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三章 破滅のタルタロス

手をこまねいては居られない

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その日の夜。皆がそれぞれの部屋に戻った後密かに防音結界を張ってブレスレットに魔力を流す。
「アグラタム、まだ起きているか?」
小声でそう問いかけると、反応が少し遅れて返ってくる。
「はい。今軍議が終わった所です。……何か進捗がありましたか?」
「今日ラクザで皆で調べてはみたものの、やっぱり限界があるな。結論から言うと、自分の特異能力を戦力のアテにして送り込む方法ぐらいしか見つからなかった」
「……そう、ですか。すみませんが王の私室まで御足労願えますか?そう長くは取らせませんので」
「分かった」
そう言ってブレスレットの魔力を切ると、門を開いてイシュリア王の私室にお邪魔した。

本当に軍議が終わって直ぐだったのだろう。十分程待ってからアグラタムとイシュリア様は帰ってきた。
「お先に失礼しています」
椅子に座っているのもどうかと思い、立ちっぱなしで魔力を循環させていた。今は力が少しでも欲しい。
「いらっしゃい、レテ君。アグラタムから聞いたわ。……元々、大きな四方首都の蔵書では対応出来なかったのだもの。悲しいけれど、貴方を戦力として計算に入れさせてもらうわ」
「……それは、つまり」
その言葉が意図する所はただ一つ。自分はタルタロスの戦いに参戦するという事だ。それ自体に不満はない。異議もない。ただ、友達をまた心配させるのだけが少しばかり悲しい。
「……今日の軍議でハッキリと決定したわ。イシュリア皇国の方針として、『異界タルタロスは迅速に滅ぼす』。その策もある程度は固まったわ」
やはり、そうなったか。悲しい顔をしているところを見ると、交流していた影の事を思い出しているのか。優しい王である。
「……説明は私からしましょう」
アグラタムが前に出てくると作戦の詳細を説明するべく、机の上に簡易的なタルタロスの地図が置かれる。
「これが現在、分かっているタルタロスの地形と情報です。まず、敵勢力を引きつけるべく最前線の街……ティネモシリの近辺に兵を設置。そこから進軍した後、時間差でミヤコの案内屋の所に第二軍を出現させます。そしてミヤコを混乱に落としたタイミングで最後に私とイシュリア王が王城前に門を展開。残りの兵と……師と共に出陣してもらいます」
指と駒を動かしながら丁寧に説明してもらう。作戦自体はシンプルで、陽動を仕掛けてから本拠地に攻め込むというものだ。しかし……。
「……どうやって混乱したタイミングを見極める?仮にも賢王と呼ばれた相手だ。狂乱していてもその知力が劣っているとは到底思えない」
その点を指摘すると、アグラタムが難しい顔になる。
「現状で作戦に不足している要素の一つですね……。
まず、仕掛けるタイミングを見計らう為の連絡方法が有りません。異界の中ではブレスレットが効きますが、異界と異界を隔てるとなるとブレスレットは通用しません。なので、完全に出たとこ勝負……と現在なっています。要は保留です。
次に王城に攻め込むルートが確保出来ていないこと。また、賢王の居所が分からない事。これらもまた問題です」
「……」
顎に手を当てて考える。何か自分から出せる策はないか。考えはないか。
「……案内屋に聞くことも出来ない以上、どうにかして探し出す必要があります。広域探知に長けた者を配備する予定ではありますが……」
難しい問題だ。自分の能力は対賢王に特化しすぎていて広域探知などしている暇も、ましてや戦いながら連絡する方法も……。
(……連絡する方法?)
再び地図を見て、スっスっと駒を動かす。
「……何か考えが?」
問いかけてくるアグラタムに対して、考えが一つだけ浮かぶ。
(……ある。異界と異界を繋ぐ為の方法が)
だがいいのだろうか。そうすれば必然的に彼女たちは、彼らは命を落としかねない戦いに身を投じることになる。
「……何か、あるのね」
イシュリア王の言葉に頷くと、話し出す。
「友人……協力者の中に、『互いの思考と精神だけを入れ替える』特異能力者がいます。これを使えば事前にティネモシリとミヤコに配備しておき、最前線の作戦から第二軍の作戦の時間を、片方を門で返せば即座にブレスレットを使う事も無く連絡が出来ます。
また、撹乱において人などの動くものに対して魔法の威力の底上げをする特異能力『殲滅者』を持った子、獣を呼び下ろす事を可能とする子がいます。ですが……」
そこで言い淀んでしまう。先日のラクザでさえ、介護の中だったのだ。どうしたものか。
「……確か師の友人達は一学年にしてはかなり優秀な子達が揃っていたはずです。最前線ではなく、ミヤコの撹乱に当たって貰い、事が終わり次第即座に帰還。その精神を入れ替える特異能力の子もタイミングを見計らい、即座に門を通って帰還。……帰還場所は仕方が無いので玉座の間にしておきましょう」
その言葉にイシュリア王がガタリと反応する。
「……アグラタム、貴方子供を……!」
「落ち着いてください王よ。……勿論、師の友人達の意志を確認してからです。そうでなければまた別の連絡方法や撹乱法を考えましょう。ですが今は手をこまねいている場合ではないとわかっているはずです。……他ならぬ、イシュリア様。貴方が一番よく、ご理解しているはずです」
歯噛みするイシュリア様を見て、自分も再び悩む。
(きっと彼らは良いと言うだろう。……だが、友を失うのか?まだ彼らは……病気にかかってもいない、未来ある子供なんだぞ……!)
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