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三章 破滅のタルタロス
情報交換 後編
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「ではまず自分から話しましょう」
そう言って切り出すと、学院で起きた襲撃の話をする。
両学院、及びグラウンドに敵兵が現れて苦戦させられていたこと。しかし、それ以上に不可思議な事が一つある。
「……回って聞いてみたのですが、四足歩行の影の獣だけは自分の所にきた単体だけのようです。戦った感じ、他の影のは違う……というより、人型よりも明らかに耐久が高く、戦闘向けといった感じでした。また、グラウンドでは影を統率する影の姿が見られました。獣も統率者も、学院内部に送り込めばその場を崩壊させられたのにそうしなかったのは少し疑問に思います」
そう言うとふむ、と二人はそれぞれの姿勢で考え込む。
「確かに、相手が前と同じく贄……生贄を狙うのであればその方が効率的でしょうが……」
そうアグラタムが言うと、イシュリア王が返す。
「だからこそではないか?生贄というのはそもそも生きているから成立するもの。獣を送り込んで命を落とさせては贄にはならぬ」
「ふむ……だとしたら何故師のところにだけ……?」
それについてはスイロウ先生から一説貰っている。それを話すことにしよう。
「これは学院の先生と話して思った……というより結論を出したのですが、前のラクザ防衛戦の時に自分の情報が既に敵側に漏れて、影に紛れた自分だけを始末しようとしたのではないのかと」
「しかし師よ、あの時情報を持ち帰る兵は一人しか……」
「悔しいが、他に情報を持ち帰るだけの予備兵を設置していたかあの瞬間既に届けさせたと考えるのが妥当だと思う。武術学院の代表生にも魔術に長けた者にも確認したが、獣が現れたのはやはり自分のところだけだった。そんな一点狙い、魔力の情報が漏れているとしか思えない」
うーむと唸るアグラタムに対し、イシュリア王も少し考えてから発言する。
「つまりは敵は何らかの手段で異界へと情報を持ち帰った。そして生贄を確保する上で障害になるであろう貴方を抹殺、もしくは足止めしようと考えた、といった感じかしら」
「ええ、そうなるかと」
そう締めると、アグラタムもイシュリア王に向けられた視線に頷いて話し出す。
「では私の方の情報を。異界へ乗り込んだ結果、恐らく師の所に出たと思われる同じ獣が数体おりました。確かにあれらは人型よりも高い戦闘能力を有してはおりましたが……知性と呼べるものは有していなかったので生贄を確保する上では不便かもしれません。しかし、それ以上に不可解なことがあります」
「不可解?」
自分が首を傾げて問いかけると、彼も不思議そうな顔をしながら頷く。
「彼らは何かに忠義を捧げ、多くの同胞を私が手にかけても自分の死をも恐れずに突撃してきました。それを倒した後に近くの街に潜入して言われたのです。『裏切り者』と」
「裏切り者……正体がバレているなら敵だって言うはずだな」
そう答えると頷く。そこからイシュリア王が引き継ぐ。
「彼の話だと裏切り者、忠義に欠けし者……つまり生きているか死んだかよりも、死んででも忠誠を捧げよって事だと考えたらしいの。私も考えたわ。異界にはもしかしたら指導者……それこそ私のような立場に絶対的な忠誠を誓っているのかもしれない。それに背いたと考えられたアグラタムは糾弾されたんじゃなきかって」
「なるほど……異界に指導者、ですか。確かにあれだけの影と生贄を必要とするのですから、それを総括している人はいそうですね」
そう答えると自分は再び考え込む。二人も貰った情報を元に考えているようだった。
(裏切り者……近くの街ということは最前線か。そこで生きて帰って情報を持ち帰った事よりも忠義を果たして死ぬ事が重要となると、もしや死に際に何か情報を送る魔法をかけているのかもしれないな。そうなると……)
考えていると、横から声がかかる。
「師よ、何か思いついたのですか?」
「予測の域を出ないけれど……もしかしたら死に際、もしくは死んだ時に発動する魔術か何かを兵士にはかけられている可能性があるって考えた。そうすれば生きて帰って糾弾されても仕方がない」
それを聞いて、イシュリア王が納得する。
「なるほど。確かにそれは有り得そうですね。……後、予測の域を出ないと言えば一つ。こちらも貴方に伝えるか迷った情報があるのです」
「予測の域を出ない?……いえ、でも聞かせてください」
つまり何らかの出来事で話し合ったのだろう。それを聞くためにアグラタムに視線を送ると話し始める。
「列車での襲撃。それにラクザでの強襲。今回はどうかは分かりませんが……彼らは『タルタロス』としか呼んでいません。もし仮にタルタロスが指導者だとしたらタルタロス様、などの敬称がつくはずなのです。そこで王と二人で考えました。もしかしたらタルタロスとは、膨大な生贄を必要とする魔法術式ではないのかと」
「……魔法、術式。なるほど。確かに敬称がついていないというのは盲点だったな」
そう考えると合点が行く。確かに生贄は大量に必要であるし、その魔法の発動に邪魔であるだろう自分は何としてでも消しておきたいはずだ。
だがこれ以上議論しても何も浮かばなさそうだ。結局何のためにイシュリアに侵攻しているのかが分からない。
そんな時、イシュリア王が爆弾を落とした。
「そうしたら今度は私たちの方から遊びにいきましょうか」
「……はい?」
アグラタムがポカンとした様子で声を出す。自分も絶句する。遊びに行くって、まさか……
「件のタルタロスの異界。相手が長く攻めたお陰でアグラタムが門を繋げられるはずよ。なら、私たちが影となって……そうね、記憶喪失の影を偽って乗り込みましょうか」
「王よ!それでは御身に危険が……!」
アグラタムが心配する中、イシュリア王は凛々しく、キッパリとした声で言い張る。
「イシュリアの民全てに危険が迫っている中、私はただ王として椅子に座っていろ、と?いいえ。民と国を護るのが王。王を護るのが守護者。ならばこちらから手を打たねばいつかイシュリアの民はまた悲しむ事になります」
「自分はイシュリア王に賛成です。……侵攻の強度が強まっている今、これ以上決死の特攻を仕掛けられればどんな被害が出るか分からない。その前に集められる情報は集めるべきです」
そう言うとアグラタムは苦い顔をしたが、やがて頷いた。
「……分かりました。確かに門を開くことは出来るのでそれで行きましょう。決行はこの後直ぐで良いですね?」
「構わない」
「ええ、大丈夫よ」
こうして更なる情報を得るために自分達は、異界へと乗り込む準備をし始めた。……主に影の変装について、だが。
そう言って切り出すと、学院で起きた襲撃の話をする。
両学院、及びグラウンドに敵兵が現れて苦戦させられていたこと。しかし、それ以上に不可思議な事が一つある。
「……回って聞いてみたのですが、四足歩行の影の獣だけは自分の所にきた単体だけのようです。戦った感じ、他の影のは違う……というより、人型よりも明らかに耐久が高く、戦闘向けといった感じでした。また、グラウンドでは影を統率する影の姿が見られました。獣も統率者も、学院内部に送り込めばその場を崩壊させられたのにそうしなかったのは少し疑問に思います」
そう言うとふむ、と二人はそれぞれの姿勢で考え込む。
「確かに、相手が前と同じく贄……生贄を狙うのであればその方が効率的でしょうが……」
そうアグラタムが言うと、イシュリア王が返す。
「だからこそではないか?生贄というのはそもそも生きているから成立するもの。獣を送り込んで命を落とさせては贄にはならぬ」
「ふむ……だとしたら何故師のところにだけ……?」
それについてはスイロウ先生から一説貰っている。それを話すことにしよう。
「これは学院の先生と話して思った……というより結論を出したのですが、前のラクザ防衛戦の時に自分の情報が既に敵側に漏れて、影に紛れた自分だけを始末しようとしたのではないのかと」
「しかし師よ、あの時情報を持ち帰る兵は一人しか……」
「悔しいが、他に情報を持ち帰るだけの予備兵を設置していたかあの瞬間既に届けさせたと考えるのが妥当だと思う。武術学院の代表生にも魔術に長けた者にも確認したが、獣が現れたのはやはり自分のところだけだった。そんな一点狙い、魔力の情報が漏れているとしか思えない」
うーむと唸るアグラタムに対し、イシュリア王も少し考えてから発言する。
「つまりは敵は何らかの手段で異界へと情報を持ち帰った。そして生贄を確保する上で障害になるであろう貴方を抹殺、もしくは足止めしようと考えた、といった感じかしら」
「ええ、そうなるかと」
そう締めると、アグラタムもイシュリア王に向けられた視線に頷いて話し出す。
「では私の方の情報を。異界へ乗り込んだ結果、恐らく師の所に出たと思われる同じ獣が数体おりました。確かにあれらは人型よりも高い戦闘能力を有してはおりましたが……知性と呼べるものは有していなかったので生贄を確保する上では不便かもしれません。しかし、それ以上に不可解なことがあります」
「不可解?」
自分が首を傾げて問いかけると、彼も不思議そうな顔をしながら頷く。
「彼らは何かに忠義を捧げ、多くの同胞を私が手にかけても自分の死をも恐れずに突撃してきました。それを倒した後に近くの街に潜入して言われたのです。『裏切り者』と」
「裏切り者……正体がバレているなら敵だって言うはずだな」
そう答えると頷く。そこからイシュリア王が引き継ぐ。
「彼の話だと裏切り者、忠義に欠けし者……つまり生きているか死んだかよりも、死んででも忠誠を捧げよって事だと考えたらしいの。私も考えたわ。異界にはもしかしたら指導者……それこそ私のような立場に絶対的な忠誠を誓っているのかもしれない。それに背いたと考えられたアグラタムは糾弾されたんじゃなきかって」
「なるほど……異界に指導者、ですか。確かにあれだけの影と生贄を必要とするのですから、それを総括している人はいそうですね」
そう答えると自分は再び考え込む。二人も貰った情報を元に考えているようだった。
(裏切り者……近くの街ということは最前線か。そこで生きて帰って情報を持ち帰った事よりも忠義を果たして死ぬ事が重要となると、もしや死に際に何か情報を送る魔法をかけているのかもしれないな。そうなると……)
考えていると、横から声がかかる。
「師よ、何か思いついたのですか?」
「予測の域を出ないけれど……もしかしたら死に際、もしくは死んだ時に発動する魔術か何かを兵士にはかけられている可能性があるって考えた。そうすれば生きて帰って糾弾されても仕方がない」
それを聞いて、イシュリア王が納得する。
「なるほど。確かにそれは有り得そうですね。……後、予測の域を出ないと言えば一つ。こちらも貴方に伝えるか迷った情報があるのです」
「予測の域を出ない?……いえ、でも聞かせてください」
つまり何らかの出来事で話し合ったのだろう。それを聞くためにアグラタムに視線を送ると話し始める。
「列車での襲撃。それにラクザでの強襲。今回はどうかは分かりませんが……彼らは『タルタロス』としか呼んでいません。もし仮にタルタロスが指導者だとしたらタルタロス様、などの敬称がつくはずなのです。そこで王と二人で考えました。もしかしたらタルタロスとは、膨大な生贄を必要とする魔法術式ではないのかと」
「……魔法、術式。なるほど。確かに敬称がついていないというのは盲点だったな」
そう考えると合点が行く。確かに生贄は大量に必要であるし、その魔法の発動に邪魔であるだろう自分は何としてでも消しておきたいはずだ。
だがこれ以上議論しても何も浮かばなさそうだ。結局何のためにイシュリアに侵攻しているのかが分からない。
そんな時、イシュリア王が爆弾を落とした。
「そうしたら今度は私たちの方から遊びにいきましょうか」
「……はい?」
アグラタムがポカンとした様子で声を出す。自分も絶句する。遊びに行くって、まさか……
「件のタルタロスの異界。相手が長く攻めたお陰でアグラタムが門を繋げられるはずよ。なら、私たちが影となって……そうね、記憶喪失の影を偽って乗り込みましょうか」
「王よ!それでは御身に危険が……!」
アグラタムが心配する中、イシュリア王は凛々しく、キッパリとした声で言い張る。
「イシュリアの民全てに危険が迫っている中、私はただ王として椅子に座っていろ、と?いいえ。民と国を護るのが王。王を護るのが守護者。ならばこちらから手を打たねばいつかイシュリアの民はまた悲しむ事になります」
「自分はイシュリア王に賛成です。……侵攻の強度が強まっている今、これ以上決死の特攻を仕掛けられればどんな被害が出るか分からない。その前に集められる情報は集めるべきです」
そう言うとアグラタムは苦い顔をしたが、やがて頷いた。
「……分かりました。確かに門を開くことは出来るのでそれで行きましょう。決行はこの後直ぐで良いですね?」
「構わない」
「ええ、大丈夫よ」
こうして更なる情報を得るために自分達は、異界へと乗り込む準備をし始めた。……主に影の変装について、だが。
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