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四章 黄昏のステラ

夏休み、帰り道。

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あの戦いの後。昼ご飯の後に全生徒がグラウンドに呼び出された。

無論、武術学院の生徒も例外ではない。大量の生徒の中でジェンス総長が立っている。

「諸君。この一年は異例であった。長く被害の出ていなかった異界からの侵攻。これらは君たちに恐怖を植え付けたことだろう。
それを恐れるなとは言わない。恐れは大事な感情だ。しかし、同時に勇気を持って欲しい。無謀ではなく、戦うか。それとも支援を頼むか。それとも他の役割に徹するか。その判断を最終的に決められるのは自分自身だけなのだから。
さて。六学年の生徒の諸君。君達は今年で卒業となるが、その経歴を活かしてイシュリアの役に立つことを職員一同期待している。
夏休みに入る生徒の諸君。夏休みだからといって怠けてばかりでは周りに追い越される。だけれども休息が必要な事は覚えておいて欲しい。倒れないよう気をつけて過ごすように。
……私からは以上だ。皆、また会える日を楽しみにしている」

そう締めくくると、各学年毎に移動……なんてことは無く現地解散となった。

理由は一つ。列車の時間である。首都に住んでいる自分やシアはともかく、ラクザに帰るファレスやフォレスなどは下手すると長いこと待たされることになる。炎天下の中子供に待ち続けさせるのは酷だというのが方針らしい。

自室に戻って荷物を持つと、シアが気づいたように声を上げる。

「あっ!ちょっと先に玄関の方まで向かってて!私、オバチャンに頼み事していたの!」

「え?あ、うん。分かった」

そう言ってシアは荷物を持ってドアを開きっぱなしで出ていった。自分達が乗る列車は午後なのでまだ余裕はあるはずだが、何か急ぎの用事なのだろう。

ふと、一年過ごした部屋を見渡す。
整えられた二段ベッド。特異能力がバレたのもこのベッドだ。今では懐かしく感じる。
窓際の机。ここには魔力のお香が置いてあった。自分が炊くこともあればシアが炊くこともあった。互いにリラックス出来る空間になっていた。あの時のショウには感謝しかない。
他にも色んなものが目に付いたが、あんまり感慨にふけると名残惜しくなってしまう。

ありがとう、と言葉を残すと自分は、唯一男女相部屋であった一学年の部屋を去った。

玄関まで降りると、シアが何やらオバチャンから受け取っていた。お菓子か何かだろうか。ふと近づくと、会話が聞こえてくる。

「それにしても良く頑張ったねぇ。一学年の子にこんな事頼まれるの初めてだよ。……好きな子でも出来たのかい?」

「そっ、それは……!秘密です!いくらオバチャンでも!」

その言葉にオバチャンはホッホと笑うと、シアの頭を撫でている。

「わ……」

「オバチャンは生きる限りここに居る。だからまた……夏休みが終わったらおいで。今度は危なくない範囲で料理を教えてあげようかしらね」

「是非!お願いします!」

そう言って頭を下げるシアと、微笑むオバチャン。それを見てふっと笑っていると、後ろから声をかけられる。

「よっ!夏休み、俺はお前に負けないように鍛錬してみるからよ!夏休み明けには覚えておけよ!」

その声はショウであった。確かに訓練に打ち込むのはいいのだが……。

「……勉強の方も忘れずにな……。一応スイロウ先生から宿題出てるんだから」

「あー、いやー……頑張るわ……」

途端に声のトーンが落ちた彼を見て笑う。遅れてやってきた他のSクラスの生徒もそれを見て笑っている。

「いざとなったらフォレスがいるから大丈夫!」

ファレスは自信満々に笑顔で言うが……

「……ファレス、カンニングはダメ」

さっと否定されてしょんぼりしていた。だがきっとやると決めたらやるだろう。

「……そろそろ時間だ。俺は先に行く」

レンターが言うと、クロウも頷く。

「あぁ、俺もだ。じゃあ夏休み明けにな!」

手を振ると、ダイナも思い出したように言う。

「僕もそろそろかな~。それじゃあ皆、また九月~」

そう言って三人は去っていった。残ったミトロとニア、それにショウはどこなのだろう。

「っといけない。そろそろ時間が」

時計を見ると自分達の時間も迫っていた。そう言うとシアが振り返って時計を確認する。

「あ、私も行かなきゃ!それじゃあ皆、いい夏休みを過ごそうね!」

「えぇ、過ごしましょう」

「まったねー!」

シアは女子から挨拶を受け、自分は無言でショウと笑顔で握手をする。

そうしてほぼ一年世話になった寮から、家に帰ることになった。


列車に乗り込む。思えば行きは散々な目にあったものだ。帰りは普通の旅だと嬉しい。

「レーテーくんっ!」

ふとそう考えながら窓の外を見ていると、シアから話しかけられる。それも、自信満々に。

「どうした?シア」

「ふふん、これ見て!」

そう言って取り出された包みは、行きに母さんから貰ったサンドイッチと瓜二つだった。

「これは……」

「あれ美味しくてさ……オバチャンのお手伝いして、コツコツ食材仕入れてもらって作ってもらったんだ!勿論味はそのままとはいかないけど……美味しいから、おやつ代わりに食べよ!」

そう言うとシアのお腹が鳴る。無言で赤面する彼女を見て微笑みながら、頷く。

「それじゃ安全な旅を祈りながら食べようか」

「普通の帰り道は安全なんだよ?」

「それもそうだ」

ふふ、はははと二人で笑いながら頂きます、とサンドイッチに口を付ける。
味に少しの差はあれど、オバチャンが再現してくれたサンドイッチはとても美味しかった。
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