上 下
162 / 198
四章 黄昏のステラ

ステラ

しおりを挟む
「……貴様、どこから入った?」

イシュリア皇国、王城。アグラタムが玉座の間にてイシュリアを守るように目の前の存在に敵意を剥き出しにしている。
対して、相対する存在は淡々と告げる。

「ここまで来るのに相当な苦労はかかりました。ですが、私の国の妙技にて少しばかり無茶をしてでもここに来ました」

その言葉を聞いて益々アグラタムは警戒心を強める。
国。つまり、異界。異界の侵攻を知らせる鐘は鳴らなかった。つまり、元からこの国に潜伏していた事になる。
危険因子、排除……そう考えている矢先に相手は告げる。

「私は、貴方方に助けを求めに来た。無論、タダとは言わない。知りうる限りの情報、私の国の術。必要とならば命を取られても良い」
「戯言を……!」

剣を構え、目の前の存在に対してアグラタムは風を纏って斬りかかった。
ズドォン!と相手の真横の地面がえぐれる。相手は微動打にしなかった。それを見て、イシュリアが声を出す。

「……アグラタム。武器を収めなさい。どうやらこの者の決意は本物のようです」
「はっ」

すぐさまイシュリアの盾となるように飛ぶと、剣を鞘に戻す。それを見て、相手が再び話し出す。

「まずは自己紹介をしなければいけませんね。私の名前は『ステラ』。お察しかと思いますが、とある異界の民で有りながら、このイシュリアにて平穏な生活を送っていました。……ですが、状況が一変しました」

その言葉に疑問を持ち、イシュリアが問いかける。

「異界の民、と言ったわね。しかしこの前のタルタロスの侵攻以前、異界の扉が開いた時はこのアグラタムが全て撃退したはずです。何故、貴方は今、この場まで気が付かれずに居られたのですか?」

これは割と深刻な問題であった。
異界の侵攻をバレずに行う方法があれば、イシュリアの民に被害が出かねない。
その答えを相手は告げる。

「私には二つの意思……魂があります。
一つは先程言った通り、異界にいる『ステラ』の魂。
もう一つは、このイシュリアに魂を送り込み、純粋に赤子から育った存在。今までバレなかったのは、魂を赤子から育てたからでしょう」
「……いいでしょう。ならば更に問います。私たちに助けを求める……そう言いましたね?何故、危険と貴方の全てを代償にして助けを求めているのですか?」

その言葉に、ステラは少し悲しそうに答える。

「……我が異界はイシュリア程ではありませんが、平和を保っていました。しかし技術や魔術……その歩みは余りに遅い。故に私は魂を二つに分け、イシュリアの文化を少しずつ国に取り入れていきました。
そこに問題はありませんでした。イシュリアの文化を本当に少しずつ……そう、それこそ赤子が成長していくようにそっと発展させていきました。
しかし、ある兆候が見られた為、こうして無礼を承知で目の前に現れさせていただきました」

ふむ、とイシュリアが考える。
ここ最近の出来事はタルタロス程度だろう。しかし、このステラが言うには何かがあったらしい。だが、情報が足りない。

「……良かろう。話せる範囲で話せ」
「はい。その兆候とは、即ち我が異界を取り巻く『神』と呼ばれる存在により齎されたと考えます。……イシュリアにも魔物がいるかと思われます。しかし、その神は異界の民全てに対してこう告げました。
『この国は神によって統治されるべき。故に人の……種族による発展は不要。然る時が来た時にこの国を創り直す必要がある』と」

なるほど、つまり要約するとこうなる。
この目の前にいるステラは国の発展を願ってイシュリアから少しずつ文化を取り入れた。しかし、それを気に入らない神が創り直す……即ち一旦国を、発展した種族を滅ぼすと言っているのだ。

「神の意思は絶対。それを受け入れる者も沢山おりました。しかし、それを良しとしない者も同時に沢山おりました。
神は恐らく、私を……ステラを恐れているのでしょう。
即座に粛清してしまえば、例え異界のステラが滅ぼうともコチラの……イシュリアのステラがまた発展を促す。神はそれを繰り返されるのが早い話、嫌なのでしょう」

なるほど、事情は分かった。しかし、それではここまで来た理由が分からない。
何故、私に……イシュリアに、危険を侵してまで助けを求めに来たのか。それが知りたい。
すると、それを察したようにステラが答える。

「……近頃、イシュリアの魔物の活動が活発になってはいませんか?」

その問いにアグラタムが答える。

「……たしかに。少しずつ、本当に少しではあるが魔物の対処が増えている。しかし、我らの出る幕ではない。それこそ、学院生や冒険者が対処出来る程度だ。……それがどうかしたのか?」

その問いにステラが返す。

「……恐らく、数年後。いいや、数年かけて、魔物が強くなるでしょう。恐らくそれは、私の異界による神の干渉。私を繋ぎ目として、力を奮っているのでしょう。
ですが、私を通しているため力は十全に振るえない。しかし、イシュリアの私が自害すれば即座に故郷は破滅する。……それが、私には受け入れ難い。故に、助けを求めに来たのです。
ワガママである事は承知です。なればこそ、私の捧げられる物は全て捧げましょう。……お願いです。数年後、イシュリアも我が故郷も窮地に見舞われます。その時にお力を……貸してほしいのです。
今すぐに答えが欲しいわけではありません。……ですが、考えておいて欲しいと思い、無理を通してここまで来ました」

それを聞いて、自らの兵士達とあの少年少女が浮かんだ。

(……いいえ、あの子たちを……また巻き込む訳にはいきません)

「要件は分かりました。答えはまた追って回答しましょう。……アグラタム。外まで送ってあげなさい」

「はっ!」

ステラを送るアグラタムを見ながら、ふと考える。

(……しかし、あの子。姿を隠してはいましたが、予想通りなら……いえ、それは今考えるべき事ではありませんね)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...