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四章 黄昏のステラ

夏休み ニアの場合

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ニアの生まれは北方、セッカであった。
しかしそれはニアの特異能力が判明した時、両親は中央……王都に引っ越す事を決めた。

ニアの特異能力、『殲滅者』。これをダシに周りに虐められ、暴走する事を恐れたのだ。
なので生まれはセッカであっても、結局王都から少し離れた場所で暮らしているのが現状であった。

「ただいまー!」

ニアが新築の扉を開けて元気に声を出すと、父親が奥からやってくる。

「ニア!大丈夫かい?クラスの皆と上手くやれていたかい?あぁ、それと……」

「ちょ、ちょっと……手紙も書いてたんだからわかるでしょ……?」

勢いよく迫る父に対して引いていると、父の背後から魔力……土の鞭でべしんと頭を引っぱたく母が見えた。

「いだっ!?」

「こらアナタ!ニアが困ってるじゃないの!……おかえり、ニア。とりあえず荷物置いてらっしゃい?それから色々お話しましょ?」

「うん!ただいま、ママ!」

そう、結論から言おう。ニアの父親は娘大好きっ子なのである。
それこそセッカから引っ越す事を決めたのは父であったし、少し辺境にしたのも父だ。
だからこそ心配なのであろうが、如何せん過保護……なのも仕方ないと思いつつ、自室に荷物を置く。

「はい、ニア。これこの前お父さんが仕事に行った時のお土産よ」

二階から降りると、何やらおやつを出された。首を傾げながら手に取ると、アッと声を出す。

「セッカの雪煎餅だ!」

「そうだ!この前のタルタロスの時にセッカに配置されてな!まあそのついでということで、好物の雪煎餅を買ってきたぞ!」

父は高笑いしてドヤ顔をしながらも、優しく頭を撫でてくれる。
セッカの雪煎餅というのは、砂糖を白く塗りたくって固めたものとセッカの主食であるお米を混ぜ合わせて出来たおやつである。それこそ、セッカに居た時はニアの大好物であった。

「それじゃ、色々聞かせて頂戴?」

お茶を入れてもらって三人でテーブルに着くと、ニアが口を開く。

「手紙でも書いたと思うんだけど、皆良い友達だよ!現に私の『殲滅者』は暴走しなかったし!」

その言葉に両親は安堵の息を吐く。
ニアの特異能力の発動条件は相手を敵と認識する事。子供だからもっと簡単に言えば『恨み』や『憎しみ』などもトリガーとなる。
だからその原因となる子がいなくて助かったのだろう。

「クラスメイトとは良くやれていそうだね。仲はどうなんだい?」

父がズズっと前のめりになったのを母が押し戻す。いつも通りの家庭を見ながらニアは語る。

「うん!まずはルームメイトのミトロちゃんなんだけど、同じ歳とは思えないぐらい頭が良いの!深く考えるのが得意?なのかな。珍しい闇属性使いってこともあったけど、私の宿題手伝ってくれたりとか、悩みに答えてくれたりとか……いい友達なの!」

「そうか!一度顔を見てみたいものだ……そして礼を言いたいな」

ミトロは凄いと思う。深く考えて、クラスメイトの頭脳となる。そんな彼女だけど、二人になると実は闇属性が得意なのにお化けが怖かったりと可愛らしい一面があるのは二人の秘密だ。

「他の皆も凄いんだけど……でも私は、男女でルームメイトになった二人がすごいと思う!」

その言葉にガタッと母が立ち上がる。
当然だ。母はセッカの魔術学院の卒業生であり、セッカでは例えクラスが違ってでも性別を合わせていたからだ。

「その二人、どんな風に凄いの?」

妙に鬼気迫る……というより関心を持っている母に対して笑いながら答える。

「えっとね、まず男の子の方なんだけど……レテ君って言うの。手紙にも書いたけど、Sクラスの中でも本当に凄い。私、キチンとレテ君の許可を得てから『殲滅者』で攻撃……あ、模擬戦ね!模擬戦!……でも、手も足も出なかった。殲滅者が危険なのは分かったけど、それ以上にそれを対処出来る人がいるって思ってほっとしたんだ」

ニアの殲滅者の効果は両親は痛いほど知っている。
その名に相応しく、殲滅する。それを受けきる同年代の子は確かに凄まじい実力と素質があると思うしかない。
でも、と続けられて両親が耳を傾ける。

「私は、そのルームメイト……シアちゃんもすごいと思うんだ。だって、そんな超人みたいなルームメイトに気後れせずに、寧ろ引っ張って行くような感じで……なんて言うんだろう?なんか、レテ君が悩んでいる事は大抵そのシアちゃんが一緒に悩んで解決しちゃう感じ!」

なるほど、と両親が頷く。そこで母から質問が飛んでくる。

「ねえ、男女のルームメイトって言っていたけど……そこに何か、問題とか不満とかなかったの?」

その問いにうん、と頷く。

「だって席で決められたんだもん。それに、ちょっと深夜に覗き……に行ったんだけど、本当に仲が良くて……。そういえば、レテ君がシアちゃんの為にお香を買ってた!魔力込めるとリラックス効果のあるやつ!恋人みたいだよね!」

「はっは!確かにそれは恋人みたいだな!その仲が続けば、いつかは本当に夫婦になるかもな!」

豪快に笑う父と、ふふっと手を口に当てて笑う母。
殲滅者を知りながらも受け入れてくれたクラスメイトと、タルタロスの時にその戦力として頼ってくれたレテ君。
それを一番心配していたシアちゃんの事は、秘密にしておこうと心に決めながら、話せる限りの思い出話を、シアは語り続けた。
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