上 下
168 / 198
四章 黄昏のステラ

学年対抗戦 武術学院

しおりを挟む
武術学院の学年対抗戦は、少しだけ特殊だ。
魔術学院のように魔法を使って攻撃することは許されないが、魔法による自己強化や妨害は認められている。
例えば風を扱ったとして、風の刃を飛ばすのはルール違反となるが自身に風を纏わせて素早さを上げるのは認められている。
また、お互い年齢や経験、危険度からして武器を携帯することは認められていない。つまり肉体勝負だ。

ナイダは控え室で深呼吸する。相手は今年の首席、アステス。彼女が得意とするのは恐らく光。しかし光魔法は火、風、水、土の四属性と違って闇と同じく他の補助に長けている。
しかもアステスがどの系統を得意としているのか分からない。顕現ならばともかく、広域化、収束。最悪なのは付与系統だ。自身に光を付与することにより、純粋な肉弾戦は勿論、撹乱することも可能だ。
唯一ルールに助けられたとすれば、魔法による攻撃が禁止なことだろう。これが出来るかは別として、もしも光による攻撃が可能であれば勝ち目がないことをナイダは彼との戦闘によって知っている。
次の番だと呼ばれ、ナイダは席を立つ。

(……負ける訳には、いかない)

ナイダが入場すると、場が湧き上がる。そしてアステスが入れば、更に声は大きくなった。

その直前、アステスも控え室で考え事をしていた。

(武器の携帯は不可、でも魔法の妨害はあり……)

座ったまま自分の右手を見つめる。得意なのは広域化系統。だが、光魔法の広域化で何が出来るか。
自分を助けてくれたあの人ならどうするか。それを思考する。

(きっとあの人なら周りに光をばらまいて撹乱する。その隙に攻撃する。魔法による攻撃は出来ないけど、その分お互い距離の近い肉弾戦なら有利を取れるはず)

顔も何も分からず、声すら発しなかったけれど何故かあの人を思うと勇気が出る。それは命の恩人であり、同じ光を使う人だからだろう。

「アステスさん。そろそろ準備をお願いします」
「あ……はい、先生」

不意に呼びかけられて席を立つ。自分に出来るのは全力でぶつかって、先輩の強さを吸収する事だけ。

特設闘技場の中に入ると歓声が上がった。目の前には既にナイダ先輩が銀髪を揺らして立っていた。

「ナイダ先輩。今日は胸をお借りします」
「……ええ、アステスさん。お互いに悔いのない戦いをしましょう」

そう言って先輩がお辞儀をするのに合わせて自分もお辞儀をする。
そして十分に距離を取った後。先生による掛け声が入る。

『それでは武術学院、Sクラスの学院対抗戦を行います。……始めっ!』

その合図と共にナイダ先輩が小手調べとばかりに突っ込んでくる。
既に疾風を纏っている。彼女は風が得意なようだ。
一瞬にして詰められた距離の中、自分は屈んで繰り出されたアッパーを避けて背中に周り、握り拳の横の部分で叩こうとする。
それをあっさりと足を片足だけ回転させて距離を取ることで回避されると、反撃とばかりに拳が正面から飛んでくる。

(風の力だけじゃない!純粋にこの人が速い!これが……Sクラスの先輩。でも私だって!)

その拳を顔を逸らす事だけでいなすが、それはフェイクであった。
二撃目のもう片手の手が腹の部分に当たり、思わず仰け反る。
このままでは猛攻が続いてしまう。そう思った時に私は光を撒いた。

「っ!」

驚愕の声と共に一瞬視界を奪われた隙に体勢を立て直す。そのまま踏み込み、拳を目の前に突き出す。

「まだ甘い」

しかし拳は捕まれる。ならばとこれ幸いに身体を前のめりにさせて頭突きをする。
先輩は一瞬よろめいたが、拳を離して自分に足払いをかけて後ろに下がる。

「くっ!」

自分は転ぶと、再度光を広域化で展開して直ぐに場所を移動する。
そもそも風で速くなっている先輩相手に正面からやり合うのはまだ技量的に無理だ。しかし、一矢報いる事ぐらいは出来る。

光をとにかく四方八方に広域化で展開させ、先輩の周りを駆け回る。
魔力の消費が激しいが、今は気にしている場合ではない。しかし、それまでだった。

「なるほど」

そう言った先輩が、突如見えていないはずなのに自分の方向に回し蹴りを繰り出した。
予想外の攻撃をもろにくらってしまい、吹き飛ぶ。そして風を切るような音と共にこちらに向かってくるのがわかる。
回し蹴りの当たった位置で、どこに吹き飛ばされたのかを予測したのだろう。そして、あろう事か自分は突如後ろから風に押された。

(しまっ……!)

先輩は今まで自己強化しかしてこなかった。だから、風で強引にこちらを詰めさせる妨害方法など、頭から外れていた。

「ふっ!」

そのまま胸元を捕まれ、背負い投げをされる。
地面に叩きつけられる。そして、ここで試合終了の笛が鳴った。
そうだろう。このまま追撃されれば酷い怪我になりかねない。

(……まだまだ私は弱い)

四属性のように沢山の文献があれば、どんなに楽だったことか。光魔法を教えてくれる人なんて、武術学院にはおろか、魔術学院にも居ないと聞いた。それだけ光と闇という二属性が極端に少ないのだ。

叩きつけたナイダ先輩が手を差し伸べてくれたので、その手を取って立ち上がる。すると、予想外の一言が飛んできた。

「光の使い方。上手だった。見るからに広域化系統だと思うけれど、上手く撹乱するやり方を知っていた」
「でも……先輩はそれを見なくても回し蹴りを……」
「それは貴方が疲労していた吐息が聴こえたから。もしも足音だけなら詰められて私が攻撃を受けていた」

そう言って褒められる。規格外だ。この先輩は。
多くの事を学べる、そう思った矢先に衝撃の言葉を耳元で囁かれた。

「……光属性。確かに文献は少なくて、教えられる人だっていないと思う。けど、一人だけ魔術学院で光を教えられる人がいる」
「……っ!?そ、その先生の名前は!私は光を扱う力が欲しいんです!」

教えられる人がいる。そんな凄い先生がいたのか。それに食いつくように服に縋り付くと、頭に雷が落ちたかのような言葉が出てきた。

「先生じゃない。私と同じ二学年のSクラスの生徒。……落ち着いたら頼ってみるといい。名前で探すより、先輩を見つけてこの言葉で聞くといい。……『顕現の神童』の先輩を知りませんか、って」

「顕現の……神童……」

その言葉を脳裏に刻んで、お互いにお辞儀をして回復の手当を受ける。

もしも、本当にその人が光の扱い方が分かるとしたら。
何がなんでも力にしたい。これ以上、無力な自分にならない為に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...