っていた刀が下っ端全員を斬り殺した。

「え、なっ、ひ、ひいいい!?」

「もう10人殺したよ。冥土の土産に教えてあげるよ。来数は相手に連撃を叩き込む技。最高時速は1秒にまぁ…35発ちょっとかな?」

「なっ、なっ…!」

 急に服を脱ぎ出したかと思えば、その男は地面に這いつくばった。

「ど、どうか、命だけはご勘弁くだせえ!謝りますから!どうかこの通りですから!どうか、どうか許してくだせえ!」

 どうやら全力で土下座をしているようだ。…でもね、

「はぁ」

「っ!?」

「…安い土下座」

ザシュッ




 はーあ、これが私のこの世界での初の殺しか。まぁ悪人だし切られても仕方はないのだけれども。

「助けて!」

 そんな事を思っていたら、助けを求める声が聞こえてきた。馬車の中かな?

「ひいっ!」

 馬車の中を覗いただけでこの反応か、随分怯えている。10歳くらい?小さな女の子だな。

「大丈夫、もう盗賊は全員殺した。もう安全だよ!」

「あ、あの、ほんとに、大丈夫なんですね?」

「うん、だから出てきな。じゃあ私は学校に行くから、襲われないようにするんだよ。それじゃあね!」

「あ、あのっ、名前を!ってあ、…行ってしまった。でも学校に行くって言ってたし、もしかしたら…」

 そんな感じで1人の小さなを助けることになったが、生憎私は女の子なのでね。ここからラブコメに発展することはまず無いんだよなぁ。

「お、もう森を抜けるかな」

 森を抜けたその先、少し大きな草原の向こうに、その国が見えた。北彗星王立教会国、彗星を神と崇める宗教国なんだとか。

「よーし、じゃあダッシュだー!」

 木々に邪魔されずにダッシュできるのはこの世界で初めてかもしれない。私はもう今までで1番速いダッシュで草原を駆け抜けた。
 全力ダッシュを楽しんでいた、そんな時。

「あぶなーい!ちょっ、避けて避けて!」

「?え?なっ!?」

 調子に乗ってジャンプしたその先に人がいた!?やばいやばい魔法魔法!!


『空間魔法』 座標変更ざひょうへんこう


 私は魔法を使い、人を避けた。…ほんっとーに危なかったああ!下手したらこの人死んでたよ!あぶなかったぁー。

「すみません!大丈夫ですか?広いところに出てついついはしゃいじゃって…」

「はしゃぐ…?え、あ、えっと、こちらこそ不注意ですみません。少し気を張っていたもので…」

「どうかされたんですか?」

「あ、えっと、うーん。それは…」

 確実になにかあったような反応だ。

「大丈夫です。協力が出来ることさえあれば、やりますよ!」

 彼の目に光が少し灯った。どうやら私を信用してくれたようだ。

「…それが、10日ほど前、妹が人攫いに連れていかれてしまって、今必死で妹を探している所なんです。せっかく引っ越してきて、久しぶりに北高にまた通えるようになると思ったのに…」

 あれ?この人もしかして、さっき馬車に乗せられてた子のお兄ちゃん?たしかにそう考えると、同じ青髪に目元もなんとなく似ているかも。

「その連れ去られた子って、どんな見た目をしていますか?」

「俺と同じ薄い青髪で、12歳にしては小さな女の子です」

 あー、これは確定であの子だぁー。

「なるほど、その子ならさっき見かけましたよ。連れてきますね!」

「え、あのっ」


〈紺の術〉其の四 錠越じょうえつ


 ここはさっきの森の中。
 やっぱりここまで戻っちゃったか。ちょっとめんどくさいなぁ。


     ◇◇◇


「消えて…え?」

「お兄ちゃん?」

「春風?」

「よかった、やっと、またあえたね…お兄ちゃんっ…!」

「ああ、やっとだ!もう会えないことも覚悟していたのだけど、ほんとに、本当によかった…!」

「「ううっ、うううっ」」

     ◇◇◇

「っと、到着っ」

「あなたはさっきの!」

「急にいなくなってごめんね、私の能力で妹さんと私の場所を入れ替えたの」

 紺の術其の四〈錠越〉は、対象と私がイメージできたものの場所を入れ替える技。

「いえいえそんな、ありがとうございます…ほんとうに…!」

「いえいえお礼には及びませんよ」

「この恩はいつか必ず返します!」

「私も、感謝してます!ありがとうございました!」

「大丈夫ですって。っと、遅刻しちゃうので私はそろそろここで」

「「はい、ありがとうございました!」」

 こうして私は立ち去った。人を助けるとやっぱり心地がいいもんだな。


 そして走ること約数分、国についた。

「門番さん、学生でーす。これ、学生証です。」

「ふむ、これは本物だ。通ってよし」

 ついに私は魔法武芸専門北部高等学校に入学することになる。これが記念すべき第1歩だ。
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