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三章 破滅のタルタロス

タルタロス侵攻 6

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タルタロスを攻め始めて既に数時間が経った。
イシュリア側ではイシュリア王が静かに座して攻めるタイミングを見計らっている。
「……む。そろそろ昼時か。アグラタム、皆に軍用食を。……彼女たちはこのタイミングで安全な場所に……あぁいや。私の部屋を使って良い。戦いを先に労わせるように」
ふとそう言うと、アグラタムは静かに礼をして軍用食を配っていく。勿論自分とて例外ではない。子供の身体とは言え、攻めるのだから。
それと反対に、既に貢献を果たしたファレスとフォレスは朝早起きした分、静かに隅っこに寝ていた。毛布は掛けてあるが、状況が状況なだけに身体には宜しくない雑魚寝状態だ。
軍用食を配り終えると、二人をそっと抱え込むと再度皆が思っているであろうことを聞く。
「……イシュリア王。貴方の私室で良いのですか?本当に?」
「良い。軍の医療施設よりも私の部屋の方が良く休めるであろう」
(……本当かなぁ……?)
確かに良い香りはするし、リラックスは出来るだろうが起きた時に混乱しそうだ。
「大丈夫だ。私の付きの人を傍に置かせよう。彼女たちが空腹などで困らないことを保証しよう」
(そこじゃないと思うけどなぁ!?)
彼女たちも確かに令嬢とは言え、疲れて寝て起きたら王の寝床、などそれは仰天しそうだ。
そんなズレた考えのままイシュリア王はアグラタムに運ばせていった。
軍用食を食べている間、他の軍兵から話しかけられた。
「フード様。貴方は今回の城攻めをどう見ますか?」
レテ、という名前を明かしていないためフードという名前で城の中では通っている。なおフード姿は常時魔力を消費する魔法武装なので今は子供姿のままだ。
軍用食を飲み込むと、少し考えて述べる。
「まず、相手……つまり賢王と呼ばれた相手がどう打ってくるかで変わると自分は考えます」
「その考えを聞かせてもらっても?」
真剣に見つめてくる軍兵からは子供だからといって下に見るつもりは無いようだった。元々そんな兵をイシュリア王はここに置かないだろうが。
「この侵攻は今のところティネモシリを攻めて、ミヤコを撹乱するだけに留まっています。ここまでならただ物資を奪いに来た異界侵攻でしょう。しかし、相手には案内屋という言わば自分の子供がいます。そこから万が一こちらが『滅ぼすという情報』が漏れていた場合、相手は最初から城攻めを想定して、逆にこちらにティネモシリやミヤコに兵を割かせた……と思わせて城の中に罠を仕掛けている可能性があります」
「なるほど……。確かに、迎撃用に何かを仕掛けている、という事ですね」
その言葉に頷く。そしてこれだけは伝えておかないと、とふと思った事を知らせる。
「この侵攻の中、情報屋も既に信頼は出来ません。特に光を全て奪い、記憶操作まで出来る脅威の王です。情報屋を逆にこちらに友好的に接触させてくるかもしれません。……それは恐らく罠でしょう。警戒に警戒を重ねるに越したことはありません」
その言葉に他の兵からも声が上がった。
「確かに……。我々も不意に捕まって記憶操作されたらいけませんね」
「記憶操作……タルタロスの賢王の特異能力でしょうか?そうだとしたら厄介極まりないものですね……」
(そう、問題はそこだ)
自分はもう一つ迷っていた。それは賢王の特異能力が『記憶操作』なのかどうかだ。
自分の特異能力、愛が間接的に精神操作を起こすように。自分の千本桜が擬似的に領域侵食を起こすように。それは何か副次的な効果では無いのかと。
しかし現段階で最も警戒しないといけないのは自軍のコントロールを奪われることだ。ミイラ取りがミイラになる、どころか同士討ちをさせられる羽目になる。
そんな時に不意に玉座から離れた場所に門が開く。来たか、と思いながら残りの軍用食を放り込んで立ち上がる。他の兵も同じように立ち上がる。
「こちら第六部隊!恐らく撹乱は十分かと!他の部隊員に現在連絡、及び幼き兵士たちの保護を頼んでいます!」
その言葉を聞くとイシュリア王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「往くぞ!我々の為に!民のために!」
そう言うと戻ってきたアグラタムが門を開く。
「私が先行します!……行くぞッ!」
「「ハッ!」」
そう言っていの一番に飛び込んだアグラタムに対し、皆が飛び込んでいく。最後。自分とイシュリア王が残ったところで一言呟く。
「……貴方を、戦いに巻き込んでごめんなさい」
それに対して自分も一言だけ返す。
「弟子の愛し、護ろうとしている世界を共に護る。……それも師匠の役割ですよ」
その言葉にイシュリア様は目を見開くと、強い目で門を見据える。
「弟子……そうね。アグラタムのお師匠様。行きましょう。守るために」
「はい」
そう言って同時に門に飛び込んだ。

飛び込んだ先は既にミヤコの奥地。城の前だ。アグラタムと他の数人が突貫したようで門は破られており、周りは既に街の役割を果たせない崩れた建物で溢れていた。
「遅れをとるな!行くぞ!」
凛とした声で号令を発すると城内に自分達も入っていった。
庭も枯れ木、池の水も濁り水。花は咲かず、彩りというものは何一つなかった。
(……そこまでして、王妃を取り戻したかったのか。いつかその感情が分かる日が来るのだろうか)
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