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三章 破滅のタルタロス
光無き地 6
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そこは、今までとは違い商店街のようだった。
夫人に言われて辿り着いた先は店が並び、まるでココが影の世界では無いのではないかという程の露店や屋台が広がっている。
しかし、影の色が全てを現実へと元に戻す。ブレスレットに魔力を通して休むふりをして二人に連絡を入れる。
(商店街のような場所を見つけました。これから少し探りを入れようと思います。アグラタムとイシュリア様は?)
そう伝えるとブレスレットから思念のように会話が伝わってくる。
(はっ。今門を開けるような路地裏……もしくは外に通ずる通路がないかを調査中です。門を開ける候補はいくつか見つけました)
(私は丁度レテ君と同じ場所かしら?未亡人に見えるらしくて……なんだか沢山憐れみのお金をもらってしまったわ。一部をイシュリアに持ち帰って、他はレテ君と使おうと思うわ)
未亡人。影になっても美しさは変わらないということだ。苦笑しながらも返す。
(了解です。アグラタムはそのまま探索を。自分はイシュリア様と合流します)
(仰せのままに)
(わかったわ)
魔力を切って、周りを見るとイシュリア様はすぐに見つかった。駆け寄ると、他の影から話しかけられる。
「おぉ、美しき同胞ヨ……。子供と共にモドレタノダナ……」
「ええ、この子迷子になっちゃったみたいだけど無事に辿り着けたみたい」
「ヨカッタ……ヨカッタ……!最前線デ戦った兵士と家族に敬意ヲ……!」
そう言って自分に少しばかりのお金をくれる。ありがとう、とばかりにぺこりとお辞儀をするとニコリと笑ってその影は去っていった。
「ごめんね、執拗い影がいたから子連れって言ったら広まっちゃって……」
(なるほど……美しいって罪だな)
そう思いながら一向に構いませんとばかりに頷くとニコリと微笑んで手を差し出された。
意図を察して、はぐれないように手を握ると改めて商店街へと繰り出した。
一方でアグラタムは素早く、見つからないように動きながら合流出来る地点を探していた。
(ふむ。ここも良さそうですね。……にしても、皮肉ですね。我々を襲った影の街の方が治安が良いとは)
イシュリアも治安がかなり良い方ではあるが、それでも捨て子や犯罪が完全に無いわけではない。
なのに多数の路地裏をこっそり回ってもそんな光景はない。タダのひとつも。やってる事と言えば合法的に子供たちが遊んでいることぐらいだ。微かな光に入ったり入らなかったり。そんな光景しか見えない。
(……或いは。治安が悪くなるだけの要員が居ないのかもしれませんね。人口的に)
そう考えている時に、後ろから声をかけられる。
「ヤァ。どうしたんだい?」
「……気分が、ここに向いた。我は記憶喪失の身。案内屋に行くように言われた」
振り向くと、にこやかな影がいた。
「……おや。それは奇遇だね。案内屋トハ私の事だよ。お仲間さんと共においで」
「……」
「オヤ、はぐれたのかい?仕方ナイネ。あの子は小さかったもの。一緒に探そう」
その言葉に目を見開くのをぐっと我慢しながら後ろをぐるっと向いて歩き出す影を見て、魔力を通した。
(応答を!至急伝えたいことが!)
(ん?どうした?影のご飯は本当に娯楽物だ。食感しかない)
二人でフラフラとしながら見ているが、服は影を彩る物。食べ物は食感しかないもの。飲み物はただ影を濡らすためのもの。そんな感想だった。
(一刻を争います!今案内屋と遭遇しました!)
イシュリア様と自分に緊張が走る。即座に食べ物を飲み込み、人気のない路地裏に駆け込むと身を潜めて聞く。
(案内屋だと!?おま、先に……)
(違います!偶然……だと思います。しかしそれ以上に重要な事が!)
その焦り方にイシュリア様が落ち着かせるような魔力を通して聞く。
(落ち着いて。アグラタム、何が?)
(……私を一目見ただけで『仲間がいる』事がバレました。しかも『子供は小さかった』と言っていました。接点は何も無いのに……!)
それを聞いて自分の頭の中に引っかかっていた最後のトゲが取れた気がした。
「……ミヤコからやってきた人を多く帰した……。そう店主は言った。何故、最初の町の店主は分かった?帰れたのだと。ミヤコから来たのだと。そして、最初の町はなぜカタコトなのにこの街は聞き取りやすいのか?その答えがこれだ!マズイ!最前線の影は文字通りの影だ!『ミヤコに居る人の影そのもの!ミヤコから身体と影と共に最前線に向かった人はその影だけが残った』んだ!その案内屋は最初の町の店主と同じだ!裏で魔法を展開しながら合流するぞ!」
イシュリア王すら呆然とそれを聞く中、ぐっと歯を食いしばって立ち上がる。
「つまり、最初の街にいた店主と案内屋は同一……いいえ、影だけを置いて連絡役にしたのね。そんな人が影という『記録だけの姿』を無事に返すわけが無いわ。何か狙いがあるはずよ。アグラタム、商店街に向かって頂戴。私達も合流するわ」
緊張した空気の中魔法を展開出来る事を小規模な魔力の流れで確認する。イシュリア様もそれを確認したようで、頷くとアグラタムの魔力を辿って商店街の入口へと向かった。
夫人に言われて辿り着いた先は店が並び、まるでココが影の世界では無いのではないかという程の露店や屋台が広がっている。
しかし、影の色が全てを現実へと元に戻す。ブレスレットに魔力を通して休むふりをして二人に連絡を入れる。
(商店街のような場所を見つけました。これから少し探りを入れようと思います。アグラタムとイシュリア様は?)
そう伝えるとブレスレットから思念のように会話が伝わってくる。
(はっ。今門を開けるような路地裏……もしくは外に通ずる通路がないかを調査中です。門を開ける候補はいくつか見つけました)
(私は丁度レテ君と同じ場所かしら?未亡人に見えるらしくて……なんだか沢山憐れみのお金をもらってしまったわ。一部をイシュリアに持ち帰って、他はレテ君と使おうと思うわ)
未亡人。影になっても美しさは変わらないということだ。苦笑しながらも返す。
(了解です。アグラタムはそのまま探索を。自分はイシュリア様と合流します)
(仰せのままに)
(わかったわ)
魔力を切って、周りを見るとイシュリア様はすぐに見つかった。駆け寄ると、他の影から話しかけられる。
「おぉ、美しき同胞ヨ……。子供と共にモドレタノダナ……」
「ええ、この子迷子になっちゃったみたいだけど無事に辿り着けたみたい」
「ヨカッタ……ヨカッタ……!最前線デ戦った兵士と家族に敬意ヲ……!」
そう言って自分に少しばかりのお金をくれる。ありがとう、とばかりにぺこりとお辞儀をするとニコリと笑ってその影は去っていった。
「ごめんね、執拗い影がいたから子連れって言ったら広まっちゃって……」
(なるほど……美しいって罪だな)
そう思いながら一向に構いませんとばかりに頷くとニコリと微笑んで手を差し出された。
意図を察して、はぐれないように手を握ると改めて商店街へと繰り出した。
一方でアグラタムは素早く、見つからないように動きながら合流出来る地点を探していた。
(ふむ。ここも良さそうですね。……にしても、皮肉ですね。我々を襲った影の街の方が治安が良いとは)
イシュリアも治安がかなり良い方ではあるが、それでも捨て子や犯罪が完全に無いわけではない。
なのに多数の路地裏をこっそり回ってもそんな光景はない。タダのひとつも。やってる事と言えば合法的に子供たちが遊んでいることぐらいだ。微かな光に入ったり入らなかったり。そんな光景しか見えない。
(……或いは。治安が悪くなるだけの要員が居ないのかもしれませんね。人口的に)
そう考えている時に、後ろから声をかけられる。
「ヤァ。どうしたんだい?」
「……気分が、ここに向いた。我は記憶喪失の身。案内屋に行くように言われた」
振り向くと、にこやかな影がいた。
「……おや。それは奇遇だね。案内屋トハ私の事だよ。お仲間さんと共においで」
「……」
「オヤ、はぐれたのかい?仕方ナイネ。あの子は小さかったもの。一緒に探そう」
その言葉に目を見開くのをぐっと我慢しながら後ろをぐるっと向いて歩き出す影を見て、魔力を通した。
(応答を!至急伝えたいことが!)
(ん?どうした?影のご飯は本当に娯楽物だ。食感しかない)
二人でフラフラとしながら見ているが、服は影を彩る物。食べ物は食感しかないもの。飲み物はただ影を濡らすためのもの。そんな感想だった。
(一刻を争います!今案内屋と遭遇しました!)
イシュリア様と自分に緊張が走る。即座に食べ物を飲み込み、人気のない路地裏に駆け込むと身を潜めて聞く。
(案内屋だと!?おま、先に……)
(違います!偶然……だと思います。しかしそれ以上に重要な事が!)
その焦り方にイシュリア様が落ち着かせるような魔力を通して聞く。
(落ち着いて。アグラタム、何が?)
(……私を一目見ただけで『仲間がいる』事がバレました。しかも『子供は小さかった』と言っていました。接点は何も無いのに……!)
それを聞いて自分の頭の中に引っかかっていた最後のトゲが取れた気がした。
「……ミヤコからやってきた人を多く帰した……。そう店主は言った。何故、最初の町の店主は分かった?帰れたのだと。ミヤコから来たのだと。そして、最初の町はなぜカタコトなのにこの街は聞き取りやすいのか?その答えがこれだ!マズイ!最前線の影は文字通りの影だ!『ミヤコに居る人の影そのもの!ミヤコから身体と影と共に最前線に向かった人はその影だけが残った』んだ!その案内屋は最初の町の店主と同じだ!裏で魔法を展開しながら合流するぞ!」
イシュリア王すら呆然とそれを聞く中、ぐっと歯を食いしばって立ち上がる。
「つまり、最初の街にいた店主と案内屋は同一……いいえ、影だけを置いて連絡役にしたのね。そんな人が影という『記録だけの姿』を無事に返すわけが無いわ。何か狙いがあるはずよ。アグラタム、商店街に向かって頂戴。私達も合流するわ」
緊張した空気の中魔法を展開出来る事を小規模な魔力の流れで確認する。イシュリア様もそれを確認したようで、頷くとアグラタムの魔力を辿って商店街の入口へと向かった。
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