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第十七章
17-7.気概
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仁は決着がついたのを見届け、勝利の喜びを分かち合う玲奈たち三人と一体に近付いた。仁が声をかけると、振り向いた玲奈が飛び切りの笑顔の花を咲かせた。
ミルやロゼッタも気持ちの良い笑みを浮かべていて、イムが仁に向けて自慢げに鼻を鳴らした。
仁は駆け寄ってきたミルの頭を優しく撫でながら、先ほどの戦いを思い返す。
毒蛇王の火炎を防いだ玲奈の魔力の盾、生まれ持った石化耐性と火耐性を活かしたイムの囮役、決して柔くはない毒蛇王の目を潰したロゼッタの正確で鋭い攻撃、戦闘を継続しながら石化と怪我の治療を行うミルの回復魔法。そして止めを刺した玲奈の光弓は言うに及ばず、事前の計画通りに戦闘を行う連携力。
今回の戦いでは予想外の事態に対する対応力を見ることはできなかったが、これまでとこれからの様々な経験があれば、より下層に進んでも問題ないように思えた。
仁がダンジョン核から得た情報によれば、この隠し部屋の主はおおよそ20階層のボス相当の強さのようだった。ただし、今回の毒蛇王や最初の多頭蛇竜などは幼生体と言えど、その名に恥じぬ厄介な特性を持っているため、討伐の難易度はそれ以上だと仁は考えている。
「ねえ、仁くん。宝箱、開けていい?」
「もちろん」
期待に満ちた視線を送ってくる玲奈の問いに間髪入れず答えると、玲奈の目が嬉し気に細められ、柔らかそうな唇の両端が持ち上がった。
前回までは注意して開けていたが、報酬の宝箱に罠がないことは確認済みだ。
「ミルちゃん、ロゼ、イムちゃん。みんなで一緒に開けよう!」
玲奈の提案を皆が受け入れ、一抱えはある大きな宝箱の前に集まって屈みこむ。皆のわくわくしている様子を、仁は微笑ましく思いながら見守る。
「じゃあ、行っくよー。せー……の!」
玲奈の掛け声に合わせ、三人と一体が同時に宝箱の蓋を持ち上げた。一瞬息を呑んだ後、皆の瞳がキラキラと輝く。
「仁くん。鑑定をお願いします!」
満足したのか、しばらく箱の中身を見つめていた玲奈が仁を手招きした。仁が歩み寄り、ミルの頭越しに中を覗き込む。
「これは……」
宝箱の中には紫の小さな石の嵌った指輪と、ピンポン玉サイズの青い球体が入っていた。仁はすかさず鑑定の魔眼を発動させる。
「仁くん。どうかな?」
「うん。指輪の方は前に出たのと同じ“耐毒の指輪”だね」
仁が「当たりだね」と明るく告げると、皆が口々に喜びの声を上げた。
今回の玲奈たちの挑戦に際して、仁は多頭蛇竜や他の魔物ではなく毒蛇王が出現することを期待していた。その理由がこの指輪だ。
この耐毒の指輪で恐るべき鉤爪の毒霧を防げることは既に実証されている。今後の魔王妃の眷属との戦いを考えると、1個と言わず、いくらでも欲しいくらいだった。
残念ながらこの指輪もダンジョンから得られる数に限りはあるが、仁はその1個が期待通りに得られたことを幸運に思いながら、その横の青い球体に目を向けた。濃い青の表面が、光を反射してキラリと輝く。
「もう一つの方は……“毒蛇王の宝玉”?」
「宝玉?」
語尾を上げた仁に、玲奈が同じイントネーションで聞き返す。
「うん。どうやら、これを武器とか盾に組み込むと、触れた相手を毒状態にする効果が付くみたい」
「それって……!」
玲奈が宝玉に向けた目を見開く。この宝玉を使用して得られる効果に、仁も玲奈も聞き覚えがあった。
前回、仁が毒蛇王を倒した際に得られ、帝都でのドラゴン戦で失われた毒蛇王の小盾。玲奈が初めて手にした小盾で、今の戦闘スタイルを確立した思い出深い盾。その盾も、同じ効果を持っていた。
奇しくも、玲奈は先ほどの戦いで盾の周囲に魔力の盾を展開するという毒蛇王の小盾の持っていた能力を再現していたが、この宝玉を組み合わせればもう一つの効果も発揮することが可能となるのだ。
宝玉だけでは意味がないことを考えれば毒蛇王の小盾より価値は劣るかもしれないが、毒蛇王の鱗よりも強固で魔法に対する耐性も高い火竜鱗の小盾を持つ玲奈にとって、大当たりと言ってよかった。
「ミル、ロゼ、イム。この宝玉は玲奈ちゃんのものでいいかな?」
「もちろんなの!」
「はい。レナ様のあの盾には助けられました」
「グルゥ」
皆の肯定的な答えを受け、仁は宝箱の中から宝玉を取り出して玲奈に手渡す。
「ありがとう」
玲奈が皆を見回し、柔らかく微笑んだ。仁は「自分は何もしてないんだけど」と苦笑いを浮かべながら、もう一つの指輪を誰が持つべきか考える。と言っても、ミルは既に持っているし、仁自身には毒を無効化する技能があり、装備できるかどうかはともかく、イムにも必要なさそうだった。
実質2択で、その内、玲奈は盾での防御手段があり、宝玉を組み込めば毒も防げると予想された。対恐るべき鉤爪に関しては毒霧が範囲攻撃のために難しいかもしれないが、何も耐毒の指輪の獲得機会が今回限りというわけではない。仁は折を見て再び毒蛇王に挑戦するつもりだった。
仁がその辺りを説明し、まずはロゼッタに使ってもらうことを提案すると、反対意見は出なかった。
「玲奈ちゃん」
「うん」
仁と玲奈が顔を見合わせて頷き合い、玲奈が指輪を取り出してロゼッタに手渡す。ロゼッタは真剣な表情で指輪を見つめてから、スッと左手の薬指に嵌めた。
「ロゼお姉ちゃん、お揃いなの!」
その様子を見ていたミルがロゼッタに左手を向けると、ロゼッタがミルの小さな手の横に自身の手を並べて微笑み合う。
仁と玲奈は隣り合って二人を眺める。
仁が幸せな気持ちになりながら、ふと玲奈の方を向くと、玲奈は微笑みの中に僅かに寂しさのような感情を乗せているように思えた。玲奈の視線が一瞬だけ、自身の左手に向いた。
「玲奈ちゃん?」
仁が声をかけると、玲奈はハッとしたように顔を上げ、誤魔化すように笑った。
「玲奈ちゃん……」
玲奈が寂しく感じた理由は別に仲間外れにされたからではないということくらいは、仁にも理解できた。
仁は適宜マスタールームを訪れて隠し部屋の罠が復活していないかチェックしようと心に決める。不死者の指輪は無理でも、対毒の指輪くらい、いくらでも入手してやろうという気概だった。
「あっ!」
仁が一人意気込んでいると、ミルが慌てたような声を上げた。
「早く解体しないと、毒蛇王が消えちゃうの!」
物言わぬ塊と化した魔物に向かって、ミルが弾かれたように駆け出す。その後ろをイムが飛んで付いていく。
「そういえば、前回のときは素材が取れなくてミルに叱られたっけ」
仁が苦笑いを浮かべ、玲奈とロゼッタがくすくすと小さな笑い声を溢した。
「仁くん、ロゼ。私たちも手伝おう!」
「そうだね」
「はい!」
三人は足取り軽く、急ピッチで解体を進めるミルの元へと向かった。
ミルやロゼッタも気持ちの良い笑みを浮かべていて、イムが仁に向けて自慢げに鼻を鳴らした。
仁は駆け寄ってきたミルの頭を優しく撫でながら、先ほどの戦いを思い返す。
毒蛇王の火炎を防いだ玲奈の魔力の盾、生まれ持った石化耐性と火耐性を活かしたイムの囮役、決して柔くはない毒蛇王の目を潰したロゼッタの正確で鋭い攻撃、戦闘を継続しながら石化と怪我の治療を行うミルの回復魔法。そして止めを刺した玲奈の光弓は言うに及ばず、事前の計画通りに戦闘を行う連携力。
今回の戦いでは予想外の事態に対する対応力を見ることはできなかったが、これまでとこれからの様々な経験があれば、より下層に進んでも問題ないように思えた。
仁がダンジョン核から得た情報によれば、この隠し部屋の主はおおよそ20階層のボス相当の強さのようだった。ただし、今回の毒蛇王や最初の多頭蛇竜などは幼生体と言えど、その名に恥じぬ厄介な特性を持っているため、討伐の難易度はそれ以上だと仁は考えている。
「ねえ、仁くん。宝箱、開けていい?」
「もちろん」
期待に満ちた視線を送ってくる玲奈の問いに間髪入れず答えると、玲奈の目が嬉し気に細められ、柔らかそうな唇の両端が持ち上がった。
前回までは注意して開けていたが、報酬の宝箱に罠がないことは確認済みだ。
「ミルちゃん、ロゼ、イムちゃん。みんなで一緒に開けよう!」
玲奈の提案を皆が受け入れ、一抱えはある大きな宝箱の前に集まって屈みこむ。皆のわくわくしている様子を、仁は微笑ましく思いながら見守る。
「じゃあ、行っくよー。せー……の!」
玲奈の掛け声に合わせ、三人と一体が同時に宝箱の蓋を持ち上げた。一瞬息を呑んだ後、皆の瞳がキラキラと輝く。
「仁くん。鑑定をお願いします!」
満足したのか、しばらく箱の中身を見つめていた玲奈が仁を手招きした。仁が歩み寄り、ミルの頭越しに中を覗き込む。
「これは……」
宝箱の中には紫の小さな石の嵌った指輪と、ピンポン玉サイズの青い球体が入っていた。仁はすかさず鑑定の魔眼を発動させる。
「仁くん。どうかな?」
「うん。指輪の方は前に出たのと同じ“耐毒の指輪”だね」
仁が「当たりだね」と明るく告げると、皆が口々に喜びの声を上げた。
今回の玲奈たちの挑戦に際して、仁は多頭蛇竜や他の魔物ではなく毒蛇王が出現することを期待していた。その理由がこの指輪だ。
この耐毒の指輪で恐るべき鉤爪の毒霧を防げることは既に実証されている。今後の魔王妃の眷属との戦いを考えると、1個と言わず、いくらでも欲しいくらいだった。
残念ながらこの指輪もダンジョンから得られる数に限りはあるが、仁はその1個が期待通りに得られたことを幸運に思いながら、その横の青い球体に目を向けた。濃い青の表面が、光を反射してキラリと輝く。
「もう一つの方は……“毒蛇王の宝玉”?」
「宝玉?」
語尾を上げた仁に、玲奈が同じイントネーションで聞き返す。
「うん。どうやら、これを武器とか盾に組み込むと、触れた相手を毒状態にする効果が付くみたい」
「それって……!」
玲奈が宝玉に向けた目を見開く。この宝玉を使用して得られる効果に、仁も玲奈も聞き覚えがあった。
前回、仁が毒蛇王を倒した際に得られ、帝都でのドラゴン戦で失われた毒蛇王の小盾。玲奈が初めて手にした小盾で、今の戦闘スタイルを確立した思い出深い盾。その盾も、同じ効果を持っていた。
奇しくも、玲奈は先ほどの戦いで盾の周囲に魔力の盾を展開するという毒蛇王の小盾の持っていた能力を再現していたが、この宝玉を組み合わせればもう一つの効果も発揮することが可能となるのだ。
宝玉だけでは意味がないことを考えれば毒蛇王の小盾より価値は劣るかもしれないが、毒蛇王の鱗よりも強固で魔法に対する耐性も高い火竜鱗の小盾を持つ玲奈にとって、大当たりと言ってよかった。
「ミル、ロゼ、イム。この宝玉は玲奈ちゃんのものでいいかな?」
「もちろんなの!」
「はい。レナ様のあの盾には助けられました」
「グルゥ」
皆の肯定的な答えを受け、仁は宝箱の中から宝玉を取り出して玲奈に手渡す。
「ありがとう」
玲奈が皆を見回し、柔らかく微笑んだ。仁は「自分は何もしてないんだけど」と苦笑いを浮かべながら、もう一つの指輪を誰が持つべきか考える。と言っても、ミルは既に持っているし、仁自身には毒を無効化する技能があり、装備できるかどうかはともかく、イムにも必要なさそうだった。
実質2択で、その内、玲奈は盾での防御手段があり、宝玉を組み込めば毒も防げると予想された。対恐るべき鉤爪に関しては毒霧が範囲攻撃のために難しいかもしれないが、何も耐毒の指輪の獲得機会が今回限りというわけではない。仁は折を見て再び毒蛇王に挑戦するつもりだった。
仁がその辺りを説明し、まずはロゼッタに使ってもらうことを提案すると、反対意見は出なかった。
「玲奈ちゃん」
「うん」
仁と玲奈が顔を見合わせて頷き合い、玲奈が指輪を取り出してロゼッタに手渡す。ロゼッタは真剣な表情で指輪を見つめてから、スッと左手の薬指に嵌めた。
「ロゼお姉ちゃん、お揃いなの!」
その様子を見ていたミルがロゼッタに左手を向けると、ロゼッタがミルの小さな手の横に自身の手を並べて微笑み合う。
仁と玲奈は隣り合って二人を眺める。
仁が幸せな気持ちになりながら、ふと玲奈の方を向くと、玲奈は微笑みの中に僅かに寂しさのような感情を乗せているように思えた。玲奈の視線が一瞬だけ、自身の左手に向いた。
「玲奈ちゃん?」
仁が声をかけると、玲奈はハッとしたように顔を上げ、誤魔化すように笑った。
「玲奈ちゃん……」
玲奈が寂しく感じた理由は別に仲間外れにされたからではないということくらいは、仁にも理解できた。
仁は適宜マスタールームを訪れて隠し部屋の罠が復活していないかチェックしようと心に決める。不死者の指輪は無理でも、対毒の指輪くらい、いくらでも入手してやろうという気概だった。
「あっ!」
仁が一人意気込んでいると、ミルが慌てたような声を上げた。
「早く解体しないと、毒蛇王が消えちゃうの!」
物言わぬ塊と化した魔物に向かって、ミルが弾かれたように駆け出す。その後ろをイムが飛んで付いていく。
「そういえば、前回のときは素材が取れなくてミルに叱られたっけ」
仁が苦笑いを浮かべ、玲奈とロゼッタがくすくすと小さな笑い声を溢した。
「仁くん、ロゼ。私たちも手伝おう!」
「そうだね」
「はい!」
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