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第五章
5-13.鐘
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翌朝、寝返りを打つことも許されないまま一夜を過ごした仁は、目を覚ましてすぐに固まった体を解すために伸びをしようとするが、未だ夢の中にいる玲奈にホールドされたままだった。仁が体を捩って抜け出せないかと試みると、左腕に押し当てられている柔らかいものが形を変えて、仁の興奮を煽る。仁が身動ぎしたことで繊細な部分が擦れたのか、玲奈の淡いピンク色の唇の間から甘い吐息が零れ、仁の首筋をそっと撫でた。体への締め付けは昨夜より緩んでいて、苦しさよりも幸福感が上回っていた。仁はもう少しこのままでいいかなと、全身で玲奈を感じながら再び微睡の中で意識を手放す。
「じ、仁くん、大丈夫……?」
次に仁が目を覚ましたとき、仁は床の上にいた。現状把握ができないまま、仁が目を瞬かせながら声のする方に視線を送ると、ばつが悪そうな表情を浮かべた玲奈がベッドの端に手を置いて、恐る恐るベッドの下を覗き込んでいた。
「いったい何が……?」
頭に疑問符を浮かべる仁に、玲奈は申し訳なさそうに口を開く。
「えっと。目が覚めたら、唇が触れちゃうくらい目の前に仁くんの顔があって、その、どうやら寝てる間に、カワウソのぬいぐるみと間違えて抱き付いちゃってたみたいで。元の世界でいつも抱いて寝てたから……」
仁の目が玲奈の柔らかそうな唇に吸い寄せられるように動く。
「あ! だ、大丈夫。触れてはいないよ。ほんとだよ!」
玲奈は仁の視線の先に気付き、頬を赤く染めながら、あわあわと視線を泳がす。
「それで、その、驚いて、思わず首輪の電撃を使って、突き飛ばしちゃった。ご、ごめんね!」
仁は顔の前で両手を合わせる玲奈を眺めながら、本当に触れていないのか気になってしかたなかった。仁が無意識に自分の左頬に手を当てると、玲奈の顔の赤みが増す。
「ほ、ほんとに触れてないからね! 触れそうになっただけだからね!」
玲奈が強く否定すればするほど、実は触れたのではないかという思いが仁の中で膨らんでいく。知らず知らずのうちに頬をだらしなく緩ませる仁の前で、これでもかと頬を上気させた玲奈が、涙目で小さく唸っていた。
「ジンお兄ちゃん。どうして床で寝てるの?」
隣のベッドの上で体を起こしたミルが、眠気眼を手で擦っている。その横でリリーが仁と玲奈の様子を交互に眺めると、目を大きく見開いた。
「ま、まさか、遂にジンさんがレナさんに手を……!」
「ち、違うよ!」
「なるほどなるほど。それで隷属の首輪の機能でお仕置きされていたんですね」
仁は慌てて否定するが、リリーは訳知り顔でうんうんと何度も頷く。狼狽する仁を尻目に、リリーはベッドを下りてレナの元に歩み寄り、人差し指を突き付けた。
「レナさん、ずるいですっ! わたしもジンさんにお仕置きしたいですっ!」
床に座ったままの仁の鼻の先でリリーのネグリジェの裾が揺れ、健康的な生足が覗く。寝る前にツインテールを解いたリリーの赤髪は膝の裏まで達していた。
「ずるいとかじゃないよ! わ、わたしはお仕置きしたくてしたわけじゃないし!」
「そうなんですか? それじゃあ、やっぱりジンさんに迫られて、やむを得ずお仕置きしちゃったんですか?」
「ち、違うけど……」
「じゃあ、実際のところ、何があったんですか?」
首を傾げるリリーに、玲奈は身を縮ませながら、弱々しく経緯を説明した。
「レナさん、ずるいですっ!」
玲奈の話を聞き終えたリリーが、先ほどと同じように玲奈に指を突き付けた。
「わたしがロゼさんに言われて、ジンさんのベッドに必死にマーキングしてる間に、ジンさん自身に自分の匂いを擦り付けるなんて、羨ましすぎですっ!」
「わ、私のはそんなんじゃないよ!?」
わーわーと言い合いを続ける玲奈とリリーを見ていることしかできないでいる仁に、ミルが近付く。
「ジンお兄ちゃんもミルと一緒なの。レナお姉ちゃんに苦しくされた仲間なの」
ミルは玲奈とリリーのやり取りから仁の身に起こったことを察したようだった。ミルはどこか誇らしげに見えた。仁は苦笑いを浮かべた。
「ミル。リリーは抱き付いたりしてこなかった?」
仁が尋ねると、ミルは少しだけ思い出すようなそぶりを見せ、幸せそうに頬を緩ませた。
「ふわふわだったの」
「え?」
「ふわふわだったの」
ミルはニコニコと同じ言葉を繰り返す。何がと問う前に、仁はすぐにその言葉の意味するところに辿り着いた。仁は昨夜のリリーの薄いネグリジェ姿を思い出し、頬が熱を持つのを感じた。すけすけのネグリジェの下で大きな山を作っていた2つの膨らみの柔らかさを想像し、ついつい一晩左腕に感じた慎ましやかな柔らかさと比較してしまう。大好きな玲奈のものであることにとてつもない価値はあるが、それでも、幸せそうなミルの表情を見ると、自分も味わってみたいと思ってしまうのが男の悲しい性だった。
「ジン殿もミル様も、良い夜を過ごされたようで何よりです」
いつのまにか傍らに立っていたロゼッタが心地よい笑みを浮かべていた。無意識のうちに玲奈とリリーの一部に目線を向けていた仁は、さっと視線を外す。
「ロ、ロゼ、おはよう」
誤魔化すように口にした言葉は上擦っていた。
「はい。おはようございます」
ロゼッタはくすっと小さく笑いながらも、仁を追及することはなかった。気恥ずかしさから仁が言い訳じみた言葉を続けようとしたとき、部屋の外からカンカンと鐘の音が響いた。それまでの弛緩した空気が消え、仁たち全員に緊張感が走る。
「リリー。これって確か」
「はい。緊急の用件が発生した合図ですね。すぐに準備をして広場に向かいましょう」
各々がリリーの言葉に頷きを返し、手早く行動を開始した。仁は女性陣が目に入らないように部屋の隅に移動すると、身支度を整えた。かつての戦いの際に手にしていたミスリルソードではなく、現在の愛剣となっている不死殺しの魔剣をアイテムリングから取り出して腰に差す。左の手のひらに力を込めると、黒炎がじわりと漏れ出す。
「大丈夫。あのときより強くなっているはずだ」
仁は自分に言い聞かせるように小声で呟く。
「仁くん。もうこっち向いて大丈夫だよ」
背後から聞こえた愛らしい声を受けて仁が振り返ると、4人の視線が真っ直ぐに仁に向いていた。それぞれが目の奥に不安を湛えながらも、仁を信じ、仲間を信じ、自分たちの明日のために戦うという決意を瞳に乗せていた。
「じゃあ、行こうか」
もう負けることは許されない。仁は気を引き締め、部屋のドアノブに手を掛けた。ゆっくりと押されたドアは、鈍い軋みを辺りに響かせた。
「じ、仁くん、大丈夫……?」
次に仁が目を覚ましたとき、仁は床の上にいた。現状把握ができないまま、仁が目を瞬かせながら声のする方に視線を送ると、ばつが悪そうな表情を浮かべた玲奈がベッドの端に手を置いて、恐る恐るベッドの下を覗き込んでいた。
「いったい何が……?」
頭に疑問符を浮かべる仁に、玲奈は申し訳なさそうに口を開く。
「えっと。目が覚めたら、唇が触れちゃうくらい目の前に仁くんの顔があって、その、どうやら寝てる間に、カワウソのぬいぐるみと間違えて抱き付いちゃってたみたいで。元の世界でいつも抱いて寝てたから……」
仁の目が玲奈の柔らかそうな唇に吸い寄せられるように動く。
「あ! だ、大丈夫。触れてはいないよ。ほんとだよ!」
玲奈は仁の視線の先に気付き、頬を赤く染めながら、あわあわと視線を泳がす。
「それで、その、驚いて、思わず首輪の電撃を使って、突き飛ばしちゃった。ご、ごめんね!」
仁は顔の前で両手を合わせる玲奈を眺めながら、本当に触れていないのか気になってしかたなかった。仁が無意識に自分の左頬に手を当てると、玲奈の顔の赤みが増す。
「ほ、ほんとに触れてないからね! 触れそうになっただけだからね!」
玲奈が強く否定すればするほど、実は触れたのではないかという思いが仁の中で膨らんでいく。知らず知らずのうちに頬をだらしなく緩ませる仁の前で、これでもかと頬を上気させた玲奈が、涙目で小さく唸っていた。
「ジンお兄ちゃん。どうして床で寝てるの?」
隣のベッドの上で体を起こしたミルが、眠気眼を手で擦っている。その横でリリーが仁と玲奈の様子を交互に眺めると、目を大きく見開いた。
「ま、まさか、遂にジンさんがレナさんに手を……!」
「ち、違うよ!」
「なるほどなるほど。それで隷属の首輪の機能でお仕置きされていたんですね」
仁は慌てて否定するが、リリーは訳知り顔でうんうんと何度も頷く。狼狽する仁を尻目に、リリーはベッドを下りてレナの元に歩み寄り、人差し指を突き付けた。
「レナさん、ずるいですっ! わたしもジンさんにお仕置きしたいですっ!」
床に座ったままの仁の鼻の先でリリーのネグリジェの裾が揺れ、健康的な生足が覗く。寝る前にツインテールを解いたリリーの赤髪は膝の裏まで達していた。
「ずるいとかじゃないよ! わ、わたしはお仕置きしたくてしたわけじゃないし!」
「そうなんですか? それじゃあ、やっぱりジンさんに迫られて、やむを得ずお仕置きしちゃったんですか?」
「ち、違うけど……」
「じゃあ、実際のところ、何があったんですか?」
首を傾げるリリーに、玲奈は身を縮ませながら、弱々しく経緯を説明した。
「レナさん、ずるいですっ!」
玲奈の話を聞き終えたリリーが、先ほどと同じように玲奈に指を突き付けた。
「わたしがロゼさんに言われて、ジンさんのベッドに必死にマーキングしてる間に、ジンさん自身に自分の匂いを擦り付けるなんて、羨ましすぎですっ!」
「わ、私のはそんなんじゃないよ!?」
わーわーと言い合いを続ける玲奈とリリーを見ていることしかできないでいる仁に、ミルが近付く。
「ジンお兄ちゃんもミルと一緒なの。レナお姉ちゃんに苦しくされた仲間なの」
ミルは玲奈とリリーのやり取りから仁の身に起こったことを察したようだった。ミルはどこか誇らしげに見えた。仁は苦笑いを浮かべた。
「ミル。リリーは抱き付いたりしてこなかった?」
仁が尋ねると、ミルは少しだけ思い出すようなそぶりを見せ、幸せそうに頬を緩ませた。
「ふわふわだったの」
「え?」
「ふわふわだったの」
ミルはニコニコと同じ言葉を繰り返す。何がと問う前に、仁はすぐにその言葉の意味するところに辿り着いた。仁は昨夜のリリーの薄いネグリジェ姿を思い出し、頬が熱を持つのを感じた。すけすけのネグリジェの下で大きな山を作っていた2つの膨らみの柔らかさを想像し、ついつい一晩左腕に感じた慎ましやかな柔らかさと比較してしまう。大好きな玲奈のものであることにとてつもない価値はあるが、それでも、幸せそうなミルの表情を見ると、自分も味わってみたいと思ってしまうのが男の悲しい性だった。
「ジン殿もミル様も、良い夜を過ごされたようで何よりです」
いつのまにか傍らに立っていたロゼッタが心地よい笑みを浮かべていた。無意識のうちに玲奈とリリーの一部に目線を向けていた仁は、さっと視線を外す。
「ロ、ロゼ、おはよう」
誤魔化すように口にした言葉は上擦っていた。
「はい。おはようございます」
ロゼッタはくすっと小さく笑いながらも、仁を追及することはなかった。気恥ずかしさから仁が言い訳じみた言葉を続けようとしたとき、部屋の外からカンカンと鐘の音が響いた。それまでの弛緩した空気が消え、仁たち全員に緊張感が走る。
「リリー。これって確か」
「はい。緊急の用件が発生した合図ですね。すぐに準備をして広場に向かいましょう」
各々がリリーの言葉に頷きを返し、手早く行動を開始した。仁は女性陣が目に入らないように部屋の隅に移動すると、身支度を整えた。かつての戦いの際に手にしていたミスリルソードではなく、現在の愛剣となっている不死殺しの魔剣をアイテムリングから取り出して腰に差す。左の手のひらに力を込めると、黒炎がじわりと漏れ出す。
「大丈夫。あのときより強くなっているはずだ」
仁は自分に言い聞かせるように小声で呟く。
「仁くん。もうこっち向いて大丈夫だよ」
背後から聞こえた愛らしい声を受けて仁が振り返ると、4人の視線が真っ直ぐに仁に向いていた。それぞれが目の奥に不安を湛えながらも、仁を信じ、仲間を信じ、自分たちの明日のために戦うという決意を瞳に乗せていた。
「じゃあ、行こうか」
もう負けることは許されない。仁は気を引き締め、部屋のドアノブに手を掛けた。ゆっくりと押されたドアは、鈍い軋みを辺りに響かせた。
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