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三章 破滅のタルタロス
月明かりの覚悟
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しばらくして落ち着くと、目をゴシゴシと擦って近くにあったティッシュを取ると鼻をかむ。
「……ごめん、シア」
「ううん。いいんだよ。……ずっと辛そうだったから。私に出来ることがあれば、何か話して?」
そう言われると、再び脳裏に蘇る光景。
燃え盛る街。動かない自分。そして殺される仲間。
震える身体を抑えて、シアに問いかける。
「夢を……怖い夢を見たんだ」
「うん」
そう言ってシアは手を握ってくれる。とても落ち着いて、自分は心を整理するように語り始めた。
「……自分がまだラクザで戦っていた時。皆の方から救難信号が飛んできたんだ。けど、到着した時には正規兵も、屋敷から来た人達も亡くなっていて……。残されたのは、シア達だけだった。助けようとしたけど、力が出なくて。皆、影に……殺されて……最後にシアだけが残ってッ……シアも……ッッ……」
自分が手を握る力を強めたからか、そっともう片手で自分の手を包んでくれる。シアはそっと身体を寄せると、優しく言葉を紡ぐ。
「言ってくれて、ありがとう。レテ君の辛い事を共有してくれて、ありがとう。……そして、私達を連れてきたばかりにそんな怖い夢まで見せて、ごめんね」
「シアが謝る必要は……無いのに……」
「ううん。私が最後に背中を押したから。一歩間違えれば私達は生きていなかった。……本当に、レテ君の言う通りだったんだ。私達は、力不足だった。やれる事をやっても、なお」
そう言って手を離すと、ベッドの横に座ってそっと身体をくっつけてくる。
「だから、これは私達が押し付けた罪。それでも……レテ君が許してくれるなら、許して欲しい」
「……皆が、生きているだけで自分はいい。自分はもう、一人には……ッ!」
そこまで言って前世の事を思い出してしまう。前世は一人きりで、床に伏せることしか出来なくて。アグラタムが来ることだけが唯一の交流で。
それだけは、秘密にしておかなければならない。いつか、分かる日が来るまで。
「そっか、レテ君も……寂しいんだね。私ね、部屋を用意されていたの。他の避難民の人は下の部屋で固まったり、比較的無事だった近くの民家や店を借りたんだけど、私達は個別の部屋を与えられていたんだ。……でも、私は寂しかった。レテ君が横で苦しんでいる中寝られるとは思えなかった。何よりも……私は、放っておけなかった。私の……私の、大切な人だから」
「……シア」
身体をこちらへと向けて、両手を自分の背中を回してそっと抱きついてくる。
「君が安全な状態でいなかった事が……不安定な状態だったのが怖かった。このまま目覚めないんじゃないかって。寂しかった、よりも怖かったんだ。私は……」
「……心配をかけたね、ごめん」
そういうと、シアは首を横に振ってにっこりと笑った。
「レテ君はたくさんの人を救った。ラクザの被害が抑えられたのはレテ君がアグラタム様に連絡をしてくれたから。そして、レテ君が人を助けて、私達も連れてきてくれて……だから、謝る必要は無いんだよ」
そう言って抱きつく力が強くなる。自分もそっと彼女の背中に手を回して、抱き締める。
温かい。暖かい。生きている。人が、彼女が。生命が生きている証がそこにあった。
「……ああ、温かい」
「うん。温かい。レテ君が生きていてくれて……本当に……良かった……!」
「自分も、皆が誰一人死ななくて……良かった……!」
月明かりが差し込む。シアの綺麗な髪の毛が、整った顔立ちが。横にある。
その光景がどうしても愛おしくて、狂おしい程に惹かれてしまって。
(ああ……自分は、前世の年齢なんて関係ない。シアに、彼女に心惹かれてしまったんだ。自分と同じような慈しみを持っているかのように……)
そう思って口を開くと、シア、と呼びかける。
「ん……なぁに?」
そう言って少し体を離してこちらを向く目は本当に綺麗で。
そっと手を背中から頭に当てて、そっと自分の口を彼女の口へと押し付ける。
「んっ……!ん……」
彼女は驚いたようだったが、徐々にこちらへと唇を押し付けてくる。
お互いに少し息苦しいかな、と思った頃に離す。
「……嫌だったら、ごめん。こうしたくて……」
「ううん。嫌じゃないよ……寧ろ、嬉しかったな。レテ君が、私の事を大切に想ってくれて……慈愛とか、孤児とか全て関係なく、愛してくれているって感じがしたの」
そうか、彼女は誰か一人に愛情を注ぎ、注いだ事は無かった。幼子だから、と言えば当然だが彼女は孤児。だからこそ、愛情に飢えていたのかもしれない。
(……自分と同じだ。前世の、誰にも愛されることなく終わった自分と。共通点があるからこそ、また惹かれるのかもしれないな)
「……ね、レテ君。覚えてる?私の事、お嫁にもらってくれるって言ったの」
実家の時の事だろう。勿論覚えている。こくりと頷くと、シアは覚悟を決めて言ったようだった。
「私、絶対レテ君のお嫁さんになる。どんなに強くたって、一人でも生きていけそうでも……レテ君がこうやって苦しんでいる時に、私は君を一人にしたくない。そばに居たいんだ……。だから、絶対。その日まで絶対、生き延びようね」
その覚悟に応えるべく、自分も言葉を発する。
「自分もだ……。シアを護りたい。自分が何者だとか、シアがどんな産まれだとか関係なく。皆もそうだけど、シアを傍で……一緒に、互いを護りたいって思うんだ。だからその日まで、絶対に生き延びて……」
そういうと再度口付けを交わす。少し相手を貰うような、相手を少し分け合うような口付け。
「……シア、横で寝てもらっていいかな?そうしたら今度はいい夢を見れると思うんだ」
「うん。レテ君がいい夢を見れるなら……私も、一緒に寝たいから」
そう言って横に潜り混むと、互いに互いを抱きしめて眠りについた。
「……ごめん、シア」
「ううん。いいんだよ。……ずっと辛そうだったから。私に出来ることがあれば、何か話して?」
そう言われると、再び脳裏に蘇る光景。
燃え盛る街。動かない自分。そして殺される仲間。
震える身体を抑えて、シアに問いかける。
「夢を……怖い夢を見たんだ」
「うん」
そう言ってシアは手を握ってくれる。とても落ち着いて、自分は心を整理するように語り始めた。
「……自分がまだラクザで戦っていた時。皆の方から救難信号が飛んできたんだ。けど、到着した時には正規兵も、屋敷から来た人達も亡くなっていて……。残されたのは、シア達だけだった。助けようとしたけど、力が出なくて。皆、影に……殺されて……最後にシアだけが残ってッ……シアも……ッッ……」
自分が手を握る力を強めたからか、そっともう片手で自分の手を包んでくれる。シアはそっと身体を寄せると、優しく言葉を紡ぐ。
「言ってくれて、ありがとう。レテ君の辛い事を共有してくれて、ありがとう。……そして、私達を連れてきたばかりにそんな怖い夢まで見せて、ごめんね」
「シアが謝る必要は……無いのに……」
「ううん。私が最後に背中を押したから。一歩間違えれば私達は生きていなかった。……本当に、レテ君の言う通りだったんだ。私達は、力不足だった。やれる事をやっても、なお」
そう言って手を離すと、ベッドの横に座ってそっと身体をくっつけてくる。
「だから、これは私達が押し付けた罪。それでも……レテ君が許してくれるなら、許して欲しい」
「……皆が、生きているだけで自分はいい。自分はもう、一人には……ッ!」
そこまで言って前世の事を思い出してしまう。前世は一人きりで、床に伏せることしか出来なくて。アグラタムが来ることだけが唯一の交流で。
それだけは、秘密にしておかなければならない。いつか、分かる日が来るまで。
「そっか、レテ君も……寂しいんだね。私ね、部屋を用意されていたの。他の避難民の人は下の部屋で固まったり、比較的無事だった近くの民家や店を借りたんだけど、私達は個別の部屋を与えられていたんだ。……でも、私は寂しかった。レテ君が横で苦しんでいる中寝られるとは思えなかった。何よりも……私は、放っておけなかった。私の……私の、大切な人だから」
「……シア」
身体をこちらへと向けて、両手を自分の背中を回してそっと抱きついてくる。
「君が安全な状態でいなかった事が……不安定な状態だったのが怖かった。このまま目覚めないんじゃないかって。寂しかった、よりも怖かったんだ。私は……」
「……心配をかけたね、ごめん」
そういうと、シアは首を横に振ってにっこりと笑った。
「レテ君はたくさんの人を救った。ラクザの被害が抑えられたのはレテ君がアグラタム様に連絡をしてくれたから。そして、レテ君が人を助けて、私達も連れてきてくれて……だから、謝る必要は無いんだよ」
そう言って抱きつく力が強くなる。自分もそっと彼女の背中に手を回して、抱き締める。
温かい。暖かい。生きている。人が、彼女が。生命が生きている証がそこにあった。
「……ああ、温かい」
「うん。温かい。レテ君が生きていてくれて……本当に……良かった……!」
「自分も、皆が誰一人死ななくて……良かった……!」
月明かりが差し込む。シアの綺麗な髪の毛が、整った顔立ちが。横にある。
その光景がどうしても愛おしくて、狂おしい程に惹かれてしまって。
(ああ……自分は、前世の年齢なんて関係ない。シアに、彼女に心惹かれてしまったんだ。自分と同じような慈しみを持っているかのように……)
そう思って口を開くと、シア、と呼びかける。
「ん……なぁに?」
そう言って少し体を離してこちらを向く目は本当に綺麗で。
そっと手を背中から頭に当てて、そっと自分の口を彼女の口へと押し付ける。
「んっ……!ん……」
彼女は驚いたようだったが、徐々にこちらへと唇を押し付けてくる。
お互いに少し息苦しいかな、と思った頃に離す。
「……嫌だったら、ごめん。こうしたくて……」
「ううん。嫌じゃないよ……寧ろ、嬉しかったな。レテ君が、私の事を大切に想ってくれて……慈愛とか、孤児とか全て関係なく、愛してくれているって感じがしたの」
そうか、彼女は誰か一人に愛情を注ぎ、注いだ事は無かった。幼子だから、と言えば当然だが彼女は孤児。だからこそ、愛情に飢えていたのかもしれない。
(……自分と同じだ。前世の、誰にも愛されることなく終わった自分と。共通点があるからこそ、また惹かれるのかもしれないな)
「……ね、レテ君。覚えてる?私の事、お嫁にもらってくれるって言ったの」
実家の時の事だろう。勿論覚えている。こくりと頷くと、シアは覚悟を決めて言ったようだった。
「私、絶対レテ君のお嫁さんになる。どんなに強くたって、一人でも生きていけそうでも……レテ君がこうやって苦しんでいる時に、私は君を一人にしたくない。そばに居たいんだ……。だから、絶対。その日まで絶対、生き延びようね」
その覚悟に応えるべく、自分も言葉を発する。
「自分もだ……。シアを護りたい。自分が何者だとか、シアがどんな産まれだとか関係なく。皆もそうだけど、シアを傍で……一緒に、互いを護りたいって思うんだ。だからその日まで、絶対に生き延びて……」
そういうと再度口付けを交わす。少し相手を貰うような、相手を少し分け合うような口付け。
「……シア、横で寝てもらっていいかな?そうしたら今度はいい夢を見れると思うんだ」
「うん。レテ君がいい夢を見れるなら……私も、一緒に寝たいから」
そう言って横に潜り混むと、互いに互いを抱きしめて眠りについた。
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