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説明会では積極的に質問を!

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「はい。記入漏れはありませんので
これでギルド登録手続きをさせていただきます
それにあたり、ギルド証を発行いたしますので
そちらにお掛けになってお待ち下さい」

 ユーリスの介護で待合ソファーに腰掛ける。
ソファーなのにクッションが良いものではない。
 それもそうか。
商業ギルドなんて響きは良いけど、中はガラガラ。
 本来依頼書なんかが貼ってあるであろうボードには何も貼られておらず、所々床に穴が空いてる。
 蜘蛛の巣も張ってはるし、ネズミまで走ってる。

「役人が変わるとここまで酷くなるものなの?」

 ソファーには腰掛けず、私の横に立つユーリスに聞いてみた。
彼もまたギルド内を見回していたから、なんかしら思うところはあったんだろう。
表情がかなり浮かない様子だ。

「そうですね…民を思う領主や役人であれば
ここまで酷いものにはなっていないはずです」

「冒険者ギルドには力入れてるのにね」

 今のはきっと、冒険者であるユーリスたちには依頼がたくさんあって羨ましいなという皮肉に聞こえただろう。
この街の人たちは今まであった収入源を断たれ、今日生きれるか、明日食べれるかもわからないのに良いよなという皮肉。
 けど本当に悪いのはユーリスたち冒険者ではなく、民のことを考えない領主や役人だ。
上にそんな人間がいたんじゃダメになるという良い例が《ディブルここ》だよ。

「アキラさんは…冒険者はお嫌いですか?」

「別に好きでも嫌いでもないよ
私には関係のないギルドだってだけ」

 これを見た目32歳の私が言っていたとしたら、なんて嫌味な女だろうと思っただろう。
見た目80歳のお婆ちゃんが皮肉ったところで年寄りだからこう言うんだろうなでなんとなく納得してしまうだろう。

「でもさ…」

「?」

「人の上に立つ人間が無能じゃ
ディブルの住民たち私たち”は死ぬだけだよ」

「!」

 私の会社の上司という男も無能であった。
パソコンで資料も作れない。仕事中に居眠りなんてしょっちゅう。
部下のために頭も下げない。それでいて自分のミスには部下に頭を下げさせる。
何故こんな使えない無能が私の上司なのかと意味がわからなかった。
 しばらくしてわかったことは、上司の上がさらに無能であるということだった。
おだおだてられて、つまり世渡り上手な奴が上に上に出世していく社会の仕組み。

 正直クソだなと思う。だがそう言って上に逆らえばどうなる?
わかりきったことだ。どんなに頑張っても頑張っても評価されず査定で低評価をくらう人生だ。
 まだ若いならそんな会社辞めて次の環境の良い職場を見つけた方が身のため。
その会社にこだわったところで出世できる可能性は低い。
理不尽な要望や注文を出される…つまり上からの幼稚な嫌がらせパワハラの嵐だ。
ぶっちゃけ、そんな会社にいたって自分の心と体がボロボロになって死ぬだけだ。

―― 私のようにな。



「アキラ・モリイズミさーん
お待たせしましたー!」

「はいはいはい
大きな声出さなくても聞こえてるよ」

 支えもエスコートも要らんとばかりにソファーから立ち上がり受付カウンターに向かう私に、ユーリスはなにも行ってこなかった。
 よし!今の私の素早い立ち上がり動作を見て介護は必要ないとわかったか!
今まで介護、ありがとよイケメン!

「! すみませんアキラさん。お手を」

 今!?
もしかしてボケっとしてた!?
私の素早い立ち上がりの動作見てなかった!?
お前ってイケメンはよぉ!!

「……」

 ああ…もう介護は必要ないってば…。
 引き続きユーリスの介護は続きそうだ…泣ける。

「お待たせしましたアキラさん
こちらが商業ギルド証です」

 未だに鼻にティッシュを詰めたまま接客をする受付嬢。
よくよく見ると大きな胸のところにネームプレートがあり《タルディ》と書かれていた。
 タルディが差し出してきたのはなんと翡翠のような石。
 しかしよく見ると石の中に小さな文字が、スノーボールを振った時に舞うキラキラみたいに踊ってる。

「商業ギルド証があれば、各関所は盾コイン1枚で
通過することができます」

「……関所?」

 ん?んん?んんんんん?
《ディブル》に来た時に関所は通ったのだろうか?
私眠ってたから知らんけど…。
 ユーリスの方をチラリと見れば、私の視線に気付いてくれた。

「アキラさんが眠っている間に通過しました
ギルドへ加入していないとのことでしたので
通常価格の通行料を支払っておきました」

「ギルド証のご提示がない場合、関所の通行料は剣コイン2枚となりますので肌身離さずお持ち下さいね」

 タダで乗せてもらった挙句、関所通過代まで払わせてしまったのか…。
まあ、お金持ってなかったからありがたやー。
でも働いて返さないとな。
 しかし困った…。
関所を通過するには通行料が必要。
盾コインって言ってるけど盾コインってどんなの?
剣コインまで出てきてわけがわからないよ!

「(フィルギャ!フィルギャ!
盾コインとか剣コインってなに?)」

「(ユースレスの通貨だよ
盾コイン2枚でパン1個買えるよ
剣コイン2枚で服が1着買えるよ
杯コイン1枚で成人男性が1ヶ月
ギリギリ生活できるくらいだね)」

 えー…パン1個が盾コイン2
枚ってことは日本円にすると200円くらい?
剣コイン2枚で服1着なら剣コイン1枚が千円札1枚相当?
杯コインは成人男性1ヶ月ギリギリ生活できるくらいっていうと…約10万くらいかな?
 とりあえず異世界は物価が違うんだろうから、高いのか安いのかは追々手探りでやっていくとして、関所を出る時はギルド証と盾コイン1枚は必ず持っておかないと…詰む。

「ちなみに《ディブル》の宿代は1泊いくら?」

「冒険者たちが頻繁に出入りしてますので
剣コイン4枚はいくかと…」

 約4千円…野宿決定。

「えーっと…商業ギルドの
仕組みについてのご説明はどうされますか?」

「あ。お願いします」

 聞けるものは聞いておかないと。
知識こそ最大の武器!

「商業ギルドは世界各地に点在しており
その土地ならではの依頼や
各地の名産品や特産品などの卸売りも行っています
《ディブル》には現在、魔族の遺品だと言われるダンジョンがあり
冒険者さんたちで賑わっていますので
武器や防具が良く売れます」

 グレイディがここに来たのはそれでか…。

「依頼掲示板に貼られた依頼書を持ち
受付カウンターまでお越しいただければ
依頼受理の手続きを行います
依頼が完了したらこちらに依頼品を納品していただき
報酬と交換ということになります
依頼を受ける際と完了させる際は必ず
商業ギルド証の提示をお願いいたします」

「ギルド証の失効とか
規約違反なんかはあるの?」

「受けた依頼を途中放棄し続けると
ギルド証は剥奪されます
商業ギルドと名前がついていますので
信用第一をモットーに活動していただければ
なんの問題もありません
年に1回ギルド証の更新を行いますので
その際は最寄りの商業ギルドに立ち寄っていただき
ギルド証を提出していただければと思います」

 免許更新みたいなものは一応あるんだね。
 受けた依頼をちゃんとやり遂げるのは当然のことだろう。
中途半端な仕事をしたり、途中放棄してくる人間を誰が信用して仕事を任せると言うのか。

「なるほど。わかった
ちなみに自分で店を出す場合に必要なことは
なにかあるのかな?」

 ドリュアスちゃんの信仰者を増やすためにできることは今のところ、レジンアクセサリーを作ってフィルギャと契約した際に貰った上昇能力バフ効果を付与した装備品。
つまり装身具を作って売るのが一番手っ取り早く木の精霊の加護の可能性を広める方法だ。
 幸いここ《ディブル》にはダンジョンがあって冒険者もわんさかいる。
カモがいるうちに荒稼ぎし、資金調達して次の街へを繰り返せば各地に広まるのも早いはずだ。
 だが店を出す場合、色々な手続きが必要になる。
開業資金もだけど、飲食店なら食品衛生責任者の資格が必要だ。
あと保健所、税務署、消防署への書類提出。
 従業員を雇うなら社会保険事務所とか労働基準監督署、公共職業安定所なんかへの手続きも必要になる。

 果たして異世界での出店にはどんな手続きが必要になるのか…。

「個人店となりますと
商業ギルドと出店する街の役所に
店名、営業場所、何を売っているのか
あと責任者名を明記した書類を提出していただければ
誰でも個人店を出すことは可能ですよ」

 ……案外緩いのか?異世界での出店って…。
二箇所に書類提出ですぐ店開けるって最高。

「ただし個人店を開く場合
月々の売り上げの10%を
役所に納める義務が発生します」

「ああ、ショバ代みたいなものね」

「「?」」

 しかし月々の売り上げの10%か…。
店を構えるのは売れるかどうか判明してからの方が良いな。
 あ、でも移動販売とかなら街の外で売れば場所代なんかもかからないんじゃないか?
街で売るからショバ代が発生するわけだし…。

「(ふっ…法の目をかいくぐるのって楽しいわね)」

「(アキラすっごい悪人顔してるよ)」

 狡賢く商売しないとね。
ダメだったら別の手段を考えるまでさ。
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