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四章 黄昏のステラ

ナイダの特訓

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照りつける太陽の日差しの中。武術稽古の場にてナイダは通っている学院の事を思い出した。
いや、学院ではない。正確に言えば『彼』の事だ。

(……守護者の、師)

それは、大きな衝撃であり、納得でもあった。
ナイダが模擬戦で対等に戦えたのは、彼がそれを隠したかったから。

純粋な光魔法、自身の特異能力までは使っていないものの恐らく持つであろうそれ。そして、まだまだ分からない……いや、理解出来る範疇を超えた知恵。

私はそれを知りたい。並びたい。そして、越えたい。

(……私は……)

「ナイダ!次の相手は君だぞ!」

そこまで考えたところで、師範代に呼ばれる。そうだ、今日は黙想でも空想でもない。タルタロスの一件の事から行われている、師範代からの稽古だ。

「はい!」

木刀を持って立ち上がると、師範代と対峙する。
風が吹く。木々が揺れる。そして、目の前の大きな男性の師範代はどっしりと構えている。
しかし、ふと思った。

(……彼より、威圧がない)

ナイダを影から救った時の彼は、正に場の支配者だった。
敵でない……寧ろ、護られたナイダですらその気迫を感じたぐらいだった。
だから、自分の力を確かめる意味合いで言った。

「……師範代。本気で来てくれませんか」

「本気?」

「はい。手加減ではなく、本気です。……タルタロスの時の様な事や魔物討伐ではこんな風に待ってはくれません。ましてや、手加減などしてるはずもない。……お願いします」

その言葉に周りの先輩もざわめく。当然だろう。子供とはいえ、こんな事を言い出すのだから。
しかし師範代は頷いた。

「分かった。……ただし、君が戦えなくなった時点で終わり。互いに魔法、君は特異能力の使用は無しだ。それでいいかい?」

「はい」

そして、ふっと息を吐いて師範代が木刀に力を入れ直した。
すると、あの時のような気迫がこちらに伝わってくる。

(……そう。この感覚。まずは師範代を超えるところから)

そして、どちらともなく。教え子の一人がベルを鳴らして稽古は始まった。
直接的な力関係ではナイダは決して適わない。だからこそ、小手先の勝負をする。

「……しっ!」

愚直に振り下ろされた木刀を、ナイダは自身の木刀で斜めに受け流す。
そして同時に木刀を逆手持ちにして、身体ごと旋回させる。

「どうした!隙だらけだぞ!」

そう、どうしてもこれには隙が出来る。
が、それでいい。それでいいのだ。

本気で突っ込んでくるからこそ、待たない。仕掛けに来る。そのタイミングでナイダは彼のように木刀を『捨てた』。

「ふっ!」
「……!」

そのまま身体だけ離脱させると、そのままスライディングで師範代の足を狙う。
すると師範代はどうしても横に避けるか、跳ぶかしかない。
師範代は横に跳躍した。それを見て木刀を拾うと、師範代の方に向かう。
師範代が木刀を今度は横なぎに振るう。それをナイダが屈んで避けると、その身体を使って逆立ちの勢いで木刀を蹴飛ばす。

「っ!?」

まさか蹴飛ばされるとは思っていなかったのだろう。それを見て、直ぐに屈んだ体勢から木刀の持ち手を師範代の腹に突き刺す。

「ぐ……!」

普段ならば大したことない事でも、木刀が蹴飛ばされたという驚き。そしてがら空きになった腹部。そこに不意打ちの突き刺し。
流石に力関係では及ばなくとも、多少の効果はあったようだ。

「はは……武術学院に通ってまた力を付けたね、ナイダ。いい同級生や先輩に出会えたのかな?」

「……ええ、出会えました」

稽古はそこで終わりだ。これ以上やると、今度はナイダがカウンターを食らって終わる。

「因みに魔法アリだったらどんな魔法を使ったかい?ナイダ」
「そうですね……まず、風による身体の素早さに緩急を付けます。更に相手の木刀に細工をして上に飛ばす、もしくは細工したと思わせて自分が不意打ちの一撃を飛ばす。そんな戦法を取ったかと」
「なるほど。魔術も学んだわけだ」

周りからも拍手が送られる。しかし、ナイダは満足しなかった。

(……もしも、彼が相手なら)

彼に本気を出してくれ、と頼むのは難しい。だが彼が本気を出したのなら。魔法も込みで来たのなら。

師範代は、勝てない。

考えてみれば当然だ。そもそも複数の属性を使いこなす顕現系統の彼は木刀なんて獲物を気にしなくて良い。土系統で何本も作り出して、それを一斉に降らせるだけで決着がつく。

それを考えて、ナイダは震え上がった。

(……土系統、いや、確か彼は風が得意なはず……なのに土も、恐らく全ての属性を平等に扱える。……アグラタム様の師なのも納得出来る。恐らく、私の考えている以上に彼は力押しも、小手先の技も、色んな方法で攻められる)

周囲は拍手している。師範代に一本喰らわせた事、突飛な発想で不意をついたこと。それらは耳に入ってくる。

それ以上に、自分が力不足だということを実感した。彼ならば、魔法など使わなくても同じように師範代と戦えるだろう。
それが魔術学院の一位。逆に言えば武術学院のナイダですら武術で適わないのに魔術も一位。実質両学院の頂点であろう。

(……それでも、超えてみせる)

師範代から差し出された水を飲みながら、ナイダは一層固い決意を持って鍛錬に望んだ。

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