転生未遂から始まる恋色開花

にぃ

文字の大きさ
上 下
1 / 62

第1話 転生未遂

しおりを挟む
 ――ねぇ、転生って信じる?



 ――実はね。転生って簡単にできるんだ。



 ――今からキミにそのやり方をおしえるね。













「我ながらなんてベタな書き出しをしてしまったんだ」



 人気小説投稿サイト『小説家だろぉ』に作品投稿を行った直後だが、僕は早くも後悔の念に駆られていた。



「『だろぉ』への復帰作なんだから異世界転生モノを投稿するのは間違いではないよな、うん」



 PCの前で自分に言い聞かせるように自答する僕。

 投稿したばかりの自分の小説をもう一度じっくり観察する。



 『転生って信じる?』ってなんだよ。誰のセリフだよ。特に決めてないよ。

 誤字無し。脱字無し。

 面白さ……なし。



「うぅ~ん。思ったよりも難しいぞこのジャンル」



 書いては消して、また書いては消してを繰り返していくうちにわかったことがある。

 このジャンルは他ジャンル以上にプロットを重視しなければいけない。



「投稿しちゃったものはしょうがないけど、今からでもプロットを再編成すべきだな」



 だろぉには僕の満足感を満たす作品で溢れている。

 そういえば最近金襴さん投稿してないな。『転生バトルオンライン』の続き早くみたいのに。



 数えきれないくらいの面白さがここにはある。僕はこのサイトが本当の本当に好きなのだ。

 そんな偉大な作品が溢れるサイトの片隅に自分の作品を投稿し、それが少しでも誰かの目に触れてもらえたらなと思っている。

 とは言っても、実はここに小説を投稿するのは2作品目だ。

 1作目は――まぁ、いいや、その話は。今は新作をどう面白くするかを考えなければ。



「でもだめだ。何も浮かばない。寝よ」



 ブラウザを閉じ、PCをシャットダウンさせようとする。

 ふとスタートメニューの隣の手紙アイコンに目が行った。



「メールか」



 1件受信メールがあるようだ。

 僕は宣伝やら広告やらは全てメールに入ってこないように設定している。

 それなのにメールだけは頻繁に届く。



「あの人からだろうなぁ」



 僕にメールを送ってくるとしたら『あの人』しかいない。

 無いとは思うけど新作小説のダメ出しとかだったらどうしよう。

 あの人には悪いけどメールは明日見よ。

 僕はメールボックスを開かずPCを落とし、すぐにベッドへ飛び込んだ。



「はぁ。新作投稿なんて早まった真似だったかな」



 自分が起こした気の迷いに僕は早くも消沈気味にため息をつく。

 明日自分の小説のPVを見るのが少し憂鬱だった。













 ――ねぇ、転生って信じる?



 ――実はね。転生って簡単にできるんだ。



 ――今からキミに……そのやり方をおしえるね。



 ――その方法はね。













 ――ここから飛び降りればいいんだよ













 キーンコーンカーンコーン



    ガバッ!



 チャイムの音と共に飛び上がるように悪夢から目が覚める。

 夢か。

 自分の小説書き出しがフルボイスになって夢に登場ってどんだけ後悔してるだ僕は。



「うぉ! もうこんな時間か!」



 夕方6時。

 昨日夜更かしたせいか眠気が全然取れず、放課後になっても下校せずに僕は自分の机で仮眠していた。

 ほんの10分くらい寝る予定だったのだけど、がっつり2時間寝ていたようだ。



「帰ろ」



 僕は足早に教室から出て帰宅に着こうとする。

 ふと窓の隙間から除くオレンジの光に目を奪われる。

 もしかしたらこの時間なら……あの場所なら……夕暮れ時の幻想的な風景を一望できるかもしれない。

 僕はクルリと踵を返し、学校内で唯一のお気に入りの場所へ向かうことにした。













 旧校舎と新校舎を繋ぐ長い渡り橋。

 1年生の時、僕はこの場所を見つけ、ほぼ毎日ここに足を踏み入れていた。

 昼休みのぼっち飯はいつもここで喰らう



 僕はこの学校に友達が居ない。

 友達が少ないとかそういう次元じゃなく【いない】。

 そんな、ぼっちの拠り所ともいえる神聖な場所がここだ。

 最初は屋上に足を踏み入れたりしていたのだけど、屋上は意外に人が多い。

 学内で一番景色が良い場所だからだ。

 そこでお弁当を食べたり、雑談したり、とにかく人が多すぎてとても落ち着けるスポットではなかった。

 だけどこの場所は本当に人が来ない。ここはとても静かな場所だった。



「おぉぉ」



 いつもお昼に来ていたから気づかなかった。

 夕暮れ時のこの場所はなんて幻想的なのだろう。

 夕日に照らされた校舎や中庭。空には一番星。いつも見ているお昼の校舎とは別次元の風景が広がっていた。

 僕は鉄柵に腕をもたらせ、ぼーっと日が沈む光景をただ眺めていた。



「なんか僕の高校生活って……」



 本当に実りのなかった日々だった。

 友達がおらず、人の会話にも入っていかず、班別行動でも煙たがれ……

 これが人生で一度きりしかない青春の高校生活だなんて他人が聞いたら憐れむんだろうな。



 だけど不思議と青春をやり直したいだなんて思わなかった。

 だろぉ系小説の人気ジャンルに【逆行系】というものがある。

 僕みたいに実りのない高校生活を送っていた人間がふとした不思議パワーで入学初日に過去戻りするというものだ。

 物語の主人公なら若干のチート能力を使って2度目の高校生活をバラ色に染めてくれるのだろう。

 だけど僕は雪野弓。

 雪野弓が逆行したところで全く同じルートしか辿れない雪野弓が出来上がって終わってしまうことはわかりきっていた。

 だから僕が求めているのは逆行ではない。



「僕が求めていたのは――」



 ――ねぇ、転生って信じる?



 鉄柵に身を乗り出し、下の方を覗き見る。

 うへぇ、たっかい。3階の渡り廊下とはいえこの高さは死ねるな。

 地面についてない足がガクガク震える。

 怖がっている――つまり本心では死にたくないと震えが言い表している。

 良かった。まだ僕には生に執着があるようだ。

 それだけ確認できればもうこんな危ない真似する必要はない。

 僕はゆっくり体重を後ろに戻し、安全圏である鉄柵の内側に身を戻そうとする。



「「………………」」



 不意に僕の側方から気配を感じた。

 妙な体制のままゆっくり右方を確認する。



 人が居た。

 僕と同じ3年生が着用する赤いネクタイの女生徒。身長は僕よりやや低く華奢な体質。

 ブラウンの長髪が鉄柵の外側に垂れかかっているところを見ると、彼女は鉄柵から身を乗り出して下方を見ていたことがわかる。



 目が合っていた。

 僕と全く同じ体制の女生徒。パチクリ開いた瞳は更に大きく広がり、その表情は徐々に強張ってゆく。



「「は…………」」



 僕と謎の女生徒が全く同時に声を上げる。

 そして全く同じ言葉の絶叫がその空間に木霊した。



「「はやまらないでーーッっ!!」」



 絶叫と共に僕たちは地面に着地し、それぞれがお互いのもとに駆け寄った。



    ドンっ



 互いの中間点でそれぞれが繰り出した両手に包まれ、抱き合う形になってしまう。

 その抱擁はガッチリとホールドされ、互いに力強く引き寄せる。



「「………………あれ??」」



 その体勢のまま僕らは見つめあったまましばらく頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

寝取られた義妹がグラドルになって俺の所へ帰って来て色々と仕掛けて来るのだが?(♡N≠T⇔R♡)

小鳥遊凛音
恋愛
あらすじ 七条鷹矢と七条菜々子は義理の兄妹である。 幼少期に七条家にやって来た母娘は平穏な生活を送っていた。 一方、家系として厳格のある七条家は鷹矢の母親が若くして亡くなり、 七条家の勢力も一気に弱くなり、鷹矢の父親はようやく落ち着きを取り戻し、 生前、鷹矢の母親の意志などを汲み取り再婚し、菜々子の母親と結ばれた。 どちらも子持ちと言う状況の中、年齢がほぼ同じであった鷹矢と菜々子は仲も良く、 自他共に認める程であった。 二人が中学生であったある日、菜々子は鷹矢に告白をした。 菜々子はこの仲が良さを恋心である事を察していた。 一方、鷹矢は義理とは言え妹に告白を受け、戸惑いを隠せずにいた。 だが、鷹矢も本心は菜々子に恋心を寄せており、二人は無事に付き合う事となった。 両親に悟られない淡い恋の行方・・・ これからも二人で一緒に・・・と考えていた鷹矢は一気に絶望の淵へと立たされてしまう。 学校が離れ離れになったと同時に、菜々子は寮生活をする事となり、自宅へは戻って来ない事を告げる。 高校生となった二人は別々の道へ歩んでいく事となったが、心は繋がっていると信じていた。 だが、鷹矢は連絡が取れなくなった菜々子を心配し菜々子の通う学園へ向かう。 そこで見た光景は!? そして、遂に菜々子からの連絡で鷹矢は菜々子に別れを告げられてしまう。 鷹矢も新たな恋人が出来て順風満帆に見えたのだが・・・ 何年かの後、鷹矢のクラスに転入生がやって来た。 グラビアアイドルである一之瀬美亜と言う人物だった。 だが、一之瀬美亜の正体は!?・・・ 驚くべき状況が立て続けに鷹矢の身に降り掛かり、 手に負えない状態に!? 鷹矢の恋路の先は!? 鷹矢の現彼女である莉子は!? そして、鷹矢を振った菜々子は一体!? 淡いNTRラブコメディーここに開幕!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

処理中です...