上 下
98 / 198
三章 破滅のタルタロス

光無き地 7

しおりを挟む
イシュリア様と少し早足で歩くこと数分。商店街の入口に着くとアグラタムとその横で待っているにこやかな影が見えた。
「ヤァ。無事にミヤコにたどり着けて何よりダヨ」
にこやかな影はそう言って微笑む。自分は無知なフリをしながら質問する。
「無事に辿り着けて……?案内屋さん、我らの事を知っているの?」
その問いににこやかな笑顔のまま答えてくれる。
「モチロンだ。最前線の街……ティネモシリから来たのダロウ?二日、三日はかかると思ったケレド……君達は早いんだネ」
ティネモシリ。それがあの最前線の街の名前なのか。頭の中に記憶するとそれについて深堀してみる。
「案内屋さん。そのティネモシリ……って、所に我らは何故送られたの?」
その問いにはにこやかな顔では答えてくれなかった。少し苦々しいような、苦しそうな顔で言った。
「……ソウカ、記憶が無いのダモノね。この話はウチの店でしよう。ココの住人にとっても……聞きたくない話ダロウカラ」
ふと横を見ると皆自分達を逸れるかのように歩いている。それまで普通だった影も、ティネモシリという名前を聞いた瞬間に俯いて歩き始めた程だ。
「……オイで。コッチだよ」
そう言われて、案内屋の店であろう場所へと誘導されていく。確かに門番が言っていたルートと同じだ。信用は出来る。本物の案内屋である。
(……ティネモシリ、ね。最前線の街ってだけじゃなさそうだ)

「……サテ、到着だ」
路地裏の先。まるでこのミヤコでも秘匿されたようなそこには立派な看板と店……というより、イシュリアに近い一軒屋が建っていた。
「お邪魔します」
そう言って自分とアグラタム、イシュリア王が入ったのを確認するとそっと案内屋がドアを閉じる。
「サテ。まずは自己紹介とイコウ。僕は案内屋。ア、ン、ナ、イ、ヤ。それ以外の名もナイ、本当に案内の為だけに産み出された存在ダ」
(産み出された……?)
その言葉を聞いてイマイチぴんと来なかったので唇に指を当てて考える。
「……サテ、では教えよう。『異邦人』。ティネモシリとは何か。ソシテ……この世界の影とは何カ」
「ッ!」
その瞬間に自分も口から手を離して三人とも戦闘態勢に入る。
(いつだ!?いつからバレていた!?)
「……警戒スルナ、とは言わナイヨ。他の人には分からないだろうケド僕はワカル。君達は……このタルタロスのヒトじゃない。何故なら、案内屋とは記憶を失ったヒトを案内するコトと……そういった異邦人は抹殺するのが役目だからネ」
「……ならば、何故最初から殺さなかった?」
アグラタムが敵意を剥き出しにした声で問いかける。
「理由は単純明快サ。勝テナイ。ソレに……モウ、このタルタロスに光はナインダ。ソレを終ラせる事が出来る存在だとキミたちを思ったカラダ」
そう言うと両手を上げてホールドアップの状態になる案内屋。それを見ながらまだ信用ならないとばかりに自分も、アグラタムも、イシュリア王も光の魔力を出す。
「オォ、オォ……!コレが、コレが光!我々が手を伸ばさんとシ……失ッタモノ。幾らの異邦人を手にカケテモ!奪い取れなかった……ヒカリ……」
それに見惚れるように言う案内屋にイシュリア様が怒気を込めて問いかける。
「ひとつ答えて貰おうかしら。今異邦人を手にかけた、と言ったわね。それは……ウチの世界の子かしら?返答によってはその身体、影すら残さないわよ」
「……もしかすると、手にカケタかもしれナイネ。デモ、この身体をまだ消すのは早いと思わないカイ?君達に伝えたいことが……アルノダ」
無言でそのまま突きつけていると、唐突に店主が店に闇の魔力で店を覆う。
「何をするつもりだッ!」
結界を切り裂こうとする弟子を抑えてイシュリア王の手もギュッともう片方の手で握る。
「待て!アグラタム!……この案内屋、本当に後が無いらしいぞ」
(貼られたのは音を隔絶する結界だ。ただ異邦人を処理するだけなら街から離れたこの地で十分。聞こえないのだから。それなのに貼ったということは……)
「……案内屋。産み出された、と言ったな。つまり、お前は命令に従うしかない。しかし従わなければその身体は無くなる。つまり、こうして生み出した親から一時的にだけでもこの空間を隔離する必要があったわけだ」
「ソノトオリ。そして、コレを伝えたコトが露見スれば……自分は即座にキエル。ダカラ、話させて……イヤ。託させてクレ」
そう言って店主は結界の強度を強める。自分が光を仕舞うと店主はニッコリと笑う。
「ソウ。僕は案内屋。ケレド……このタルタロスを、全ての世界を喰らい尽くす破滅の世界を止メラレル案内屋はキミたちだ」
そう言うとアグラタムもイシュリア王も一旦光を仕舞う。すると影の結界は強度を増し、まるでミヤコどころかタルタロスから一時的に切り離されるようなものになった。
「……僕を生み出した王はスゴーク強くテ、ネ。マァ子は親に似るというワケだ。サテ。本当に自分の時間も無くなってキタ。……託すために話そウ。最前線ティネモシリ……いや、王妃ティネモシリと、この世界。破滅へと向かうタルタロスについて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

【完結】勇者の息子

つくも茄子
ファンタジー
勇者一行によって滅ぼされた魔王。 勇者は王女であり聖女である女性と結婚し、王様になった。 他の勇者パーティーのメンバー達もまた、勇者の治める国で要職につき、世界は平和な時代が訪れたのである。 そんな誰もが知る勇者の物語。 御伽噺にはじかれた一人の女性がいたことを知る者は、ほとんどいない。 月日は流れ、最年少で最高ランク(S級)の冒険者が誕生した。 彼の名前はグレイ。 グレイは幼い頃から実父の話を母親から子守唄代わりに聞かされてきた。 「秘密よ、秘密――――」 母が何度も語る秘密の話。 何故、父の話が秘密なのか。 それは長じるにつれ、グレイは理解していく。 自分の父親が誰なのかを。 秘密にする必要が何なのかを。 グレイは父親に似ていた。 それが全ての答えだった。 魔王は滅びても残党の魔獣達はいる。 主を失ったからか、それとも魔王という楔を失ったからか。 魔獣達は勢力を伸ばし始めた。 繁殖力もあり、倒しても倒しても次々に現れる。 各国は魔獣退治に頭を悩ませた。 魔王ほど強力でなくとも数が多すぎた。そのうえ、魔獣は賢い。群れを形成、奇襲をかけようとするほどになった。 皮肉にも魔王という存在がいたゆえに、魔獣は大人しくしていたともいえた。 世界は再び窮地に立たされていた。 勇者一行は魔王討伐以降、全盛期の力は失われていた。 しかも勇者は数年前から病床に臥している。 今や、魔獣退治の英雄は冒険者だった。 そんな時だ。 勇者の国が極秘でとある人物を探しているという。 噂では「勇者の子供(隠し子)」だという。 勇者の子供の存在は国家機密。だから極秘捜査というのは当然だった。 もともと勇者は平民出身。 魔王を退治する以前に恋人がいても不思議ではない。 何故、今頃になってそんな捜査が行われているのか。 それには理由があった。 魔獣は勇者の国を集中的に襲っているからだ。 勇者の子供に魔獣退治をさせようという魂胆だろう。 極秘捜査も不自然ではなかった。 もっともその極秘捜査はうまくいっていない。 本物が名乗り出ることはない。

処理中です...