上 下
188 / 198
四章 黄昏のステラ

少し変わった日常

しおりを挟む
「レテさん!ここの部分、教えて貰っていいですか?」

そう言ってリアーが話しかけてくる。見ると、風魔法の広域化についての応用だった。

「……いや、自分は広域化専門じゃないんだけれど……。まぁ、この場合は風を利用する相手が必要になるかな。この事例だと、風で攻撃しない例が出されているから土魔法で礫を飛ばしたり、火魔法や水魔法を飛ばして妨害……かな」

このぐらい、恐らく彼女なら分かるはずだと思いつつ教えると、ありがとう!と言って去っていった。

「むー……」

その様子にシアがちょっと不機嫌になっていた。何故だと思いつつ、シアに聞いてみる。

「シア、どうした?そんな不機嫌そうに頬を膨らませて」

「えっ!?あっ!なんでもないよ!?ただレテ君は面倒見がいいなー!って思っただけだから!ホントだから!」

いつもより早口な彼女にちょっと違和感を覚えつつ、スイロウ先生が入ってくる。

「よぉし!皆揃ってるなぁ!それじゃあ授業を始めるぞぉ!」

今回は魔法具についてだった。自分達の部屋に置いてあるお香もそうだが、それ以外にもスクロールといった使い捨てだが魔法が刻まれた紙を使うことで自分の不得意な魔法で意表を付けること、それ以外にも目覚まし時計、防犯用反撃魔法具、様々な種類が紹介された。

「よぉし!じゃあここで問題だぁ!
さっき出たスクロールのものだが、これを作成するにはどうすればいいと思う?これには正解が幾つかあるから、意見のある人から手を挙げてくれぇ!」

スクロール……。休みの時に幾つかお父さんと買ったが、その仕組みを聞かれるとは思わなかった。本で読んだことはあるので知っているが、ここで自分が全て言っても面白くないので皆の意見を聞くことにしよう。
そう思っていると、シアがバッと手を挙げる。

「お!シア君!君の意見は?」

「はい!スクロールは羊皮紙と呼ばれる物を一般的に使って作られます。そこに魔力を込め、使いたい魔法の形に変化させる……そうして作られると思います!」

これは正解のひとつだ。要は魔力を羊皮紙に通し、魔法に変える。だが他にも方法はある。

「ふむふむ!素晴らしい意見だシア君!さて、他に意見がある人は!」

横でこっそり自分にピースするシアが見えて、微笑みで返す。
すると今度はリアーが手を挙げた。

「お!リアー君の意見は?」

「はい!予めペン等に魔力を込めて、それで文字を綴る形です!これの優位な所は、自分が扱えない魔法でも知っていて、魔力があればスクロールにして使えるところです!」

それも正解のひとつだ。知っているが、系統や得意分野が違う呪文を敢えて書き記して使う。そうすることで一定の威力を出せるようにする。

「なるほどなぁ!貴重な意見だ!他に意見のある人は?」

リアーがこっちに向けてこっそり微笑んだように見えた。それを見てまたシアがプクッとしている。何か、自分を巡って争いでもしているのだろうか。

では最後の締めとばかりに……主にクロウやダイナが……自分を見ているので、手を挙げる。

「お!?レテ君の意見を聞こう!」

これは三つ目にして、あまり知られていない方法だ。

「はい。スクロールは羊皮紙を大前提としていますが、スクロールの羊皮紙というのは魔力の通りが良く、かつ文字も書きやすいという利点があります。
それを全て取り払い、スクロールというものに注目します。
スクロール……捲る、という意味があるこの言葉においては、極論紙で無くても問題ありません。
魔法具としては流通させられませんが、実戦として扱う時に予め地面に魔力を通しておき、相手が踏むなどの条件を仕込ませて一つ捲らせて地雷魔法を発動させる……などのことも出来ます」

自分が答えると、シアや皆が尊敬の目を、リアーが流石という目でこちらを見てきた。

「三人から意見が出たなぁ!正解は複数あると言ったが、これは全部正解だぁ!
シア君の言う通り、羊皮紙に直接魔力を込める方法、リアー君の言う通り、間接的に魔法を埋め込む方法、最後にレテ君の言った、そもそもの意味として魔法を仕込む方法……全てがスクロールとして正解だぁ!
この中の前者二つが、魔法具として流通するスクロール、レテ君の言っていたのは罠としてのスクロールだなぁ!」

嬉しそうなスイロウ先生の話を聞きながら、ふとミトロとレンターの方に目を向ける。本の虫である二人ならば分かっていたのではないか、と思ったのだ。

じっと見つめていると、そっぽを向かれた。それも同時に。つまり、二人は何かを察してわざと答えなかったことになる。

(何を……何を察したのか教えてくれ、二人とも……)

ペンでスイロウ先生の教えをノートに書き込みながら、必死にそう願っていた。

授業終わりの休み時間、シアの距離感が心無しか以前より近くなった。
何をするにも手を繋いだり、スキンシップが過剰になった気がする。
これでは他の人にもバレてしまうのではないか、と思ったがこういう事に察しの良いニアと、人間関係に一癖ありそうなダイナが敢えて何も言ってこないところを見ると二人にはバレているだろう。
それにしても何故、急にこんなことをし始めたのか。自分は腕に抱きつくシアを見ながら考えていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...