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29.王妃は言えない

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「起きろ、エスメラルダ」
「んあっ?」
「もう朝だぞ」

キースに起こされて、目を覚ました。
彼は既に着替えを済ませていたので、俺も急いで仕度する。

ダイニングに向かうと、しょんぼりと反省した父と居た堪れない表情の母がいた。
昨夜の失態を大謝りする父に対し、キースは優しく対応してくれた。
俺の暴言のせいで父の泥酔まで罰せられたらどうしようとヒヤヒヤしていたので、正直ホッとした。

朝食を終えて出発の準備をしていると、母から話しかけられた。

「エスメラルダ、大丈夫?」
「何が?」
「王妃の務めに決まってるじゃないの」
「あっ、うん!もちろん大丈夫だよっ!心配しないで!」
「辛かったら、いつでも帰ってきていいんだからね」

きっと本心ではないのだろう。
母は王妃が簡単に実家へ帰れないことをきちんと分かっている。
この言葉は重責を担う息子への励ましだ。

「うん、ありがとう」

母の優しさがとても嬉しくて、笑顔でお礼を言う。

でも、どうしよ。
数日経ったら、本当に俺この家に帰ってきちゃうんだよな。
それを言えないままに馬車は出発し、両親や使用人たち、集まった領民の皆が俺たちに手を振ってくれた。
心の中で申し訳なく思いながら、俺は精一杯取り繕った笑顔を返した。
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