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四章 黄昏のステラ

筋肉痛

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手合わせの後、夜ご飯を食べて風呂に入る。

「つ、疲れた……」

かぽーん、と桶の音が鳴る中自分は呟いた。温かいお湯が身体に染みる。

「そりゃなぁ……明日筋肉痛にならないようにな……?」
「う、クロウありがと……」

流石に模擬戦二回だけとはいえ、魔力の消費量や魔法の創造。それを形にして教えるのは身が疲れきって辛かった。

「……俺は早めに上がる。のぼせないようにな」
「僕も~。今日はいい経験になったよ~」

レンターとダイナが先に風呂から上がる。それを見て自分も上がろうと立ち上がる。

「そういえばよ、さっき職員室の前通ったら偶然聞こえたんだけどさ」

ショウが同時に立ち上がって脱衣場まで来ると不意にそんな話を持ち出してきた。

「……今度、転入生が来るらしいぜ。ウチのクラスに」
「転入生……?」

AやBクラスではなく、Sクラスにという事だろう。そんな事があるのだろうか。

「楽しみだよな!どんなつえー奴なんだろう!」
「つ、強いだけが魔術学院に転入する条件じゃないよショウ……」

苦笑いしながら髪の毛を乾かすと、部屋に戻る。
二学年になったので、階層も一つ上だ。下に落ちたクラスメイトも、上に来た子も居なかったので相変わらず部屋割りは変わらなかったが。

「……寝るの早いな?」

相変わらず上のベッドで転がるシアを見て呟くと、グタっとした様子でヘロヘロの声が届く。

「だって……疲れた……」
「気持ちは凄くわかる」

相変わらず重宝するお香に魔力を込めると、消灯時間には少し早いが電気を消す。

「もう寝よう」
「そうするー。レテ君も疲れたでしょ」
「滅茶苦茶疲れた」

下のベッドに転がると、直ぐに睡魔に襲われる。
そのままぐっすりと、寝てしまった。

翌日。休みだがこの日は部屋で療養する事になった。

「アイタタタタ!!」
「言わんこっちゃないな。シア、後は頼んでもいいか?」
「うん!大丈夫だよ!」

筋肉痛……というより、魔力と筋力両方を使って木刀を振るったのが原因で軽い魔力切れと筋肉痛に襲われたのである。

気がついたのは朝。起き上がろうとして、身体を上げた時だった。

「いだっ!?」

その声にシアがビックリして自分のベッドを見ると、海から打ち上げられた魚のようにビクビクしていたらしい。

とりあえず助力を受けながら起き上がると、シアには食堂に行って皆に説明してくれと頼んだ。
その結果、皆呆れたようにお見舞いに来てくれたわけた。

「まぁ……そうなるよな。お前木刀なんて持ってるイメージは無かったし……。言わんこっちゃない……」
「顕現系統で作ったそれっぽい木刀を……維持しながら戦ったら……魔力が……身体が……アイタタタタ……」

そう言っていると、ファレスがこっちに来る。ミトロとフォレスが制止する前に、既にバシン!と叩かれていた。

「大丈夫大丈夫!明日には治るって!」
「アイダダダダ!?」

その後も興味を持った……もとい弄りたかっただけのダイナにつつかれ、先程に戻る。

「じゃ、お大事にー!」
「……ファレス、悪化させておいてその言い草は酷い」

そう言われながらフォレスに叩かれる彼女達をシアが見送ると、シアが鍵をかける。

「それにしてもねー。レテ君が筋肉痛……ああ、筋肉だけじゃないんだっけ?」
「そそ……いや、でも正直木刀を重くしすぎたとは思う……」

これは本当だ。木刀のイメージが対人用だったため、重心がキチンとしているのを顕現で維持し続けた。
結果魔力が消費し続けられ、その上物理的にそれを持ってアクロバティックな動きをする事になったのだから自業自得この上ない。

「……今度の休み、木刀買いに行こっか」
「そうする……」

そう言うと、シアが横で本を読み始める。自分の家から借りた本だ。

「シアもミトロとかと遊びに行ってもいいんだぞ?自分何もできないし」
「何も出来ないからここにいるんだよ?
大体、君に朝ご飯食べさせたのだーれだ?」
「うっ!?」

それを言われると何も返せる言葉がない。あれは皆の前じゃなくても恥ずかしかった。

「……でも、嬉しかったな。食べさせてあげることが出来て」
「ん?どういう意味……?」

そう問いかけると、本から顔を上げて微笑みながら彼女が言う。

「だってレテ君、いつも私に何かしてばっかりじゃない?訓練も練習相手も。だから何でも出来るのかなあって思ったけど……。筋肉痛になって、レテ君をこうやって看病して、私にも出来ることがあるんだなって」
「……」

正直タダの筋肉痛であれば光魔法で即座に治してしまえば良かったが、魔力も無茶をさせられなかったのでこの状態である。
けれど、それが彼女にとって。自分が愛する人にとって嬉しかったと言われるのなら。

(……たまにはこんな日々も、いいかな)

そう思いながら転がっていると、シアが横に潜り込もうと乗り込んでくる。

「ちょっ!?」
「シングルベッドでも二人ぐらい行けるって!平気平気!」
「そうじゃな……イタタタタタ!?」

無理に転がされた自分は、ご満悦そうに横で本を読むシアとは対照的に、やはり死んだ魚の目をしていた。
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