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三章 破滅のタルタロス
タルタロスの公表
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あの後無事女子と接触することはなく、風呂に入れた。流石に一日、影の姿とはいえ行動していた身体には風呂がよく沁みる。
「それじゃおやすみ。シア」
下の明かりを消すと、少し経ってから上の明かりが消される。そして、ポツリと呟いたのが聞こえてくる。
「大丈夫。レテ君は孤独じゃない。……だから、どんな相手だって打ち勝てるよ」
(孤独じゃない、か。……確かに。愛という特異能力は相手がいて初めて存在価値があるものだからな)
ありがとう、と呟いて襲い来る眠気に身を任せ、そのまま熟睡した。
翌朝。いつも通りシアが先に顔を洗い、彼女が着替えている間に顔を洗って着替える。
(……そういえば。すっかり忘れていたけれど、タルタロスには匂いすら無かったな。王は本当に、統治していた世界から光と呼べるものを根こそぎ奪い去ったのか……)
学院の制服に手を通しながら、教科書を詰め込んだバッグを手に持ってシアと部屋を出た。
「よっ!レテ、昨日見かけなかったけどまた本の虫になっていたのか?」
歩いている最中に他のSクラスの仲間達が合流してくる。クロウが話しかけてきたが、察しのいいシアは黙っていてくれる。
「あぁ。ちょっと武術学院や魔術学院を行き来しててね……お昼も売店で買った物で済ませちゃったし、はは。でもやっぱり知ることは面白いよ」
ズキリ。少しだけ友達を騙すような言葉を使って心が痛むがこの事はまだ話してはいけない。いや、話せない。彼らをラクザ以上の危険に行かせることなど。彼らの命の保証を出来ない自分は出来ない。
「なるほどなぁ……どおりで見かけなかったわけだ。いや、何。休日だったろ?また皆で鍛錬してたんだけど……やっぱりレテの修練法は役に立つなって思ったわ」
それは有難い限りだ。自分の知識が役に立つ。これほど嬉しいことは無い。
「そっか、役に立ってよかったよ」
「ああ。……っとと、そろそろ時間か。やばいやばい、急ごうぜ」
授業開始十分前の鐘が鳴る。急いで皆が教室に転がり込むように走り出した。
それから十分後。スイロウ先生が来ない。
「スイロウ先生も~寝坊かな~」
「いやダイナ、先生に至ってそれは無いだろ。……多分」
ダイナのボケにショウが突っ込む。最後に多分とつけたのは本人もちょっぴりそんな事を思っているからだろう。
二十分。流石におかしい。あの元気できっちりとした先生がこんなに遅くなるなんて。
「……もしかして、大事な会議が長引いた?」
「そうだねー。休みに異界から侵攻もあったし、その件で色んな意見が纏まらなかったのかも」
ファレスとフォレスの考察を聞きながら自分は考える。
(……あるとしたらタルタロス関連、か)
更に十分後。漸くスイロウ先生が到着した。
「すまない。遅くなってしまったな。……うむ。今日も全員出席。良かった。この話は全員に聞いてもらいたい……いや、知ってもらう必要があったんだ」
いつもよりも真剣な表情と口調のスイロウ先生に皆も当てられて真剣になる。
(……ということはやはり)
その予想は、バッチリと当たっていた。
「先日。影との戦いがあったのは皆が周知の事だろう。そして、イシュリア王と守護者アグラタム様より、一部の情報公開及び警戒を呼びかけるように言われたのだ。……しかし、君たちは一学年。聞かせて良いものかと会議が混乱してしまってね……とと。その話は良いのだ。大事なのはここからだからな」
そう言って一区切り付けると、皆の前で遂にその名前が出される。
「以前起きた列車での強襲。ラクザでの戦い。そして、先日の影との戦い。これらは全て同じ異界からの侵攻という事が判明した。異界の名前は『タルタロス』。情報によると、生贄を求めて更に激しい侵攻が予想されるとの事だ。皆、行動する時は出来るだけ一人を避けてなるべく大人の人や先生、或いは安全な場所……とは言いきれないが、せめて誰かの目の届く場所にいてほしい。……暗い話は以上だ!さて、今日の授業を始めるぞぉ!」
テンションの上がり方がえげつない。とはいえ自分たちに伝えたということは、学院全体がタルタロスの存在を知ったということだろう。
ふと横から視線を感じてシアの方を見る。その目は何かを確信して、でも心配そうで。
黙って肯定の意志を伝えるため、そっと頷くと小さく、そっか。という言葉が聞こえてきた。
授業を終えてお昼休み。話題は専らタルタロスに関してだった。
「こええよなぁ……生贄になんてなりたかないぜ……」
「だから固まって動くんだろ。最悪逃げられるように……ってか、逃げるしかないだろ」
先輩達の言葉を聞きながらクラスメイトは固まってご飯を黙々と食べる。
その中、自分は考え続けていた。どうやったら殲滅出来るのか。イシュリアの破滅を阻止できるのか。
最早タルタロスは世界としての役割を果たせなくなった。ならば、案内屋に託された想いと共に、この手を汚してでも消滅させるべきだろう。
「……レテ」
そんな中、唐突にレンターが話しかけてくる。顔を上げてそれに答える。
「どうした?レンター」
「いや。難しそうな顔をしていると思ってな。……俺達に協力出来ることがあれば話して欲しい」
「……ああ、いや。タルタロス……は怖いな、と思っただけだから大丈夫だ」
またジクリと心が痛む。けれど、やはり話せないのだ。
機密事項だから。一般人には話せないから。理由はいくつも上げられる。
けれど、やはり一番の理由はせっかく出来た友人を死なせなくないから、だった。
「それじゃおやすみ。シア」
下の明かりを消すと、少し経ってから上の明かりが消される。そして、ポツリと呟いたのが聞こえてくる。
「大丈夫。レテ君は孤独じゃない。……だから、どんな相手だって打ち勝てるよ」
(孤独じゃない、か。……確かに。愛という特異能力は相手がいて初めて存在価値があるものだからな)
ありがとう、と呟いて襲い来る眠気に身を任せ、そのまま熟睡した。
翌朝。いつも通りシアが先に顔を洗い、彼女が着替えている間に顔を洗って着替える。
(……そういえば。すっかり忘れていたけれど、タルタロスには匂いすら無かったな。王は本当に、統治していた世界から光と呼べるものを根こそぎ奪い去ったのか……)
学院の制服に手を通しながら、教科書を詰め込んだバッグを手に持ってシアと部屋を出た。
「よっ!レテ、昨日見かけなかったけどまた本の虫になっていたのか?」
歩いている最中に他のSクラスの仲間達が合流してくる。クロウが話しかけてきたが、察しのいいシアは黙っていてくれる。
「あぁ。ちょっと武術学院や魔術学院を行き来しててね……お昼も売店で買った物で済ませちゃったし、はは。でもやっぱり知ることは面白いよ」
ズキリ。少しだけ友達を騙すような言葉を使って心が痛むがこの事はまだ話してはいけない。いや、話せない。彼らをラクザ以上の危険に行かせることなど。彼らの命の保証を出来ない自分は出来ない。
「なるほどなぁ……どおりで見かけなかったわけだ。いや、何。休日だったろ?また皆で鍛錬してたんだけど……やっぱりレテの修練法は役に立つなって思ったわ」
それは有難い限りだ。自分の知識が役に立つ。これほど嬉しいことは無い。
「そっか、役に立ってよかったよ」
「ああ。……っとと、そろそろ時間か。やばいやばい、急ごうぜ」
授業開始十分前の鐘が鳴る。急いで皆が教室に転がり込むように走り出した。
それから十分後。スイロウ先生が来ない。
「スイロウ先生も~寝坊かな~」
「いやダイナ、先生に至ってそれは無いだろ。……多分」
ダイナのボケにショウが突っ込む。最後に多分とつけたのは本人もちょっぴりそんな事を思っているからだろう。
二十分。流石におかしい。あの元気できっちりとした先生がこんなに遅くなるなんて。
「……もしかして、大事な会議が長引いた?」
「そうだねー。休みに異界から侵攻もあったし、その件で色んな意見が纏まらなかったのかも」
ファレスとフォレスの考察を聞きながら自分は考える。
(……あるとしたらタルタロス関連、か)
更に十分後。漸くスイロウ先生が到着した。
「すまない。遅くなってしまったな。……うむ。今日も全員出席。良かった。この話は全員に聞いてもらいたい……いや、知ってもらう必要があったんだ」
いつもよりも真剣な表情と口調のスイロウ先生に皆も当てられて真剣になる。
(……ということはやはり)
その予想は、バッチリと当たっていた。
「先日。影との戦いがあったのは皆が周知の事だろう。そして、イシュリア王と守護者アグラタム様より、一部の情報公開及び警戒を呼びかけるように言われたのだ。……しかし、君たちは一学年。聞かせて良いものかと会議が混乱してしまってね……とと。その話は良いのだ。大事なのはここからだからな」
そう言って一区切り付けると、皆の前で遂にその名前が出される。
「以前起きた列車での強襲。ラクザでの戦い。そして、先日の影との戦い。これらは全て同じ異界からの侵攻という事が判明した。異界の名前は『タルタロス』。情報によると、生贄を求めて更に激しい侵攻が予想されるとの事だ。皆、行動する時は出来るだけ一人を避けてなるべく大人の人や先生、或いは安全な場所……とは言いきれないが、せめて誰かの目の届く場所にいてほしい。……暗い話は以上だ!さて、今日の授業を始めるぞぉ!」
テンションの上がり方がえげつない。とはいえ自分たちに伝えたということは、学院全体がタルタロスの存在を知ったということだろう。
ふと横から視線を感じてシアの方を見る。その目は何かを確信して、でも心配そうで。
黙って肯定の意志を伝えるため、そっと頷くと小さく、そっか。という言葉が聞こえてきた。
授業を終えてお昼休み。話題は専らタルタロスに関してだった。
「こええよなぁ……生贄になんてなりたかないぜ……」
「だから固まって動くんだろ。最悪逃げられるように……ってか、逃げるしかないだろ」
先輩達の言葉を聞きながらクラスメイトは固まってご飯を黙々と食べる。
その中、自分は考え続けていた。どうやったら殲滅出来るのか。イシュリアの破滅を阻止できるのか。
最早タルタロスは世界としての役割を果たせなくなった。ならば、案内屋に託された想いと共に、この手を汚してでも消滅させるべきだろう。
「……レテ」
そんな中、唐突にレンターが話しかけてくる。顔を上げてそれに答える。
「どうした?レンター」
「いや。難しそうな顔をしていると思ってな。……俺達に協力出来ることがあれば話して欲しい」
「……ああ、いや。タルタロス……は怖いな、と思っただけだから大丈夫だ」
またジクリと心が痛む。けれど、やはり話せないのだ。
機密事項だから。一般人には話せないから。理由はいくつも上げられる。
けれど、やはり一番の理由はせっかく出来た友人を死なせなくないから、だった。
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