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三章 破滅のタルタロス
光無き地 7
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イシュリア様と少し早足で歩くこと数分。商店街の入口に着くとアグラタムとその横で待っているにこやかな影が見えた。
「ヤァ。無事にミヤコにたどり着けて何よりダヨ」
にこやかな影はそう言って微笑む。自分は無知なフリをしながら質問する。
「無事に辿り着けて……?案内屋さん、我らの事を知っているの?」
その問いににこやかな笑顔のまま答えてくれる。
「モチロンだ。最前線の街……ティネモシリから来たのダロウ?二日、三日はかかると思ったケレド……君達は早いんだネ」
ティネモシリ。それがあの最前線の街の名前なのか。頭の中に記憶するとそれについて深堀してみる。
「案内屋さん。そのティネモシリ……って、所に我らは何故送られたの?」
その問いにはにこやかな顔では答えてくれなかった。少し苦々しいような、苦しそうな顔で言った。
「……ソウカ、記憶が無いのダモノね。この話はウチの店でしよう。ココの住人にとっても……聞きたくない話ダロウカラ」
ふと横を見ると皆自分達を逸れるかのように歩いている。それまで普通だった影も、ティネモシリという名前を聞いた瞬間に俯いて歩き始めた程だ。
「……オイで。コッチだよ」
そう言われて、案内屋の店であろう場所へと誘導されていく。確かに門番が言っていたルートと同じだ。信用は出来る。本物の案内屋である。
(……ティネモシリ、ね。最前線の街ってだけじゃなさそうだ)
「……サテ、到着だ」
路地裏の先。まるでこのミヤコでも秘匿されたようなそこには立派な看板と店……というより、イシュリアに近い一軒屋が建っていた。
「お邪魔します」
そう言って自分とアグラタム、イシュリア王が入ったのを確認するとそっと案内屋がドアを閉じる。
「サテ。まずは自己紹介とイコウ。僕は案内屋。ア、ン、ナ、イ、ヤ。それ以外の名もナイ、本当に案内の為だけに産み出された存在ダ」
(産み出された……?)
その言葉を聞いてイマイチぴんと来なかったので唇に指を当てて考える。
「……サテ、では教えよう。『異邦人』。ティネモシリとは何か。ソシテ……この世界の影とは何カ」
「ッ!」
その瞬間に自分も口から手を離して三人とも戦闘態勢に入る。
(いつだ!?いつからバレていた!?)
「……警戒スルナ、とは言わナイヨ。他の人には分からないだろうケド僕はワカル。君達は……このタルタロスのヒトじゃない。何故なら、案内屋とは記憶を失ったヒトを案内するコトと……そういった異邦人は抹殺するのが役目だからネ」
「……ならば、何故最初から殺さなかった?」
アグラタムが敵意を剥き出しにした声で問いかける。
「理由は単純明快サ。勝テナイ。ソレに……モウ、このタルタロスに光はナインダ。ソレを終ラせる事が出来る存在だとキミたちを思ったカラダ」
そう言うと両手を上げてホールドアップの状態になる案内屋。それを見ながらまだ信用ならないとばかりに自分も、アグラタムも、イシュリア王も光の魔力を出す。
「オォ、オォ……!コレが、コレが光!我々が手を伸ばさんとシ……失ッタモノ。幾らの異邦人を手にカケテモ!奪い取れなかった……ヒカリ……」
それに見惚れるように言う案内屋にイシュリア様が怒気を込めて問いかける。
「ひとつ答えて貰おうかしら。今異邦人を手にかけた、と言ったわね。それは……ウチの世界の子かしら?返答によってはその身体、影すら残さないわよ」
「……もしかすると、手にカケタかもしれナイネ。デモ、この身体をまだ消すのは早いと思わないカイ?君達に伝えたいことが……アルノダ」
無言でそのまま突きつけていると、唐突に店主が店に闇の魔力で店を覆う。
「何をするつもりだッ!」
結界を切り裂こうとする弟子を抑えてイシュリア王の手もギュッともう片方の手で握る。
「待て!アグラタム!……この案内屋、本当に後が無いらしいぞ」
(貼られたのは音を隔絶する結界だ。ただ異邦人を処理するだけなら街から離れたこの地で十分。聞こえないのだから。それなのに貼ったということは……)
「……案内屋。産み出された、と言ったな。つまり、お前は命令に従うしかない。しかし従わなければその身体は無くなる。つまり、こうして生み出した親から一時的にだけでもこの空間を隔離する必要があったわけだ」
「ソノトオリ。そして、コレを伝えたコトが露見スれば……自分は即座にキエル。ダカラ、話させて……イヤ。託させてクレ」
そう言って店主は結界の強度を強める。自分が光を仕舞うと店主はニッコリと笑う。
「ソウ。僕は案内屋。ケレド……このタルタロスを、全ての世界を喰らい尽くす破滅の世界を止メラレル案内屋はキミたちだ」
そう言うとアグラタムもイシュリア王も一旦光を仕舞う。すると影の結界は強度を増し、まるでミヤコどころかタルタロスから一時的に切り離されるようなものになった。
「……僕を生み出した王はスゴーク強くテ、ネ。マァ子は親に似るというワケだ。サテ。本当に自分の時間も無くなってキタ。……託すために話そウ。最前線ティネモシリ……いや、王妃ティネモシリと、この世界。破滅へと向かうタルタロスについて」
「ヤァ。無事にミヤコにたどり着けて何よりダヨ」
にこやかな影はそう言って微笑む。自分は無知なフリをしながら質問する。
「無事に辿り着けて……?案内屋さん、我らの事を知っているの?」
その問いににこやかな笑顔のまま答えてくれる。
「モチロンだ。最前線の街……ティネモシリから来たのダロウ?二日、三日はかかると思ったケレド……君達は早いんだネ」
ティネモシリ。それがあの最前線の街の名前なのか。頭の中に記憶するとそれについて深堀してみる。
「案内屋さん。そのティネモシリ……って、所に我らは何故送られたの?」
その問いにはにこやかな顔では答えてくれなかった。少し苦々しいような、苦しそうな顔で言った。
「……ソウカ、記憶が無いのダモノね。この話はウチの店でしよう。ココの住人にとっても……聞きたくない話ダロウカラ」
ふと横を見ると皆自分達を逸れるかのように歩いている。それまで普通だった影も、ティネモシリという名前を聞いた瞬間に俯いて歩き始めた程だ。
「……オイで。コッチだよ」
そう言われて、案内屋の店であろう場所へと誘導されていく。確かに門番が言っていたルートと同じだ。信用は出来る。本物の案内屋である。
(……ティネモシリ、ね。最前線の街ってだけじゃなさそうだ)
「……サテ、到着だ」
路地裏の先。まるでこのミヤコでも秘匿されたようなそこには立派な看板と店……というより、イシュリアに近い一軒屋が建っていた。
「お邪魔します」
そう言って自分とアグラタム、イシュリア王が入ったのを確認するとそっと案内屋がドアを閉じる。
「サテ。まずは自己紹介とイコウ。僕は案内屋。ア、ン、ナ、イ、ヤ。それ以外の名もナイ、本当に案内の為だけに産み出された存在ダ」
(産み出された……?)
その言葉を聞いてイマイチぴんと来なかったので唇に指を当てて考える。
「……サテ、では教えよう。『異邦人』。ティネモシリとは何か。ソシテ……この世界の影とは何カ」
「ッ!」
その瞬間に自分も口から手を離して三人とも戦闘態勢に入る。
(いつだ!?いつからバレていた!?)
「……警戒スルナ、とは言わナイヨ。他の人には分からないだろうケド僕はワカル。君達は……このタルタロスのヒトじゃない。何故なら、案内屋とは記憶を失ったヒトを案内するコトと……そういった異邦人は抹殺するのが役目だからネ」
「……ならば、何故最初から殺さなかった?」
アグラタムが敵意を剥き出しにした声で問いかける。
「理由は単純明快サ。勝テナイ。ソレに……モウ、このタルタロスに光はナインダ。ソレを終ラせる事が出来る存在だとキミたちを思ったカラダ」
そう言うと両手を上げてホールドアップの状態になる案内屋。それを見ながらまだ信用ならないとばかりに自分も、アグラタムも、イシュリア王も光の魔力を出す。
「オォ、オォ……!コレが、コレが光!我々が手を伸ばさんとシ……失ッタモノ。幾らの異邦人を手にカケテモ!奪い取れなかった……ヒカリ……」
それに見惚れるように言う案内屋にイシュリア様が怒気を込めて問いかける。
「ひとつ答えて貰おうかしら。今異邦人を手にかけた、と言ったわね。それは……ウチの世界の子かしら?返答によってはその身体、影すら残さないわよ」
「……もしかすると、手にカケタかもしれナイネ。デモ、この身体をまだ消すのは早いと思わないカイ?君達に伝えたいことが……アルノダ」
無言でそのまま突きつけていると、唐突に店主が店に闇の魔力で店を覆う。
「何をするつもりだッ!」
結界を切り裂こうとする弟子を抑えてイシュリア王の手もギュッともう片方の手で握る。
「待て!アグラタム!……この案内屋、本当に後が無いらしいぞ」
(貼られたのは音を隔絶する結界だ。ただ異邦人を処理するだけなら街から離れたこの地で十分。聞こえないのだから。それなのに貼ったということは……)
「……案内屋。産み出された、と言ったな。つまり、お前は命令に従うしかない。しかし従わなければその身体は無くなる。つまり、こうして生み出した親から一時的にだけでもこの空間を隔離する必要があったわけだ」
「ソノトオリ。そして、コレを伝えたコトが露見スれば……自分は即座にキエル。ダカラ、話させて……イヤ。託させてクレ」
そう言って店主は結界の強度を強める。自分が光を仕舞うと店主はニッコリと笑う。
「ソウ。僕は案内屋。ケレド……このタルタロスを、全ての世界を喰らい尽くす破滅の世界を止メラレル案内屋はキミたちだ」
そう言うとアグラタムもイシュリア王も一旦光を仕舞う。すると影の結界は強度を増し、まるでミヤコどころかタルタロスから一時的に切り離されるようなものになった。
「……僕を生み出した王はスゴーク強くテ、ネ。マァ子は親に似るというワケだ。サテ。本当に自分の時間も無くなってキタ。……託すために話そウ。最前線ティネモシリ……いや、王妃ティネモシリと、この世界。破滅へと向かうタルタロスについて」
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