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58.ゾーイの存在
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目は口ほどに物を言う。
その言葉通り、リリオ王の真っ直ぐな瞳にはゾーイ大将軍を長年慕い続けてきた純粋な恋心が宿っているように感じた。
だが、リリオ王は静かにその目を伏せた。
「ゾーイの存在はこの国にとって軍事的な支えだったけれど、それだけじゃない。王としての俺にとっても心の拠りどころだった。だから、ゾーイが俺の元を去って以降はずっとずっと不安で仕方なかった。軍だって20年前よりも遥かに強くなったのに、それでも俺は落城寸前のカシュヌの光景を忘れられずにいる。この不安を払拭するためにも、軍事費を蓄えることが何よりも必要だった。2人の言う通り、関税の引き上げはその一環だ」
「国民に負担をかけない一方で、他国との軋轢になりかねない。得策でないのは?」
「それは…、百も承知だけれど、他に方法も見つからなかった。そんな中で君たちの来訪の知らせを聞いて、俺はチャンスだと思った」
「チャンス?俺たちが攻撃を仕掛けるかもしれないと思わなかったですか?だとしたら、考えが浅すぎますね。…それとも我が国を舐めているんですか?」
「いや、そんなつもりじゃ…。でも、むやみに巻き込もうとしたことについては謝るよ」
キースとリリオ王の間には嫌な沈黙が流れた。
その言葉通り、リリオ王の真っ直ぐな瞳にはゾーイ大将軍を長年慕い続けてきた純粋な恋心が宿っているように感じた。
だが、リリオ王は静かにその目を伏せた。
「ゾーイの存在はこの国にとって軍事的な支えだったけれど、それだけじゃない。王としての俺にとっても心の拠りどころだった。だから、ゾーイが俺の元を去って以降はずっとずっと不安で仕方なかった。軍だって20年前よりも遥かに強くなったのに、それでも俺は落城寸前のカシュヌの光景を忘れられずにいる。この不安を払拭するためにも、軍事費を蓄えることが何よりも必要だった。2人の言う通り、関税の引き上げはその一環だ」
「国民に負担をかけない一方で、他国との軋轢になりかねない。得策でないのは?」
「それは…、百も承知だけれど、他に方法も見つからなかった。そんな中で君たちの来訪の知らせを聞いて、俺はチャンスだと思った」
「チャンス?俺たちが攻撃を仕掛けるかもしれないと思わなかったですか?だとしたら、考えが浅すぎますね。…それとも我が国を舐めているんですか?」
「いや、そんなつもりじゃ…。でも、むやみに巻き込もうとしたことについては謝るよ」
キースとリリオ王の間には嫌な沈黙が流れた。
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