上 下
114 / 198
三章 破滅のタルタロス

対抗策の手掛かり その3

しおりを挟む
皆と別れ、ラクザの屋敷へとファレスとフォレスと共に向かう。ふと疑問が浮かんで聞いてみる。
「蔵書なんてどこに保管してあるんだ?自分が見た限りではそんなスペースなかったような気がするが……」
するとフォレスが小声で答える。
「……地下。普段は扉に鍵がかかってる」
「なるほどね……」
頷くとファレスが自慢するように耳打ちしてきた。
「昔っからフォレスはお父様に頼んでは蔵書の中で本を読んでいたから大丈夫!今回だって許可もらえるよ!」
それは頼もしい。というよりラクザの屋敷の蔵書は簡単な本ばかりではないと思うのだが……。
チラッと横のフォレスを見ると何となく察されたのか一言だけ返ってきた。
「……簡単な小説以外はあんまり分からなかった」

ラクザの屋敷の前へと辿り着くと、当然門兵が構えていた。そりゃそうだ。最初に訪れた時がイレギュラーなだけで通常屋敷は守られているものだ。
「止まれ!何者か、何用か」
入ろうとしてきっちりと止められる。が、ここで二人を連れてきた意味が発揮される。というより二人はここ以外に当てられない。
「新しい門兵さんかな?私ファレス、っていうの!よろしくね!」
「……私はフォレス。お仕事、ご苦労様です。この横の友達と一緒に父上に会いたいのですが……」
名前を出した瞬間に数秒固まって、ばっと二人の門兵は頭を下げた。
「ファレス様!フォレス様!ようこそおかえりになさいました!……おい、門開けろ門!」
片方の門兵が頭を下げて最後に小声でもう片方に命令すると、慌てて門が開かれる。
「ありがとっ!お仕事頑張ってね!」
ファレスが元気な笑みで。フォレスが落ち着いた笑顔でぺこりと頭を下げたので自分も頭を下げる。そのままラクザの屋敷へと入った。
何はともあれ、まずはレインさんへの挨拶からだ。中の従者は変わっていないようで、次々にお帰りなさいませお嬢様と声をかけられている。
それに笑顔で答えながら、階段を上ってレインさんの部屋の前まで来ると、ファレスがノックする。コンコン、と鳴らすと中から声がする。
「む?何用か。今から出掛ける予定は無かったはずだが……」
「お父様!ただいまー!」
返事を聞かずにそのまま言い放ってガチャりと開ける。それはヤバイだろうと思いつつ開けてしまったものは仕方ないので中に入ると、最後にフォレスが扉をきっちり閉める。
「ファレス!?それにフォレスも……ああ、レテ君!その節は本当にお世話になったね。……しかしファレス、返事をする前に部屋を開けてはいかんぞ。誰かと話していたらどうするつもりだったんだ?」
「あ、あはは……ごめんなさい」
大人しく謝り、やれやれとなっている所を見る限りファレスのこの性格は昔かららしい。それよりも本題に入ろう。
「して、何用かな?ラクザに帰ってくるとの手紙は無かったが……」
「……今、私達はタルタロスへの対抗策を探している」
「なっ……待て。タルタロスへの対抗策、だと?侮るつもりは無いが、先生から聞かされなかったのか?危険な存在なんだぞ!?」
それでも一歩も引かない。引く訳にはいかない理由がある。
「聞いた。それでも私達は対抗策を探さなくちゃいけない。そう約束したから」
「約束……?誰とだ?」
「……レテ君。でもこれ以上は私達からは話せない。もし彼に聞きたいことがあるなら私達は出ていくけれど……私達は全てを聞いて同意した。それだけは覚えておいて」
そう言うと二人は出ていく。するとレインさんは厳しい顔つきになって言う。
「……どうやら。君に詳しく話く聞く必要がありそうだ。二人に何を言った?」
「……その前に一つだけ確認させて頂きます。貴方はこの話を口外しないと約束していただけますか?」
そう言うと少し不思議そうな顔をしながらも、頷く。
「……分かった。三代目ラクザの名において、約束しよう」
「……では簡単に説明します。自分はイシュリア王、守護者アグラタム様と共に異界タルタロスへと乗り込みました。そこでタルタロスという影の本拠地の名前を初めて知ることになりました。そして、この事を信頼出来る仲間にのみ共有、協力を要請することを自分は許されています。二人はそれに承諾してくれました」
そう言うと目を見開いて驚かれる。まあ仕方あるまい。御伽噺のようなレベルだ。いくら実力者だろうと国のトップに並ぶなど。
「……何か証拠はあるかね?今の話だとタダの御伽噺にしか聞こえない」
「……これは本当に秘密でお願いします」
そう言って万が一外の二人にも聞こえないように防音結界を貼ると、ブレスレットに魔力を流して、アグラタムへと連絡を取る。
「おーい」
「……おや、どうかしましたか?『師』よ。タルタロスの進捗ですか?」
その言葉にガタリとレインさんが立ち上がる。
「ま、待ってくれ。し、し?……師匠ということか!?」
「おや、レイン様。お久しぶりで……まってください、何でラクザにいるのですか。師よ。そして何故今連絡を寄越したのです?」
その問いを完全に無視して話す。
「これが証拠です。この前は嘘をついてすみません。ブレスレットを授かった本当の理由。それは自分がアグラタムの『師』であるからです」
「……守護者アグラタム様。本当なのですか?」
震える声で問いかけると、諦めたように答えが返ってくる。
「……はい。私の師です。といってもピンと来ないでしょうが。そしてこの場にて私が呼ばれた理由があるはず。何用でございましょうか」
「……そこのレテ君は今、タルタロスへと赴き、信頼出来る者に話しても良いと言っている。それは真か?」
「真でございます。私、イシュリア王。そして師……レテ殿と共に影の世界へと乗り込み、タルタロスという名前を知りました。そしてイシュリア王のご意向により、師の信頼出来る者には話して良いと伝えました」
そう答えられると、レインさんはふらりとしながら椅子に座り直す。
「……そんなお方だったとは」
「今まで通り接してもらえると子供の身としても、自分としても助かります。これで分かりましたでしょう。……あ、ごめんねアグラタム。連絡切るよ」
「……は、はい?わかりました」
そう言って連絡を切ると、レインさんに問いかける。
「……これが、タルタロスへの対抗策を探す理由です。一つでも我々は、手を打たねばならない。師の流れ以外は二人は知っています。……タルタロスの事も」
「……そういう事か。二人を呼んでくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

処理中です...