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第43話 黒マスターと白ドールちゃん
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白井「待った?」
黒井「待ったよ! いや、待つ分には全然いいんだけど、なんて場所で待たせるんだよ!?」
白井「なんですかその返しは。黒井くんなら“今来たところだよ(歯キラリン)”って言ってくれると思ったのに」
黒井「そう言うつもりだったよ! 待ち合わせ場所がランジェリーショップじゃなければ格好つけて歯キラリンするつもりだったよ! なんで映画デートの待ち合わせがここなのさ!?」
白井「ふっふっふっ。今日のデートはただ映画を見るだけに在らず。私の格好を見て何かピンと来ませんか?」
黒井「普通の白シャツ、黒ズボンだと思うけど」
白井「はい。シンプルなブラウスとパンツです」
黒井「なんで言い方変えたの? なんでオシャレな言い回しをして訂正したの?」
白井「そんなことより、黒井君はこのままですとダサダサコーデの女とデートすることになるのです」
黒井「別にダサいだなんて全然思わないけど」
白井「でもせっかくならオシャレで可愛い服に身を包んだ私とデートしたいですよね?」
黒井「まぁ、どうせなら、そうだね」
白井「そこで! 映画が始まるまでの約2時間、私は黒井くん専用の着せ替え人形になります」
黒井「気でも狂ったのかな?」
白井「このショッピングモールには様々なお洋服屋がございます。黒井くんは2時間の間に私のデート服をコーディネイトしてください」
黒井「狂っちゃったか」
白井「正常です。女の子が自分の着せ替え人形になるんですよ? もっと嬉しそうにしたらどうですか?」
黒井「いや自分のセンスに自信ないんだけど」
白井「女の子に着てほしいと思った服を素直に選べばいいだけですよ。私は黒井君が選んだ服でしたらどんなものでも文句は言いません。今日の私は着せ替え人形ですから」
黒井「趣旨は分かったよ。本当にどんな服を選んでも文句言わないでね」
白井「はい。どうぞ私のことはドールちゃんとお呼びください」
黒井「了解。ドールちゃん」
白井「黒井くんはドールマスターですね」
黒井「強キャラ感すごいな。ただ服を選ぶだけなのに」
白井「ちなみに私以外のドールを操ったら殺します」
黒井「マイドールに殺される!?」
白井「さぁさぁ。マスター。さっそく私の服を選んでください」
黒井「了解だよ。ドールちゃん。ちなみにランジェリーショップに集合させた理由って……」
白井「着せ替え人形の基本は下着選びからですから」
黒井「やっぱりそこから選ばせる気だったのか!」
白井「どんな下着が好みだ、こら」
黒井「急に口悪くなったな!? ドールちゃん!」
白井「下着選びの際に私のサイズを知らないといけないですよね。胸の方ですが今からトップとアンダーの数値言うからメモってくださいね」
黒井「ドールちゃん! 黙って! お願いだから人形みたいに黙ってください! ていうか服選びするなら下着買う必要ないよね!?」
白井「私、ドールなので手足が動かせないんです。だから選んだ服を着せるところまでが黒井君の仕事になるのですが、着せ替えられる時私下着じゃないですか」
黒井「お願いだから着替えは自分でやってください! 本当お願いします!」
白井「仕方ないですね。命令ならばそうしますが、それくらいクールにこなしてくれなければ黒井君はドールマスター失格ですよ」
黒井「失格でいいよ! とりあえず店員さんの視線が刺さるからこの場から移動しよう」
白井「…………」
黒井「なんで人形みたいに動かなくなるの!?」
白井「ドールちゃんは歩行機能がないのです。マスター、ちゃんとドールちゃんを引っ張って行ってください」
黒井「手を繋ぎたいなら素直にそう言って」
白井「えへへー。至福至福♪」
黒井「ドールちゃんが至福になれるような私服をちゃんと選ぶね」
白井「ありがとうございます。オヤジマスター」
黒井「オヤジギャグで悪かったね! 言った後自分のセリフにちょっと後悔していたよ!」
白井「でも嬉しいです。黒井くんが――じゃなかった。マスターが私の為に真剣に服を選んでくれるなんて――」
黒井「おっ、あのマネキンが着ている服なんてドールちゃんに似合いそうじゃない?」
白井「前言撤回します。マスターは他のドールが着ている服を私に着せようとするのですね。ガッカリです」
黒井「マネキンが着ているの勧めちゃ駄目なの!?」
白井「駄目です。アレって他のドールマスターが選んだ服じゃないですか。他人が選んだ服を選んで楽しようとしないでください。むしろ私がマネキンなのです。早く服着せてください」
黒井「うぅ。本当に僕に選ばせるのか。普段他の女の子がどんな服を着ているのかもっと観察しておくべきだった」
白井「他の女の子とか他のマネキンの話とかしないでください。貴方は本当に私のマスターである自覚あるのですか?」
黒井「マネキンにまで嫉妬してる!?」
白井「しますよ。私ドールちゃんなんだから。他のドールを操ったら殺すっていいましたよね」
黒井「わかった、わかった。真剣に自分で服を選ぶから。でもどうやって選べば良いのかわからん」
白井「服選びに困ったときは傾向を先に決めるといいですよ。そうですねー、カジュアルかフォーマルか。まずどっち?」
黒井「個人的にはフォーマルな服装が好きだけど、でもデートならカジュアルかなぁ」
白井「フォーマル好きだったのですね。いきなり私の知らない一面見せられて驚いています。デートだからってカジュアルじゃなければいけないってわけじゃないですよ。フォーマルな私服の女の子結構いますし」
黒井「じゃあフォーマルで」
白井「フォーマルならシンプルなインナーとジャケットが必要ですね。ちなみにスカートとパンツ、どっちが好みだ?」
黒井「さっきも思ったけど、女の子に“パンツ”と言われるとドキッとする」
白井「ど っ ち が こ の み だ ?」
黒井「す、スカートです」
白井「ふむふむ。大分形は見えてきたんじゃないですか? フォーマル服ならこの店良さそうですね。さぁ、選ぶのです」
黒井「おぉ。でかい店だ。自分の服も探したくなるなぁ」
白井「おいまて。愛しのドールちゃんを置いてメンズ服コーナーに行くな。泣くぞ」
黒井「じょ、冗談だよ。本気で涙目にならなくても……」
白井「その手に取ったドクロTシャツが果てしなく不安を煽られるのですが」
黒井「えっ? 格好良くない? スケルトンプリントはいくつになっても心揺さぶられるところがあるよね」
白井「なんでフォーマル専門店にスケルトンTシャツがあるんですか!」
黒井「ワゴンに普通にあったけど。よしドールちゃんのインナーは決まったな」
白井「その3LサイズのTシャツをドールちゃんが着たら色々見えちゃいませんかね? まぁマスターの命であれば着ますよ」
黒井「ごめん、冗談に冗談を重ねただけだから。お願いだからこんな変な服を着ることに前向きにならないで」
白井「どんな服でも着るって言ったじゃないですか。でも変な服であるという認識があってちょっと安心しました」
黒井「さすがにあれはドールちゃんには着せないよ。あとで自分用に買うけど」
白井「買うんかい」
黒井「話を戻そう。ドールちゃんのフォーマル服を選ばなきゃね。じゃ、じゃあ、あの白いフワフワしたインナーと黒の上着で」
白井「白カットソーと黒ジャケットですか。大人の女性って感じで格好いいかも。マスター中々良いチョイスですね」
黒井「僕の言葉のチョイスは残念だったみたいだね。何カットソーって。ウインナーかよ。初めて聞いたよそんな言葉」
白井「スカートも選んでください。たくさん色がありますよ」
黒井「うーん。じゃあ上着と合わせた黒のスカートかな」
白井「了解です! さっ、お楽しみの試着タイムですよ。一緒に試着室に入りましょう」
黒井「入らないよ!? ドールちゃんさっきの僕の言葉聞いてた!? お願いだから着替えは自分でやって!」
白井「ちっ、覚えていたか。じゃあドールちゃんは一時的にお着替え機能を解放しますね。試着行ってきます」
黒井「いってらっしゃい……はぁ。緊張した。こんなに長く手を繋いで歩いたの初めてな気がする。たまにならドールマスターになるのもありかもな」
白井「マスターの自覚をもってくれて何よりです! お望みならこれからも定期的にドールちゃんになってあげますよ」
黒井「試着早ええ!? 女の子って着替えに時間かかる生き物じゃなかったの!?」
白井「早くマスターに見て欲しくて! どうです!? ドールちゃん可愛いですか!?」
黒井「ドールちゃんは最初から可愛いよ」
白井「そ、そういうこと、じゃ、なくて、ですね! 服! 自分で選んだ服が似合っているか聞いているんです!」
黒井「似合っているよ。笑顔で残業を言い渡してくる女上司みたいだ」
白井「どんな似合い方ですか!?」
黒井「やっぱりフォーマルだとオフィス感でるなぁ」
白井「オフィス感出してどうするんですか! ま、まぁ、マスターが女上司的な人とデートしたいのなら私はこのままでも吝かではないですが」
黒井「えっ? 冗談じゃないよ。何が悲しくて休日の日に上司を思い出させなきゃいけないの」
白井「なぜこれを着せた!? さっさとデート服を探してこーい!!」
黒井「マスターなのに普通に怒られた。ついに主従関係が逆転したか」
白井「もぅ。ちょっとこの服気に入ったのに。やっぱりカジュアル服探します?」
黒井「いや、フォーマルでいく。このコーデはいい線行っていると思うんだ。そうだな。もうちょっと私服感を出すために……思いきって派手なスカートにしよう。これなんてどうかな?」
白井「あ、可愛い。ピンクスカートありかもですね。着てきまーす!」
黒井「やばい。ちょっと楽しくなってきた」
白井「着てきました!」
黒井「やっぱり早いな!?」
白井「どうです!? どうです!? 良くないですか!?」
黒井「おぉ。私服感がぐっとあがった。良いかも。ドールちゃん。こっちの色のスカートも履いてみて」
白井「次は寒色系ですね。お任せあれ!」
黒井「5……4……3……2……1……」
白井「お着替え完了!」
黒井「似合うか似合わないかよりドールちゃんの早着替えの方が楽しくなってきた」
白井「なんのカウントダウンかと思ったら変な楽しみを見出してる!?」
黒井「ねえねえ。今度はチョリソーも変えてみて。青系もいけると思うんだ」
白井「青いウインナーがいけてたまるか。あっ、でもその色のカットソー可愛い」
黒井「お着替えタイムだ。ドールちゃん」
白井「はい! マスターも段々着せ替え人形にハマってきましたね。行ってきます」
黒井「次の服さがしとこ」
白井「えへへ。どうですか? マスター。あれ!? 居ない!?」
黒井「おぉ。お待たせ。似合ってるよ。はい次これ」
白井「段々適当になってません!? ちゃんと見てます!?」
黒井「ハッ!? 服を着せ替えることが目的になっていて似合っているかどうかを全然見てなかった」
白井「マスター、ちゃんと服を見てください。そのついでで良いのでドールちゃんも見てください」
黒井「うーん。ドールちゃんは元がいいから基本どれも似合っちゃうんだよなぁ」
白井「あ、ありがとうございます。不意打ちで褒めるのズルい」
黒井「よし! ピンクスカートと青チョリソーの組み合わせにしよう」
白井「はい! もうチョリソーでいいです! 行ってきます!」
黒井「女の子の買い物が長い理由の一端を知った気がする。世の女性は自分を着せ替え人形にして楽しんでいたんだな」
白井「ちょっとだけ語弊ありますけど、まぁ大体あってます。それよりどうですか!? ドールちゃん可愛い?」
黒井「良い。これ以上の組み合わせは無い気がする。これでいこう。僕にコーディネイトの才能があったとは」
白井「正直私もびっくりです。自分で提案してアレですが、最悪裸白衣みたいな恰好でデートすることも覚悟していましたので」
黒井「相当な覚悟だったね!? 僕のセンスそんなに信用されてなかったの!?」
白井「マスターが望むなら裸白衣も着てみせます」
黒井「望まないよ!? どんな変態だよ僕は! そしてどんな変態だよキミは!」
白井「でも本当の本当にマスターのコーディネイト好きかもです。私、こういうフォーマルな私服持ってないから、個人的にもかなりご満悦です」
黒井「喜んでもらえてよかったよ。そのコーデだとこれも似合いそうだな」
白井「えっ? これって」
黒井「ほい。誕生日プレゼント」
白井「え……えぇ!? ま、まさか、このタイミングで誕生日プレゼント贈られるとは予想外でした」
黒井「僕もこんな展開でそれを渡すとは思わなかったよ。開けてみて」
白井「わぁぁぁぁっ。可愛い! お花とビーズのネックレス!」
黒井「それを身に着けるならカジュアルよりもフォーマルの方が映えると思ったんだ」
白井「ありがとうございます黒井くん。めちゃくちゃ嬉しいです。これには感情のないドールちゃんも感動で涙目になっちゃいますよ」
黒井「ドールちゃん最初から感情爆発だったけど」
白井「えへへ。マスターにだけ感情を見せるのがドールちゃんの特徴ですので」
黒井「それは一生手放したくなくなるドールだなぁ」
白井「一生手放さないでくださいね♪」
………………
…………
……
白井「という短編を書いてみたんですどどうですか?」
黒井「うん。創作オチという欠点に目をつぶれば好きになれたんだけど」
白井「じゃあこの作品の内容をノンフィクションにしたらいいのではないでしょうか?」
黒井「というと?」
白井「明日11月30日、午前10時。咲良モールにて待っていますので」
黒井「随分遠回りしたデートの誘い方だね」
白井「私が気持ちを伝えられるのは創作の中に限られますからね。でも明日は頑張ってドールちゃんを勤めあげてみせます!」
黒井「着せ替え人形やる気満々だ!?」
白井「当たり前ですよ。むしろ映画よりそっちがメインです。あっ、お洋服代に関しては心配しないでくださいね。マスターは私に着てほしい服をただ選ぶだけで良いので」
黒井「いや、でも服って高いし……」
白井「才の里絶賛大好評発売中」
黒井「そうだったね。ベストセラー作家だったね。ならお金の心配はないね」
白井「楽しみだなぁ、着せ替え人形。黒井君今の内から私のことドールちゃんって呼んでもいいですよ」
黒井「了解。僕も楽しみにしているよ。ドールちゃん」
白井「はい。マスター! 明日絶対に来てくださいね!」
黒井「うん。誕生日デートだね」
白井「作中のマスターはプレゼントくれていましたが、そこは気にしないで良いですからね。黒井くんとデートできることが私にとって誕生日プレゼントみたいなものですから」
黒井「わかった。ちなみに待ち合わせどこにする? あのモール入口いっぱいあって迷うから待ち合わせ場所は明確にしておきたいんだよね」
白井「えっ? 待ち合わせ場所は作中に明記したじゃないですか」
黒井「まさかランジェリーショップ=“パンティライン”で待ち合わせする気!?」
白井「なんでランジェリーショップの店名知っているですか! その店名コンプライアンス的に大丈夫なんですか!?」
黒井「お願いだからあそこはやめて。僕の精神が耐えられない」
白井「そうですね。黒井君を不審者化させるわけにはいきませんし、じゃあフードコートのテラスで待ち合わせしましょうか」
黒井「わかった」
白井「念押ししていっておきますけど、絶対来てくださいね。貴方のドールちゃんは明日いつまでも待っていますから♪」
黒井「待ったよ! いや、待つ分には全然いいんだけど、なんて場所で待たせるんだよ!?」
白井「なんですかその返しは。黒井くんなら“今来たところだよ(歯キラリン)”って言ってくれると思ったのに」
黒井「そう言うつもりだったよ! 待ち合わせ場所がランジェリーショップじゃなければ格好つけて歯キラリンするつもりだったよ! なんで映画デートの待ち合わせがここなのさ!?」
白井「ふっふっふっ。今日のデートはただ映画を見るだけに在らず。私の格好を見て何かピンと来ませんか?」
黒井「普通の白シャツ、黒ズボンだと思うけど」
白井「はい。シンプルなブラウスとパンツです」
黒井「なんで言い方変えたの? なんでオシャレな言い回しをして訂正したの?」
白井「そんなことより、黒井君はこのままですとダサダサコーデの女とデートすることになるのです」
黒井「別にダサいだなんて全然思わないけど」
白井「でもせっかくならオシャレで可愛い服に身を包んだ私とデートしたいですよね?」
黒井「まぁ、どうせなら、そうだね」
白井「そこで! 映画が始まるまでの約2時間、私は黒井くん専用の着せ替え人形になります」
黒井「気でも狂ったのかな?」
白井「このショッピングモールには様々なお洋服屋がございます。黒井くんは2時間の間に私のデート服をコーディネイトしてください」
黒井「狂っちゃったか」
白井「正常です。女の子が自分の着せ替え人形になるんですよ? もっと嬉しそうにしたらどうですか?」
黒井「いや自分のセンスに自信ないんだけど」
白井「女の子に着てほしいと思った服を素直に選べばいいだけですよ。私は黒井君が選んだ服でしたらどんなものでも文句は言いません。今日の私は着せ替え人形ですから」
黒井「趣旨は分かったよ。本当にどんな服を選んでも文句言わないでね」
白井「はい。どうぞ私のことはドールちゃんとお呼びください」
黒井「了解。ドールちゃん」
白井「黒井くんはドールマスターですね」
黒井「強キャラ感すごいな。ただ服を選ぶだけなのに」
白井「ちなみに私以外のドールを操ったら殺します」
黒井「マイドールに殺される!?」
白井「さぁさぁ。マスター。さっそく私の服を選んでください」
黒井「了解だよ。ドールちゃん。ちなみにランジェリーショップに集合させた理由って……」
白井「着せ替え人形の基本は下着選びからですから」
黒井「やっぱりそこから選ばせる気だったのか!」
白井「どんな下着が好みだ、こら」
黒井「急に口悪くなったな!? ドールちゃん!」
白井「下着選びの際に私のサイズを知らないといけないですよね。胸の方ですが今からトップとアンダーの数値言うからメモってくださいね」
黒井「ドールちゃん! 黙って! お願いだから人形みたいに黙ってください! ていうか服選びするなら下着買う必要ないよね!?」
白井「私、ドールなので手足が動かせないんです。だから選んだ服を着せるところまでが黒井君の仕事になるのですが、着せ替えられる時私下着じゃないですか」
黒井「お願いだから着替えは自分でやってください! 本当お願いします!」
白井「仕方ないですね。命令ならばそうしますが、それくらいクールにこなしてくれなければ黒井君はドールマスター失格ですよ」
黒井「失格でいいよ! とりあえず店員さんの視線が刺さるからこの場から移動しよう」
白井「…………」
黒井「なんで人形みたいに動かなくなるの!?」
白井「ドールちゃんは歩行機能がないのです。マスター、ちゃんとドールちゃんを引っ張って行ってください」
黒井「手を繋ぎたいなら素直にそう言って」
白井「えへへー。至福至福♪」
黒井「ドールちゃんが至福になれるような私服をちゃんと選ぶね」
白井「ありがとうございます。オヤジマスター」
黒井「オヤジギャグで悪かったね! 言った後自分のセリフにちょっと後悔していたよ!」
白井「でも嬉しいです。黒井くんが――じゃなかった。マスターが私の為に真剣に服を選んでくれるなんて――」
黒井「おっ、あのマネキンが着ている服なんてドールちゃんに似合いそうじゃない?」
白井「前言撤回します。マスターは他のドールが着ている服を私に着せようとするのですね。ガッカリです」
黒井「マネキンが着ているの勧めちゃ駄目なの!?」
白井「駄目です。アレって他のドールマスターが選んだ服じゃないですか。他人が選んだ服を選んで楽しようとしないでください。むしろ私がマネキンなのです。早く服着せてください」
黒井「うぅ。本当に僕に選ばせるのか。普段他の女の子がどんな服を着ているのかもっと観察しておくべきだった」
白井「他の女の子とか他のマネキンの話とかしないでください。貴方は本当に私のマスターである自覚あるのですか?」
黒井「マネキンにまで嫉妬してる!?」
白井「しますよ。私ドールちゃんなんだから。他のドールを操ったら殺すっていいましたよね」
黒井「わかった、わかった。真剣に自分で服を選ぶから。でもどうやって選べば良いのかわからん」
白井「服選びに困ったときは傾向を先に決めるといいですよ。そうですねー、カジュアルかフォーマルか。まずどっち?」
黒井「個人的にはフォーマルな服装が好きだけど、でもデートならカジュアルかなぁ」
白井「フォーマル好きだったのですね。いきなり私の知らない一面見せられて驚いています。デートだからってカジュアルじゃなければいけないってわけじゃないですよ。フォーマルな私服の女の子結構いますし」
黒井「じゃあフォーマルで」
白井「フォーマルならシンプルなインナーとジャケットが必要ですね。ちなみにスカートとパンツ、どっちが好みだ?」
黒井「さっきも思ったけど、女の子に“パンツ”と言われるとドキッとする」
白井「ど っ ち が こ の み だ ?」
黒井「す、スカートです」
白井「ふむふむ。大分形は見えてきたんじゃないですか? フォーマル服ならこの店良さそうですね。さぁ、選ぶのです」
黒井「おぉ。でかい店だ。自分の服も探したくなるなぁ」
白井「おいまて。愛しのドールちゃんを置いてメンズ服コーナーに行くな。泣くぞ」
黒井「じょ、冗談だよ。本気で涙目にならなくても……」
白井「その手に取ったドクロTシャツが果てしなく不安を煽られるのですが」
黒井「えっ? 格好良くない? スケルトンプリントはいくつになっても心揺さぶられるところがあるよね」
白井「なんでフォーマル専門店にスケルトンTシャツがあるんですか!」
黒井「ワゴンに普通にあったけど。よしドールちゃんのインナーは決まったな」
白井「その3LサイズのTシャツをドールちゃんが着たら色々見えちゃいませんかね? まぁマスターの命であれば着ますよ」
黒井「ごめん、冗談に冗談を重ねただけだから。お願いだからこんな変な服を着ることに前向きにならないで」
白井「どんな服でも着るって言ったじゃないですか。でも変な服であるという認識があってちょっと安心しました」
黒井「さすがにあれはドールちゃんには着せないよ。あとで自分用に買うけど」
白井「買うんかい」
黒井「話を戻そう。ドールちゃんのフォーマル服を選ばなきゃね。じゃ、じゃあ、あの白いフワフワしたインナーと黒の上着で」
白井「白カットソーと黒ジャケットですか。大人の女性って感じで格好いいかも。マスター中々良いチョイスですね」
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黒井「うーん。じゃあ上着と合わせた黒のスカートかな」
白井「了解です! さっ、お楽しみの試着タイムですよ。一緒に試着室に入りましょう」
黒井「入らないよ!? ドールちゃんさっきの僕の言葉聞いてた!? お願いだから着替えは自分でやって!」
白井「ちっ、覚えていたか。じゃあドールちゃんは一時的にお着替え機能を解放しますね。試着行ってきます」
黒井「いってらっしゃい……はぁ。緊張した。こんなに長く手を繋いで歩いたの初めてな気がする。たまにならドールマスターになるのもありかもな」
白井「マスターの自覚をもってくれて何よりです! お望みならこれからも定期的にドールちゃんになってあげますよ」
黒井「試着早ええ!? 女の子って着替えに時間かかる生き物じゃなかったの!?」
白井「早くマスターに見て欲しくて! どうです!? ドールちゃん可愛いですか!?」
黒井「ドールちゃんは最初から可愛いよ」
白井「そ、そういうこと、じゃ、なくて、ですね! 服! 自分で選んだ服が似合っているか聞いているんです!」
黒井「似合っているよ。笑顔で残業を言い渡してくる女上司みたいだ」
白井「どんな似合い方ですか!?」
黒井「やっぱりフォーマルだとオフィス感でるなぁ」
白井「オフィス感出してどうするんですか! ま、まぁ、マスターが女上司的な人とデートしたいのなら私はこのままでも吝かではないですが」
黒井「えっ? 冗談じゃないよ。何が悲しくて休日の日に上司を思い出させなきゃいけないの」
白井「なぜこれを着せた!? さっさとデート服を探してこーい!!」
黒井「マスターなのに普通に怒られた。ついに主従関係が逆転したか」
白井「もぅ。ちょっとこの服気に入ったのに。やっぱりカジュアル服探します?」
黒井「いや、フォーマルでいく。このコーデはいい線行っていると思うんだ。そうだな。もうちょっと私服感を出すために……思いきって派手なスカートにしよう。これなんてどうかな?」
白井「あ、可愛い。ピンクスカートありかもですね。着てきまーす!」
黒井「やばい。ちょっと楽しくなってきた」
白井「着てきました!」
黒井「やっぱり早いな!?」
白井「どうです!? どうです!? 良くないですか!?」
黒井「おぉ。私服感がぐっとあがった。良いかも。ドールちゃん。こっちの色のスカートも履いてみて」
白井「次は寒色系ですね。お任せあれ!」
黒井「5……4……3……2……1……」
白井「お着替え完了!」
黒井「似合うか似合わないかよりドールちゃんの早着替えの方が楽しくなってきた」
白井「なんのカウントダウンかと思ったら変な楽しみを見出してる!?」
黒井「ねえねえ。今度はチョリソーも変えてみて。青系もいけると思うんだ」
白井「青いウインナーがいけてたまるか。あっ、でもその色のカットソー可愛い」
黒井「お着替えタイムだ。ドールちゃん」
白井「はい! マスターも段々着せ替え人形にハマってきましたね。行ってきます」
黒井「次の服さがしとこ」
白井「えへへ。どうですか? マスター。あれ!? 居ない!?」
黒井「おぉ。お待たせ。似合ってるよ。はい次これ」
白井「段々適当になってません!? ちゃんと見てます!?」
黒井「ハッ!? 服を着せ替えることが目的になっていて似合っているかどうかを全然見てなかった」
白井「マスター、ちゃんと服を見てください。そのついでで良いのでドールちゃんも見てください」
黒井「うーん。ドールちゃんは元がいいから基本どれも似合っちゃうんだよなぁ」
白井「あ、ありがとうございます。不意打ちで褒めるのズルい」
黒井「よし! ピンクスカートと青チョリソーの組み合わせにしよう」
白井「はい! もうチョリソーでいいです! 行ってきます!」
黒井「女の子の買い物が長い理由の一端を知った気がする。世の女性は自分を着せ替え人形にして楽しんでいたんだな」
白井「ちょっとだけ語弊ありますけど、まぁ大体あってます。それよりどうですか!? ドールちゃん可愛い?」
黒井「良い。これ以上の組み合わせは無い気がする。これでいこう。僕にコーディネイトの才能があったとは」
白井「正直私もびっくりです。自分で提案してアレですが、最悪裸白衣みたいな恰好でデートすることも覚悟していましたので」
黒井「相当な覚悟だったね!? 僕のセンスそんなに信用されてなかったの!?」
白井「マスターが望むなら裸白衣も着てみせます」
黒井「望まないよ!? どんな変態だよ僕は! そしてどんな変態だよキミは!」
白井「でも本当の本当にマスターのコーディネイト好きかもです。私、こういうフォーマルな私服持ってないから、個人的にもかなりご満悦です」
黒井「喜んでもらえてよかったよ。そのコーデだとこれも似合いそうだな」
白井「えっ? これって」
黒井「ほい。誕生日プレゼント」
白井「え……えぇ!? ま、まさか、このタイミングで誕生日プレゼント贈られるとは予想外でした」
黒井「僕もこんな展開でそれを渡すとは思わなかったよ。開けてみて」
白井「わぁぁぁぁっ。可愛い! お花とビーズのネックレス!」
黒井「それを身に着けるならカジュアルよりもフォーマルの方が映えると思ったんだ」
白井「ありがとうございます黒井くん。めちゃくちゃ嬉しいです。これには感情のないドールちゃんも感動で涙目になっちゃいますよ」
黒井「ドールちゃん最初から感情爆発だったけど」
白井「えへへ。マスターにだけ感情を見せるのがドールちゃんの特徴ですので」
黒井「それは一生手放したくなくなるドールだなぁ」
白井「一生手放さないでくださいね♪」
………………
…………
……
白井「という短編を書いてみたんですどどうですか?」
黒井「うん。創作オチという欠点に目をつぶれば好きになれたんだけど」
白井「じゃあこの作品の内容をノンフィクションにしたらいいのではないでしょうか?」
黒井「というと?」
白井「明日11月30日、午前10時。咲良モールにて待っていますので」
黒井「随分遠回りしたデートの誘い方だね」
白井「私が気持ちを伝えられるのは創作の中に限られますからね。でも明日は頑張ってドールちゃんを勤めあげてみせます!」
黒井「着せ替え人形やる気満々だ!?」
白井「当たり前ですよ。むしろ映画よりそっちがメインです。あっ、お洋服代に関しては心配しないでくださいね。マスターは私に着てほしい服をただ選ぶだけで良いので」
黒井「いや、でも服って高いし……」
白井「才の里絶賛大好評発売中」
黒井「そうだったね。ベストセラー作家だったね。ならお金の心配はないね」
白井「楽しみだなぁ、着せ替え人形。黒井君今の内から私のことドールちゃんって呼んでもいいですよ」
黒井「了解。僕も楽しみにしているよ。ドールちゃん」
白井「はい。マスター! 明日絶対に来てくださいね!」
黒井「うん。誕生日デートだね」
白井「作中のマスターはプレゼントくれていましたが、そこは気にしないで良いですからね。黒井くんとデートできることが私にとって誕生日プレゼントみたいなものですから」
黒井「わかった。ちなみに待ち合わせどこにする? あのモール入口いっぱいあって迷うから待ち合わせ場所は明確にしておきたいんだよね」
白井「えっ? 待ち合わせ場所は作中に明記したじゃないですか」
黒井「まさかランジェリーショップ=“パンティライン”で待ち合わせする気!?」
白井「なんでランジェリーショップの店名知っているですか! その店名コンプライアンス的に大丈夫なんですか!?」
黒井「お願いだからあそこはやめて。僕の精神が耐えられない」
白井「そうですね。黒井君を不審者化させるわけにはいきませんし、じゃあフードコートのテラスで待ち合わせしましょうか」
黒井「わかった」
白井「念押ししていっておきますけど、絶対来てくださいね。貴方のドールちゃんは明日いつまでも待っていますから♪」
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