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第二十章
20-8.魔石集め
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仁たち戦乙女の翼はダンジョンの30階層を進んでいた。ミルとイムの索敵能力を頼みに敢えて魔物の気配のする方へ向かい、そのすべてを片っ端から討伐していく。
今回の一番の目的は質の良い大量の魔石であるため、時間的効率を考えて、その場では解体せず、仁が魔物の死骸をアイテムリングの中に収納していった。魔物の解体を自分の仕事だと考えているミルは少しだけ不満そうだったが、ダンジョンを出てから思う存分解体してほしいとお願いすると、すぐに機嫌を直して張り切っていた。
「ジンお兄ちゃん。骸骨さんのお部屋には行かないの?」
「うん。今日は最下層に行こうと思って」
ただ魔石の数を稼ぐだけなら大量の骸骨を狩ることに意味はある。それもパワーレベリングをしながら稼げるのだから一石二鳥なのだが、今回はより質の高い魔石を求めていた。そのため、仁は31階層より下の最下層に赴くつもりだった。
30階層に転移したのは、肩慣らしと最下層に向かうための試練を受けるためだ。その試練とは、下層の最後の階層である30階層の主、所謂、ボスを討伐すること。
もちろん仁のダンジョン転移とダンジョン核の力を用いれば直接最下層に飛べるが、このダンジョンの製作者であるかつての友、ラストルに敬意を払い、正式な手順を踏もうと考えたのだった。
とはいえ、仁は事前に30階層のボスの情報を頭に入れているため、少々ズルをしているかのような罪悪感を覚えているが、そこは玲奈や仲間たちの安全のために目を瞑ってほしいと心の中でラストルに謝罪した。
仁はボスと戦えることを喜んでいるミルに、魔物を探しながら階層主の部屋に向かうよう、大まかな場所を伝える。
「任せてなの!」
頼りになる犬人族の幼い少女は犬耳をピクピクさせながら赤い盟友と相談し、パーティの先頭で盾を構える戦乙女に進路を伝えた。
その道中、仁が手を出すまでもなく三人と一頭が魔物を殲滅していき、仁は自分がサポーターにでもなったかのように、魔物の骸の回収に勤しむ。
ほどなくして、特にこれといった問題が起こることなく、一行はボス部屋近くの安全地帯に到着した。
「じゃあ、ちょっとだけ休んでいてね」
仁は仲間たちを労い、一人でマスタールームに転移する。その後、上層で魔物を討伐中の戦斧の元に赴き、了承を得てから中層に送り込んだ。
その際、仁が後で迎えに来ると告げると、冗談交じりに「兄ちゃんに何かあったら俺らは飢えちまうんで、頼むぜ」とガロンに言われ、仁は気を引き締め直した。
「えー、では、ガロンさんたちの信頼を裏切らないためにも、無事にボスを討伐しましょう」
30階層のボス部屋を前にして仁が皆を見回すと、元気よく「おー!」と返ってきた。以前の合宿と同じテンションの仲間たちに、仁は心の中で安堵の息を吐く。玲奈たちとしては未知の強敵との戦いを目前にしているわけだが、必要以上の緊張はしていないようだった。
今回も、仁は玲奈たちの総意で見学に回ることになっている。仁が危険だと判断した場合は躊躇なく手を出すことにはなるが、ボスがどのような魔物か知っている仁は、玲奈たちだけで十分対処できる相手だと思っているため、あまり心配はしていなかった。
しかし、初見の魔物への対処は決して簡単なものではなく、仁は玲奈たちに油断しないよう伝えると共に、自分もいつでも動けるように戦闘準備を整える。
背から黒炎と黒雷の翼を左右に生やし、両手にそれぞれ黒炎刀と黒雷刀を携える。仁の身に纏った黒を基調とした軽鎧が、薄っすらと赤黒く色づいた。
「それじゃあ、仁くん。行くね」
最後に連携の確認を行っていた玲奈たちが仁を振り返る。仁は玲奈、ミル、ロゼッタと視線を合わせ、大きく頷いた。
「みんな、気を付けてね。イムも」
ミルの顔の横でそっぽを向いていたイムが小さく「グルゥ」と返すと、玲奈がクスッと微笑みながら皆を促した。
「せーのっ!」
玲奈の掛け声を合図に、ミルとロゼッタ、そしてイムがボス部屋への大きな扉を押し開ける。金属製に見える重厚な扉は最初こそゆっくりと開き始めたが、すぐに大きさから考えられないほど軽く動き、玲奈たちの手を離れて勝手に開ききった。真っ暗な闇が一行を出迎える。
玲奈を先頭に、一行が足を踏み入れ、仁も最後尾から扉を潜る。皆が辺りを警戒しながら少しだけ先に進むと、入口の扉が「ギギギ」と大音量を立てながら、ひとりでに閉じた。
それと同時にどうやら縦長らしい部屋の両サイドに規則正しく設置された燭台に火が灯り、正面の暗闇の向こうから、ドシン、ドシンと何か巨大なものが地面を踏みしめる音が響いてきた。
「来るよ!」
玲奈の声に、皆が警戒から臨戦態勢へと移行する。仁は後ろに少しだけ離れたところで足を止め、闇から姿を現した部屋の主を見据えた。
『グオオォオオ!!』
猛々しい咆哮が轟く。
10階層のボスである迷宮王牛の3倍ほどの巨体に、10メートル弱の身の丈ほどの長大な棍棒を携える、金属鎧を身に纏った一つ目の巨人。
“独眼巨人”
それが30階層のボスの正体だった。
「みんな、頑張れ」
仁は皆に聞こえないくらいの音量で呟く。
仁が仲間たちとボスの両方を視界に収めながら、自分だったらどう戦うか脳内でシミュレートを開始するのと時を同じくして、玲奈の指揮でイムが火炎の吐息を放った。
轟々と呻る赤い火炎が巨人の上半身を襲い、一つ目巨人が片手に持った棍棒で打ち払う。凄まじい風圧が仁のところまで届いた。直後、巨人は大股で前進し、極太の腕をイムに向けて伸ばす。
「グ、グルッ!?」
イムが慌てて上昇し、掴みかかる巨大な手から逃れた。
「氷砲!」
巨人の肘の辺り、鎧の隙間を氷の砲弾が真下から狙う。氷弾は巨人の赤茶色の肌を強かに打ち付け、氷が弾けて雹となった。
一つ目が玲奈を見下ろす。腹立たし気に唸る巨人を、玲奈は一歩も引かずに真っ直ぐに見据えていた。
仁はサッと目だけで巨人の足元の左右を確認し、今の攻防の間にミルとロゼッタがそれぞれ左右に散っているのを確認した。
玲奈が再び氷砲を放つのを合図に、皆が再び動き出す。
こうして、仁を除いた戦乙女の翼と独眼巨人の戦いの火蓋が切られたのだった。
今回の一番の目的は質の良い大量の魔石であるため、時間的効率を考えて、その場では解体せず、仁が魔物の死骸をアイテムリングの中に収納していった。魔物の解体を自分の仕事だと考えているミルは少しだけ不満そうだったが、ダンジョンを出てから思う存分解体してほしいとお願いすると、すぐに機嫌を直して張り切っていた。
「ジンお兄ちゃん。骸骨さんのお部屋には行かないの?」
「うん。今日は最下層に行こうと思って」
ただ魔石の数を稼ぐだけなら大量の骸骨を狩ることに意味はある。それもパワーレベリングをしながら稼げるのだから一石二鳥なのだが、今回はより質の高い魔石を求めていた。そのため、仁は31階層より下の最下層に赴くつもりだった。
30階層に転移したのは、肩慣らしと最下層に向かうための試練を受けるためだ。その試練とは、下層の最後の階層である30階層の主、所謂、ボスを討伐すること。
もちろん仁のダンジョン転移とダンジョン核の力を用いれば直接最下層に飛べるが、このダンジョンの製作者であるかつての友、ラストルに敬意を払い、正式な手順を踏もうと考えたのだった。
とはいえ、仁は事前に30階層のボスの情報を頭に入れているため、少々ズルをしているかのような罪悪感を覚えているが、そこは玲奈や仲間たちの安全のために目を瞑ってほしいと心の中でラストルに謝罪した。
仁はボスと戦えることを喜んでいるミルに、魔物を探しながら階層主の部屋に向かうよう、大まかな場所を伝える。
「任せてなの!」
頼りになる犬人族の幼い少女は犬耳をピクピクさせながら赤い盟友と相談し、パーティの先頭で盾を構える戦乙女に進路を伝えた。
その道中、仁が手を出すまでもなく三人と一頭が魔物を殲滅していき、仁は自分がサポーターにでもなったかのように、魔物の骸の回収に勤しむ。
ほどなくして、特にこれといった問題が起こることなく、一行はボス部屋近くの安全地帯に到着した。
「じゃあ、ちょっとだけ休んでいてね」
仁は仲間たちを労い、一人でマスタールームに転移する。その後、上層で魔物を討伐中の戦斧の元に赴き、了承を得てから中層に送り込んだ。
その際、仁が後で迎えに来ると告げると、冗談交じりに「兄ちゃんに何かあったら俺らは飢えちまうんで、頼むぜ」とガロンに言われ、仁は気を引き締め直した。
「えー、では、ガロンさんたちの信頼を裏切らないためにも、無事にボスを討伐しましょう」
30階層のボス部屋を前にして仁が皆を見回すと、元気よく「おー!」と返ってきた。以前の合宿と同じテンションの仲間たちに、仁は心の中で安堵の息を吐く。玲奈たちとしては未知の強敵との戦いを目前にしているわけだが、必要以上の緊張はしていないようだった。
今回も、仁は玲奈たちの総意で見学に回ることになっている。仁が危険だと判断した場合は躊躇なく手を出すことにはなるが、ボスがどのような魔物か知っている仁は、玲奈たちだけで十分対処できる相手だと思っているため、あまり心配はしていなかった。
しかし、初見の魔物への対処は決して簡単なものではなく、仁は玲奈たちに油断しないよう伝えると共に、自分もいつでも動けるように戦闘準備を整える。
背から黒炎と黒雷の翼を左右に生やし、両手にそれぞれ黒炎刀と黒雷刀を携える。仁の身に纏った黒を基調とした軽鎧が、薄っすらと赤黒く色づいた。
「それじゃあ、仁くん。行くね」
最後に連携の確認を行っていた玲奈たちが仁を振り返る。仁は玲奈、ミル、ロゼッタと視線を合わせ、大きく頷いた。
「みんな、気を付けてね。イムも」
ミルの顔の横でそっぽを向いていたイムが小さく「グルゥ」と返すと、玲奈がクスッと微笑みながら皆を促した。
「せーのっ!」
玲奈の掛け声を合図に、ミルとロゼッタ、そしてイムがボス部屋への大きな扉を押し開ける。金属製に見える重厚な扉は最初こそゆっくりと開き始めたが、すぐに大きさから考えられないほど軽く動き、玲奈たちの手を離れて勝手に開ききった。真っ暗な闇が一行を出迎える。
玲奈を先頭に、一行が足を踏み入れ、仁も最後尾から扉を潜る。皆が辺りを警戒しながら少しだけ先に進むと、入口の扉が「ギギギ」と大音量を立てながら、ひとりでに閉じた。
それと同時にどうやら縦長らしい部屋の両サイドに規則正しく設置された燭台に火が灯り、正面の暗闇の向こうから、ドシン、ドシンと何か巨大なものが地面を踏みしめる音が響いてきた。
「来るよ!」
玲奈の声に、皆が警戒から臨戦態勢へと移行する。仁は後ろに少しだけ離れたところで足を止め、闇から姿を現した部屋の主を見据えた。
『グオオォオオ!!』
猛々しい咆哮が轟く。
10階層のボスである迷宮王牛の3倍ほどの巨体に、10メートル弱の身の丈ほどの長大な棍棒を携える、金属鎧を身に纏った一つ目の巨人。
“独眼巨人”
それが30階層のボスの正体だった。
「みんな、頑張れ」
仁は皆に聞こえないくらいの音量で呟く。
仁が仲間たちとボスの両方を視界に収めながら、自分だったらどう戦うか脳内でシミュレートを開始するのと時を同じくして、玲奈の指揮でイムが火炎の吐息を放った。
轟々と呻る赤い火炎が巨人の上半身を襲い、一つ目巨人が片手に持った棍棒で打ち払う。凄まじい風圧が仁のところまで届いた。直後、巨人は大股で前進し、極太の腕をイムに向けて伸ばす。
「グ、グルッ!?」
イムが慌てて上昇し、掴みかかる巨大な手から逃れた。
「氷砲!」
巨人の肘の辺り、鎧の隙間を氷の砲弾が真下から狙う。氷弾は巨人の赤茶色の肌を強かに打ち付け、氷が弾けて雹となった。
一つ目が玲奈を見下ろす。腹立たし気に唸る巨人を、玲奈は一歩も引かずに真っ直ぐに見据えていた。
仁はサッと目だけで巨人の足元の左右を確認し、今の攻防の間にミルとロゼッタがそれぞれ左右に散っているのを確認した。
玲奈が再び氷砲を放つのを合図に、皆が再び動き出す。
こうして、仁を除いた戦乙女の翼と独眼巨人の戦いの火蓋が切られたのだった。
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