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三章 破滅のタルタロス
タルタロス侵攻 1
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「……ん」
目を覚ますと横に寝息を立てながら転がるシアを見つけた。見つけたと言うより、包み込まれているの方が正しいか。
(そうか。昨日寝ちゃって……何だったんだろう)
昨日は鍛錬で使いすぎた記憶も特に何もしていた訳では無いのに。気の緩みだと思って光魔法で部屋を照らして時計を確認する。
(三時か。……起こすかな。侵攻開始は四時だ)
そう思って包まれた状態でシアに声をかける。
「シア、シア。起きて」
「……ん……んぅ……?」
いつもよりかなり早いからだろう。とても眠そうな声を上げながら手が離れる。体温が遠ざかる感覚にどこか寂寥感を覚える自分に苦笑しながら言う。
「三時。少し早いけど皆を呼びに行くよ」
「……んぅ!レテ君、大丈夫?昨日倒れていたけど……」
ぱちりと目を開けるとばっと起き上がってこちらを見て問いかけてくる。うん、と頷くとほっとした様子の彼女が見えた。
「良かった。魔力切れで帰っちゃったから……」
「……魔力切れ?」
おかしい。魔力切れなんて感覚では無かった。魔法も使えたはずだ。
「うん。昨日の昼間、皆の魔法を打ち消してくれたから」
「……そんなに魔力使ってないぞ?あれ。ぶつけただし……。まあいいか。ちょっと皆の部屋を回って呼んでくるよ」
そう言って皆の部屋を回る為に門を開く前。シアがぽつりと呟いたのが聞こえた。
「……背負わせすぎた、かな」
その言葉に違うと言うことは出来ず、聞かないふりをして皆の部屋を回りに行った。
数十分後。寝起きが意外に悪かったクロウを叩き起して皆が部屋に集まる。
「少し早いけど恐らく侵攻の準備は既に開始している。……自分達も向かうよ」
そう言ってブレスレットに魔力を通してアグラタムに連絡をする。
「こっちは全員起きた。父さんに見つかるとごたつくから頃合いを見て迎えに来てくれ」
「……了解しました。変な所を気にするのですね、貴方は」
そう言って連絡を切ると、後ろから不思議そうな声が聞こえる。
「なんか……タメ口だよね」
「だよなぁ。守護者様にタメ口かぁ……」
(……突っ込まないでおいてくれると助かる)
自分の失言に軽く後悔しつつも門が開くのを待った。
数分後。門が目の前に現れると中からアグラタムが出てくる。
「どうぞ、こちらへ。玉座の間へと繋がっています」
「ありがとう……ございます。……皆、行くぞ」
軽く口調を直した事にどこか不思議だったのかアグラタムは首を傾げるが、自分はそそくさと門に入った。
門を出ると、朝日が昇る中イシュリア王が戦闘服であろう動きやすそうな服で待機していた。王としての威厳ではなく戦闘のしやすさを重視したであろう服だ。それでも豪華だが。
「……幼き兵士たち。いらっしゃい。ここからは戦場。生きて帰る覚悟をしっかりと持ってちょうだい」
「ハッ!」
そう言って敬礼すると、双子が即座に続き、それに倣うように他の皆も敬礼をする。
「……これで兵は全てでございます。イシュリア王」
玉座の間に所狭しと並んだ兵士を見ながらアグラタムが総括する。その一言を聞いて玉座からゆっくりと王が立ち上がる。
「……往くぞ。我らが国を……世界を護りに。我が民の為に!イシュリアに栄光を!」
「「イシュリアに栄光を!」」
「「我らが民の為に!」」
声高らかに宣言したイシュリア王に続いて兵士が続く。士気を高めるためだろう。実際皆の士気は高い。鼓舞は成功だろう。
「……では先鋒隊!門を開けッ!突撃せよッ!同時にミヤコの裏に一部隊展開!幼き兵士と共に連絡を取り合え!」
その号令と共にファレスとフォレスは前に出て、それぞれが持ち場へと移動する。
「大丈夫。私達なら出来る」
「……平気。私達の愛するイシュリアの為に」
そう言って二人は互いに強く手を握ると、離れて別々の門へと入っていった。
それを見ながらイシュリア王が何かに気づいたようにこっちを見てくる。どうしたのかと思うと直接脳内に声が響いてくる。
(……貴方、洗脳を解いたのね……)
やはり、あれは洗脳だった。イシュリア王は理由を付けて子供を戦場に行かせる気は無かった。けれど……。
(幼き兵士。そう頼りにされ、そう託されたのが我々です。……イシュリア王よ。彼らは、彼女たちは命を失う『覚悟』が出来ているのですよ)
魔力で伝え返す。少し暗い顔をした後、ぐっと持ち直して宣言する。
「……期を待て!そして無駄にするな!」
タルタロス最前線、ティネモシリ。そこにはファレスと兵士が配置されていた。
魔法で援護をかけながら武術に長けた者が突撃して行く。その異変に気づいた住人が慌てて飛び出してくる。
「連絡します」
そう言うと人格を交代した。
タルタロスが首都、ミヤコの裏にて。一部隊が待機している中不意にフォレスと名乗っている少女が話した。
「ティネモシリに動きあり。未だ武装した影は居ない模様」
「了解。こちらの動きもまだ無いと伝えてくれ」
広域探知している魔術師の観測からそう言うと、フォレスの中の『ファレス』は人格を入れ替えた。
目を覚ますと横に寝息を立てながら転がるシアを見つけた。見つけたと言うより、包み込まれているの方が正しいか。
(そうか。昨日寝ちゃって……何だったんだろう)
昨日は鍛錬で使いすぎた記憶も特に何もしていた訳では無いのに。気の緩みだと思って光魔法で部屋を照らして時計を確認する。
(三時か。……起こすかな。侵攻開始は四時だ)
そう思って包まれた状態でシアに声をかける。
「シア、シア。起きて」
「……ん……んぅ……?」
いつもよりかなり早いからだろう。とても眠そうな声を上げながら手が離れる。体温が遠ざかる感覚にどこか寂寥感を覚える自分に苦笑しながら言う。
「三時。少し早いけど皆を呼びに行くよ」
「……んぅ!レテ君、大丈夫?昨日倒れていたけど……」
ぱちりと目を開けるとばっと起き上がってこちらを見て問いかけてくる。うん、と頷くとほっとした様子の彼女が見えた。
「良かった。魔力切れで帰っちゃったから……」
「……魔力切れ?」
おかしい。魔力切れなんて感覚では無かった。魔法も使えたはずだ。
「うん。昨日の昼間、皆の魔法を打ち消してくれたから」
「……そんなに魔力使ってないぞ?あれ。ぶつけただし……。まあいいか。ちょっと皆の部屋を回って呼んでくるよ」
そう言って皆の部屋を回る為に門を開く前。シアがぽつりと呟いたのが聞こえた。
「……背負わせすぎた、かな」
その言葉に違うと言うことは出来ず、聞かないふりをして皆の部屋を回りに行った。
数十分後。寝起きが意外に悪かったクロウを叩き起して皆が部屋に集まる。
「少し早いけど恐らく侵攻の準備は既に開始している。……自分達も向かうよ」
そう言ってブレスレットに魔力を通してアグラタムに連絡をする。
「こっちは全員起きた。父さんに見つかるとごたつくから頃合いを見て迎えに来てくれ」
「……了解しました。変な所を気にするのですね、貴方は」
そう言って連絡を切ると、後ろから不思議そうな声が聞こえる。
「なんか……タメ口だよね」
「だよなぁ。守護者様にタメ口かぁ……」
(……突っ込まないでおいてくれると助かる)
自分の失言に軽く後悔しつつも門が開くのを待った。
数分後。門が目の前に現れると中からアグラタムが出てくる。
「どうぞ、こちらへ。玉座の間へと繋がっています」
「ありがとう……ございます。……皆、行くぞ」
軽く口調を直した事にどこか不思議だったのかアグラタムは首を傾げるが、自分はそそくさと門に入った。
門を出ると、朝日が昇る中イシュリア王が戦闘服であろう動きやすそうな服で待機していた。王としての威厳ではなく戦闘のしやすさを重視したであろう服だ。それでも豪華だが。
「……幼き兵士たち。いらっしゃい。ここからは戦場。生きて帰る覚悟をしっかりと持ってちょうだい」
「ハッ!」
そう言って敬礼すると、双子が即座に続き、それに倣うように他の皆も敬礼をする。
「……これで兵は全てでございます。イシュリア王」
玉座の間に所狭しと並んだ兵士を見ながらアグラタムが総括する。その一言を聞いて玉座からゆっくりと王が立ち上がる。
「……往くぞ。我らが国を……世界を護りに。我が民の為に!イシュリアに栄光を!」
「「イシュリアに栄光を!」」
「「我らが民の為に!」」
声高らかに宣言したイシュリア王に続いて兵士が続く。士気を高めるためだろう。実際皆の士気は高い。鼓舞は成功だろう。
「……では先鋒隊!門を開けッ!突撃せよッ!同時にミヤコの裏に一部隊展開!幼き兵士と共に連絡を取り合え!」
その号令と共にファレスとフォレスは前に出て、それぞれが持ち場へと移動する。
「大丈夫。私達なら出来る」
「……平気。私達の愛するイシュリアの為に」
そう言って二人は互いに強く手を握ると、離れて別々の門へと入っていった。
それを見ながらイシュリア王が何かに気づいたようにこっちを見てくる。どうしたのかと思うと直接脳内に声が響いてくる。
(……貴方、洗脳を解いたのね……)
やはり、あれは洗脳だった。イシュリア王は理由を付けて子供を戦場に行かせる気は無かった。けれど……。
(幼き兵士。そう頼りにされ、そう託されたのが我々です。……イシュリア王よ。彼らは、彼女たちは命を失う『覚悟』が出来ているのですよ)
魔力で伝え返す。少し暗い顔をした後、ぐっと持ち直して宣言する。
「……期を待て!そして無駄にするな!」
タルタロス最前線、ティネモシリ。そこにはファレスと兵士が配置されていた。
魔法で援護をかけながら武術に長けた者が突撃して行く。その異変に気づいた住人が慌てて飛び出してくる。
「連絡します」
そう言うと人格を交代した。
タルタロスが首都、ミヤコの裏にて。一部隊が待機している中不意にフォレスと名乗っている少女が話した。
「ティネモシリに動きあり。未だ武装した影は居ない模様」
「了解。こちらの動きもまだ無いと伝えてくれ」
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