上 下
181 / 198
四章 黄昏のステラ

アステスとの手合わせ

しおりを挟む
「すみません、戻りました」

木刀を携えて戻ると、アステスは既に準備完了のようだった。瞑想をしていたのか、地面で座っていたところから目を開くと立ち上がる。

「大丈夫です。……それにしても、魔術学院の先輩が武術も出来るなんて意外です」

「レテが大体凄いんだよな……俺らは魔法覚えるので手一杯だけど、知識の吸収が早いっつうか……俺らが復習に回す時間を武術とか身体の鍛錬に使えるんだよ」

ショウが言うと、皆頷く。それに対して自分はこそばゆいような、嬉しいようなムズムズした感じで返す。

「ま、まぁ……ほら突き詰めれば両方できた方が有利だろ……?」
「突き詰め方が早いんだよ……」

シアに苦笑されるが、全くその通り、とばかりに頷くクラスメイトに何も言えなくなってしまった。

これ以上遅らせてもいけないのでアステスが待つ中に入ると、スイロウ先生が結界を貼ってくれる。

「よし、じゃあ一言だけ言うぞぉ。……レテ、過度な魔術禁止」
「……ハイ」

先程の最後の剣の事だろう。肝に銘じながら木刀をすっと前に向かせ、彼女が拳を構える。

「それでは、始めっ!」

その瞬間に自分から突っ込む。木刀を斜めに構えながら下から斜め上に切りかかろうとする。

「ふっ!」

しかしバレバレの予兆は流石に武術の首席は許してくれない。瞬時に屈んで横に転がると、パンチを繰り出してくる。

「おっと!」

それを木刀で防ぐと、木刀を手放してそのまま蹴りの体勢に入る。

それを見て彼女はパンチの勢いのまま前転すると、蹴りを避ける。木刀を拾うと、感嘆する彼女の声が聞こえる。

「……正直、ナイダ先輩からは光魔法が扱える、としか聞いていませんでした。なんでそれを知ってるのかと思いましたが、手合わせを?」

「魔法ありき、だけどね。さて。じゃあここからは魔法も使わせてもらうよ」

「……望むところです」

そう言ってお互いに構え直すと、今度はアステスが突っ込んできた。
愚直なまでの直線。そこに迷いはない。
だから正面から受けて立つことにした。木刀を横薙ぎに払うと、彼女が苦い顔をしながらスライディングに変えるのが見えた。
転げないように、というより彼女を踏まないように風で自重を支えてから降りると、なるほど、と評価する。

「何も無い直線、武術学院や嗜んだ事がある人なら『フェイク』だと思わせられると踏んだんだね」

「……おっしゃる通りです。本来はスライディングなどせず、避けたところを足払いする予定だったのですが」

「はは、そのフェイクのかけ方も習うよ。いつか、ね」

そう言うと、自分は手本を見せるべく横をグルグルと回り出す。

そして適当なタイミングで突っ込むと木刀だけ投げつける。

「!!」

そのまま蹴りに移行するのを見て彼女が避けてカウンターしようとする。
しかし、自分は風で木刀を操り、彼女の横から勢いよく当てた。

「っ!?」

その隙に、彼女に足払いをかける。その瞬間に彼女は光魔法で、視界を遮った。

「うおまぶしっ!」

そう言いながら自分は闇魔法で逆に暗闇で囲う。

「しまっ……!」

そう言った彼女の手には、光の玉……つまり、先程習得した魔術が見えた。

「これは一本取られかけた。光で視界を遮った所に、自分の行く方向にそれを投げつけて避け場所を少なくしてから近接戦闘に持ち込む予定だったのかな」

「くぅ……闇魔法の広域化で覆われては、見え見えですけどね」

そう言ってヤケクソ気味に投げつけてくるが、これこそフェイクだと思った。
自分はそれを避けた後、一拍置いたあと木刀で回転斬りをする。

「ぅ!?」

そこにはぶち当たった彼女がいた。

「……本当に怖い。バレたら次はそれを自分がやったようにそれを囮にして、一泊置いてそちらを見ている間に突っ込んでくる」

「なんでもお見通しですか……!」

悔しさを滲ませる彼女に、自分は木刀に風を付与しながら言う。

「一年の違い。だけど、それだけでも……経験しがたいことを味わったから」

「そう、ですかッ!」

そう言って彼女は本当に素直な、綺麗な直線で突っ込んでくる。
フェイクでも何でもない、終わりの拳だ。
だから、風を纏わせた木刀の前で、ポツリと呟いた。

「……君を救えて、良かった」

そのまま木刀を振り下ろすと、付与された風が結界内を吹き荒れた。勿論、彼女の身体もそうだった。

風で飛ばされた彼女の前に、木刀を突きつける。

「そこまでぇ!」

スイロウ先生の掛け声と共に、彼女に手を貸す。
しかし、その手を取ろうとしない。呆然とした顔でいる。

「どうかしたのか?……あ、木刀ぶつけたから痛かった!?それとも最後の風で!?ご、ごめ……」

「……先輩」

「……?」

呆然とした声で、呟かれた。

「……私、風の中でも聞こえたんです」
「っ!?」

つまりそれは、最後の……。

「……あれ、どういう事ですか。まさか、孤児院でも話題になっていた『ラクザの幼き兵士』の事、あれを率いていたのは……」

その声は自分とアステスにしか聞こえていない声だった。だから口元に手を当てて、しーっと息を吐いた。

「……ウワサは噂、だよ」

そう言って手をとると立ち上がらせる。
皆の所に戻る中、彼女が呟いた。

「光魔法を生み出す力、ネイビアに見せた風の底知れぬ魔力、そして得がたい経験……もし、もしも全部本当で、先輩が本気のほの字も出してなかったとしたら……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...