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四章 黄昏のステラ
ダイナ
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……ボクは、昔から親の不仲を見てきた。
兄が唯一の味方だった。けれど、兄も卒業してしまう。
Sクラスは良いところだった。家に帰るより全然居心地が良くて、皆優しくて。
何より、異色の部屋割りであったレテとシアが、何だかボクの理想としている家族に思えて。
飄々した態度も、風に流すような物言いも、全て仮面に過ぎない。出来るだけ親から文句を言われないように。それだけを考えてきた。
つい先日。対魔物訓練の発表がされた。
その時はただ、魔物を討伐するだけだと思った。
けれどその夜に、兄から話を持ち出された。
「聞いたよな?魔物訓練の話」
「聞いたよ~。それがどうかしたの?」
兄の顔は辛そうだった。兄がそんな表情をするのは珍しかった。少し経った後、切り出した。
「……対魔物には、魔術、武術どちらも必要だ。手段を選んでいる暇はない」
「うん、ボクもそう思う」
そうして、思いがけないことを言われた。
「そう、手段を選んでいる暇は無いんだ。……ダイナ、お前の特異能力を、今のうちにコントロール出来るようにしておくんだ」
「……!」
それは、苦々しい思い出と共に蘇る。
親子で行った鑑定の儀。そこで出た特異能力は……。
「……でも、そうだよね。手段を選んでる場合、じゃないもんね」
「そうだ。母さんや父さんがお前の特異能力をなんと言おうと、お前はそれを使いこなすしかない。……大丈夫だ。話によれば、同じクラスの『顕現の神童』は比較にならないぐらい強いんだろ?」
正直言って、レテに適う自信なんて無かった。
同じ風を得意としているのに、多彩な技を持っていて。
系統なんて何のその、顕現が飛び抜けているだけで他の系統も得意と豪語する上級生なんて比ではないほど強い。
「……相談してみるよ~」
「それがいい。……お前が死なないのが、兄としての願いだからな」
「それはボクも同じだよ」
そう言って、兄と別れてショウとの部屋に帰った。
______________________________
「……特異能力の特訓?」
自分は不思議そうにダイナの言葉をオウム返しに言う。
確かに彼は特異能力を持っていると言っていた。けれど、それを一向に明かそうとはしなかった。
それがどういう風の吹き回しなのだろう。
「うん。……ほら、対魔物訓練があるでしょ?その時に使える手は全て訓練しておきたいなって。
……ただ、ボクの特異能力は正直言ってニアの『殲滅者』よりも危険。だからこそ、レテに頼みたい。勿論、他の皆やスイロウ先生にも見てもらうつもりだけど……」
(……ニアの『殲滅者』は敵と見なしたものに対して攻撃力を増大させる特異能力だ。それよりも危険かつ、自分だけを巻き込むとなると……)
自分は万能でも何でもない。ただ、少しだけ時間の利があっただけだ。
けれど、隠し通してきたダイナが。あの飄々としていた彼が真剣に頼み込んでくるのなら。
「分かった。……訓練場を借りよう」
「……先に謝るね。レテの事だから心配ないと思うけど、もし暴走したら……」
不安に思う気持ちは分かる。彼が特異能力を言わなかったということは、それだけ危険性が高いのだ。あのラクザでの襲撃でも使わなかったと聞いている。
(……いや、そうじゃない。恐らくニアよりも危険性が高いのであれば。使いたくても、『使えなかった』んだ)
考えを巡らせながら、午後の授業がスイロウ先生の入室と同時に開始した。
______________________________
「ふむ。そういう事であれば先生も何人か同行しよう!それでいいかね?」
「はい、お願いします」
放課後。普通の訓練場では特異能力は御法度なので特別な訓練場を借り受けられる事に成功した。
移動する最中、ボソリとダイナが呟いた。
「……ウチってさ、両親が不仲で。いつも喧嘩してるんだ。そんな影響を受けたのかもしれない。
でも、そんな能力でも守れる人がいるのなら。ボクは守りたい。力不足で、親の枷で目の前の人を失いたくない」
「……そうなんだ。なら、一層努力しなきゃな」
たどり着いた先は如何にも闘技場と言わんばかりの場所であった。
ここに来るのは初めてだ。けれど、所々修復の跡がある。それも新しい。
ダイナと同じ考えの人が居たという事だ。それはとても喜ばしいことだと思う。
「確認するぞぉ!今回はダイナ君の特異能力のコントロールが目的であり、相手はレテ君がする!無論、攻撃はやむを得ない時以外禁止!自分を初めとした先生方は暴走時や危険事態の時の介入!それでいいかな?」
「はい」
「大丈夫です」
ダイナが真剣な返事をしたのを聞いて、自分も返す。
さて、どんなものが飛び出してくるのだろう。
「では訓練開始!」
スイロウ先生の合図と共に、ダイナから黒いモヤが立ち込める。
闇魔法ではない。これが、ダイナの特異能力なのだ。
そう思った瞬間、自分の視界が真っ黒になった。
「えっ!?」
「うおっ、なんだこれ!?」
後ろからも戸惑いの声が上がる。これでダイナがラクザの時に使えなかった理由も判明した。
混乱させてしまうのだ。こんなもの使えば、敵襲と思われかねない。特に、相手が影だっただけに。
自分が正直どこに立っているかも分からない。平衡感覚を失っているといった方が正しい。
ただひとつ分かるのは、ダイナがかなり遠くに見えるというだけ。
さっきまで自分とダイナはかなり近くにいた。それが、一気に距離を離された。
(……いや、これが特異能力の性質なのか)
そう考えているうちに、ダイナがハッキリと言った。
「ボクの特異能力は『奈落迷宮』。平衡感覚を奪い、周囲を巻き込んで迷宮を創り出す、空間侵食の類の能力だ」
兄が唯一の味方だった。けれど、兄も卒業してしまう。
Sクラスは良いところだった。家に帰るより全然居心地が良くて、皆優しくて。
何より、異色の部屋割りであったレテとシアが、何だかボクの理想としている家族に思えて。
飄々した態度も、風に流すような物言いも、全て仮面に過ぎない。出来るだけ親から文句を言われないように。それだけを考えてきた。
つい先日。対魔物訓練の発表がされた。
その時はただ、魔物を討伐するだけだと思った。
けれどその夜に、兄から話を持ち出された。
「聞いたよな?魔物訓練の話」
「聞いたよ~。それがどうかしたの?」
兄の顔は辛そうだった。兄がそんな表情をするのは珍しかった。少し経った後、切り出した。
「……対魔物には、魔術、武術どちらも必要だ。手段を選んでいる暇はない」
「うん、ボクもそう思う」
そうして、思いがけないことを言われた。
「そう、手段を選んでいる暇は無いんだ。……ダイナ、お前の特異能力を、今のうちにコントロール出来るようにしておくんだ」
「……!」
それは、苦々しい思い出と共に蘇る。
親子で行った鑑定の儀。そこで出た特異能力は……。
「……でも、そうだよね。手段を選んでる場合、じゃないもんね」
「そうだ。母さんや父さんがお前の特異能力をなんと言おうと、お前はそれを使いこなすしかない。……大丈夫だ。話によれば、同じクラスの『顕現の神童』は比較にならないぐらい強いんだろ?」
正直言って、レテに適う自信なんて無かった。
同じ風を得意としているのに、多彩な技を持っていて。
系統なんて何のその、顕現が飛び抜けているだけで他の系統も得意と豪語する上級生なんて比ではないほど強い。
「……相談してみるよ~」
「それがいい。……お前が死なないのが、兄としての願いだからな」
「それはボクも同じだよ」
そう言って、兄と別れてショウとの部屋に帰った。
______________________________
「……特異能力の特訓?」
自分は不思議そうにダイナの言葉をオウム返しに言う。
確かに彼は特異能力を持っていると言っていた。けれど、それを一向に明かそうとはしなかった。
それがどういう風の吹き回しなのだろう。
「うん。……ほら、対魔物訓練があるでしょ?その時に使える手は全て訓練しておきたいなって。
……ただ、ボクの特異能力は正直言ってニアの『殲滅者』よりも危険。だからこそ、レテに頼みたい。勿論、他の皆やスイロウ先生にも見てもらうつもりだけど……」
(……ニアの『殲滅者』は敵と見なしたものに対して攻撃力を増大させる特異能力だ。それよりも危険かつ、自分だけを巻き込むとなると……)
自分は万能でも何でもない。ただ、少しだけ時間の利があっただけだ。
けれど、隠し通してきたダイナが。あの飄々としていた彼が真剣に頼み込んでくるのなら。
「分かった。……訓練場を借りよう」
「……先に謝るね。レテの事だから心配ないと思うけど、もし暴走したら……」
不安に思う気持ちは分かる。彼が特異能力を言わなかったということは、それだけ危険性が高いのだ。あのラクザでの襲撃でも使わなかったと聞いている。
(……いや、そうじゃない。恐らくニアよりも危険性が高いのであれば。使いたくても、『使えなかった』んだ)
考えを巡らせながら、午後の授業がスイロウ先生の入室と同時に開始した。
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「ふむ。そういう事であれば先生も何人か同行しよう!それでいいかね?」
「はい、お願いします」
放課後。普通の訓練場では特異能力は御法度なので特別な訓練場を借り受けられる事に成功した。
移動する最中、ボソリとダイナが呟いた。
「……ウチってさ、両親が不仲で。いつも喧嘩してるんだ。そんな影響を受けたのかもしれない。
でも、そんな能力でも守れる人がいるのなら。ボクは守りたい。力不足で、親の枷で目の前の人を失いたくない」
「……そうなんだ。なら、一層努力しなきゃな」
たどり着いた先は如何にも闘技場と言わんばかりの場所であった。
ここに来るのは初めてだ。けれど、所々修復の跡がある。それも新しい。
ダイナと同じ考えの人が居たという事だ。それはとても喜ばしいことだと思う。
「確認するぞぉ!今回はダイナ君の特異能力のコントロールが目的であり、相手はレテ君がする!無論、攻撃はやむを得ない時以外禁止!自分を初めとした先生方は暴走時や危険事態の時の介入!それでいいかな?」
「はい」
「大丈夫です」
ダイナが真剣な返事をしたのを聞いて、自分も返す。
さて、どんなものが飛び出してくるのだろう。
「では訓練開始!」
スイロウ先生の合図と共に、ダイナから黒いモヤが立ち込める。
闇魔法ではない。これが、ダイナの特異能力なのだ。
そう思った瞬間、自分の視界が真っ黒になった。
「えっ!?」
「うおっ、なんだこれ!?」
後ろからも戸惑いの声が上がる。これでダイナがラクザの時に使えなかった理由も判明した。
混乱させてしまうのだ。こんなもの使えば、敵襲と思われかねない。特に、相手が影だっただけに。
自分が正直どこに立っているかも分からない。平衡感覚を失っているといった方が正しい。
ただひとつ分かるのは、ダイナがかなり遠くに見えるというだけ。
さっきまで自分とダイナはかなり近くにいた。それが、一気に距離を離された。
(……いや、これが特異能力の性質なのか)
そう考えているうちに、ダイナがハッキリと言った。
「ボクの特異能力は『奈落迷宮』。平衡感覚を奪い、周囲を巻き込んで迷宮を創り出す、空間侵食の類の能力だ」
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