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三章 破滅のタルタロス
協力者
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「……最初に謝っておくよ。昨日、魔術学院と武術学院にいた……っていうのは嘘だ。それどころか、この世界にすらいなかった」
防音結界を維持したままその言葉を発して数秒、皆が黙る。真っ先に口を開いたのはミトロだった。
「この世界にいなかった……。別の世界に行った、という事ですか?」
「……その通りだ。ミトロ。そしてこの先の話は機密情報……まぁ簡単に言えばここの人以外、それを話してはいけない、言えば……」
と言って首をスっと横に切る動作をする。それで皆ビクッとなる。どうやら動作の意味は理解出来たらしい。
「……そういう情報だ。今からでも遅くない。引き返す人がいたら……出ていってくれ」
その言葉に嘆願の意を込めても、皆誰も出ていこうとしない。それどころか決意を固めた目をしている。
「……レテは強いけどよ、一人でやる事には限界があるんだ。何より俺たちより一つ下なんだからな」
クロウがそう言うと、皆が頷いて言葉を紡ぐ。
「そうだよ!敵の事なら私の『殲滅者』でなんとかなるかもしれないし!」
「情報をそれとなく聞くならやはりラクザや他の街でしょうね」
ニアとミトロが頼もしい言葉をかけてくれる。
「友達が一人で悩むってのもな!なんか後味悪い気がして嫌なんだよ!」
「そうだね~協力出来ることならするし、秘密にすることなら秘密に出来るからね~」
ショウとダイナも手伝ってくれる。そう捉えていいのだろうか。
「……大丈夫。レテ君。私たちが味方になる。どんな事があったって、君がどんな事情を抱えていても……絶対に」
そう最後に締めたのはシアだ。その目は覚悟を決めた目。こうなれば話すしかない。そして、協力者になってもらうしかない。
「……話すぞ」
自分がそう言うと周りが静まり返る。息を大きく吸って、吐く。そして、昨日の事を話し出すことにした。
「……自分が昨日居たのは、異界……名前は『タルタロス』。皆が戦った事のある影の本拠地だ」
皆が息を飲むのが分かる。当然だろう。しかし、もう止まれないのだ。その選択を、自分はさせるべきでは無かったのかもしれないと思いつつも、話すしかない。
「同行者はイシュリア王、そして守護者アグラタム。そこで自分達は知った。タルタロスの影が戦う理由を。攻めてくる理由を。……そして、タルタロスを滅ぼさないといけないということを」
静寂が空間を支配する。息すら忘れる皆の前、ミトロが珍しく冷静さを失って問いかけてくる。
「ま、待ってください。同行者の件はまだ分かります。ただ……滅ぼす、というのは、一体何故なのです!?制圧ではダメなのですか!?今まで通りの撃退では……!」
その言葉に首を横に振る。
「ダメなんだ。鎮圧でも撃退でもない。タルタロスそのものを消滅させる必要がある。……例え、その世界に生きる人全てを手にかけることになっても」
そう言って自分の手を見て、目をギュッと瞑る。
その目に映るのはティネモシリと真実を教えてくれた案内屋の姿。彼は一体無事だろうか。いや、そんな事を考えている暇ではない。
「……詳しく、聞かせてもらってもいいか?何故、タルタロスを消滅させる必要がある?」
今度はレンターが聞いてくる。その問いにこくりと頷くと、また話し出す。
「タルタロスの王……名前は分からないけれど、イシュリア王みたいな人だと思ってくれればいい。その人の歪な考えをとある影から聞いた。……愛していた王妃の為に、自国から全ての『光』を奪い去り、王妃の記憶をすり替え、最後に王妃復活のための生贄を求めた。……元々は賢王と呼ばれていたらしい。だからこそ分かっているのだろうな。そんな事をしても王妃は蘇らないと。でも、蘇る可能性に賭けたんだ。それが影が襲い続ける理由だ。……タルタロスを消滅させない限り、侵攻は止まらない。見えない場所で、また別の世界でも。人が連れ去られ、生贄にされ、やがて数ある異界が崩れ去っていく。それを看過する事は出来ない。……ここまで聞いたからにはもう戻れない。皆はタルタロスという異界を『滅ぼす』ための協力者だ。この情報を漏らさずに、どうにかして異界を滅ぼす手段を見つけるための……」
それは人を殺すより残酷で、凡そ六歳や五歳に押し付けていい事実でも情報でもない。
しかしイシュリア王が託したという事はそちらも掴めていないのだろう。だから、こちらを頼るしかなかった。
「……分かった。次の休みにラクザに行こう。丁度商人のツテがある。それとなく本を取り寄せてもらえるように頼み込んでみよう」
クロウが言うと、皆が頷く。
「私はレンターと一緒に本を漁ってみようと思います。……いいですよね?レンター?」
ミトロの圧力に屈しながらもレンターは頷く。
「俺は……そうだな。影の性質でも思い出してみるか」
「それなら僕も協力するよ~」
ショウにダイナ。皆が協力してくれる。
「……私にできること。私の力でどうにかならないか、特訓してみる」
最後にシアが言う。きっとまだ、切り札のようなものがあるのだろう。
「……皆、頼む。ただ言わなければ大丈夫だ。普通に授業を受けて、普通に過ごして、たまに考えてくれるぐらいでいい。……さぁ、寝よう」
そう言うと立ち上がる。皆が立ち上がるのを見て防音結界を解除すると、部屋を出ていく。
(……イシュリア様、何故あのタイミングでアグラタムを寄越したのですか?)
そんな事を考えながら。
防音結界を維持したままその言葉を発して数秒、皆が黙る。真っ先に口を開いたのはミトロだった。
「この世界にいなかった……。別の世界に行った、という事ですか?」
「……その通りだ。ミトロ。そしてこの先の話は機密情報……まぁ簡単に言えばここの人以外、それを話してはいけない、言えば……」
と言って首をスっと横に切る動作をする。それで皆ビクッとなる。どうやら動作の意味は理解出来たらしい。
「……そういう情報だ。今からでも遅くない。引き返す人がいたら……出ていってくれ」
その言葉に嘆願の意を込めても、皆誰も出ていこうとしない。それどころか決意を固めた目をしている。
「……レテは強いけどよ、一人でやる事には限界があるんだ。何より俺たちより一つ下なんだからな」
クロウがそう言うと、皆が頷いて言葉を紡ぐ。
「そうだよ!敵の事なら私の『殲滅者』でなんとかなるかもしれないし!」
「情報をそれとなく聞くならやはりラクザや他の街でしょうね」
ニアとミトロが頼もしい言葉をかけてくれる。
「友達が一人で悩むってのもな!なんか後味悪い気がして嫌なんだよ!」
「そうだね~協力出来ることならするし、秘密にすることなら秘密に出来るからね~」
ショウとダイナも手伝ってくれる。そう捉えていいのだろうか。
「……大丈夫。レテ君。私たちが味方になる。どんな事があったって、君がどんな事情を抱えていても……絶対に」
そう最後に締めたのはシアだ。その目は覚悟を決めた目。こうなれば話すしかない。そして、協力者になってもらうしかない。
「……話すぞ」
自分がそう言うと周りが静まり返る。息を大きく吸って、吐く。そして、昨日の事を話し出すことにした。
「……自分が昨日居たのは、異界……名前は『タルタロス』。皆が戦った事のある影の本拠地だ」
皆が息を飲むのが分かる。当然だろう。しかし、もう止まれないのだ。その選択を、自分はさせるべきでは無かったのかもしれないと思いつつも、話すしかない。
「同行者はイシュリア王、そして守護者アグラタム。そこで自分達は知った。タルタロスの影が戦う理由を。攻めてくる理由を。……そして、タルタロスを滅ぼさないといけないということを」
静寂が空間を支配する。息すら忘れる皆の前、ミトロが珍しく冷静さを失って問いかけてくる。
「ま、待ってください。同行者の件はまだ分かります。ただ……滅ぼす、というのは、一体何故なのです!?制圧ではダメなのですか!?今まで通りの撃退では……!」
その言葉に首を横に振る。
「ダメなんだ。鎮圧でも撃退でもない。タルタロスそのものを消滅させる必要がある。……例え、その世界に生きる人全てを手にかけることになっても」
そう言って自分の手を見て、目をギュッと瞑る。
その目に映るのはティネモシリと真実を教えてくれた案内屋の姿。彼は一体無事だろうか。いや、そんな事を考えている暇ではない。
「……詳しく、聞かせてもらってもいいか?何故、タルタロスを消滅させる必要がある?」
今度はレンターが聞いてくる。その問いにこくりと頷くと、また話し出す。
「タルタロスの王……名前は分からないけれど、イシュリア王みたいな人だと思ってくれればいい。その人の歪な考えをとある影から聞いた。……愛していた王妃の為に、自国から全ての『光』を奪い去り、王妃の記憶をすり替え、最後に王妃復活のための生贄を求めた。……元々は賢王と呼ばれていたらしい。だからこそ分かっているのだろうな。そんな事をしても王妃は蘇らないと。でも、蘇る可能性に賭けたんだ。それが影が襲い続ける理由だ。……タルタロスを消滅させない限り、侵攻は止まらない。見えない場所で、また別の世界でも。人が連れ去られ、生贄にされ、やがて数ある異界が崩れ去っていく。それを看過する事は出来ない。……ここまで聞いたからにはもう戻れない。皆はタルタロスという異界を『滅ぼす』ための協力者だ。この情報を漏らさずに、どうにかして異界を滅ぼす手段を見つけるための……」
それは人を殺すより残酷で、凡そ六歳や五歳に押し付けていい事実でも情報でもない。
しかしイシュリア王が託したという事はそちらも掴めていないのだろう。だから、こちらを頼るしかなかった。
「……分かった。次の休みにラクザに行こう。丁度商人のツテがある。それとなく本を取り寄せてもらえるように頼み込んでみよう」
クロウが言うと、皆が頷く。
「私はレンターと一緒に本を漁ってみようと思います。……いいですよね?レンター?」
ミトロの圧力に屈しながらもレンターは頷く。
「俺は……そうだな。影の性質でも思い出してみるか」
「それなら僕も協力するよ~」
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「……私にできること。私の力でどうにかならないか、特訓してみる」
最後にシアが言う。きっとまだ、切り札のようなものがあるのだろう。
「……皆、頼む。ただ言わなければ大丈夫だ。普通に授業を受けて、普通に過ごして、たまに考えてくれるぐらいでいい。……さぁ、寝よう」
そう言うと立ち上がる。皆が立ち上がるのを見て防音結界を解除すると、部屋を出ていく。
(……イシュリア様、何故あのタイミングでアグラタムを寄越したのですか?)
そんな事を考えながら。
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