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三章 破滅のタルタロス
ラクザの英雄の噂
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「おぉーっし!全員出席だな!休みがあったとはいえ弛んでいないようで皆偉いぞぉ!」
一週間ぶりにスイロウ先生の大声を聞く。あぁ、弛む暇もありませんでした先生。
「ところで連休中の出来事だが……。ラクザが襲撃されたらしい。ファレス、フォレス、君たちの実家……いや、街だろう?心配ではないか?」
その問いにちょっとどう答えようか迷うように双子のピクっと身体が跳ねて、スイロウ先生がうんうんと頷く。
「やはり心配か。だが守護者アグラタム様や他にも救援が駆けつけてくれたらしいから今のところ人的被害はほぼ無いに等しいらしいぞぉ!良かったな!」
あぁ、その場に居ました先生。なんなら駆けつけました。
そんな事を言える訳もなくファレスが少し悲しそうに言う。
「そうです、か……ゼロ、とはいかなかったんですね」
「それはな……。火災もあったらしいしな。どうしても救いきれないところもあったのだろう。もし護りたいと思うなら学院で色んな事を学んで鍛錬を積まないとなぁ!という事で授業を始めるぞぉ!」
横でファレスとフォレスが僅かに悲しそうな顔をしたのがわかった。それだけじゃない、皆悲しそうな顔をしている。きっと自分達が駆けつけても助けきれない人がいた事が悲しいのだろう。
(自分達はただの人間で、もっと言えば力を持たない。護られる側の人間だったんだ。自分に教えてもらったからって万能になるわけじゃない。……それを勘違いしていないといいけれど)
幼心にそう思ってそうだな、と同じ幼子として思いながら教科書を開いた。
「なぁ、聞いたか?フードの噂!」
「あー!それ聞いた!流浪の旅人が偶然居合わせて窮地のラクザを救ったって話よね!」
昼ご飯の休憩。食堂のガヤガヤした声の中にそんな言葉が耳に飛び込んでくる。
(流浪の旅人?……アグラタムやレイン様辺りがあの後誤魔化してくれたか。とにかく助かるな)
耳を傾けること無く、黙々と白米と付け合せの漬物を食べる。うむ、美味しい。
「ね!でもウワサだけど、その姿は凄く幼子に見えたんだって!」
「え?俺達みたいな?」
「ううん。もっと小さくて……ほら!あの顕現の神童君ぐらいじゃないかな!?」
その言葉を聞いて漬物の汁が鼻に入り、思いっきり噎せる。
「グフッ……ゲホッ……」
「ちょっレテ君!汚いって!」
「そんな事よりも大丈夫か!?いきなり噎せて!」
ニアが慌ててテーブルを拭くと同時にクロウが心配してくれる。シアは何か震えているし、レンターとミトロ、ショウ辺りはプルプル震えている。
「あ、いきなり話題に出してごめんね!?」
先程話していた上級生の女の子が謝りに来る。
「い、いえ……大丈夫です……。そんな凄い人と間違えられるのは光栄です……」
「うん!とっても凄いんだって!ラクザの英雄って呼ばれているらしいよ!」
その言葉に再度噴きそうになるご飯を気合いで止め、それを隠すようにファレスとフォレスが来てくれる。
「私たちラクザの生まれだからその話気になる!」
「……あっちで、一緒に食べてもいいですか?」
そう言って離れた上級生の方を指さしたのだろう。見えないけれど。噎せかけていて。
「あっ!そうなんだ!じゃあ一緒にお話しよ!っていっても噂だけどね!」
「ありがとうございます!」
「……それじゃあ皆、ちょっと行ってくるね」
そう言って上級生と一緒に立ち去っていった。それを確認すると漸くご飯を飲み込む。
「……『ラクザの英雄』か。凄いんだな、フードは」
「この場合、フードって言うよりも~。フード様って呼んだ方がいい感じかな~」
二人して味噌汁を口に入れる手前で変なことを言わないで欲しい。ほら見ろ、ニアが二枚目の布巾を用意していたじゃないか。
「い、いや……流浪の旅人って言うし……どうなんだろうな?」
「レテ君的にはその人に憧れてるの?」
シアが分かってて少し大きく問いかけてくる。なるほど、自分が憧れていると言ってそのフードから人物像を離そうというのだろう。頭の回転が良くて助かる。
「そりゃ……ね?ラクザって確か先生が言ってたけど結構襲われてたんでしょ?そこで英雄って呼ばれるぐらい助けたなら憧れるよ」
「良かった!レテ君も目標になる相手が見つかって!」
「……目標かぁ」
開幕の演説で守護者と王を超えろと言った手前、目標にして良いものか。それも自分を。
「まぁまぁ、とりあえずご飯食べちゃお?後十分ぐらいで休憩終わるよ?」
「……えっ」
ニアに言われて時計を見ると無慈悲に時間が過ぎ去って行っていた事を示している。チクタクチクタク。本当だ。食休みする時間もない。
「……ごちそうさまでした」
「……今日も美味しかったな」
ミトロとレンターが手を合わせてこちらをチラッと見ながら拝む。やめろ、特に食べるのを邪魔したレンターはニヤニヤするのを。
急いで食べ切ると、オバチャンにお皿を下げて休憩に入る。
「いやはや、あそこまでツボに入るとはね」
「予想外……だな」
(誰のせいだと思っ……先輩だ……)
その後の実技の待機時間に、訓練場でファレスとフォレスが聞いてきた話を共有してくれた。
「……フードは性別不詳、ただラクザを救った小さな旅人とだけ伝えられている」
「なんか尾鰭もついて、実はラクザお抱えの専属兵だとか、普段はイシュリア各地で腕試しの戦いを挑んでいるって噂が流れてたよ」
(……フォレスの話はともかく、ファレスの言う尾鰭は誰がつけたよ。助かるけど)
「お!皆集まって『ラクザの英雄』の話かぁ!先生もラクザに行ったことはあるが、あそこはいい街だなぁ!」
「でしょ!いい街でしょう!?」
スイロウ先生まで知っているらしい。どうやら教員の間でも噂が広まっていると確信する。
「うむ!あそこは広大な海と土地だからな……英雄と呼ばれるぐらいだ!きっと先生なんかと比べ物にならないくらい強い人なんだろうなぁ!ということで今日も実技の訓練始めるぞぉ!」
そう言って実技の訓練が始まった。
一週間ぶりにスイロウ先生の大声を聞く。あぁ、弛む暇もありませんでした先生。
「ところで連休中の出来事だが……。ラクザが襲撃されたらしい。ファレス、フォレス、君たちの実家……いや、街だろう?心配ではないか?」
その問いにちょっとどう答えようか迷うように双子のピクっと身体が跳ねて、スイロウ先生がうんうんと頷く。
「やはり心配か。だが守護者アグラタム様や他にも救援が駆けつけてくれたらしいから今のところ人的被害はほぼ無いに等しいらしいぞぉ!良かったな!」
あぁ、その場に居ました先生。なんなら駆けつけました。
そんな事を言える訳もなくファレスが少し悲しそうに言う。
「そうです、か……ゼロ、とはいかなかったんですね」
「それはな……。火災もあったらしいしな。どうしても救いきれないところもあったのだろう。もし護りたいと思うなら学院で色んな事を学んで鍛錬を積まないとなぁ!という事で授業を始めるぞぉ!」
横でファレスとフォレスが僅かに悲しそうな顔をしたのがわかった。それだけじゃない、皆悲しそうな顔をしている。きっと自分達が駆けつけても助けきれない人がいた事が悲しいのだろう。
(自分達はただの人間で、もっと言えば力を持たない。護られる側の人間だったんだ。自分に教えてもらったからって万能になるわけじゃない。……それを勘違いしていないといいけれど)
幼心にそう思ってそうだな、と同じ幼子として思いながら教科書を開いた。
「なぁ、聞いたか?フードの噂!」
「あー!それ聞いた!流浪の旅人が偶然居合わせて窮地のラクザを救ったって話よね!」
昼ご飯の休憩。食堂のガヤガヤした声の中にそんな言葉が耳に飛び込んでくる。
(流浪の旅人?……アグラタムやレイン様辺りがあの後誤魔化してくれたか。とにかく助かるな)
耳を傾けること無く、黙々と白米と付け合せの漬物を食べる。うむ、美味しい。
「ね!でもウワサだけど、その姿は凄く幼子に見えたんだって!」
「え?俺達みたいな?」
「ううん。もっと小さくて……ほら!あの顕現の神童君ぐらいじゃないかな!?」
その言葉を聞いて漬物の汁が鼻に入り、思いっきり噎せる。
「グフッ……ゲホッ……」
「ちょっレテ君!汚いって!」
「そんな事よりも大丈夫か!?いきなり噎せて!」
ニアが慌ててテーブルを拭くと同時にクロウが心配してくれる。シアは何か震えているし、レンターとミトロ、ショウ辺りはプルプル震えている。
「あ、いきなり話題に出してごめんね!?」
先程話していた上級生の女の子が謝りに来る。
「い、いえ……大丈夫です……。そんな凄い人と間違えられるのは光栄です……」
「うん!とっても凄いんだって!ラクザの英雄って呼ばれているらしいよ!」
その言葉に再度噴きそうになるご飯を気合いで止め、それを隠すようにファレスとフォレスが来てくれる。
「私たちラクザの生まれだからその話気になる!」
「……あっちで、一緒に食べてもいいですか?」
そう言って離れた上級生の方を指さしたのだろう。見えないけれど。噎せかけていて。
「あっ!そうなんだ!じゃあ一緒にお話しよ!っていっても噂だけどね!」
「ありがとうございます!」
「……それじゃあ皆、ちょっと行ってくるね」
そう言って上級生と一緒に立ち去っていった。それを確認すると漸くご飯を飲み込む。
「……『ラクザの英雄』か。凄いんだな、フードは」
「この場合、フードって言うよりも~。フード様って呼んだ方がいい感じかな~」
二人して味噌汁を口に入れる手前で変なことを言わないで欲しい。ほら見ろ、ニアが二枚目の布巾を用意していたじゃないか。
「い、いや……流浪の旅人って言うし……どうなんだろうな?」
「レテ君的にはその人に憧れてるの?」
シアが分かってて少し大きく問いかけてくる。なるほど、自分が憧れていると言ってそのフードから人物像を離そうというのだろう。頭の回転が良くて助かる。
「そりゃ……ね?ラクザって確か先生が言ってたけど結構襲われてたんでしょ?そこで英雄って呼ばれるぐらい助けたなら憧れるよ」
「良かった!レテ君も目標になる相手が見つかって!」
「……目標かぁ」
開幕の演説で守護者と王を超えろと言った手前、目標にして良いものか。それも自分を。
「まぁまぁ、とりあえずご飯食べちゃお?後十分ぐらいで休憩終わるよ?」
「……えっ」
ニアに言われて時計を見ると無慈悲に時間が過ぎ去って行っていた事を示している。チクタクチクタク。本当だ。食休みする時間もない。
「……ごちそうさまでした」
「……今日も美味しかったな」
ミトロとレンターが手を合わせてこちらをチラッと見ながら拝む。やめろ、特に食べるのを邪魔したレンターはニヤニヤするのを。
急いで食べ切ると、オバチャンにお皿を下げて休憩に入る。
「いやはや、あそこまでツボに入るとはね」
「予想外……だな」
(誰のせいだと思っ……先輩だ……)
その後の実技の待機時間に、訓練場でファレスとフォレスが聞いてきた話を共有してくれた。
「……フードは性別不詳、ただラクザを救った小さな旅人とだけ伝えられている」
「なんか尾鰭もついて、実はラクザお抱えの専属兵だとか、普段はイシュリア各地で腕試しの戦いを挑んでいるって噂が流れてたよ」
(……フォレスの話はともかく、ファレスの言う尾鰭は誰がつけたよ。助かるけど)
「お!皆集まって『ラクザの英雄』の話かぁ!先生もラクザに行ったことはあるが、あそこはいい街だなぁ!」
「でしょ!いい街でしょう!?」
スイロウ先生まで知っているらしい。どうやら教員の間でも噂が広まっていると確信する。
「うむ!あそこは広大な海と土地だからな……英雄と呼ばれるぐらいだ!きっと先生なんかと比べ物にならないくらい強い人なんだろうなぁ!ということで今日も実技の訓練始めるぞぉ!」
そう言って実技の訓練が始まった。
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