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三章 破滅のタルタロス
影の国の報告
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アグラタムは鈴の音を鳴らした後、異界の出来事と情報をイシュリア王へと共有しに、玉座の間へと歩いていった。しかし玉座には誰も座っていなかった。
(御身に危険が!?)
しかしブレスレットに危険信号はきていない。王の魔力をゆっくりと探知すると、魔術学院にいるのが分かった。
(……王よ、実地で見なければわからないとおっしゃいますが立場を弁えてください、立場を)
若干胃痛がするのを感じながらアグラタムは王の帰還を待っていた。
数分後。玉座の間に門が開くと蜃気楼のような見えそうで見えない姿がゆっくりと出てくる。
「……アグラタムか。此度も良くぞ戻った」
声は変えていないようだ。ふぅ、とこっそり一息ついてからアグラタムは片膝をついて忠義の礼をする。
「守護者アグラタム、異界への侵入及びその撃退を果たしました。……して、何故魔術学院にその姿で行ったのですか。王よ」
ん?とイシュリア王が自分の姿を確認するように身体を動かしてから、納得した声で指パッチンと共に元の姿に戻る。
「いくら姿を滅多に見せぬが故に知る者が少ないとはいえ、知っている者もいるであろう。それに助けたのが王であったと知れば愛し子達を怯えさせるかもしれん。それだけは避けておきたかったのでな」
「魔術学院……ですか。学院方面に多数の敵を検知してはいましたが」
その言葉にうむ、と頷くと王は貴重な体験をしたとばかりに嬉しそうに語る。
「やはり時々魔法も使わねばいけないな。腕が鈍るというもの。それに実地で敵を直に知るというのは大切なことだ。……ああ、それとアグラタムよ」
「なんでしょうか」
半分諦めた顔をしながら俯いているアグラタムに王は爆弾を落とした。
「そなたの師の相部屋のシアちゃん……であったな。その子に伝言を頼んでおいた。レテ君へ、いつも私の右腕がお世話になっている、とな」
「何をしているのですか王よっ!?」
ガバッと顔を上げると愉快愉快と笑う王がいた。確かにシア殿の相部屋になっているのは師だし、その情報も前に伝えてある。しかしこんな形で二人だけに正体をバラしてしまって良いのか。
「それでは二人が気づいてしまうではありませんか!」
「何、バレた時はバレた時であろう。あの二人は口が固いと見る。それに救援が来たのが王などと、言っても信じられないであろう。大丈夫よ」
全くもって何処が大丈夫なのか。満面の笑みを浮かべる王を見ながら、収まったはずの胃痛がまた再発するのを感じた。
「……それでアグラタムよ。今回の敵はあ奴らでよいのだな?」
胃痛が収まるのを待っていてくれた王から先程までの軽い声から真剣な声に変わって問いかけられると、こちらも真剣に答える。
「はい。今回現れた敵は列車を襲った敵、ラクザを襲撃した敵と同じ異界の者で一致しています」
「ふむ。ということはその異界にタルタロス……やらの秘密があるということか」
情報を共有する。というかこちらが本業のはずなのに何故ツッコミから入らなければいけなかったのか。それは置いておいて、更なる情報を提供する。
「今回鈴の音が遅れた原因は、自分が撃破した後に少し探っていたからになります」
「ほう?……詳しく話せ」
ずっと目を細める王に対して、片膝を着いたままその目を見つめると話し始める。
「師はラクザの時に影へ擬態し、結果正体がバレること無く不意打ちを成功させました。その経験を生かして私も影へと変身、近くの街へ情報収集に行きました」
「ほう。その様子だと成功したようだな。して、得られたものは?」
「まず、あの異界には光がありません。正確に言えば太陽光など、目立った光がなく仄暗い異界と言えましょう。それに加え、前線の街だというのに武器の店はおろか、商店の一つもありませんでした。あったのは歪に並んだ住居のようなものだけです」
無言で報告を聞きながら顎に手を当てて考える王。それを見続けていると、頷いて言葉を発する。
「まだ報告するべきことがあるのだな。続けよ」
「はっ。影の敵は全て私が殲滅した為、形としては私一人が帰還する形で街に戻ったのですが……。影の住人からは裏切り者、忠義に欠けし者と呼ばれました。どうやら彼ら彼女にとっては戦いに負けたから敗走するかよりも、何かに忠義を捧げて死する事の方が重要……そのように見受けられました」
「ふむ。……忠義を捧げているのは王か?民か?……異界そのものか?」
それだ、それだけが惜しかった。悔しいと言わんばかりに口をギリっと噛みながら言う。
「それを言われる前に誰かがその子供の口を閉じさせ、非難の嵐となってしまいました。その言葉を聞く価値がないと。それ以上の情報収集は無理だと判断し、こちらに帰ってきた次第です」
「……なるほど。報告は以上か?」
「以上になります」
そう言うと大きく頷いて、イシュリア王は笑みを浮かべる。
「とにかく、良くぞ無事に戻り、情報も集めてくれた。一度異界が分かれば今度はこちらから乗り込むことも出来よう。日を改めて影に擬態出来る者を集めて乗り込むのも良いかもしれんな」
「有り難きお言葉。確かに未だタルタロスなるものが何なのか、断片しか掴めていない上に推測の域を出ません。情報を集めに行くのは良い策かと」
そう言うと立ち上がる。王も頷いて下がってよいと言う。
立ち去る最中、考えていた。何故あそこまで住人は勝ち負けよりも忠義を重んじているのかを。
(……いや、私とてイシュリアに捧げた身。同じようなものか)
そう考えながら自室へ向かうと、書きかけの書類を放置して仮眠を取るべくベッドへと転がった。
(御身に危険が!?)
しかしブレスレットに危険信号はきていない。王の魔力をゆっくりと探知すると、魔術学院にいるのが分かった。
(……王よ、実地で見なければわからないとおっしゃいますが立場を弁えてください、立場を)
若干胃痛がするのを感じながらアグラタムは王の帰還を待っていた。
数分後。玉座の間に門が開くと蜃気楼のような見えそうで見えない姿がゆっくりと出てくる。
「……アグラタムか。此度も良くぞ戻った」
声は変えていないようだ。ふぅ、とこっそり一息ついてからアグラタムは片膝をついて忠義の礼をする。
「守護者アグラタム、異界への侵入及びその撃退を果たしました。……して、何故魔術学院にその姿で行ったのですか。王よ」
ん?とイシュリア王が自分の姿を確認するように身体を動かしてから、納得した声で指パッチンと共に元の姿に戻る。
「いくら姿を滅多に見せぬが故に知る者が少ないとはいえ、知っている者もいるであろう。それに助けたのが王であったと知れば愛し子達を怯えさせるかもしれん。それだけは避けておきたかったのでな」
「魔術学院……ですか。学院方面に多数の敵を検知してはいましたが」
その言葉にうむ、と頷くと王は貴重な体験をしたとばかりに嬉しそうに語る。
「やはり時々魔法も使わねばいけないな。腕が鈍るというもの。それに実地で敵を直に知るというのは大切なことだ。……ああ、それとアグラタムよ」
「なんでしょうか」
半分諦めた顔をしながら俯いているアグラタムに王は爆弾を落とした。
「そなたの師の相部屋のシアちゃん……であったな。その子に伝言を頼んでおいた。レテ君へ、いつも私の右腕がお世話になっている、とな」
「何をしているのですか王よっ!?」
ガバッと顔を上げると愉快愉快と笑う王がいた。確かにシア殿の相部屋になっているのは師だし、その情報も前に伝えてある。しかしこんな形で二人だけに正体をバラしてしまって良いのか。
「それでは二人が気づいてしまうではありませんか!」
「何、バレた時はバレた時であろう。あの二人は口が固いと見る。それに救援が来たのが王などと、言っても信じられないであろう。大丈夫よ」
全くもって何処が大丈夫なのか。満面の笑みを浮かべる王を見ながら、収まったはずの胃痛がまた再発するのを感じた。
「……それでアグラタムよ。今回の敵はあ奴らでよいのだな?」
胃痛が収まるのを待っていてくれた王から先程までの軽い声から真剣な声に変わって問いかけられると、こちらも真剣に答える。
「はい。今回現れた敵は列車を襲った敵、ラクザを襲撃した敵と同じ異界の者で一致しています」
「ふむ。ということはその異界にタルタロス……やらの秘密があるということか」
情報を共有する。というかこちらが本業のはずなのに何故ツッコミから入らなければいけなかったのか。それは置いておいて、更なる情報を提供する。
「今回鈴の音が遅れた原因は、自分が撃破した後に少し探っていたからになります」
「ほう?……詳しく話せ」
ずっと目を細める王に対して、片膝を着いたままその目を見つめると話し始める。
「師はラクザの時に影へ擬態し、結果正体がバレること無く不意打ちを成功させました。その経験を生かして私も影へと変身、近くの街へ情報収集に行きました」
「ほう。その様子だと成功したようだな。して、得られたものは?」
「まず、あの異界には光がありません。正確に言えば太陽光など、目立った光がなく仄暗い異界と言えましょう。それに加え、前線の街だというのに武器の店はおろか、商店の一つもありませんでした。あったのは歪に並んだ住居のようなものだけです」
無言で報告を聞きながら顎に手を当てて考える王。それを見続けていると、頷いて言葉を発する。
「まだ報告するべきことがあるのだな。続けよ」
「はっ。影の敵は全て私が殲滅した為、形としては私一人が帰還する形で街に戻ったのですが……。影の住人からは裏切り者、忠義に欠けし者と呼ばれました。どうやら彼ら彼女にとっては戦いに負けたから敗走するかよりも、何かに忠義を捧げて死する事の方が重要……そのように見受けられました」
「ふむ。……忠義を捧げているのは王か?民か?……異界そのものか?」
それだ、それだけが惜しかった。悔しいと言わんばかりに口をギリっと噛みながら言う。
「それを言われる前に誰かがその子供の口を閉じさせ、非難の嵐となってしまいました。その言葉を聞く価値がないと。それ以上の情報収集は無理だと判断し、こちらに帰ってきた次第です」
「……なるほど。報告は以上か?」
「以上になります」
そう言うと大きく頷いて、イシュリア王は笑みを浮かべる。
「とにかく、良くぞ無事に戻り、情報も集めてくれた。一度異界が分かれば今度はこちらから乗り込むことも出来よう。日を改めて影に擬態出来る者を集めて乗り込むのも良いかもしれんな」
「有り難きお言葉。確かに未だタルタロスなるものが何なのか、断片しか掴めていない上に推測の域を出ません。情報を集めに行くのは良い策かと」
そう言うと立ち上がる。王も頷いて下がってよいと言う。
立ち去る最中、考えていた。何故あそこまで住人は勝ち負けよりも忠義を重んじているのかを。
(……いや、私とてイシュリアに捧げた身。同じようなものか)
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