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三章 破滅のタルタロス

本にある魔法、無い魔法

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そろそろ昼になる。お天道様は訓練が始まって三日目……つまり、一週間の休みの四日目までずっと晴れていた。ありがたいことである。
「そろそろお昼ご飯になる。休憩しよう」
そう言うと、皆こくりと頷く。この三日目までずっと皆魔力の底上げの訓練をしていた。始めはコツを覚えたり魔力切れを起こして慌てて介抱したりしていたが、時間が経つにつれて皆の総量が上がり、魔法のキレが良くなっていった。流石Sクラス、というべきなのだろうか。磨けば光る原石とはまさにこの事である。
「どんどん早く打てるようになりますね」
「うんうん!それに、レテ君の的も段々破壊できるようになってきたし!」
ミトロとニアが話している。ほかの皆も同じような内容を話している中、シアが近づいてくる。
「基礎って本当に大事なんだね。私の総量も上がってるよ。……でも、こんな大事なこと、なんでスイロウ先生は教えないんだろう?」
それは思っていた。魔力を扱う上でこれはとても重要な事だ。自身の魔力を意識して使えばその分早く成長する。なのに何故教えないのだろうか。
(……もしかして)
ふと思いついて屋敷のテーブルまで歩くと、そこに居た執事さんに尋ねる。
「すみません、執事さん。貴方は自分の魔力について考えて意識した事ってありますか?」
「いいえ、ございません。恐らく他の方も無いでしょう。魔力を使えば使うほど……というのが習ったものでした。これで、回答になりましたでしょうか?」
「はい。十分な回答です。ありがとうございます!」
一礼してご飯の準備に戻る執事さんを見送りながら確信する。
(意図的か、もしくは知らないんだ。教えないんじゃない。教えられないんだ。魔力が自分の中に渦巻いて意識を持っていることを)
それで確かに十分だろう。戦うには鍛錬を積めば積むほど確かに無意識に魔力が上がるのだから。
けれど、その理論を。効率よく上げる方法を教えていない。自分はそれを教え、友を強くしなければならない。
友を守るために。
(皆の魔力も上がってきたな。……なら)

昼ごはんを食べ終わった後に小休憩。この時は自分も先生ではなくただのレテである。というより、先生の時間は教えている時だけだ。それ以外はただの友である。
「あんだけ的を作ってレテは大丈夫なのかよ?」
「自分は大丈夫だよ。あれは顕現系統も使って存在させ続けるからね。多分ショウが思ってるほど魔力は食わないよ」
「俺にも使えるようになるか!?ほら、壁としてさ!」
「なるよ。同じ系統なんだから。それに鍛錬もこうやって積んでいるわけだからね」
たわいも無い会話をしながら、午後の項目を決めた。新しい魔法を教える。一人一つ、実用性の高いやつで大丈夫だろう。
「それじゃあ庭に行こうと思うけど……まだダメな人いる?」
そう言うと皆が大丈夫、とばかりに首を縦に振る。
「それじゃ、庭に行こう。けど午後からは新しい魔法を教えるよ」

庭に着くと、系統と得意属性に合わせて教える魔法を選ぶために一人一人の系統を聞いていた。
クロウは収縮系統と土属性。ダイナは広域化系統と風属性。ショウは顕現系統と火属性。レンターは付与系統と光属性。
知っていたが、シアは収縮系統と水属性。ニアも収縮系統だが火属性。ファレスは付与系統と風属性。フォレスは収縮系統と土属性。ミトロは広域化系統と闇属性だ。
「……収縮系統多いな!」
「確かに多いな……」
教える九人のうち四人は収縮系統、オマケにクロウとニアは全く同じだ。
クロウが同意するように呟くと、気を取り直すようにパン、と手を叩いて教えていく。
ぶっちゃけた話だが、闇と光以外の属性は本に乗っている魔法で良い、というよりかは自分の扱う管轄外だ。先人の知恵に感謝しながら教えていく。
収縮系統の子には単純だが威力の高い、鋭い槍をイメージして打ち出す魔法を練習するように教えた。
広域化系統は文字通り広くすることが利点である。その利点を活かして、一度魔力をばら蒔いてからその魔力に属性を持たせて一気に落とす。要は大きな滝のように落とす魔法を教えた。
顕現系統のショウは、盾や剣を空中に顕現させる事を意識させた。これは顕現系統の本が少ないのと、この方が実用性が高いからである。
付与系統のファレスには、魔法を生み出して更にそこに属性を付与するという多重魔法のやり方を教えた。後は皆鍛錬あるのみだ。
「さて、レンターとミトロ。遅くなってすまない」
「……理由はわかっている。大丈夫だ」
「私たちの属性が特殊故……ですね」
そう、光と闇は自分の知識……つまり本に載っていない魔法を教える。それだけ危険性の高いものだ。
「二人には危険性……つまり一歩間違えば……いや、察してくれ。そういう魔法を教えたいと思う。大丈夫か?」
こくりと頷く二人に対し、よし、と応えるとまずはレンターに教える。
「レンターは付与系統の光属性が得意なんだよな。……だから、これを教える。まずは二人とも見ていてくれ」
そう言うと周りの訓練生の人に呼びかける。
「すみません!少しだけそこを退いてもらっていいですか!魔法が着弾するのでー!」
そう言うと皆がスペースを取ってくれる。子供が何を、と言われないのは実力を示した以上に皆年齢を気にしないからだろう。
光の球を生み出すと、そこに属性ではなく『魔法を付与』する。付与系統とは属性をつけるだけではないのだ。
「……魔法を付与した、これは……」
「……これが、レンターの切り札になってくれるよ」
そう言ってそれを思い切り空に投げつける。それが頂点に達した所だった。
光の球が爆発し、ドゴォン……という音ともに光の柱が着弾する。庭は抉れ、穴が出来てしまったので修復する。

「……これが『光の柱』だ。打ち下ろしたい場所の上に投げて、起爆。そうすると付与した光の柱の魔法が発動して一気に周囲を埋め尽くす。レンターの切り札になるように練習してほしい」
「まずは魔法に魔法を付与する所から練習してみる。ありがとう」

礼を言われると、次にミトロに振り返る。
「ミトロは広域化系統の闇属性、だったな」
「はい。だから闇を広げることが出来るのですが……私にもまだ、威力のある魔法があるのですか?」
その問いにこくり、と頷く。
「広域化系統だからあまり広くは出来ないけど、この魔法を練習してほしい」
そう言うと闇属性の球を複数個取り出し、誰もいない空間に放り投げる。
その直後。複数の玉は一気に広がり、周囲を飲み込む。その中からは何か刺すような音が聞こえる。

「……複数個はやり過ぎたかな。今のが『闇の獄』だ。球体を投げて、意図したタイミングで起爆。その中には闇属性の恐怖で塗られた槍が無数に飛び交う魔法。純粋な闇魔法だ」
「……本で読んだことの無い、新しい魔法……わかりました。とりあえず、人のいない所で練習を積んでみます。当たったか分かるようにその場所に的を置いて欲しいのですが」
「うん、分かった。的を置くよ」

そう言って誰も居ないところに土の的を置くと、皆が練習している様子を眺める。
(……戦力増強、というより自己防衛。それが出来れば……)
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