215 / 616
第十章
10-3.女帝殺人蟻
しおりを挟む
「黒炎地獄!」
殺人蟻の巣窟に転移した直後、仁は左手の黒炎刀の先から極大の黒炎の球を放った。突如現れた仁に戸惑っている魔物たちの中心に着弾した赤黒い球体が弾け、円状に黒炎の波が広がっていく。触れたもの全てを燃やし尽くす地獄の火炎が殺人蟻たちを呑み込んだ。
広範囲の魔物を一掃した仁は、先手必勝と言わんばかりに命の消えた空間へ駆け出し、生き残った殺人蟻の集団目掛けて続けざまに黒炎地獄を放つ。その瞬間、中空に浮いている女帝殺人蟻の触角から青銀の雷光が走った。高速で迫り来る雷撃が仁に直撃するが、仁の足は止まらない。
仁はチラリと空を飛ぶ巨大な蟻の魔物に視線を送り、遠隔魔法を発動した。何の前触れなく女帝殺人蟻を取り囲むように出現した何十本もの黒炎の槍が銀色の甲殻に突き刺さる。女帝殺人蟻は苦悶の叫びを上げながら、高い天井付近に逃れた。
仁は内心で上手くいったと安堵の息を吐きながら速度を増し、4匹の女王殺人蟻に迫る。子供たちの命が次々と刈り取られていく様を目にした女王殺人蟻たちは激怒したように両顎を打ち合わせながら、一斉に仁に向かって走り出した。
「黒炎!」
仁は地を揺らす4匹の巨体目掛けて左の黒炎刀を突き出し、赤黒い火炎を放射する。先頭の1匹が火炎に呑まれて歩みを止めるが、他の3匹は目もくれず、仁だけを見据えていた。仁は速度を落とさぬまま肉薄し、両手の黒炎刀で斬り付ける。女王殺人蟻たちの間を飛び跳ね、合間を縫って、舞うように切り刻んでいく。
女王殺人蟻たちはその巨体が仇となり、お互いの行動がそれぞれの邪魔となって思うように動けないまま、黒炎の刃によって傷を作っていった。黒炎をまともに食らって遅れて参戦した1匹が怒りに任せて突進すると、それはより顕著になった。連携の取れないまま、4匹はそれぞれが足を切り払われ、腹部を切り裂かれ、徐々に致命傷を負っていく。
その頃になって女帝殺人蟻が4匹を援護するために上空から雷撃を放つが、素早く動き回る仁には中々当たらなかった。それでも全く当たっていないわけではない。にもかかわらず仁に大したダメージを与えることができないのは、仁が全身に黒雷の膜を纏っているからだった。
女帝殺人蟻が六枚翅を煌めかせながら狂ったように雷撃を放ち続ける中、仁は遂には4匹の女王殺人蟻全ての頭部を斬り落とした。
『なぜだ! なぜ妾の雷が効かぬ!』
仁は頭上から突然聞こえた声に驚き、慌てて上空を仰ぎ見た。仁は素早く辺りに目を遣るが、そこにいたのは空を飛ぶ銀色の蟻の魔物だけだった。
『神が、妾に復讐の機会と力を与えてくれたのだ! その妾が敵わぬ人間など、いてなるものか!』
女帝殺人蟻の6枚の翅が激しく振動し、羽音が仁の鼓膜を震わせる。半透明の翅が虹色に輝いた。
『死ねぇえええ!』
空を見上げている仁の顔を、強風が襲った。女帝殺人蟻の翅から放たれた風が仁を呑み込んで巨大な竜巻と化した。そこに青銀の雷撃が加わり、バチバチと空気を弾く。
『母や兄弟たち、そして娘と孫たちの仇の人間め。妾の怨みをその身に刻むがいい!』
女帝殺人蟻は強靭な顎をギチギチと打ち鳴らしながら、大部屋の天井まで届く大竜巻を眺める。
ふいに顎音が止んだ。女帝殺人蟻の赤く輝く瞳が蜃気楼のように揺れる。青銀に輝く竜巻が、いつしか内側から滲み出る黒に侵食されていた。ドンッと大きな爆発音に似た音と共に青銀の竜巻が弾け飛び、熱波と衝撃が広がる。女帝殺人蟻が空を伝わる衝撃で体勢を崩す。その爆発の中心地から、漆黒の雷を纏った赤黒い炎の渦が立ち昇っていた。
数瞬後、轟音を残して掻き消えた炎の渦の中から、両手の刀を天に突き上げた仁の姿が現れる。その右手には黒雷刀が、そして左手には黒炎刀が握られていた。
女帝殺人蟻は知らず知らずのうちに仁から距離を取る。それは未知と既知の脅威に対する恐怖からだった。女帝殺人蟻の頭の中が、仁に一刀両断にされた母親の姿や、成す術なく斬り裂かれていった仲間たちの姿で満たされていた。
仁の黒炎では雷撃を防がれず、仁の黒雷では傷つけられない。そして仁が黒炎と黒雷を切り替える際には一旦片方を解除してから発動する必要がある。同族の数多の死を経てこれらの弱点に気付いた女帝殺人蟻は勝ちを疑っていなかったが、それが崩れた今、女帝殺人蟻の心中では復讐心よりも恐怖心が大きく上回っていた。
女帝殺人蟻は進化したことで知能を獲得していたため、仁には敵わないという思いが戦意を喪失させてしまったのだ。
女帝殺人蟻は仁から逃れようと空を舞うが、逃げ場はどこにもなかった。行く先々で仁の遠隔魔法によって生み出された黒炎の槍が襲い掛かった。圧倒的なアドバンテージを持つと信じていた空も仁の領域内だという事実が女帝殺人蟻に絶望をもたらす。
輝く翅をズタズタにされた女帝殺人蟻が地に落ち、ダンジョンの部屋の地面を大きく揺らした。
『来るな……来るな……!』
女帝殺人蟻は無慈悲に近づく足音から逃れようと、傷ついた体を地に這わせた。背後から聞こえていた足音が止まり、膨大な熱量を感知した。それは女帝殺人蟻にとって死刑宣告にも等しいものだった。次の瞬間、女帝殺人蟻は細長い体を長大な黒炎刀によって真っ二つに斬り裂かれ、その命を終えたのだった。
殺人蟻の巣窟に転移した直後、仁は左手の黒炎刀の先から極大の黒炎の球を放った。突如現れた仁に戸惑っている魔物たちの中心に着弾した赤黒い球体が弾け、円状に黒炎の波が広がっていく。触れたもの全てを燃やし尽くす地獄の火炎が殺人蟻たちを呑み込んだ。
広範囲の魔物を一掃した仁は、先手必勝と言わんばかりに命の消えた空間へ駆け出し、生き残った殺人蟻の集団目掛けて続けざまに黒炎地獄を放つ。その瞬間、中空に浮いている女帝殺人蟻の触角から青銀の雷光が走った。高速で迫り来る雷撃が仁に直撃するが、仁の足は止まらない。
仁はチラリと空を飛ぶ巨大な蟻の魔物に視線を送り、遠隔魔法を発動した。何の前触れなく女帝殺人蟻を取り囲むように出現した何十本もの黒炎の槍が銀色の甲殻に突き刺さる。女帝殺人蟻は苦悶の叫びを上げながら、高い天井付近に逃れた。
仁は内心で上手くいったと安堵の息を吐きながら速度を増し、4匹の女王殺人蟻に迫る。子供たちの命が次々と刈り取られていく様を目にした女王殺人蟻たちは激怒したように両顎を打ち合わせながら、一斉に仁に向かって走り出した。
「黒炎!」
仁は地を揺らす4匹の巨体目掛けて左の黒炎刀を突き出し、赤黒い火炎を放射する。先頭の1匹が火炎に呑まれて歩みを止めるが、他の3匹は目もくれず、仁だけを見据えていた。仁は速度を落とさぬまま肉薄し、両手の黒炎刀で斬り付ける。女王殺人蟻たちの間を飛び跳ね、合間を縫って、舞うように切り刻んでいく。
女王殺人蟻たちはその巨体が仇となり、お互いの行動がそれぞれの邪魔となって思うように動けないまま、黒炎の刃によって傷を作っていった。黒炎をまともに食らって遅れて参戦した1匹が怒りに任せて突進すると、それはより顕著になった。連携の取れないまま、4匹はそれぞれが足を切り払われ、腹部を切り裂かれ、徐々に致命傷を負っていく。
その頃になって女帝殺人蟻が4匹を援護するために上空から雷撃を放つが、素早く動き回る仁には中々当たらなかった。それでも全く当たっていないわけではない。にもかかわらず仁に大したダメージを与えることができないのは、仁が全身に黒雷の膜を纏っているからだった。
女帝殺人蟻が六枚翅を煌めかせながら狂ったように雷撃を放ち続ける中、仁は遂には4匹の女王殺人蟻全ての頭部を斬り落とした。
『なぜだ! なぜ妾の雷が効かぬ!』
仁は頭上から突然聞こえた声に驚き、慌てて上空を仰ぎ見た。仁は素早く辺りに目を遣るが、そこにいたのは空を飛ぶ銀色の蟻の魔物だけだった。
『神が、妾に復讐の機会と力を与えてくれたのだ! その妾が敵わぬ人間など、いてなるものか!』
女帝殺人蟻の6枚の翅が激しく振動し、羽音が仁の鼓膜を震わせる。半透明の翅が虹色に輝いた。
『死ねぇえええ!』
空を見上げている仁の顔を、強風が襲った。女帝殺人蟻の翅から放たれた風が仁を呑み込んで巨大な竜巻と化した。そこに青銀の雷撃が加わり、バチバチと空気を弾く。
『母や兄弟たち、そして娘と孫たちの仇の人間め。妾の怨みをその身に刻むがいい!』
女帝殺人蟻は強靭な顎をギチギチと打ち鳴らしながら、大部屋の天井まで届く大竜巻を眺める。
ふいに顎音が止んだ。女帝殺人蟻の赤く輝く瞳が蜃気楼のように揺れる。青銀に輝く竜巻が、いつしか内側から滲み出る黒に侵食されていた。ドンッと大きな爆発音に似た音と共に青銀の竜巻が弾け飛び、熱波と衝撃が広がる。女帝殺人蟻が空を伝わる衝撃で体勢を崩す。その爆発の中心地から、漆黒の雷を纏った赤黒い炎の渦が立ち昇っていた。
数瞬後、轟音を残して掻き消えた炎の渦の中から、両手の刀を天に突き上げた仁の姿が現れる。その右手には黒雷刀が、そして左手には黒炎刀が握られていた。
女帝殺人蟻は知らず知らずのうちに仁から距離を取る。それは未知と既知の脅威に対する恐怖からだった。女帝殺人蟻の頭の中が、仁に一刀両断にされた母親の姿や、成す術なく斬り裂かれていった仲間たちの姿で満たされていた。
仁の黒炎では雷撃を防がれず、仁の黒雷では傷つけられない。そして仁が黒炎と黒雷を切り替える際には一旦片方を解除してから発動する必要がある。同族の数多の死を経てこれらの弱点に気付いた女帝殺人蟻は勝ちを疑っていなかったが、それが崩れた今、女帝殺人蟻の心中では復讐心よりも恐怖心が大きく上回っていた。
女帝殺人蟻は進化したことで知能を獲得していたため、仁には敵わないという思いが戦意を喪失させてしまったのだ。
女帝殺人蟻は仁から逃れようと空を舞うが、逃げ場はどこにもなかった。行く先々で仁の遠隔魔法によって生み出された黒炎の槍が襲い掛かった。圧倒的なアドバンテージを持つと信じていた空も仁の領域内だという事実が女帝殺人蟻に絶望をもたらす。
輝く翅をズタズタにされた女帝殺人蟻が地に落ち、ダンジョンの部屋の地面を大きく揺らした。
『来るな……来るな……!』
女帝殺人蟻は無慈悲に近づく足音から逃れようと、傷ついた体を地に這わせた。背後から聞こえていた足音が止まり、膨大な熱量を感知した。それは女帝殺人蟻にとって死刑宣告にも等しいものだった。次の瞬間、女帝殺人蟻は細長い体を長大な黒炎刀によって真っ二つに斬り裂かれ、その命を終えたのだった。
0
お気に入りに追加
703
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる