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86.懐妊(※トーニャ目線)

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「おめでとうございます!ご懐妊でございます!」

ユージーン兄上の即位式を翌週に控えたこの日、医師であるクオーツさんの一言に俺と真白は顔を見合わせて大喜びをする。
クオーツさんから妊娠中の生活の心得や注意を一通り受けて診察を終えた後、2人きりになった部屋で新たな命を授かった幸せを何度も何度も繰り返し噛み締めた。

「男の俺が妊娠しただなんて、まだちょっと信じられないや。このお腹の中に俺とトーニャの赤ちゃんがいるんだな、夢みたいだ」
「あぁ、すごく嬉しい。真白、ありがとう」

真白は俺に優しい微笑みを向けてくれる。
それに応えるように、俺は真白にこの上ない感謝と愛しさを込めて、雪のように白く柔らかなほっぺたにキスをした。
嬉しそうにはにかみながら、真白は自分のお腹を愛おしそうにさすった。

「産まれてきてくれるのが楽しみだな!」
「あぁ」
「ふふっ、パパみたいに強い子になれよー!」

真白の何げないその一言に一気に俺の心はざわついた。

俺は決して強くなんかない。
ずっと過去のトラウマに捉われている。
心の底から大切な存在である真白に拒絶されるのが恐ろしくて、それを隠し通そうとする卑怯者なのだ。

だが、薬のすり替え事件以降、俺はずっと悩んでいた。
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