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第五章

5-9.結論

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「ミル、ロゼッタ。俺の話を信じてくれてありがとう。俺と玲奈ちゃんが異世界の人間だったり勇者だったり、にわかには信じ難い話だと思うんだけど」
「ジンお兄ちゃんは嘘つかないの!」
「ええ。それに、自分は詳しくないのですが、昔話の勇者も異世界から召喚された人だと言われているのですよね」

 ミルはロゼッタの視線を受け、はっきりと頷く。

「おとーさんはそう言ってたの」
「であるならば、疑う余地などありません。それに、自分にとってはレナ様やジン殿が異世界人であろうと、勇者であろうと、帝国から狙われていようと関係ありません。先ほども申した通り、自分はミル様共々、いつまでも一緒にいたく思います」

 ロゼッタの鋭い視線が仁を貫いた。仁の心臓の鼓動が早まる。ミルは全く気付いていない様子だが、ロゼッタは仁と玲奈が元世界に帰る手段が存在し、可能ならば帰ろうとしているという事実を察したようだった。

「それでは、この話はこれで終わりですね。明日以降の具体的な動きを確認してもよろしいですか?」

 仁が口を開くより先に、ロゼッタは話題を転換してしまった。問題の先延ばしではあるが、ミルにどう伝えるべきか悩んでいた仁は、ほっと胸を撫で下ろした。



 翌日、仁は朝食を終えると、1人で冒険者ギルドに向かった。周囲からの視線は気になったが、情報収集するためには一番だと考えたのだった。玲奈たちには宿屋で待機してもらい、いつでも動けるように準備を整えてもらっている。

「ジン様」

 仁が冒険者ギルドに足を踏み入れると、冒険者の対応を終えた受付嬢のエクレアが受付カウンターを出て歩み寄ってくる。周りの冒険者たちが仁の方にチラチラと視線を向けながら、仲間同士、声を潜めて何事か話をしている。

「エクレアさん、おはようございます」
「はい。おはようございます。後ほど宿屋に使いを出そうとしていたところでしたので、ジン様の方から足を運んでいただいて助かりました」

 エクレアは首を捻っている仁を応接室に誘導する。仁は揺れる三つ編みを眺めながら後に続いた。

「ジン様。こちらでしばらくお待ちください」

 仁はエクレアに促され、応接室のソファーに腰を下ろす。仁がエクレアの淹れた紅茶で喉を潤していると、応接室のドアが勢いよく開かれた。

「兄ちゃん、決まったぞ!」
「ガロンさん?」

 てっきりバランがやってきたと思った仁は、応接室に入り込んできた坊主頭を目にして首を傾げた。

「ガロン様? 部屋に入る際はノックをするようにと何度もお願いしましたよね?」
「お、おう。エクレアちゃんもいたのか……」
「いたのかではありません。バラン様のお弟子様がそのような不作法では困ります」

 ガロンの大きな体がエクレアの前で萎縮していた。エクレアに頭が上がらない様子のガロンの様子に、仁の首は傾きを増した。

「それで、ガロン様。ジン様に何かご用ですか?」
「あ、ああ、そうだった!」

 部屋に入ったところで動きを止めていたガロンが部屋の中央まで歩み寄る。

「兄ちゃん。夜通し行われた代表者連中の話し合いで、遂に結論が出た」

 真剣な表情を浮かべるガロンに、仁はゴクリと喉を鳴らす。

「メルニールは帝国からの要求を拒否。逆に商隊から奪った荷の返却と、街道の封鎖の解除を帝国に要求。この要求が受け入れられるまで、魔石を含む、ダンジョンから得られた魔物の素材やアーティファクト全ての取引の停止を決めた!」

 ガロンは苦虫を噛み潰したような表情で続ける。

「帝国がここで引き下がるわけがねえ。メルニールも一切妥協しない構えだ。兄ちゃん。こりゃあ戦争になるぞ」
「戦争……」

 仁の脳裏に、かつての戦場が思い起こされる。再召喚されて記憶を鮮明なものにした仁は、戦火で焼き出されて蹂躙された罪なき人々や、傷つき倒れていく仲間たち、塵すら残さず燃やし尽くした敵兵の断末魔の声を思い出した。再び起こるかもしれないという現実に、仁は身を硬くした。

「詳しいことは後でギルド長に聞いてくれ。すぐに街中に通達されるはずだが、仲間連中にはすぐ伝えてやりてえ。嬢ちゃんたちにも一足先に俺から伝えておいていいか?」
「え、ええ。お願いします」
「おう。任せとけ」

 ガロンは軽く手を上げると、踵を返して走り去った。

「ジン様。仮に本当に戦争になったとしても、それは決してジン様方のせいではありません。ジン様が責任を感じる必要はございませんよ」

 エクレアは肩を落とす仁を慰めるように笑顔を浮かべ、ギルドも忙しくなりそうだと仁に断りを入れて部屋を後にした。



「待たせたな」
「バランさん。本当に帝国と戦争になるのですか?」

 仁はバロンが現れるなり、立ち上がって口を開いた。

「まあ、座れ」
「バランさん。俺はあなたや交流のある街の人たちの好意に甘えてメルニールに残る選択をしました。でも、それは間違いだったのではないですか? 帝国から要求があった際に、すぐにでも俺たちがメルニールを離れていれば、戦争になんてならずに済んだはずです」

 バランは仁の正面のソファーに腰を下ろし、大きな背中を背もたれに預けた。

「それは違う。仮にお主たちがメルニールを離れていたのなら、帝国はメルニールが逃がしたと主張し、メルニールはそれを否定する。結局は平行線のまま。同じことだ」

 バランは胸元から1通のふみを取り出し、仁の前のテーブルに放り投げる。仁が羊皮紙の手紙を訝しげに見つめる。

「読んでみろ」

 バランに促され、仁は手紙の内容に目を通した。それはダサル・カマシエからバランに宛てた手紙だった。手紙の内容は、すぐにロゼッタの所有権を玲奈に破棄させてダサルの元に届ければ戦争にならないよう口添えをしてやるというものだった。文面からはかなりの焦りを感じた。

「それはお主たちの身柄引き渡し要求のすぐ後に届けられたものだ。仮にメルニールが帝国の要求を呑んだところで、カマシエが白虎族の奴隷を得ることはない。それどころか、帝国とメルニールが戦争になればその奴隷の命も危険に晒される。焦ったカマシエは独断でこんなものを送ってきたのだろうが、こちらを急かそうとするあまり、帝国が戦争を視野に入れているどころか、戦争ありきで動いていることを儂らに教えているようなものだ。そして昨日の商隊襲撃だ。帝国は最初から戦争を仕掛けるつもりだったとしか思えない。お主らはその口実にされたのだよ。もちろん、帝国として勇者のお主らをどうにかしたいという思いもあるだろうがな」

 仁は唇を強く噛んだ。自身の血の味が口内に広がる。

「言っておくが、お主らのせいではないぞ。お主らがいなければ帝国は何か別の理由で難癖をつけ、結局は同じことになっただろう。帝国は戦争という結論ありきで動いたのだ。誰にもどうすることはできなかったさ。いや、強いて挙げるなら帝国の戦力が外で手一杯だと過信し、対策を怠った儂ら街の代表者の責任か」

 バランは一度ゆっくりと目を閉じ、動きを止める。しばらくして開かれた瞳は鋭い眼光を湛え、仁を捉えた。

「勇者の従者、ジンよ。儂らに、メルニールに、力を貸してほしい。合成獣キメラを打ち倒し、多頭蛇竜ヒュドラーを屠った、その力を」

 バランは深く深く頭を下げた。仁は即座に答えることができず、応接室にしばしの静寂が訪れた。
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