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三章 破滅のタルタロス

対抗策の手掛かり その3

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皆と別れ、ラクザの屋敷へとファレスとフォレスと共に向かう。ふと疑問が浮かんで聞いてみる。
「蔵書なんてどこに保管してあるんだ?自分が見た限りではそんなスペースなかったような気がするが……」
するとフォレスが小声で答える。
「……地下。普段は扉に鍵がかかってる」
「なるほどね……」
頷くとファレスが自慢するように耳打ちしてきた。
「昔っからフォレスはお父様に頼んでは蔵書の中で本を読んでいたから大丈夫!今回だって許可もらえるよ!」
それは頼もしい。というよりラクザの屋敷の蔵書は簡単な本ばかりではないと思うのだが……。
チラッと横のフォレスを見ると何となく察されたのか一言だけ返ってきた。
「……簡単な小説以外はあんまり分からなかった」

ラクザの屋敷の前へと辿り着くと、当然門兵が構えていた。そりゃそうだ。最初に訪れた時がイレギュラーなだけで通常屋敷は守られているものだ。
「止まれ!何者か、何用か」
入ろうとしてきっちりと止められる。が、ここで二人を連れてきた意味が発揮される。というより二人はここ以外に当てられない。
「新しい門兵さんかな?私ファレス、っていうの!よろしくね!」
「……私はフォレス。お仕事、ご苦労様です。この横の友達と一緒に父上に会いたいのですが……」
名前を出した瞬間に数秒固まって、ばっと二人の門兵は頭を下げた。
「ファレス様!フォレス様!ようこそおかえりになさいました!……おい、門開けろ門!」
片方の門兵が頭を下げて最後に小声でもう片方に命令すると、慌てて門が開かれる。
「ありがとっ!お仕事頑張ってね!」
ファレスが元気な笑みで。フォレスが落ち着いた笑顔でぺこりと頭を下げたので自分も頭を下げる。そのままラクザの屋敷へと入った。
何はともあれ、まずはレインさんへの挨拶からだ。中の従者は変わっていないようで、次々にお帰りなさいませお嬢様と声をかけられている。
それに笑顔で答えながら、階段を上ってレインさんの部屋の前まで来ると、ファレスがノックする。コンコン、と鳴らすと中から声がする。
「む?何用か。今から出掛ける予定は無かったはずだが……」
「お父様!ただいまー!」
返事を聞かずにそのまま言い放ってガチャりと開ける。それはヤバイだろうと思いつつ開けてしまったものは仕方ないので中に入ると、最後にフォレスが扉をきっちり閉める。
「ファレス!?それにフォレスも……ああ、レテ君!その節は本当にお世話になったね。……しかしファレス、返事をする前に部屋を開けてはいかんぞ。誰かと話していたらどうするつもりだったんだ?」
「あ、あはは……ごめんなさい」
大人しく謝り、やれやれとなっている所を見る限りファレスのこの性格は昔かららしい。それよりも本題に入ろう。
「して、何用かな?ラクザに帰ってくるとの手紙は無かったが……」
「……今、私達はタルタロスへの対抗策を探している」
「なっ……待て。タルタロスへの対抗策、だと?侮るつもりは無いが、先生から聞かされなかったのか?危険な存在なんだぞ!?」
それでも一歩も引かない。引く訳にはいかない理由がある。
「聞いた。それでも私達は対抗策を探さなくちゃいけない。そう約束したから」
「約束……?誰とだ?」
「……レテ君。でもこれ以上は私達からは話せない。もし彼に聞きたいことがあるなら私達は出ていくけれど……私達は全てを聞いて同意した。それだけは覚えておいて」
そう言うと二人は出ていく。するとレインさんは厳しい顔つきになって言う。
「……どうやら。君に詳しく話く聞く必要がありそうだ。二人に何を言った?」
「……その前に一つだけ確認させて頂きます。貴方はこの話を口外しないと約束していただけますか?」
そう言うと少し不思議そうな顔をしながらも、頷く。
「……分かった。三代目ラクザの名において、約束しよう」
「……では簡単に説明します。自分はイシュリア王、守護者アグラタム様と共に異界タルタロスへと乗り込みました。そこでタルタロスという影の本拠地の名前を初めて知ることになりました。そして、この事を信頼出来る仲間にのみ共有、協力を要請することを自分は許されています。二人はそれに承諾してくれました」
そう言うと目を見開いて驚かれる。まあ仕方あるまい。御伽噺のようなレベルだ。いくら実力者だろうと国のトップに並ぶなど。
「……何か証拠はあるかね?今の話だとタダの御伽噺にしか聞こえない」
「……これは本当に秘密でお願いします」
そう言って万が一外の二人にも聞こえないように防音結界を貼ると、ブレスレットに魔力を流して、アグラタムへと連絡を取る。
「おーい」
「……おや、どうかしましたか?『師』よ。タルタロスの進捗ですか?」
その言葉にガタリとレインさんが立ち上がる。
「ま、待ってくれ。し、し?……師匠ということか!?」
「おや、レイン様。お久しぶりで……まってください、何でラクザにいるのですか。師よ。そして何故今連絡を寄越したのです?」
その問いを完全に無視して話す。
「これが証拠です。この前は嘘をついてすみません。ブレスレットを授かった本当の理由。それは自分がアグラタムの『師』であるからです」
「……守護者アグラタム様。本当なのですか?」
震える声で問いかけると、諦めたように答えが返ってくる。
「……はい。私の師です。といってもピンと来ないでしょうが。そしてこの場にて私が呼ばれた理由があるはず。何用でございましょうか」
「……そこのレテ君は今、タルタロスへと赴き、信頼出来る者に話しても良いと言っている。それは真か?」
「真でございます。私、イシュリア王。そして師……レテ殿と共に影の世界へと乗り込み、タルタロスという名前を知りました。そしてイシュリア王のご意向により、師の信頼出来る者には話して良いと伝えました」
そう答えられると、レインさんはふらりとしながら椅子に座り直す。
「……そんなお方だったとは」
「今まで通り接してもらえると子供の身としても、自分としても助かります。これで分かりましたでしょう。……あ、ごめんねアグラタム。連絡切るよ」
「……は、はい?わかりました」
そう言って連絡を切ると、レインさんに問いかける。
「……これが、タルタロスへの対抗策を探す理由です。一つでも我々は、手を打たねばならない。師の流れ以外は二人は知っています。……タルタロスの事も」
「……そういう事か。二人を呼んでくれ」
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