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四章 黄昏のステラ
ステラ
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「……貴様、どこから入った?」
イシュリア皇国、王城。アグラタムが玉座の間にてイシュリアを守るように目の前の存在に敵意を剥き出しにしている。
対して、相対する存在は淡々と告げる。
「ここまで来るのに相当な苦労はかかりました。ですが、私の国の妙技にて少しばかり無茶をしてでもここに来ました」
その言葉を聞いて益々アグラタムは警戒心を強める。
国。つまり、異界。異界の侵攻を知らせる鐘は鳴らなかった。つまり、元からこの国に潜伏していた事になる。
危険因子、排除……そう考えている矢先に相手は告げる。
「私は、貴方方に助けを求めに来た。無論、タダとは言わない。知りうる限りの情報、私の国の術。必要とならば命を取られても良い」
「戯言を……!」
剣を構え、目の前の存在に対してアグラタムは風を纏って斬りかかった。
ズドォン!と相手の真横の地面がえぐれる。相手は微動打にしなかった。それを見て、イシュリアが声を出す。
「……アグラタム。武器を収めなさい。どうやらこの者の決意は本物のようです」
「はっ」
すぐさまイシュリアの盾となるように飛ぶと、剣を鞘に戻す。それを見て、相手が再び話し出す。
「まずは自己紹介をしなければいけませんね。私の名前は『ステラ』。お察しかと思いますが、とある異界の民で有りながら、このイシュリアにて平穏な生活を送っていました。……ですが、状況が一変しました」
その言葉に疑問を持ち、イシュリアが問いかける。
「異界の民、と言ったわね。しかしこの前のタルタロスの侵攻以前、異界の扉が開いた時はこのアグラタムが全て撃退したはずです。何故、貴方は今、この場まで気が付かれずに居られたのですか?」
これは割と深刻な問題であった。
異界の侵攻をバレずに行う方法があれば、イシュリアの民に被害が出かねない。
その答えを相手は告げる。
「私には二つの意思……魂があります。
一つは先程言った通り、異界にいる『ステラ』の魂。
もう一つは、このイシュリアに魂を送り込み、純粋に赤子から育った存在。今までバレなかったのは、魂を赤子から育てたからでしょう」
「……いいでしょう。ならば更に問います。私たちに助けを求める……そう言いましたね?何故、危険と貴方の全てを代償にして助けを求めているのですか?」
その言葉に、ステラは少し悲しそうに答える。
「……我が異界はイシュリア程ではありませんが、平和を保っていました。しかし技術や魔術……その歩みは余りに遅い。故に私は魂を二つに分け、イシュリアの文化を少しずつ国に取り入れていきました。
そこに問題はありませんでした。イシュリアの文化を本当に少しずつ……そう、それこそ赤子が成長していくようにそっと発展させていきました。
しかし、ある兆候が見られた為、こうして無礼を承知で目の前に現れさせていただきました」
ふむ、とイシュリアが考える。
ここ最近の出来事はタルタロス程度だろう。しかし、このステラが言うには何かがあったらしい。だが、情報が足りない。
「……良かろう。話せる範囲で話せ」
「はい。その兆候とは、即ち我が異界を取り巻く『神』と呼ばれる存在により齎されたと考えます。……イシュリアにも魔物がいるかと思われます。しかし、その神は異界の民全てに対してこう告げました。
『この国は神によって統治されるべき。故に人の……種族による発展は不要。然る時が来た時にこの国を創り直す必要がある』と」
なるほど、つまり要約するとこうなる。
この目の前にいるステラは国の発展を願ってイシュリアから少しずつ文化を取り入れた。しかし、それを気に入らない神が創り直す……即ち一旦国を、発展した種族を滅ぼすと言っているのだ。
「神の意思は絶対。それを受け入れる者も沢山おりました。しかし、それを良しとしない者も同時に沢山おりました。
神は恐らく、私を……ステラを恐れているのでしょう。
即座に粛清してしまえば、例え異界のステラが滅ぼうともコチラの……イシュリアのステラがまた発展を促す。神はそれを繰り返されるのが早い話、嫌なのでしょう」
なるほど、事情は分かった。しかし、それではここまで来た理由が分からない。
何故、私に……イシュリアに、危険を侵してまで助けを求めに来たのか。それが知りたい。
すると、それを察したようにステラが答える。
「……近頃、イシュリアの魔物の活動が活発になってはいませんか?」
その問いにアグラタムが答える。
「……たしかに。少しずつ、本当に少しではあるが魔物の対処が増えている。しかし、我らの出る幕ではない。それこそ、学院生や冒険者が対処出来る程度だ。……それがどうかしたのか?」
その問いにステラが返す。
「……恐らく、数年後。いいや、数年かけて、魔物が強くなるでしょう。恐らくそれは、私の異界による神の干渉。私を繋ぎ目として、力を奮っているのでしょう。
ですが、私を通しているため力は十全に振るえない。しかし、イシュリアの私が自害すれば即座に故郷は破滅する。……それが、私には受け入れ難い。故に、助けを求めに来たのです。
ワガママである事は承知です。なればこそ、私の捧げられる物は全て捧げましょう。……お願いです。数年後、イシュリアも我が故郷も窮地に見舞われます。その時にお力を……貸してほしいのです。
今すぐに答えが欲しいわけではありません。……ですが、考えておいて欲しいと思い、無理を通してここまで来ました」
それを聞いて、自らの兵士達とあの少年少女が浮かんだ。
(……いいえ、あの子たちを……また巻き込む訳にはいきません)
「要件は分かりました。答えはまた追って回答しましょう。……アグラタム。外まで送ってあげなさい」
「はっ!」
ステラを送るアグラタムを見ながら、ふと考える。
(……しかし、あの子。姿を隠してはいましたが、予想通りなら……いえ、それは今考えるべき事ではありませんね)
イシュリア皇国、王城。アグラタムが玉座の間にてイシュリアを守るように目の前の存在に敵意を剥き出しにしている。
対して、相対する存在は淡々と告げる。
「ここまで来るのに相当な苦労はかかりました。ですが、私の国の妙技にて少しばかり無茶をしてでもここに来ました」
その言葉を聞いて益々アグラタムは警戒心を強める。
国。つまり、異界。異界の侵攻を知らせる鐘は鳴らなかった。つまり、元からこの国に潜伏していた事になる。
危険因子、排除……そう考えている矢先に相手は告げる。
「私は、貴方方に助けを求めに来た。無論、タダとは言わない。知りうる限りの情報、私の国の術。必要とならば命を取られても良い」
「戯言を……!」
剣を構え、目の前の存在に対してアグラタムは風を纏って斬りかかった。
ズドォン!と相手の真横の地面がえぐれる。相手は微動打にしなかった。それを見て、イシュリアが声を出す。
「……アグラタム。武器を収めなさい。どうやらこの者の決意は本物のようです」
「はっ」
すぐさまイシュリアの盾となるように飛ぶと、剣を鞘に戻す。それを見て、相手が再び話し出す。
「まずは自己紹介をしなければいけませんね。私の名前は『ステラ』。お察しかと思いますが、とある異界の民で有りながら、このイシュリアにて平穏な生活を送っていました。……ですが、状況が一変しました」
その言葉に疑問を持ち、イシュリアが問いかける。
「異界の民、と言ったわね。しかしこの前のタルタロスの侵攻以前、異界の扉が開いた時はこのアグラタムが全て撃退したはずです。何故、貴方は今、この場まで気が付かれずに居られたのですか?」
これは割と深刻な問題であった。
異界の侵攻をバレずに行う方法があれば、イシュリアの民に被害が出かねない。
その答えを相手は告げる。
「私には二つの意思……魂があります。
一つは先程言った通り、異界にいる『ステラ』の魂。
もう一つは、このイシュリアに魂を送り込み、純粋に赤子から育った存在。今までバレなかったのは、魂を赤子から育てたからでしょう」
「……いいでしょう。ならば更に問います。私たちに助けを求める……そう言いましたね?何故、危険と貴方の全てを代償にして助けを求めているのですか?」
その言葉に、ステラは少し悲しそうに答える。
「……我が異界はイシュリア程ではありませんが、平和を保っていました。しかし技術や魔術……その歩みは余りに遅い。故に私は魂を二つに分け、イシュリアの文化を少しずつ国に取り入れていきました。
そこに問題はありませんでした。イシュリアの文化を本当に少しずつ……そう、それこそ赤子が成長していくようにそっと発展させていきました。
しかし、ある兆候が見られた為、こうして無礼を承知で目の前に現れさせていただきました」
ふむ、とイシュリアが考える。
ここ最近の出来事はタルタロス程度だろう。しかし、このステラが言うには何かがあったらしい。だが、情報が足りない。
「……良かろう。話せる範囲で話せ」
「はい。その兆候とは、即ち我が異界を取り巻く『神』と呼ばれる存在により齎されたと考えます。……イシュリアにも魔物がいるかと思われます。しかし、その神は異界の民全てに対してこう告げました。
『この国は神によって統治されるべき。故に人の……種族による発展は不要。然る時が来た時にこの国を創り直す必要がある』と」
なるほど、つまり要約するとこうなる。
この目の前にいるステラは国の発展を願ってイシュリアから少しずつ文化を取り入れた。しかし、それを気に入らない神が創り直す……即ち一旦国を、発展した種族を滅ぼすと言っているのだ。
「神の意思は絶対。それを受け入れる者も沢山おりました。しかし、それを良しとしない者も同時に沢山おりました。
神は恐らく、私を……ステラを恐れているのでしょう。
即座に粛清してしまえば、例え異界のステラが滅ぼうともコチラの……イシュリアのステラがまた発展を促す。神はそれを繰り返されるのが早い話、嫌なのでしょう」
なるほど、事情は分かった。しかし、それではここまで来た理由が分からない。
何故、私に……イシュリアに、危険を侵してまで助けを求めに来たのか。それが知りたい。
すると、それを察したようにステラが答える。
「……近頃、イシュリアの魔物の活動が活発になってはいませんか?」
その問いにアグラタムが答える。
「……たしかに。少しずつ、本当に少しではあるが魔物の対処が増えている。しかし、我らの出る幕ではない。それこそ、学院生や冒険者が対処出来る程度だ。……それがどうかしたのか?」
その問いにステラが返す。
「……恐らく、数年後。いいや、数年かけて、魔物が強くなるでしょう。恐らくそれは、私の異界による神の干渉。私を繋ぎ目として、力を奮っているのでしょう。
ですが、私を通しているため力は十全に振るえない。しかし、イシュリアの私が自害すれば即座に故郷は破滅する。……それが、私には受け入れ難い。故に、助けを求めに来たのです。
ワガママである事は承知です。なればこそ、私の捧げられる物は全て捧げましょう。……お願いです。数年後、イシュリアも我が故郷も窮地に見舞われます。その時にお力を……貸してほしいのです。
今すぐに答えが欲しいわけではありません。……ですが、考えておいて欲しいと思い、無理を通してここまで来ました」
それを聞いて、自らの兵士達とあの少年少女が浮かんだ。
(……いいえ、あの子たちを……また巻き込む訳にはいきません)
「要件は分かりました。答えはまた追って回答しましょう。……アグラタム。外まで送ってあげなさい」
「はっ!」
ステラを送るアグラタムを見ながら、ふと考える。
(……しかし、あの子。姿を隠してはいましたが、予想通りなら……いえ、それは今考えるべき事ではありませんね)
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