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四章 黄昏のステラ

改変の違和感

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(……)

自室に戻った後、自分は早々に転がって考え事をしていた。
すっと右手を掲げる。問題が何か起こる時は、大抵自分の特異能力が悪さをしている、そんな気がしたからだ。

「どうしたの、レテ君。今日は早く寝ちゃって」

シアが心配そうな声をかけてくる。それに答えようとして、ふと一つの疑問が浮かぶ。

「……なぁ、シア。シアはリアーさんと一緒になったあと……訓練場に行ったんだよね?」

「ん?……うん、多分、そうだと……思うよ?」

そこだ。違和感を感じた点は。
シアは育ちの関係上、何があっても利用施設は許可を取るはずだ。リアーとて、転校したばかりとはいえそれを知らないはずがない。

なのに何故、訓練場に申請が出されていない?

「……シア、特異能力が暴走した時のこと、覚えてるか?」

それを聞くと途端に顔が真っ赤になる。何か変な質問でもしただろうか。

「ふぇ!?えっと、ええっと……!」
「……あ、嫌なら言わなくていいよ。個人的な疑問だから」

そう言うと、シアは黙って頷いて上のベッドに登る。

とはいえ、答えてもらえなかったなりに考察をしてみる。
シアがリアーと仲良くしているところを見ると、二人きりになった後喧嘩になった訳では無い。
けれど、現にシアの特異能力は暴走している。
とすれば、シアの琴線に触れる何かを言ってしまった、もしくは行動に移したかだろう。

(……孤児院関係でボロクソに言われた、とかか?いや、でもそれなら今リアーと仲良くしている理由に説明がつかない。
となると、他の……何かしらの挑発か失言での暴走になる。
だけどそんなシアが暴走するような……。いや待て)

暴走。考えていなかったが、暴走を直ぐにしたとすれば教室付近、並びに校舎付近が荒れたはずだ。
なのに自分やシア、リアーさんが居たのは荒れた痕跡ひとつ無い訓練場だった。

明らかにおかしい。自分は忘れ物は無いことを確認するタイプであるし、何より忘れ物の確認より先に訓練場に向かっている。
そして、その訓練場には荒れた痕跡……暴走の痕跡は無かった。
ここから考えられる事は一つ。

(……暴走は、別の場所で処理された?)

何らかの理由で自分が忘れ物を取りに行く、ないしその理由付けをしてまで訓練場に向かって暴走に巻き込まれた。
その上、暴走は別の場所……訓練場では無い場所で鎮められた。

(だとしたら、琴線に触れられることをされたのはシアではなく……)

自分の左手をそっとベッドの上に伸ばす。
理愛の盾。この理で自分自身にも干渉し、記憶を改変したとなれば辻褄自体は合う。

(だけどそんな事があるのか?……そもそも、自分が怒りで暴走する前に他の方法で止める方法もあったんじゃないか?)

ここまで考えて、これ以上は無限ループに嵌ると気づいた。
大人しく目を閉じると、睡魔がすぐにやってくる。
そのまま身を任せて、少し早いが寝ることにした。

翌日の朝。曇天の雨。

「げっ、傘いるのか。この時期に」

自分が呟くと一緒に窓を見たシアが言う。

「この時期でも雨は降るでしょ!ほら、準備準備!」

「はいはい」

そう返して準備をし始めた。
朝の食堂はそんな雨など気にせず、元気だ。

「昨日は大変そうだったけど、まぁ何とかなって良かったよ」

クロウがパンを食べながら言うと、呆れたようにレンターが返す。

「……特異能力の暴走をそれで済ませるのは……あまりに無理がありませんか?」
「だってそれ以外に言い様が無いんだもの」

何だかそれもそうだな、と思いつつスープを吸う。

(……ん?)

そこで気づく。自分は、シアが暴走した事は知っているが暴走した特異能力を一欠片として覚えていないのだ。

(どうしてだ?訓練場に駆けつけたなら少なくともその暴走の様子は見たはず……。でも現に覚えてない。ということは)

食べ終わった皿を置いて、そっと自分の左手を右手で撫でる。

(……暴走したのはシアだけじゃない、ってことか)

そう結論づける。これだけ不自然な点がある以上、記憶が捻じ曲げられたとしか考えられない。

「あ!レテさん!」
「……ん!?はい?何でしょう」

声をかけてきたのはリアーだった。空想から現実に戻ると彼女の言葉に耳を傾ける。

「今度、一緒に鍛錬しませんか?お互いに顕現系統、風属性得意同士発見があると思うんです!」

手を合わせてキラキラとした笑顔で言う彼女に頷いて答える。

「わかった。自分も鍛錬はしたいし、リアーさんの実力も見ておきたいから」
「わーい!約束ですよ!」

ふふっと笑って席に戻る彼女を見ながら、ふとそれを目で追いかけるシアが見えた。
何やら目に炎が宿っている。そんな関係だっただろうか。
そう思っていると、シアも近づいてくる。

「私も別日にいい?模擬戦で私の実力を知っておきたいの!」

「ああ、勿論いいよ」

そう答えると他のクラスメイトから突っ込まれる。

「それだったら俺だって相手してもらいてえよ!」
「……確かに、ショウの言う通りです。私も闇属性をどこまで扱えるか気になりますし」

結局、全員で鍛錬ということに落ち着かせた。
リアーの顔は終始ニッコニコだった。
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